• 中国の退職年齢延長はなぜ反対の声ばかりなのか

    by  • October 26, 2015 • 日文文章 • 0 Comments

    何清漣

    2015年10月26日

    全文日本語概訳/Minya_J Takeuchi Jun

    http://twishort.com/x3rjc

    中国の老齢年金制度改革がついに「予告期間」に入り「退職年齢延期の段階的改革」政策が発表されました。中国国内は反対の声一色になっています。ここではこの「改革」の要点と、政府がなぜ「改革」を迫られたのか、民衆はなぜそれに反対しているかをみてみましょう。

    ★退職年齢改革方案のポイント

    10月14日、中国人力資源社会保障部の尹蔚民部長(*大臣)は「中国は現在、世界で一番退職年齢の早い国家で、平均退職年齢は55歳以下である。中央の批准後、退職時期を延長する方案を発表し、小刻みに毎年数ヶ月づつ退職年齢を延長する」と述べました。

    改革の理由のひとつは日増しに重くなる中国人口老齢化のプレッシャーです。具体的データでは;中国の現在60歳以上の人口は2.1億人で、総人口の比率は15.5%。予測値では2020年には19.3%、2050年には38.6%となり社会扶養係数は高く重い負担となります。

    この方案は人口の平均寿命が延びるという予測に基づきます。現在の退職政策は1950年代の初期に造られたもので、当時の寿命は平均50歳未満でした。60年以上が過ぎた現在、それが70歳以上になっています。そして中国の退職制度は改革されず、企業労働者年金保険による退職人数は8000万人以上で、平均退職年齢は55歳になっていません。(*注;企業の話しかでてこないのは;「曲がりなりにも年金制度が整備されているのは都市の住民だけで、人口の3分の2もいる農業戸籍の地方住民には試行が始まった段階」だから→ご参考;団藤保晴氏;「年金制度欠陥と高齢化が中国財政破綻を呼ぶ」(2013/04/22)http://dandoweb.com/backno/20130422.htm

    この方案の元となったのは2年前の伝説の「清華方式」つまり「国民の基礎養老年金プラス個人の積み立て老齢年金」の二つのシステムを結合させたものです。そこには明らかに英国の経験が反映しています。この十年以来、英国の老齢年金のプレッシャーは異常に重く、もうすぐ働いている人が一人で二人の退職者を養わなければならなくなる苦境にありました。2014年、英国は正式に新方案を発表し、毎年の退職年齢を半年づつ遅らせることにして2040年には69歳退職とすることにしました。これによって英国は世界で退職年齢が最高の国になります。英国は退職年齢の引き上げによって、政府は未来の50年内に5000億ポンドの支出を節約できると。これは大体5兆人民元(*約100兆円)に相当します。

    ★中国政府が「お荷物を下ろす」理由は明白

    数年前、中国では様々な研究レポートが、中国の高齢年金制度は巨額の資金不足でこれ以上続けることはできないと指摘しました。この不足は二つの部分から構成されています。

    まずひとつは、.個人の積み立て老齢年金の巨額の資金流用による空帳簿状態です。この「空帳簿」というのは預金通帳の上ではお金があることになっているけれども、実際にはそれは中身のない数字にすぎないということです。そこに書かれている金額は地方政府がすでに支払わねばならなかった年金としてもう支出されてしまっているのです。

    早くも2012年7月、中国のメディアは「中国の.個人の積み立て老齢年金の空帳簿は25%の速度で拡大しており2015年には資金不足になるかも」という記事で中国社会科学院世界社会保険研究センターの主任・郑秉文が;「2011年都市基本老齢年金保険の.個人の積み立て老齢年金記載額は約2.5兆元だが、実際にはわずか約2703億元しかなく、”空帳簿”は2.25兆元である」と述べています。(*注;年金資金は北京・上海など直轄市や各省の地方政府が管理。1997年の改革から個人口座積立が始まったのでここから年金を貰う人はまだ少なく、大きな資金が目の前に有るのは魅力的ですから禁じられていても地方政府の事業などに流用する結果になってしまう→団藤保晴氏;「国家のエゴが歪ませた中国年金制度は大火薬庫」 http://blogos.com/article/114071/

    このあと数年で”空帳簿”額は拡大を続けました。2015年の中国メディアは「老齢年金個人口座は引き続き憂慮すべき状態で、”空帳簿”額は3兆元近くになった」といわれます。

    二つ目は老齢年金保険の巨額の現金不足

    一体どのぐらい不足額があるのかについては、役所側のストーリーにも幾通りかあります。数年前、中国銀行のレポートではもし現在の老齢年金の水準を維持しようとするなら、老齢年金のほかに、2013年時点で、別に18.9兆元の老齢年金があってはじめて将来70年にわたって退職金をだせる」としています。中国社会科学院財貿所の高培勇らによれば、現在の社会保障制度の枠組みでは、2020年に中国の退職者がひとりひとり受け取ることのできる老齢年金は「社会平均サラリーと年金額の比較割合」で52.9%として、老齢年金の不足額はずっと増え続けて、一番早いと2015年に中国の都市労働者老齢年金は支払い現金不足に陥るとしています。

    2015年1月の「中国老齢年金の発展報告2014ー名義通帳型のモデルチェンジに向けて」という一連の報告に発表された予測計算では;① 隠れ債務が大きいために、2012年を基準にして都市労働者の老齢年金の隠れ債務は86.2兆元で2012年のGDP比率の166%。二つ目は収支不足があかるみにでたら、あっというまに資金枯渇になるということ。北京大学の郑伟らによる計算だと老齢年金は2037年に資金ショートにおちいり、2048年には基金はゼロになる、というのです。

    ★現段階で老齢年金が資金ショートになってない三つの理由。

    ①は、個人口座積立金は通常、個人老齢年金の1割以下であること。② 各省は支払いに際し他の人々の個人口座積立金を当面の支払いにあてている。個人の積み立て老齢年金が老齢年金全体に占める比重が増えれば増えるほど、支払い問題は将来にきわだってくる。③中央がずっと財政転移によって支払いを支えている。

    「中国老齢年金発展報告2011」では2010年末の基本老齢保険基金の累積は1.9497億元だが、1997年から2000年までの各級の対老齢年金累計の補助金は1.2526兆元、つまり累計総額の3分の2は財源の転移支出であり、もし中央からの財政補助がなければ多くの省の老齢年金はすでに赤字で破産状態だということです。あからさまにいえば、現在の退職者はまだ退職金をうけとれるけれども、50歳以下なら画餅に等しい、ということです。

    ★政府の新しい要求;老後は政府頼みだけではダメ、ということ。

    上述の状況下で中国の社会保障システムを維持していこうというのであれば、現在の労働者の納める金額を増やすか、さもなければ退職労働者の社会保障水準をさげるか、という方法しかありません。

    労働者の納付額をあげる余地はもうありまえん。中国の老齢年金納付金の水準はとんでもなく高いのです。「五険一金」(*社会保険のこと。5つの保険と1つの積立金)はすでにサラリー総額の4割から5割にもなります。つまり、労働者は月給の6割しか手にできない現状です。ある計算によると月給1万元なら労働者は7454.30元しか手にできませんし、経営者は14410元も支出しなければならないのです。こうした状況の下で企業は非常に負担を重く感じています。近年、外資が次々に中国から撤退していく原因のひとつが中国の労務コストがはるかに他の国々より高くつくということがあります。清華大学の白重恩の計算だと中国の社会保険納付率は全世界181か国のトップで、「BRICs」の中でも他の三国の平均の2倍で、これは北欧五カ国の3倍、G7国家の2.8倍、東アジアの隣国の4.6倍にもなります。

    専門家の一致した意見は、もし中国の財政と企業が将来、社会保険費によって破産したくなければ社会保険の規模を小さくする(低納入低保障)にするのが唯一の改革への選択肢だと。さもなければ企業も政府も、国民もみな共倒れになるとしています。今年3月6日、財政部長の楼继伟は記者会見で改革方案を示した時に老齢保険は今後三つの柱、すなわち社会老齢年金プラス、企業年金・職業年金プラス、個人の購入による商業的健康、老齢保険によるようにすると述べました。私はかつて「3難題を快刀乱麻に”解決”ー人民代表大会観察 http://heqinglian.net/2015/03/10/economic-issues-japanese/)で指摘しましたが、楼部長の話は大変専門的なので、わかりやすく言えば「以前は中国の大多数の都市の労働者は養老保険に頼っていたが、今後はこれを低減させ、もし快適な老後を送りたいなら、みんな企業年金と職業年金を、それがなければ自分でお金をだして商業保険を買いなさい、ということだ。政府は君らに優遇税制をプレゼントするよ」ということです。

    ★民衆が退職年齢延長に反対する理由

    この退職年齢延長方案がでてきてから、反対の声はやみません。反対する人々はみな老齢年金の巨額の穴を退職時期延長で解決するというのは現実的ではないというものです。
    第一に、就業先の減少圧力です。中国では毎年退職する人々が600万人ぐらいいます。もしこの退職を延長するならば少なくとも600万人の労働年齢に達した人々の就職先を奪ってしまいますし、それは中国のただでさえ厳しい就職問題の上に、さらに問題をかさねるようなものです。中国経済は現在、下降気味な段階で、多くの研究機関の計算ではGDPが1%下がるごとに就職先は100万づつへります。中国経済の成長はすでに10%から7%以下になっています。つまり毎年約300万の就職口が減少しているのです。経済の成長が減速している一方で、退職時期を延長するのはまさに900万人の就職チャンスを奪うことになってしまいます。(*参考;中国の2015年の4年制大学卒業者は史上最高の749万人といわれる。http://www.news-postseven.com/archives/20150325_311271.html

    第二には退職年齢の延長は、一部の中年の失業者を長期にわたって苦しめることになります。ここ数年、外資企業は大規模に中国から撤退しており、私企業は大量に破産しております。そして少なからぬ失業者は40歳以上で新たな就職先をみつけるのは極めて困難です。50歳から60歳の失業者はすでに無収入者です。少なからぬ人々が貯金を取り崩しながら60歳の老齢年金を受け取れる日を待ち望んでいきているのです。

    中国政府はこの「退職年齢延期の段階的改革」を発表する時、英国、カナダ、オーストラリア、米国などの退職年齢を列挙しました。しかし意識的に触れなかったことはこうした国々はすべて失業保険や各種の社会救済システムが整っており、失業しても暮らしには大きな障害にならないということです。米国も近年90ヶ月の失業救済制度をつくりましたし、オーストラリアは相対的に渋いとはいえやはりまったくないわけではありませんし、絶対絶命にはなりません。しかし、中国にはこの種のセフティネットにあたるものはないのです。(終)

    拙訳御免。
    何清漣氏の原文は;中国推迟退休年龄为何一片反对声? http://www.voachinese.com/content/china-retire-20151025/3022857.html
    同、これまでの同氏の論考は;http://heqinglian.net/japanese/

     

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