• トランプ現象から伺える米国政治の「三つの乖離」

    by  • May 28, 2016 • 日文文章 • 0 Comments

    何清漣

    2016年5月8日

    全文日本語概訳/Minya_J Takeuchi Jun

    https://twishort.com/j90kc

     

    米国大統領選挙のインディアナ州の予備戦(3日)の結果が出て以来、ずっと苦戦を強いられてきた共和党のクルーズ上院議員、ケーシック・オハイオ州知事(63)が相次いで選挙戦撤退、一部の共和党の著名人たちは党に「叛旗」を翻し、何人かはきっぱりと民主党のヒラリー・クリントンを支持すると表明しました。選挙は民意を基礎とするものですが、いまやこの状況はエリートたちが選挙民の要求を理解ようとしていないのか、それとも基盤選挙民とエリート間の反目と形容すべきなのかわかりません。米国政治とメディアとエリート層が普通の米国人の要求と多層面で懸け離れていることが2016年大統領選挙ではっきりとあらわにされたのでした。

    ★第1レベルの乖離;エリート層が普通の米国人の暮らしの苦しさに痛みを感じない

    米国の物語で最も世界を引き付けるのは当然、平民(移民の子孫を含む)でも大金持ちになれるというお話で、現にビル・ゲーツやソロス、グーグル創始者の一人のブーリン、投資の神様のバフェットがいます。かつて誰かが米国を「挿し木によって大木に育った国家である」と形容しました。米国が中産階級を中心にしたラグビーボール型の社会構造は中国人もそれを目標としたものです。

    しかしこうしたことはすでに過去のものになっています。今年3月、わたしは「トランプ現象の背後に;米国中産階級の衰退」(heqinglian.net/..us-middle-class)を書いて、トランプがすくなからぬ共和党選挙民の支持を獲得できる主な理由は米国社会の階層に生まれている変化であり、中産階級の減少であると指摘しました。

    20世紀の50年代始め、中産階級は米国人口の6割前後を占めていたのが2013年に至って半分に満たなくなっていたのです。さらにこの4月22日発表の米労働統計局のデータは、2015年、全米の8141万家庭で一家の誰もが働いていない家庭が1606万戸もあり、その比は19.7%にもなるという赤ランプを告げました。つまり米国の5家庭に1家庭は誰も働いていない、というのです。

    これに対する民主党の対策はすなわち増税による福祉の供給拡大でありいわゆる「貧困との戦い」で、他方、共和党の伝統的な方法は減税と経済刺激による就職口の増加です。前者は「政治的に妥当」(ポリティカル・コレクトネス)と考えられており、民主党の票田はかくて多くの弱者のグループの集まるところとなりました。これは別に弱者グループの視野が狭いとは言えません。世界がすべて福祉主義の左派が比較的よく福祉基盤を整え、貧富の差をなくそうとしており、自由主義市場を支持する右派は経済発展のみを顧みて、貧乏人の生死など関知せず、と考えているという「認識の陥穽」にはまっているのですから。

    しかし、この間、1964年の米国における「反貧困戦争」の開始以来、福祉関連支出はすごい勢いで増えたのに貧困率は下がらなかったことを米国の学者らは発見しています。ジニ係数は1964年の0.36から2010年の0.44に逆に上がってしまいました。この現実は一部の研究者に、社会のメンバーが社会福祉に依拠するようになると長期の貧困を生み出すことを認識させ、この「認識の陥穽」から脱出する試みがはじまったのでした。

    オバマ大統領は最初の5年間に不断に福祉支出を増やし続けましたが、その結果、2013年には米国の貧富の差は拡大し続けたことを認めざるを得ませんでした。2015年11月の共和党大統領予備選挙の弁論の中で自由主義経済の熱烈な支持者であるランド・ポールは司会者に問われた時に、貧富の問題がさして関心を持たれていなかったのですが勇敢にも「当然注目に価する。どこが最も貧富の差が激しいか?民主党が握っている都市であり、民主党が政権をとっている州であり、民主党が政権をとっている国だ」と指摘しました。
    米国は欧州ほど福祉主義の伝統は強くありませんし、人々は福祉に頼った結果のマイナスにも多少目覚めたので、貧困を減らす手段として共和党支持の7割以上の人々が「金持ちの肉を削って貧乏人に輸血する」方法に反対しました。これが予備選挙でトランプが福祉を増やさずにもっと多くの就職チャンスをつくりだすという約束によって多くの低収入労働者家庭層の支持を集めるにいたった理由です。

    ★第2レベルの乖離;国際社会の責任と自国民に対する責任の間における迷走

    第二次世界大戦以来、米国は世界の指導者としての重責を担って、金を使い、自国民の命も犠牲にして世界に「国際秩序」という「パブリックサービス」を提供しつづけ、全世界がその受益者でした。しかし米国の管理に対してその範囲が大きすぎると罵声を浴びせ続けたのは独裁国家群ばかりでなく、フランスやドイツなどの盟友国家でもありました。米国人はこれに対してはうんざりしており、最近ではますます多くの人々が米国政府は国外のことより国内のことをもっとちゃんとやるべきだ、と考えるようになりました。

    ピュー・リサーチセンターが5月5日に発表した世論調査はトランプ支持者とヒラリー支持者のこの問題に対する考え方の違いをくっきりさせています。それによると57%の米国人が米国が自国の問題を解決することを願っています。そして他の国々は最大限に自分たちの問題は自分たちで解決すべきだと考えています。この見方をとる人々は共和党支持者では62%に対し民主党支持者では47%です。これに関連して、共和党支持者はシリアと中東難民は脅威だと考えており、民主党支持者は難民を歓迎すべきだと考えています。

    ここで簡単に米国外交政策の歴史的な軌跡を振り返っておく必要があります。

    米国は建国以来、初代大統領ワシントンの確立した孤立主義原則、すなわち「自分たちの貿易関係を拡大する時には、できるだけ外国との政治上のあれこれに巻き込まれないようにする」という原則を長期にわたって信奉してきました。第一次大戦の勃発後、第28代アメリカ合衆国大統領(民主党)のトーマス・ウッドロウ・ウィルソンはこの米国の孤立主義外交原則を変えようと努力して1918年に米国国会にかの有名な「ウィルソンの14か条」を提出し国際連盟を作ることによって国際協力と世界平和の保障を実現する構想を打ち出し、単独主義外交から多方面外交政策へ転換させようとしました。これは米国のモンロー主義と明らかに反対の、大多数の西側学者のいう「国際主義」でした。この後、米国の外交政策は国際的な方向に向かいました。国連、不戦条約、国連、冷戦と米国の国際的責任はすでに一種の伝統となってきました。しかし、この伝統は9.11事件後、米国国民の民意によって次第に疑いを持たれるようになってきたのでした。

    ピュー・リサーチセンターの「2013年米国の世界地位に関する調査」が米国がはたす国際的な役割に対して疑問が増えていることをはっきり示しています。52%の米国人が「米国は国際的な余計なことにかかわらず、他の国々が自分の問題をうまく処理するようにさせるべきだ」と考えています。2004年には「米国が国際的な役割を担うのをやめるべきだ」という回答はたった20%だったのですが、9.11テロ事件後の2002年ではそれが30%となり、その後ずっと上昇をつづけ、2009年には41%になりました。今年5月5日に行われたばかりの調査ではその比率が2013年の52%からさらに5ポイント上がっています。

    ★第3レベルの乖離;米国外交政策は国際的には望まれていても国民はそうではない

    世界各国が米国の大統領選挙に対する注目度がこんなに高まったことはありません。トランプの大統領指名を阻もうとする人々の中にはもはや紳士的な観戦姿勢をとっておられず、直接論戦に参加し自分たちはヒラリー・クリントンを支持し、彼女の勝利を願い、かつ米国外交の安定性を維持することを希望し、彼女が国務長官時代にやっていた米国外交の方向を続けて欲しいと表明しています。

    そしてトランプの移民やイスラム教徒、外交政策に関する発言は国内では政界、外交界から、国外ではEUや中国の朝野のから強烈な批判を受けており、もしトランプが当選するようなことがあれば、国際秩序は歴史的な災難に見舞われるだろうとみられています。英国首相のキャメロンのスポークスマンは「トランプ発言は分裂を作りさし、助けにはならず、根本的に間違っている」と同調しないとし、英国民の愛でには「トランプの英国訪問を拒絶する誓願書」まで国会に提出されました。

    多くのイスラム国家もトランプの発言には反発し、エジプト、ばきスタンの宗教組織は次々に批判を発表。インドネシア外務省は反感をあらわにし、中国の政府系学者やメディアもはっきりとヒラリーが当選したほうが中米関係は安定すると表明。さらに極端な批判としては「トランプの支持率がおちないのは米国選挙政治の娯楽化によるものだ」というのもありました。

    実は世界がこれほどまでに騒ぐのも米国に引き続き国際責任を果たし続けて欲しいからです。例えば強大な米国の軍事力があればこそEUなど西側国家は米国の車に便乗できて国防費支出を節約できます。たとえばドイツは平和的環境のなかで普段に福祉を向上させ世界中からうらやましがられていますが、その結果、軍備はたるんでドイツの戦闘機は老朽化し半数は飛行できないありさまです。

    もっとも劇場的な光景をみせたのはパリ気候会議でした。これは195か国が2015年12月12日に国連気候サミットにおいて京都議定書に変わる地球温暖化防止へむけての気候協議でした。米国のオバマ大統領はこれを批准しサインもしていたのですが、その実行は次期大統領にまかされます。ヒラリーはこれを強化し実行することを認めているのですがトランプは強烈に反対していました。本来、サインの期限は一年間あったのですが、しかし2016年4月22日地球温暖化対策の新たな枠組み「パリ協定」の国連本部で行われた署名式では171国の国連加盟国がサインし、1日で最多の国家が署名する新記録をつくりました。各国がかくも署名に熱心に参加したのは既成事実をつくりあげてトランプにひっくりかえさせないようにするためでした。

    しかしとエリート層や各国政府の考え方とは違い共和党支持の米国の選挙民は米国政府がより国内に注意を向けることを願っています。トランプはまさにその孤立主義、違法移民反対、実利外交を主張するので民主党からも、共和党内からさえも猛烈な反対を受けているわけですが、しかしまた、まさにこの点こそがトランプが今年の大統領選挙候補者で歓迎されている理由でもあるのです。

    伝統メディアが世論を主導している次期ならば米国人民のこうした考え方は「ポリティカル・コレクトネス」に合致しないとしてメディアからは故意に無視されたでしょうし、おおっぴらな世論になどならなかったでしょう。しかし、2016年はこれまでとはちがい、2012年の大統領選挙では重要な選挙の補完的戦場だったグーグルやフェイスブック、ツィッターなどのSNSはもう選挙の主戦場として、大衆が選挙情報を得る重要なルートになっています。グーグルのデータによれば、今年各州の予備選がおこなわれる前にグーグル傘下のYouTubeの候補者関連のムービー視聴は1.1億時間以上となり、これはCNNやMSNBC、FoxNewsといった大型テレビニュースのネットの選挙関連報道の100倍にあたるのです。

    最後に一つ、基本的問題に立ち返りましょう。米国の大統領選挙は米国国民が選び、米国政府も自国の納税者によって支えられています。米国人が自分たちの政府を選ぶのですから、それは畢竟、自国国民の利益が優先すべきか、それとも国際社会(難民受け入れ、違法移民、世界の救貧といった)を優先すべきかという問題です。現代の民主政治において政治的合法性の基礎は一人一人の国民の理性の認めるところにかかっています。「選挙の票は獲得するが、民心は獲得できない」という米国政治においてエリートの意志が選挙民の意志より上にあって、選挙民に「ポリティカル・コレクトネス」を受け入れるように強いるというこれまでのやり方は、2016年の大統領選挙の後ではたしかに真剣に再考すべき事態にたちいたっています。(終わり)

    拙訳御免。
    原文は;何清涟:川普现象揭示美国政治“三脱离” letscorp.net/archives/105328
    何清漣氏のこれまでの論考は;heqinglian.net/japanese

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