何清漣
2016年6月23日
全文日本語概訳/Minya_J., Takeuchi Jun
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習近平のセルビア訪問二日目に中国河北鋼鉄グループが4600万ユーロ(*約546億円)でセルビアのメドレイボ(*音訳)製鉄所を買収しました。この工場は4年前に米国人が1米ドルという形ばかりの値段でセルビア政府に売ったものです。政府メディアはこの協力によってセルビアには500人の就職機会が生まれさらに広範な協力による新たな未来が切り開かれるそうです。このニュースが理解しがたいのは今時、鉄鋼業は世界中で資産切り離しや生産縮小の対象で中国でもサプライサイド改革が行われて、自国労動者が大量失業するご時世に中国は何故こんなことをするのかということです。
★高速鉄道の受難は「一路一帯」の縮図
このニュースは最近、頻々と耳に入ってくる高速鉄道計画がオジャンになったニュースを思い起こさせます。実は高速鉄道だけではなく「一路一帯シルクロード計画」の他のプロジェクトも全然うまくいっていません。中国国内の論評ではこれは「中国崛起」の大きな背景のもとである種の勢力によって故意に邪魔されているからだと思っています。
阻む力があるのは事実ですが、しかしその原因が全て「ある種の勢力の邪魔」によるもののせいにするならば中国の投資プロジェクトは永遠に「面倒プロジェクト」の罠から脱出できません。いわゆる「面倒プロジェクト」というのは「中国全地球投資追跡」データバンク式に言えば「一部または全部がダメなプロジェクトと監視機関から認定される」ことです。この種のプロジェクトの投資対象国は様々で原因も様々です。もしその原因を類別できたら中国が今後、銭をドブに捨てるのを避けるのに少しは役立つでしょう。
今年最も有名な中国の高速鉄道計画が米国でうまくいかなかったケースを例にみてみましょう。米国西部のXpressWestは6月上旬に正式に中国鉄路国際(米国)有限公司と共同で米国高速鉄道合資会社を設立する一切の活動を終了すると発表しました。理由は同プロジェクトが「バイアメリカン(米国産品購入)法」に触れ、米国政府の資金的援助が得られなかったからだということです。
このプロジェクトは2015年の習近平訪米の三大成果の一つとみなされていたのですが、それが9ヶ月でご破算になったのですから中国側の挫折感は当然大変強いものでした。中国メディアはおしなべてこれを米国の中国に対する一種の攻撃だとみなし、「世界日報」6月15日の記事「両国関係の悪化は『一葉落ちて天下の秋を知る』」は広く引用されました。この記事は2016年上半期の5つの中国の投資プロジェクト、例えば中国資本がフィリップスのICチップや車のヘッドライト企業を買収計画、半導体大手、紫光集団のウェスタンデジタル出資、中聯重科のテレックス買収などは全部、米国政府の介入で中止になったとしています。
しかしこの高速鉄道がうまくいかなかったのは実のところ米国政府の干渉のせいなどではありません。高速鉄道と米国国家の安全や科学技術の安全は全く関係ないからです。そして西部で快速鉄道をというのはプライベートな企業の話で米政府はそのブロジェクトに参加する義務などありません。企業が同プロジェクトから手を引いたのは経済的な考慮から出たものです。というのはこのロサンゼルスからラスベガスまでの鉄道路線計画は米国15号州の公道に沿っており、ネバダ州ラスベガスからカリフォルニアのヴィクトルビルを経てロス空港まで100kmのパームデールまでで、目的はラスベガスの賭博客の交通利便をはかるためでした。
2011年にこの鉄道建設許可を得たのはまさに米国カジノ業界が大量の中国金持ち客を迎えて大繁盛していた時期でした。しかし習近平時代になってからは全力で反腐敗キャンペーンを行って役人の公費海外旅行を禁止したのでラスベガスの賭博業界は重要な客筋を失って不景気になりました。ですからこの賭博用鉄道路線の必要性がなくなってしまったのです。しかしこの理由は米国側からは口にだせません。中国側にとっては習近平がサインしたときから破約になるまでトラブルに気づかず誰も注意してくれなかったのでしょう。
★面倒なプロジェクトが多い原因は政治?経済?
その他の国々での面倒プロジェクトは似たり寄ったりですが、その理由は様々です。
メキシコの高速鉄道プロジェクトの場合は中国企業がいったん落札したのが撤回されました。贈賄疑惑など大スキャンダルに発展したためです。これは中国企業と海外の協力モデルのあり方に関係するもので中国企業は喜んで政府や役人と親密な利益関係をつくりあげるのですが、これは容易に腐敗だという指弾を受けます。華為技術有限公司がオーストラリアでうまくいかなかったのは従業員が会社が社員のメールやネット活動を監視していると訴え出た上、同社が米国で「スパイ行為」を働いているとされたためで、豪州とて自国に「トロイの木馬」を引き入れるわけにはいかなかったのです。
しかしもっと多い面倒プロジェクト化の理由はやはり一国の政治経済の情勢変化のせいです。第一の種類は政府が変わった時に新しい指導者が前任者のツケを支払わないケース。例えば2015年のスリランカ選挙で親北京派の大統領だったラージャパクサが落選し、新大統領のマイトリーパーラ・シリセーナは前大統領が公共事業で私腹を肥やしていたとして着任後ただちに中国の投資によるスリランカの港湾プロジェクトを停止させました。
中国ータイ鉄道もこの類です。同プロジェクトはタイの三期にわたる政権で毎度、政権が変わるたびに協約の条項でより多くの利益を要求され、どんどん中身が変わってしまいました。例えば鉄道が複線から単線に、高速鉄道が中速鉄道になり、建設契約もアピシット政府からはじまって、インラック政権に「高速鉄道代金を米で払う」などの条項がくわえらえれ、その後の軍政府時代になってまたこの過程を繰り返しています。現在、中国側に借款利息の変更や増資やさらなる優待条件などを要求されています。
二つ目のケースは対象国の経済衰退です。例えばギリシャやベネズエラのケースです。ギリシャのピレウス港プロジェクトの停止はギリシャの経済衰退と密接な関係があります。同国の財政赤字は国内総生産の137.14%、公共債務はGDPの178.4%にのぼり、EU規定の3%や60%どころではありません。ほとんど崩壊寸前です。ベネズエラはさらに悪く、現在のマドゥロ大統領はチャベツ派を称し国内政治、経済、社会政策全般をチャベツ時代そのままですが、ただ「中国という良き友人」から借りた巨大債務の継承だけは嫌がって新政府は旧政府の借金を返さないと宣言して中国の数百億米ドルの借款が消えてしまいました。
もう一つ中国プロジェクトが対象国に与えるのが環境の大破壊です。プロジェクトの商談の段階では両国の官僚は投資の目先の利益と自分のポケットにいくら入るかばかり注目して自国の民意を顧みません。しかし一旦政局が変化するとこうしたプロジェクトは中止になってしまいます。例えばビルマの水力発電ダム計画です。最初に話がおきたときはビルマ民主化の真っ最中でしたが、まず政府が軍事政府から文官政府になり、さらにアウンサンスーチー政権党になりました。後者2政府は軍事政権に反対しており当然、軍事政権がサインしたプロジェクトを承認しません。
★中国投資はどうしたら面倒プロジェクトの連鎖誕生を回避できるか?
もし中国がこうした面倒プロジェクトが続くのを避け、納税者の苦労して稼いだお金をこれ以上浪費したくないというのであればやるべきことは二つあります。
一つは、今後投資計画を立てる時には対象国の政治的安定性を考慮すべきです。前にも書いたのですが「一路一帯」の対象にされている国々は主に東南アジア諸国連合、南アジア、西アジア、北アフリカ、欧州です。このうち欧州国家が2015年以来の難民問題でもめている他は、大多数がもともと政治的な危険度が高く国際的な信用もよろしくないのです。例えば、インド、ハザクスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン、キルギススタン、ベトナム、イラン、スリランカ、インドネシア、モルジブなどですがスタンダード&プアーズとかフィッチ・レーティングなどの国際評価機関による信用度評価では大多数がB級以下、イランなどは級外です。
こうした国々への国際投資は協議合意に達するのはちっとも難しくはありませんが、本当に難しいのは投資の回収と利益確保の保証です。ましてや中国はすでにこうした国々へすくなからぬ投資を行ってきており、2013年にインドネシアに307億米ドル、アルジェリアに207億米ドル、イランに172億米ドル、ハザクスタンには235億米ドルもありますが大部分は投資回収時期に入れないでいます。
二つ目は対外援助と対外投資の区別をはっきりさせること。
中国の発展途上国への投資、特に国営企業のそれは往往にして経済援助とセットになって行われますので、受ける側からみるとその全部が無償経済援助に見えてしまうのです。これは西側社会と違います。西側社会の投資は私営企業によって行われますから政府援助や政策性の借款とは厳格に区別されます。
西側企業の大多数の企業は発展途上国向け投資を行っていますが、発展途上国が西側企業の投資にそう簡単に頼らないのは、米国やドイツ、フランスなどは制裁措置をとれる上に、発展途上国の政治トップ層の多くが西側の国営銀行に隠し預金を持っていたり、子女を留学させているからです。しかし中国はこうした制裁能力や資金吸収力といった優位性は持っていません。
西側国家も政策的な援助を行ってはいます。世界銀行や国際通貨基金の借款は西側の価値観を体現しており、その重点目標は全世界的な貧困撲滅に置かれ、多くの限定的な条件が課せられます。例えば相手国の私有化、対外開放、通貨交換の自由化、財政の緊縮、赤字を縮小の約束などで、時には人権条項まで含まれています。しかし中国の援助にはこうした条件はまずありませんで、ただ「友好」だけを求めます。
例えば国連人権委員会で中国の劣悪な人権状態に対して批判や譴責が行われそうな時に反対するとかです。このような政治的な利点と引き換えにこうした国々の債務返還を免除するのが中国のお得意の外交ゲームのやり方なのです。ですからこうした国々からみれば自分たちは国連の投票で中国を助けたのだから、経済援助は当然、自分たちがもらったもので返さなくてもよいはずだということになります。こうした国々ではお金がなくなったら自国での中国プロジェクトを停止させて引き続き中国に経済援助を要請するというのはもうお決まりのやり方になっています。
中国の海外投資はこうした政治的な配慮が経済的な計算に優先するからこそ最初に申し上げたセルビアの製鉄工場を損をしてまで買収するといった話になってしまうのです。「中国全地球投資追跡」データバンクでは一億米ドル以下の投資は調査対象にしていませんから、一億米ドル以下の投資が厄介なプロジェクト化しても統計には現れません。
現在、中国政府のお財布は依然として十分膨らんでいるように見えますが、こうしたお金は高額の不動産価格や高額の医療費、学費、物価高などによって自国人民の懐から不断に削り取られているお金です。それをこうして世界中に気前よくばらまきつづけるのはたとえ金の山銀の海に住んでいてもそういつまでも続けられるものではありません。(終わり)
拙訳御免。
原文は;何清涟:中国海外投资为何麻烦项目多?voachinese.com/..22/3387501.html