何清漣
2016年6月11日
全文日本語概訳/Minya_J Takeuchi Jun
https://twishort.com/hgAkc
ここ数年、中国の対外投資の増加速度は極めて大きいものがあり、2015年の投資総額は1231.2億米ドル、2016年はまだ4月中旬だというのにすでに1100億米ドルになっています。外国での論評はこれは中国の「走出去」(*訳注;「ゾウチューチー」;中国政府の対外投資奨励政策;詳しくはWiki参照;ja.wikipedia.or..%87%BA%E5%8E%BB)戦略の成功のおかげだとしていますが、中国経済の高度なマネタイゼーション(*通貨発行、資産現金化)と、資産の深刻なバブル化、実業への投資が利益を得られないといった面を軽視しすぎています。外国資本にとっては中国はもはや「投資天国」ではありませんし、中国資本にとっては外国に高利益を求めるというよりは安全を求めて出て行っているのです。
★中国本土;実業投資は儲からず、投資分野は危険が大きすぎ
上海財形大学高等研究院が発表したデータ分析によると今年の第一季度の民間投資ははじめて大幅に減少し5.7%になりました(社会総投資は10.7%増)。この分析はさらに ①この度の「投資復活」は主に政府の財政予算資金と銀行の貸付金で、つまりは政府投資であり、民間企業の自前資金は却って萎縮がみられ、この間の「国進民退」(*国有企業が栄え、民営企業が萎縮)状況はさらに一歩進んだ。
②この「投資復活」はこれまで同様のまずインフラ設備への投資が増加し、次に不動産市場の復活がもたらした不動産投資とその関連上流・下流産業による上昇である、としています。
この財政データ分析はぶちまけて言えばつまり「中国は依然として通貨の過剰発行によって経済を牽引しており、過剰な流動性は依然として不動産産業という『池』に流れ込んでいる」です。これは2009年にはじまった資本の流れのパターンで、この年から中国は世界一の通貨発行マシンになり、中央銀行の周小川総裁はこの流動性過剰ー中国金融の洪水災害に対して不動産や株式市場が通貨を溜め込む『池』とみなす『貯水池理論』を提案しました。が、これはつまり濫発行された通貨が全く実体経済に向かって行ってないという事実を認めたことでもあります。
通貨が実体経済に流れていかないというのは実業投資の利益が低下しているからで、これは近年ずっと中国経済の慢性病です。2014年8月、雑誌「フォーブス」が発表した「中国経済40年の繁栄の終わり」 (The End Of China’s Four-Decade Economic Cycle)は「中国ベージュブック」を引用して、中国の預金と貸し金の需給は史上例のないほどに弱含みになっていると述べています。
ブック作者は企業2200社を調査し、「2014年度の第二季度で中国金融機構信用貸付のゲートを開放して6、7月には約1.9兆元もの新規貸付を開き、社会融資(*銀行貸付、政府投資以外の融資)も増加した。しかし有望な前途のチャンスがなかったために調査対象企業はみな新貸付をたいして受けようとはしなかった。個人の小企業に対する貸付を行うシャドーバンクもやむをえず利率を国有銀行よりさらに低くして客を呼ぼうとした、と書いています。
二年前のベージュブックと最近の財務データ分析は同じ事実を語っています。それは国有企業と民営企業では投資に対する敏感さは完全に違うということです。投資への利益率が下がれば民営企業は投資を減らすでしょう。しかし資産の生み出す利益などおかまいなし、政府のポケットが支えてくれる国営企業はそのまま投資を続けます。貨幣政策というのは本来は経済機構を調整する道具なのですが、予想外にも、二年経過しても中国経済の構造はいささかも変わらず、通貨の発行は依然として加速し、しかし資金は実体経済には向かわず直接資産インフレを推進し実体資本投資の利益予想率を急激に悪化させたということです。この種の政策は必然的にこんな結果になります。借金を返すというリスクを負わない国有企業は引き続き借金頼りで中国国内で無駄な投資を続けるが、民営資本は国外に発展の場を求め、もっとも資本の利益が得らえるところを最高目標として、最低でもリスク最小のところへ出て行く、ということです。
★投資の馬車は異国にひた走り、民営企業の馬は早く走る
過去20数年投資は中国経済の「3頭立ての馬車」の一頭でした。そして投資というこの馬車を曳く三びきの馬、とはつまり、政府投資、外資、民営企業、です。
まず中国の国有企業は海外投資でずっと主導的地位を占めており、その9割が損害を被ったとまで言われていますが、しかし2015年においても依然として中国海外投資の58%前後を占めています。国有企業の海外投資というのは中国政府が資源の高度な国外依存を解決するための国家戦略に基づく投資なのです。
次に外国資本は2009年から絶対多数の企業が不断にリストラを行い、資本を引き上げ、工場を閉鎖しています。2008年から2012年まで東莞には72000社の企業が閉鎖されました。2014年には少なくとも4000社が閉鎖、2015年10月には2000社以上の台湾資本企業が大挙して東莞から撤退し500万人の労働者が離職を迫られました。外資企業の撤退のやり方はいろいろですが、撤退の理由はたった一つで、すなわち「中国で工場をやっても儲からない」です。
数年前、米国の在中国商工会議所とEUの在中国商工会議所がだしたレポートでは中国の投資環境悪化に苦情を言っています。例えば米国は中国が外資に対して査察を連発したり、海外の技術を国家安全法を盾に使用を禁じたりなどの方法で在中国企業に対する敷居を故意に高くし、外国からの信用を深刻に傷つけたとしています。二つのレポートは一連の数字を列挙してこの種の悲観的な見通しを裏ずけています。そしてこうした悲観的な見通しをさらに追認するかのように五月の最終日の二日間に世界でもっとも有名な製造業5社が同時に中国撤退を発表しました。世界最大のケータイのケース加工業の及成通讯、ロンドン五輪関連グッズの东莞鑫达、江蘇塩城のトリンプ、フィリプス灯飾製造(深圳)です。
中国民営企業は次々に海外に発展チャンスをもとめ、高い利潤を求めています。2011年、民営企業は中国の対外投資の11%にすぎませんでしたが2015年には41.2%にまで上昇しました。ただ投資先の分野と投資先の国をみると、民営企業が海外に投資する主要な目的は危険回避であり、非実業部門への投資であることがわかります。
戴德梁行(DTZ Holding)の「中国対外投資市場レポートー2015年回顧」のデータでは、中国の海外不動産投資総投資額は2015年に41.5%増え、213.7億米ドルで市場最高でした。そのうちマレーシアが一番中国からの土地開発資金をえており、総額は25.2億米ドル、次いで香港、米国、オーストラリア、シンガポールでした。今年4月に荣鼎集团 (Rhodium Group)と米中関係全国委員会が合同でだした2016年の「新たな隣人」レポートでは2015年末までに中国資本の米国企業は1900社を超え、米国の下院435選挙区のうち362に存在し、全部で約9万人の米国人職員を雇用しています。投資分野でいえば主に不動産、金融、科学技術、映画・テレビ娯楽産業、エネルギーなどです。
同レポートが言及していない点は、これらの投資のうちには大量のEB−5投資移民プロジェクト(*訳注;米国内に50万ドル以上投資することで永住権が入手できる移民法の規定)が含まれていることです。例えば2014年にNY摩天楼景観プロジェクトというのがあって投資総額は3.8億米ドル、これには数百人の中国投資者が組合を作っておこないました。この投資家は比較的幸運でした。というのもEB-5投資移民計画にはインチキなのも少なからずあって2013年、米国籍インド人セスはシカゴに総額1.47億ドルのホテルとコンベンションセンターをつくるという偽のプロジェクトで250人以上の中国投資家をだましたのでした。
★民間企業の海外投資目的;移民として安住の地を確保
まとめると、上述の三要素は、①中国の投資環境の悪化、実業経済の投資収益の低下。② 中国海外投資で不動産投資が依然として重要な位置を占める。③中国資本をもっとも多く受け入れているのは米国で、その中には多くのEB-5投資移民プロジェクトがある。例えば2015年の第三季度で米国移民局が批准した同プロジェクトは6493件でその絶対多数は中国人だった、ということからも中国資本の外国流出の本当の目的は危険回避にあると推測されます。
これでも不足ならごく最近発表されたニュースも証拠になるでしょう。それは、5月の中国から香港への輸出は前年同期比で242%の増加でした。中国のマネーロンダリングに通じた人なら常識ですが、こうした架空輸出業務というのは海外への資産移転なのです。
海外に資産を移すことは当然、外為市場の大失血を招きますし、外為市場を中国経済の一大火薬庫にしかねません。この点を考えれば、なんで中国政府はそれでも外国投資を奨励しているんだ?という疑問がわきます。中国政府は当然、民営資本がこんなに大規模に外国に流出することを望んではいませんし、金融業界の政策決定レベルの人々も外貨準備が急速に流出すると当然、株や債券、不動産、信託、私設ファンドなどのマーケットに危険を及ぼし、相互に影響しあえば中国の金融分野の危険を増加させかねないことは知っています。しかし、いくつかの理由によって中国政府はこれを制限することができないのです。
① 中国はいまも外資導入に努力しており、「お前の金が来てもいいけど、うちの金はださないよ」などと無茶をいうわけにはいきません。
② 本当に大量の資金を動かしている人物たちはみな中共の内部におります。ですから本当の瀬戸際にならないかぎり、政策決定者も他のトービン税(*投機的な国際資本移動を抑制するため,短期的な為替取引に低率で課税する通貨取引課税)とかで市場の上下動や金融危機防止を行うしかないのです。
というわけで、中国の投資界の馬車は世界に向けて勢いよく走っていますが、それは中国内外のメディアがいうように中国経済を引っ張るためではもはやありません。そして中国政府は「走出去」戦略の後ろで幾分の諦めの境地で渋い顔をしているのです。(終わり)
拙訳御免。
原文は;何清涟: 中国“投资马车”奔向异国的背后 voachinese.com/..10/3371287.html