6月12日の「人民日報」に発表された鄭秉文の「国際経験から見た長期成長パワー維持の方法」は中国が将来高収入社会になるという比較的楽観的な未来を描いています。しかし、文中にでてくる「3つの事が起こらなければ」という仮定前提条件は、この「最新最美の未来絵図」に暗いスモッグの影を投げかけるものです。
★「三つの前提」でもっとも変化の可能性があるものは?
筆者は中国内外の経済発展の道を比較し「中国は高収入へのハードルを越えて中度発展国家に邁進」という未来を描いてみせます。元の文章では「数十年の持続的な快速発展を経て我らは未来に自信に満ちており『政治上での転覆性の錯誤』、『経済上の壊滅的な打撃』そして『制度上の地層を亀裂させる震動』がなければ、あと5.6年すればわが国は『中収入国家の落とし穴』を乗り越え心配なく第一回目の百年奮闘目標を実現し、全面的な中産階級社会を実現しているだろう」とのべています。
「発生しない三つの現象」という条件の不確実性をを考えたとき、今季の中南海の主人とスピーチライター担当の仕事は大変だなと思いました。というのはこの「三つの現象」は当局が必死になればなんとか実現できるものもありますが、どんなに努力したって達成しようもないものがあるのです。
『政治上での転覆性の錯誤』というのは現皇帝・習近平が一昨年だした指示が進化を遂げた言葉です。2013年10月、習近平は国家主席の立場で2014年北京APEC閣僚会議に参加した際に中国の改革について「中国は大国であり、絶対に根本的な問題では転覆性の間違いは犯さない。一旦そんなことになれば元に戻すすべもなく、繕いようもないからだ」と述べました。これまで同様に彼のこの言葉が何を意味するのかについてはたちまち中国内外からあらゆる角度からの解読の努力がはらわれました。
そしてその結果、この話の意味するところは「中国は中共をリーダーとする社会主義の道を引き続き堅持するということで、『転覆性の錯誤』というのはこの方針を放棄し民主化への道を歩むということ。最近の中国情勢からみれば中国は『治安維持』を第一の大事としており、それを損ないかねなどんな組織も、社会安定を瓦解させかねないいかなる思想、言論、行動はどのような方向から来てもすべて『転覆性錯誤』になる」というのが内外左右を問わずに達した共通認識でした。
つまり鄭の文中の「政治上転覆性錯誤がなければ」は三年前の習近平の言葉を重ねて述べたわけでカラー革命だろうが第三の波だろうがアラブの春のような民主化であろうがどんなものであっても中国は民主化を拒絶する。将来の高収入社会への努力目標はその前提で基本的に保証されるという意味です。
中共がしっかりと武力を握っていればこれは難しいことではありません。またこれは党内のハイレベルの共産主義紅色貴族層の共通認識でもあります。ちょうどこのとき紅二代目の重要メンバーである孔丹が微信ネットブログ上で吐いた”名文句”「今後、国内外の敵対勢力に反対する方法は『チョン!』」だと、首を切る映像とともに流されて話題になりました。
「経済上、壊滅的な打撃が出現しないこと」というのはわかりやすいです。いまや中国経済は様々な分野で良いニュースがありませんし、最後の防衛ラインはもう金融システムという「超大型陣地」だけです。金融システムというのは国家の経済的な神経中枢で、どうしたって問題を起こすわけにはいきません。起きたら終わりです。その防衛線は死守しなければならないというのは中共指導層の共通認識ですあり、この防波堤をもたせるためには習近平も李克强も命がけで高級官僚もいささかの緩みもなくあらゆる手段を使って緩めたり閉めたりしながら不慮の事態に備えています。
しかしそうはいっても経済的には中国は今まさに険しい山々を越えている最中でこの長い山旅を続けるのは大変なことでして、「一山越したらまた一山、山はどんどん高く、ますます険しくなる」状態です。「国際通貨基金組織最近報告」では中国の金融で「まだ爆発していない爆弾」は1.3兆ドルと言われます。世界はみな周小川中央銀行頭取は大変だということを知っており、周に何事か起きた、というネタ話はもうしょっちゅうのことです。つい最近も「周小川がこの一週間、二度も重要会議を欠席した、なんかあったぞ」というのがネットのホットニュースになりました。この二つの会議というのは6月6日の中米戦略フォーラムでのブリーフィングと6月12日の上海陸家嘴フォーラムです。人々がこんなに周小川の動向に注目しているということからも金融防波堤の厳しい状態が人々の懸念になっているかがうかがえます。
★『制度上の地層を亀裂させる震動が起きなければ』とは何か?
これは普通の人にはなんのことか分からないでしょうからちょっと説明しましょう。いわゆる「制度上の亀裂断層」の「制度」というのは社会主義制度という意味ではなくて、これは中共最高指導者の権力掌握のやり方とその権力行使を有効にさせている各種の制度のことなのです。
習近平は三年以上、政権を掌握してきて権力構造と権力行使の上では何度も新たな規定を設け政治的なルールを改変し、以前の「9人の常務委員による集団指導」を「個人独裁」にかえてきましたし、軍系統でもトップをクビにして幹部を入れ替えました。現在、中共の18回大会後の31省区市の党委員会では少なくとも233人が入れ替えされ、各省の常務委員も半分は入れ替わりました。軍隊の改革もすでに出来上がり権力構造の配置として残るのは指揮系統の漸進的な交代の段取りだけです。
ですから筆者が強調する『制度上の地層を亀裂させる震動を起こさない』という言葉の意味は「習近平が新たにしっかり決めた政治ルールを再び変えないこと、18大会の権力移譲時にはこの”制度の断層”のために軍界・政界の人事に大変動をきたしパニックが蔓延して人心不安を招いた。あのような”制度の断層”を再び起こさせないために唯一の選択は、つまりナンバーワンを変えてはいけないのだ」という意味なのです。
全体主義独裁は古今を通じてすべて「人治」です。「人治」の最大の特徴は統治者が交代した後におきる「一朝の天使に一朝の臣下」(*権力者がかわればその家来も変わる)です。これがつまり『制度上の地層を亀裂させる震動』です。ソ連の経験がまさにこれです。中国の経験もそうでした。江沢民から胡錦濤への王朝権力移行は平穏に過ぎましたが、それは胡錦濤に力がなかったからで、江沢民は中国の政治に大変強い力とコントロール能力を保持していました。
習近平がもし江沢民・胡錦濤時代の前例に従うならば、二期の任期後に退職して、『制度上の地層を亀裂させる震動』を起こさせたくなければ自分の傀儡に後を継がせて、自分は上皇の地位について垂簾聴政(摂政政治)を行えばいいのです。しかし、習近平自身の経験から考えると絶対にこうした危険はおかしますまい。もっとも安全なやり方はロシアのプーチンにならって終身大統領になることなのです。
ロシアの「民主」ではでプーチンは大統領ー総理ーまた大統領となっていまや終身大統領にむかって進んでいます。習近平は大変プーチンを尊敬しておりますから、プーチン流に倣ってやる可能性がなくはありません。鄭の一文が「三つの出現させないこと」を提案して、その最後に『制度上の地層を亀裂させる震動』を起こさせない、というのは「地下の風水の龍脈を探る」行為だといえるでしょう。
もし習近平今上皇帝がそうした意図をもっているなら、来年の2017年の第十九回党大会の人事でその兆候が現れるでしょう。この鄭の身分からみると中国社会科学院中国特色理論社会主義理論体系研究センターの研究員で、米国研究所所長であり、またこれが「人民日報」に発表されたという意味ではそのレベルからいうと正式の論説員クラスよりは下ですが、それでもやはり上からの言葉だとはいえるでしょうから、一種巧妙な「観測気球」をあげたのだとみることができるでしょう。
地球の半分、つまり欧州、アジア、南アメリカのあらゆる社会主義国家が共産主義にむかって進む経験のなかで実現したある種の理想をみれば、一番簡単なのは目標を設定することで、一番困難なのが実現の前提をつくりだすことでした。郑秉文が提起した目標は中国が2024年ごろまでに高収入時代にはいるということでしたが、キモは目標を設定することではなくて、いかに目標を実現していくための前提条件を作り出すかにあります。
「3つの事が起こらなければ」の前提条件は現在もう半分は実現しているといえるでしょう。『政治上での転覆性の錯誤を起こさせない』はもう実現したといえますし、『制度上の地層を亀裂させる震動を起こさせない』についてもそういえるでしょう。現在、習近平は権力基盤をしっかりと固めて掌握し、主導権をがっちり固めており、残りの半分の目標達成は期待できる状態です。
しかし『経済上の壊滅的な打撃』を出現させないというのは難しすぎるでしょう。というのは市場の力は無数の「見えざる手」によって動かされたり止められたりするもので、どの手の力が最後の決定力を持っているかはわからりません。例えばあの壮大なる「二つのシルクロード計画」の中心になる海外に高速鉄道を建設する話にしても何度も話がおきてはダメになってちっともうまくいってません。ですから、三つの事が起こらないようにさせるには、権力を握る「中共の手」は「全知全能の見えざる如来の手」となって奇跡を創造し、市場という影も形もないが、どこにでも存在する「見えざる手」に打ち勝たなければならないのです。(終わり)
拙訳御免。
原文は;何清涟:人民日报提“三个不出现”,实现难度有多大 (人民日報の報じた「3つの事が起こらなければ」、は実現する難度が高い」)
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