• 中国の「戦時体制」は誰を防ぐー南シナ海仲裁裁判

    by  • July 15, 2016 • 日文文章 • 0 Comments

    何清漣

    2016年7月14日

    全文日本語概訳/Minya_J., Takeuchi Jun

    https://twishort.com/G1Jkc

    南シナ海仲裁裁判の結果が公表されて、中国は依然として「四つのノー」(不参加、不受理、不承認、不執行)を唱えました。しかし、北京市突発事件応急委員会は、そっと各部門(*単位)に「戦時状態」に備える緊急通知を出しました。細かく内容を読んでみると、初めて北京の目にはこの南シナ海仲裁裁判は外部との衝突ではなく、水面下の「内戦の危機」であって、この「戦時状態」の敵というのは、仲裁裁判に持ち込んだフィリピンなどの「外敵」ではなく、国内民衆がやらかしそうな「突発事件」に対してだということがわかります。(ビラは;pbs.twimg.com/m..rMjUcAAUbDO.jpg

    ★北京の「北京応急委」発行の「2016二号文件」の敵は誰?

    この文件はたった1ページで4条しかありません。第1条は、2016年7月12日8時から17日24時まで各部門は緊急の「戦時状態」に突入せよ、です。軍隊改革がまだ進行中で、民心が離散しているご時世になんと戦争を!と中国政府の勇気に一瞬刮目する思いでした。しかし続きを読んだら失笑せざるを得ません。というのも第2条の要求は「各単位(*職場)は影響が大きくなりかねない突発事件などに対する情報収集と世論対応工作を強化し、市に緊急報告し、引き続き情報をあげるべし」でした。第3条は突発事件への応急措置を強化、第4条は緊急技術系等の800メガ帯無線と緊急移動指揮車が使えるようにしておけ、とのことです。

    この4条は全部、国内突発事件向けで、つまり中国国内が「準厳戒体制」に入るということであって、対外的な戦争状態ではないのです。アジア太平洋ニュースネットの報道では;「仲裁案がでてから、北京のフィリピン大使館外には多数の武装警察とパトカーが駐車し突発事故に備えている。フィリピン大使館は中国に在住するフィリピン市民は公衆の場で政治を論じないようにしたほうがいいと言っている」といったぐあいで、すべてトラブル防止のために中国国内での民衆の行為を制限する方向です。中国人がこの裁定に文句を言いたいとおもってもそれは政府側メディアに代弁してもらうほかなく、自分たちで集会をひらいたり、センシティブな地域で意見を発表してはならないのです。

    というわけで、この「戦時状態」というのは二つの面から理解するしかありません。ひとつは、当局が1919年の五四運動の再演を心配していること。あの時はパリ和平会議で外交上の失敗が北京大学生のデモを引き起こし、北洋政府の国辱ぶり(*山東半島の租借権が日本になどで)を攻撃し、清末の官僚・曹汝霖の自宅だった趙家楼に放火したのでした。ふたつめは当局は少数の「悪意ある分子」が愛国の旗を振って世の中を騒がせようとするのを警戒したのです。

    ★中国人は仲裁裁判結果をどうみているか?

    北京の緊急文件の内容からみると、中国当局の現段階での政府と民衆の本当の関係がはっきり見えてきます。

    ネット上の論議は3種類に分かれます。ひとつは政府と同じ立場。この人々の中には中共の愛国青年、例えば共産主義青年団の撮った「南シナ海裁判?知ったことかそんなもの」に参加した人々。「南海の理屈と実力でいけ」みたいな文章を書いたりした本気で政府を支持している人もいるでしょうが、当然、少なからぬ五毛(*政府お雇いSNS書き込み要員)が中国国内のネットの書き込みを埋め尽くしてもいます。

    第二類はやり方をかえて政府をディスるいたずら者たちで、南海の観世音菩薩が「南海がなくなっちゃったわ、あたしどこいけばいいの?」とかいってる漫画を掲載したり、開戦を主張しながらもっともらしく今回の総指揮官は張芸謀か馮小剛にやらせろとか、一気に米国をやっつけてワシントンを占拠したら大量に参戦したビンボー人二代目は金持ち二代目と同様、アメリカに移民するチャンスが得られるじゃないか、とかいってる人々です。つまりどうすれば政府側が嫌がるだろうというわけですね。

    第3類のひとは極めて少なく、真面目に国際法の中から島嶼の定義をさがしだして、たとえば九段線の区分は国際法には合わないとか、島嶼を含むといくらもないから中国は却って大損するから中国の利益にあわない、もし排他的経済水域をふくむと他国のとぶつかるから衝突しやすい、とかを論じている人々です。

    中国当局の眼中には、第一種の人たちは自分たち政府の基盤で、第三種のひとたちは理屈をこねているだけでどうでもいい存在。ただし第二種の連中こそが中国当局が厳重に警戒しなければならない相手に映ります。この連中は南シナ海の島の帰属などどうでもよく、ただ中国政府を笑いものにしただけで、その大部分は野次馬ですがそのなかに少数の「悪意をもっている」連中もいて彼らはチャンスを捕まえることにたけており、かつ少なからず北京地区に住んでいます。というわけで、「戦時状態」というのは、こうした連中が悪さをするのを防ぐということなのでした。

    ★中国は南シナ海の衝突で開戦するか?

    今回の仲裁裁判に対しては中国政府は「承認せず、受け入れず、クズのようなものだ」としています。この結論は予想されたものでしたが、しかし北京は全面的に負け、怒りと悔しさで衝突をエスカレートしかねないと判断するひともおり、中国内には「理論武装と拳骨の両方でいけ」という声もあります。

    私は南シナ海での衝突は引き続き起きるだろうとおもいます。しかし、この3年から5年ぐらいはこの種の衝突が戦争になることはないとおもいます。別に後知恵でいうのではなく、これまでにもずっとツィッター上で質問されるたびにこう答えてきました。「南海の波濤は高いように見えるが危険はない。中国だろうが米国だろうが、実は拳をみせびらかし肌脱ぎになってみせているだけで、戦争を本当にやる準備はできていない」と。

    東南アジアの国々は自国の軍備が弱いのでアメリカ頼りです。しかし米国のオバマ大統領は二度目の任期中大規模な軍縮を行い、2017年末には軍隊の規模は45万人になり、1940年以来最低レベルになり、2012年の52万人から12万人も減っています。さらに大事なことはアメリカの民衆の大半は政府が「国際社会のどうでもいいようなことにかまけすぎる」と見ています。「トランプ現象から伺える米国政治の「三つの乖離」(May 28, 2016 heqinglian.net/..ump-us-election)でも書きましたが 米国のエリートは民衆から遊離しており、米国政府の国際社会への責任と自国人民への責任の間で方向を失っています。「ピュー・リサーチセンター」の5月5日の調査では57%の米国人は外のことにかまわず、自国の問題を解決することを望んでおります。この比率は2013年の米国の世界の地位調査時の52%より5ポイントあがっております。つまり米国は南シナ海で武力を誇示することはできても、本当に米国人を戦場にむかわせ、他国の利益のために戦わせるのには米国人の半数以上が反対なのです。

    中国側は戦争に対して政府も民間も表面上は勇ましい声が高いのですが、実際は全然準備ができていません。政府が戦争したくない理由は三つあります。まず国内矛盾が先鋭で、不安定です。中国政治の知恵はもとから「外を退けるにはまず内を安全にしておいてから」です。内部がはっきりしないのに軽率に外側とことは構えません。二つ目には中国軍は現在、再編過程にあって旧来の指揮系統はすでに動かず、新しい指揮系統はまだできあがっていません。指揮系統がなければ脳みそがないと同様で戦争になりません。第三には中国海軍はアメリカ海軍に遠く及ばず実戦能力はありません。第四に習近平総書記は、現在戦争に打って出る状況ではありません。勝っても、軍費をあんなにかけて勝って負けるはずがないと国民は思っていますから当たり前で、負けたら簡単に軍事的失敗が政治的失敗になってしまいます。ロシアのロマノフ王朝の末期のツァーリ・ニコライ二世が1917年2月革命で没落したのはつまりはドイツとの戦争にやった軍隊が銃口を自分に向けたからでした。その軍隊はツァーリが手塩にかけて育て上げたものでした。

    民間だって戦争の準備はできていません。こういうとギャラップ世論調査が2015年3月に発表した国際調査で「国のために戦うか?」という質問を64カ国の国家と地域でおこなって、日本が11%で最低、モロッコとフィジーが94%で最高。中国は71%でロシアの59%や米国の44%より高かった。7割の中国人が参戦したいというのにどこが準備ができてないっていうのだ?と反論する人がいるかもしれません。

    しかし本当です。民間調査の研究者はとっくに専制独裁国家の民間調査では被調査者は普通本当のことは口にせず、最も政治的に危険ではない答えを選ぶことに気がついています。この巨大な政治的圧力は中国人の心理にもあるはずです。ですからこの調査は今年5月のアムネスティインターナショナルの「46%の中国人は難民を自分の家に受け入れたがっている」の調査結果と同じで、信じない方がいいでしょう。

    さらに大事なことは、中国政府と民衆の間の信頼関係はもう失われていることです。2005年と2012年には中国政府は日本の国連常任理事国入りと尖閣列島の国有化に反対して、前後して中国の大・中都市で大々的な人民の「自発的参加」による反日デモを繰り広げました。今は当局は2012年のような自信は持っていません。南シナ海仲裁後、北京がまっさきに「戦時状態」を宣言して内乱防止をはかり、7月13日には外交部副部長の劉振民が国務院の記者会見で「中国側はロドリゴ・ドゥテルテ大統領とフィリピン新政府が南シナ海の仲裁裁定問題で積極的な姿勢をしめし、中国側と協力して話し合うならば中国はこれを歓迎する。中国はフィリピン新政府と共同の努力をもって南シナ海問題を善処し、中国フィリピン関係を早期のうちに正常にもどしたい」と語ったということは内外的にはファイティングポーズをとりながら、どこで口調をつよめ、どこで弱めるということについては中国当局は心中、おのずからわかっているのです。(終)

    拙訳御免。
    何清漣氏の原文は;何清涟:中国的“战时状态”防备谁?voachinese.com/..13/3417228.html

     

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