• ★人民元価値下落は通貨改革を引き起こすか?★2016年12月2日

    by  • December 3, 2016 • 日文文章 • 0 Comments

    11月29日の「ボイス・オブ・アメリカ」(VOA)の「時事問題を語る」番組で、聴衆から「人民元が引き続き下落すると、中国で『通貨改革』が起こるか?」という質問がありました。私は「ありえない」と答えました。その理由は今年は数カ国の通貨で深刻な問題が起きており、中国がその教訓を汲み取って、為替レートコントロール政策を続け、人民元を安定させているからです。ここでは中国政府がなぜ、近い将来、通貨改革を行わないかを分析します。

    2016年 三つの国家で起きた「通貨の呪い」

    2016年初以来、ベネズエラ、モンゴル、インドで前後してインフレの危機が起きました。

    まず、チャベツ政権発足以来、自国の石油資源収入だけに頼ったいわゆる「社会主義高福祉システム」をつくり、ラテンアメリカの左派政権から大変にうらやましがられていたベネズエラの状況を簡単に見ておきましょう。ここ数年、国際的なエネルギー構造の大変化によって、石油だけに頼りきったモノカルチャー経済では国を支えきれなくなり、経済危機が生まれ、各種物資、とりわけ食料などの生活必需品が不足し、物価が高騰して悪性インフレにおちいっています。額面100、500、1000ボリバールの紙幣は2015年から発行量が倍増しました。今年の四半期のインフレ率は720%で、11月にある専門家は1500%だと見ています。

    国内は現在、地獄の入り口です。食品、薬品からトイレットペーパーなどの必需品に至るまで深刻に欠乏し、その欠乏リストはどんどん長くなるばかりで、テレビも見えず、電話も通じず、飢餓が国内に蔓延しています。最近のニュースでは、ベネズエラの国民は買い物をするにも手押車いっぱいのお札を持って行かねばならず、クラッカー1個が1000ボリバールします。ブラックマーケットでは1米ドルが1000ボリバール以上になります。一家がレストランで食事しようとすると、レンガほどの札束が必要です。こうした光景は国際社会には、ワイマール共和国時代のドイツを想起させますが、中国人なら国民党政府が中国大陸で敗退する前夜の「1935年から1948年まで通用した「法幣改革」(*後述)後のインフレを思い出すでしょう。

    インドは別の方面から中国に警告を与えました。モディ首相が11月8日に偽造紙幣や資金洗浄など、ブラックマネー撲滅のためとして、現行紙幣の廃止命令を出してから、全国の経済が厄介なことになってしまいました。原因は 一つに、廃止された額面500と1000ルピー札はこのアジア第三の経済体の流動性の80%以上を占めている。二つには、インド経済の総規模は2兆米ドルで、小売業がその56%を占めている。三つ目には、新しい額面の紙幣が手に入りにくいため、少額紙幣だけが流通し、消費停滞現象がおきている。その上、新しい2000ルピーを持っている人でも使い惜しみや、お釣りが無いこともあって使えないでいる。

    こうしたわけで、インド経済全体に流動性の危機が広がりました。2016年と2017年の財政年度でインドGDP成長率は、これが原因となって4.1%低下すると見られています。「高額紙幣流通廃止」のツケは、2週間以内に絶対多数の企業が連鎖的に資金ショートを起こし、トラック運送も現金がなく運行できず、労働者も給料をもらえず働かなくなり、連鎖的に支払いが滞ります。こうした状況は今後半年は続くと言われています。これらは自業自得というべき部類ですが、世界から好感をもってみられていた新興経済体、BRICs国家がいかに脆弱かをはっきり示しています。モンゴルは今年7月末以来、通貨下落が1カ月続きベネズエラにつづいて、もう一つの資源大国での崩壊ですが、国が小さいために世界からはあまり注目を集めていません。

    中国政府は通貨改革の危険を冒さない

    中国政府が外部の目には「完全にうまくやっている独裁体制」と映るのは常に危機意識を持っているからです。上述の3カ国、モンゴルはお隣、インドはBRICs仲間、ベネズエラは中国から少なからぬ援助を受けている「昔からの友達」です。どの国の苦境もみな北京に、「危険性」を意識させてくれます。例えば、インドが通貨交換で引き起こしたトラブルは、自分たちが長年やってきた通貨発行政策、印刷コストが余計にかかっても、絶対に500元札や1000元札を発行しない、とかの正しさと先見性を確認させてくれる結構な出来事でした。次に自分たちの通貨に対する考え方の正しいこと。中共は長年、「ソ連の亡党亡国の轍を踏まない」を繰り返し強調して来ており、ハイパーインフレはその一つです。長年、紙幣を濫発して政府の信用を深く傷つけてきていますが、しかしいわゆる”改革”の道は簡単には選ばないことによって、最後にはやはり政府が利益を得ています。

    中国の金融システムは色々問題を抱えていますし、李克强が総理の地位に就いたときには、大手術へをやる気満々でした。いわゆる「リコノミクス」の意味は、政府の行為を制限し、2008年の経済危機以来の政府投資と国有経済の過度の膨張を修正するものでした。そのうち、「財政による経済刺激策の収束」は次第に国家主導の投資行為を縮小することでしたし、「レバレッジをやらない」は信用の過度の増長を抑制することで、債務削減。構造改革の内容は更に多種多様で、金融自由化、財政システム、生産要素価格、土地使用、行政コントロール、独占、収入分配、戸籍制度などの分野での改革を含んでいました。

    政策の目的は、短期的な痛みに耐えて、長期的に持続可能な発展潜在力にすることでした。しかし、第1任期が終わろうとしている今、金融システムの運営は相変わらず「昔のわらじを履いたまま」ですし、同じみのやり方をしています。私は「『リコノミクス』の制度的基礎は何処に」など数編の文章で指摘しましたが、改革しないわけにはいかないし、しかし、その改革もまた出来ない、です。

    にもかかわらず、中国は金融システム面の数々の深刻な問題に直面していても、危険極まりない通貨改革は不可能なのです。少なくとも来年9月の中国共産党第十九回全国代表大会で最高権力がどうなるかが決まらないうちは絶対に可能性はありません。原因は、一つには先の数カ国の経験の教訓、とりわけインドの「高額紙幣使用禁止令」が示した「通貨改革」の教訓。次に、国民党政府がかつて行った歴史的失敗の1948年に国民党政府が発行した紙幣の一種「金元券」発行への連想。そして誰も通貨改革の発議をしっこないからです。

    現段階で誰も通貨改革を言い出さないわけ

    中共党史の教育で、国民政府が最後におちいった政治的失敗、軍事的失敗、経済的失敗などすべての面での失敗の中で、経済的失敗の代表的な例がこの「金元券通貨改革」、いわゆる「法幣改革」で、これによって民心は国民党を離れ、財政はあっという間に崩壊しました。

    金元券は1948年8月に発行され、1949年7月までの10カ月間流通しましたが、最後には額面の2万分の1になっていました。国民党の宋子文財政部長にこの「法幣」発行を勧めた経済学者の冀朝鼎は実は、中共が国民党政府に向けて放った周恩来直属の高級スパイだったのです。冀朝鼎が、国民政府にこの政策を献策し、国民政府を崩壊させた財政の功績は最近まで秘密にされていました。しかし、毛沢東、周恩来、鄧小平など中共トップ層はみな知っていましたから、ずっと通貨インフレに対しては皆、極めて高い警戒心を持っていました。私はかつて、冀朝鼎が中共党ないの経済学者としての地位が大変高いことは知っていましたが、その地位にあった重大な理由は知りませんでした。「瞭望東方周刊」2009年8月号がこの秘密を明かして、初めて冀朝鼎が中共党員で国民政府に「通貨改革」を提案して、インフレを作り出し、国民の財産を巻き上げさせたことで、その地位は彼の学者としての論にあるのではなく、功績によるものだと知ったのでした。国民党政府の奥深く潜んで、肝心な時に、敵の心臓部に深く致命的な一撃を加えたのです。

    冀朝鼎がこれをやったことで、中国の金融界と経済学界には誰一人通貨改革という事を言い出す人はいないと思われます。西側に留学した金融通貨の専門家もこの話題を敬遠します。冀朝鼎という中共スパイの他にも、西側には同様の共産スパイの話があるのことも、彼らに尻込みさせる理由かもしれません。

    1940年代の米国で起きた共産スパイ事件の主役はフランクリン・ルーズベルト政権のヘンリー・モーゲンソー財務長官のもとで財務次官補で、金融面でまれに見るすぐれた才能の持ち主とされたハリー・デクスター・ホワイトです。彼の生涯の業績は国際金融史の二つの大事件と関係していました。彼はその名轟く大経済学者ジョン・メイナード・ケインズのともに、ブレトン=ウッズ体制の設立者であるばかりか、さらに国際通貨基金(IMF)の設立者でもあるのです。1945年12月、ブレトン=ウッズ体制が発足し、長期にわたる国際金融の旧秩序の混乱に終止符が打たれ、ドルを世界の基軸通貨として、金1オンスを35USドルと定め、そのドルに対し各国通貨の交換比率を定めた(金本位制)のです。この新しい金融システムは西側資本主義国家が20世紀をリードし、冷戦に勝利するための道を舗装したものです。ブレトン=ウッズ体制の壮挙によって、ホワイトは資本主義世界と米国の「英雄」とされました。1946年1月23日、トルーマン大統領はホワイトをIMFの執行理事に指名しようとしました。しかし、FBI局長のフーバーはトルーマンにあるレポートを提出。そこには寝返ったスパイのE・ベントリーを含む30にわたる異なったネタ元からの情報としてホワイトを告発するものでした。「フォーリン・アフェアーズ」誌によると、1934年に米国財務部に着任後、ホワイトはソ連のための秘密連絡網を作り、「モグラ」として働き始めました。この告発で彼は下院非米活動委員会に呼び出され、その三日後に死にました。(*自殺とされる)

    一人は中国、もう一人は米国で経済学者が共産主義の大スパイだった事件は、すぐ人々が思い出すことです。さらに今の中国では言論は厳しく取り締まられており、「おべっかをつかわなければダメだし、それも正しいおべっかを使わないとダメ」と言われる状況で、自分で好んで面倒ごとを起こしたいと思わない限り、誰も「通貨改革」など上層部に提言などしません。

    通貨は国家の民衆への経済的信用契約なのです。歴史上、いかなる通貨改革もみな不公平な財産の再分配でした。そして、他の金融改革と比べて、通貨改革は一番、国民の政府への信用をぐらつかせやすいものです。ですから、よっぽど追い詰められてどうにもならないようなことでもない限り、北京は絶対にこのパンドラの箱を開けたりはしないでしょう。(終)

    原文は;人民币贬值会不会引发货币改革?

     「中国2015 何清漣」 電子ブック発売中何清漣さんの「中国2015」表紙

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