• ★内部告発者を守れる国家には未来があるが…★2017年1月2日

    by  • January 2, 2017 • 日文文章 • 0 Comments

     新年の初日、ウォールストリート・ジャーナルの中国語版ウェブサイトの「セラノス暴露—米国の『太子党』の選択」は読ませる記事でした。中国語の見出しの「太子党」はもっぱら中国語読者の目をひくためで、米国にはこうした貴顕子弟を形容する言葉はまず使いません。英文の見出しは「Theranos Whistleblower Shook the Company—and His Family」(*セラノス—内部告発者の衝撃が会社と、自身の家族を揺るがす」)です。読んでいくうちに、最近「死亡税率」という言葉で中国の企業勢の過重負担を形容したために、当局に呼び出された経済学者の李煒光(*リー・ウェイグアン/天津財形大学経済学院教授)や、中国で未だに獄中にある38人の報道記者、そして「内部告発」したために自由を失い面倒に巻き込まれた中国人のことを思い起こさざるを得ませんでした。

     

    米国の創業神話の破壊

     まず、この物語をみてみましょう。「セラノス」という会社についての報道は、2015年10月16日のウォールストリート・ジャーナルがこのスキャンダルの主役でした。(*「セラノス事件」;など)ジョン・カレイロウ記者(John Carreyrou)は記事の中でセラノスの血液検査技術に問題があるとし、「コリン・ラミレス」という仮名でテーラーが監督機関に訴えた過程と、この栄光に包まれた企業の奥に隠された秘密を世に明らかにしました。それからこの企業が、音を立てて崩壊するまでは僅か半年の出来事でした。同社は指先からほんの数滴の血液を採取するだけで、これまでの血液検査に代わる検査が可能で、この技術は760億米ドルの血液業界の新星となるハイテク企業だと称していたのですが、その革新技術がインチキだったのでした。

     この企業のトップは19歳でスタンフォードを中退したエリザベス・ホームズ女史で、かつて米国のきらめくようなスターであり、無数の企業を志す青年男女の憧れの伝説的人物でしたが、詐欺が暴露されて一夜のうちに神棚から転げ落ちました。

     このセラノスの内部告発者について、今回ウォールストリート・ジャーナル誌は「彼の告発はかつて神話的存在だった血液検査会社セラノスの価値を一瀉千里の勢いで崩壊させ、彼自身の家族関係も悪化した。彼は米国の前国務長官ジョージ・シュルツの孫のタイラー・シュルツだったのだ」と、並みの家庭の出身ではなかったことを明らかにしています。

     今年95歳になるシュルツはかつてニクソン政権の労働長官、財務長官、レーガンと親しく同政権の国務長官を歴任し1989年にはレーガン大統領によって米国市民の最も栄誉ある米大統領自由勲章を受賞しています。シュルツ・ファミリーとこの企業の利益関係から言えば、この若者が内部告発者になったのは普通の人より楽だったなどということはありません。

     とうのはジョージ・シュルツは、セラノスの取締役で、テイラーは2011年に祖父の家で生物科学界の伝説の人物であるエリザベス・ホームズと知り合い、彼女への尊敬から自分のスタンフォード大学における専攻科目を機械工学から生物学に変更し、卒業後にエリザベス・ホームズ自ら立ち上げたセラノスに入社しその大事業に参画する道を選んだのでした。

     しかし、入社後ほどなく、彼は問題を発見し、同僚と話し合ったのち、行動を開始しました。その動機は大変単純で、彼に言わせれば「患者の健康と祖父のジョージの名誉を守りたかった」から、です。2014年4月11日、企業創始者のエリザベス・ホームズにメールを出して、企業が研究データを改ざんして不合格の質量検査をごまかしていると訴えました。その返事はこなかった代わりに、会社のナンバー2のCOO・サニー・バルワニからの電子メールには「君がシュルツの孫だから、こうして自分はこんな問題にわざわざ返事を書いてやっているのだ」とありました。テイラーは辞職の道を選ぶしかなく、仮名でニューヨーク州の公衆衛生ラボにセラノスの実験検証は偽装されたものだ、と訴えましたが、なんの回答も得られませんでした。2015年始め、テイラーは自分の身分を隠したまま、ウォールストリート・ジャーナルの記者に内情を漏らし、「内部告発者」の道を選んだのでした。

     

    名門の子弟でも「内部告発者」は大変

     米国の大企業の背後には蜘蛛の巣のように張り巡らされた政界の関係や、強大な力を持つ弁護士大集団がおります。この報道には、ジョージ・シュルツは2011年にセラノスの取締役となっていました。彼のフーヴァー戦争・革命・平和研究所での同僚で、元国務長官のヘンリー・キッシンジャーや、国防長官のウィリアム・ペリー、元上院議員のサム・ナンもほぼ同時に取締役に就任しています。この超強力な取締役会の顔ぶれはセラノスに一層の権力、人脈、バックグラウンドの輝きをもたらし、この企業はこうした力で巨額の資金を集め、トーマスが革命的な血液検査設備と称するものを研究開発させていたのでした。

     ですから、テイラーの家柄が良かったとしても、このような大企業を揺るがすことは極めて困難で、脅迫や尾行、監視などの目にあいましたし、彼の敬愛する祖父であるシュルツからも疎まれました。幸いだったのは米国が法治主義国家で、近年、権力によってそれが怪しくなってきたとはいえ、まだ法治の精神は存在しており、様々な業界に責任感と両親のある市民が存在したことです。テイラーの一層の幸運は、ワシントンポストのジョン・カレイロウ記者と知り合えたことでした。これは大事なことです。マイケル・ルイスのノンフィクション『世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち』(2010年刊行)を原作とした映画の『マネー・ショート 華麗なる大逆転』( に登場した二人の若い投資家たちはそんな運に恵まれませんでしたね。リーマンショックの直前にチャーリー・ゲイルとジミー・スプリーは米国不動産市場の危うさをみて、信用危機の可能性を大学の同級生のウォールストリート・ジャーナルの記者に伝えますが、子供が大学院で学ぶこの夫婦はウォール街を敵に回すことを恐れて、きっぱりその依頼を拒絶したものです。

     当然、テイラーの勇気は、自国の法治に対する信頼から生まれたものです。テイラーは「憲法修正第1条は私たちに不法行為に公然と反対する権利を賦与しており、脅しや、いじめ、法廷問題をちらつかせて口を閉ざさせようとする圧力には屈しない」としています。もし詳細を読みたい方はウォールストリート・ジャーナルの詳細な記事を読んでください。(*英文;http://www.wsj.com/articles/theranos-whistleblower-shook-the-companyand-his-family-1479335963 中文;http://cn.wsj.com/gb/20161230/BIZ172329.asp

     米国の偉大さの所以はこうした社会に内部告発者がいるだけでなく、法律もこうした人々の権利を擁護していることです。世界もまたこうした人々の存在によってよりよいものになっていきます。

     

    中国の内部告発者は厄介ごとに巻き込まれる

     以上のお話は米国でのことですが、その中の幾つかの要素は、例えば政治とビジネスの関係などは他の国にも存在し形が違うだけですが、内部告発者に対する法的な保護などはない場合もあります。

     中国の政治とビジネスの関係ははるかに米国より直接的で赤裸々なもので、政界の要人のバックに現れるだけでなく、さらに企業と政界関係者の間での直接の利益のやりとりという形で存在します。ニューヨーク・タイムズやブルムバーグ・ニュースが数年前に平安保険公司と温家宝前総理、戴相竜中央銀行総裁一家との関係や馬雲、王健林といった中国のスーパー級大富豪と中国政界の新旧常務委員家族の相互利益構造を報道したことがあります。しかしこうしたニュースは、内部告発者によるものではなくして、中共のハイレベルの権力闘争の敗者側、職務と立場を利用して大量の「国家指導者の家族の国家機密」を握ることのできた周永康やその家来の官僚たちによって暴露されたものでした。

     中国では、体制の受益者側から「内部告発」は全く期待できません。統治集団はとっくに特権的な利益を共有する運命共同体化しているからです。一番紅色特権貴族たちの腐敗を承知しているのは紅二代のメンバーですが、その中から現体制に「ノー」と言うなどみたこともありません。それどころか彼らは懸命にそうした体制を擁護しようとします。普通の人間や記者が内部告発などしようものなら、ひどい目にあうのがオチです。この体制の代表はそうした社会的責任感を感じた人々を守るどころか、官僚と一体になって結託して彼らを潰しにかかります。こうした迫害を受けた人々のリストをつくったらとんでもない長さになるでしょう。

     私が一番覚えている例では、「希望工程」(*民間の篤志を募って、貧しい子供達を進学援助する運動組織)の腐敗を告発した楊柳女史、山西のスプリンクラー灌漑システムのインチキを告発した新華社記者の高勤栄さん、放射能汚染を告発して残酷な迫害に遭った甘粛省迭部県のウラン鉱山職員の孫小弟です。中国でこうした社会の良心というべき人々は国家によって残酷に踏みにじられ、その悲惨な代価を払わせられました。楊柳女史は長年の迫害の後、重い病気で世を去り、高勤栄記者は8年間、無実の罪で牢に放り込まれ、孫さんは1988年にはじまった核汚染と役人腐敗問題の後に、尾行、監視、脅迫、住居破壊、殴打されるのが日常生活となり、最後には労働教育所に送られました。更に悲惨なのはこうした人々は孤立無援の立場に置かれ、例えば孫さんの周囲の放射能汚染の被害者たちは権力を恐れ、脅され孫一家を孤立させる側に回ったのでした。

     山の中で暮らしたことのある人のお話ですと、真っ暗な森の中で最も危険なのは様々な音が響くときではなく、シーンと静まりかえった時だそうです。あらゆる獣や鳥が声を出さないでいる、ということは巨大な危険、虎のような猛獣が近ずいているということだからです。今、中国の経済、政治領域の危険はすでにはっきりしていますが、当局は最後の一人にいたるまで内部告発者を絶滅させようとしています。危険に直面しているのは政府だけではなく、統治集団とともに殉葬させられる中国人民なのです。(終)

     拙訳御免。
     原文は;保护“吹哨人”的国家才有未来 

     「中国2015 何清漣」 電子ブック発売中何清漣さんの「中国2015」表紙

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