• ★オバマはどんな「政治遺産」を残したか。2016年11月5日

    by  • January 4, 2017 • 日文文章 • 0 Comments

     これは台湾の雑誌の求めに応じて去年の11月、米国大統領選挙の最中に書いたものです。これを書いていた時は、ちょうど大統領選挙の第3回弁論が終わったところでした。3回の討論はつまらないことばかりで、多くの米国人は「今回の大統領選挙には勝者はいない。でも米国が敗者であることは決まりだ」と感じていたのでした。

     

    米国はなぜ敗者になった?

     一般には、今回の大統領選の両党の候補者はスキャンダルまみれで、トランプはセクシュアルハラスメント、ヒラリー・クリントンはメール事件とクリントン基金で道徳性が疑われています。三回の大統領候補同士の討論会では最初の2回は互いに中傷合戦に終始し、第3回はちょっとマシでしたがやはり最後は足の引っ張り合いでした。更に民主党の投票不正、選挙操作、メディアの一方的な加担により、トランプ支持者に対して民族主義、教育程度が低いといったレッテル貼りがあり、ヒラリー自身までがトランプ支持者を「哀れな連中たち」とまで言いはなつ始末。こうした手段を選ばない汚いやり方に、米国エリートとメディアはまだ渦中にあって反省しにくいようですが、米国の民主にずっとこれまであこがれてきた中国人は「民主の灯台の国も、今回でお里が知れた」と嘆かざるを得ません。

     私も、米国は敗者だと思いますが、理由はスキャンダルが続々だからということではありません。また民主党が今回の選挙で、民主主義の一番大事なプロセスにおける正義を破壊したから、ということについてもあれこれ言いたくありません。しかし、この二人の候補者の資質から見て、どちらも米国が必要としている大統領ではないし、誰がホワイトハウスに入ったところで米国が変っていく大事な時期にあって、その道を間違えるだろうと思えるからです。

     スキャンダルのバブルを取り払ってみれば、今回の大統領選挙のテーマは「米国の西側の盟友から見た場合、グローバリズムと米国第一主義の対決で、米国が現在の国際秩序に対する責任をどうする都いう問題をもう受け持たないのかどうか」ということです。米国人からすれば、「現状維持(オバマの政治遺産の継承)か、改変かの戦いで、国家の未来がどんな方向に向かうか」という問題です。ですから、台湾の読者に米国大統領選挙の焦点はどこにあるかということをわかってもらうためには、まずオバマの政治遺産なるものは一体何か、をはっきりさせておかねばなりません。

     

    オバマが米国社会に残した「政治遺産」

     トランプが共和党代表大会で米国の現状を様々に批判したことを、民主党は米国を真っ暗に描き出したとして、これに対抗するために「米国は依然として偉大である」と言いました。オバマは民主党全国代表大会でもっとはっきりと、自分がヒラリーを支持する理由は、ヒラリーが自分の政治遺産の「最も良い後継者」だからだと述べました。ヒラリーは更にはっきりとオバマの政治遺産を継承すると述べました。その意味はオバマの路線を継続して前進する意思は変えないと言いました。

     オバマはアフリカ系、ラテン系、貧困改装、ポリティカル・コレクトネスを堅持する左派系インテリ、メディアのエリート、同性愛者、両性愛者、女性の権利グループらの力強い支持の下に大統領になりました。しかし、彼の執政期間の8年間に小ブッシュの最後の数年を加えて、「失われた10年」と米国では呼ばれています。そのメルクマールは二つあって、
     一つは生活保護に頼る貧乏人がますます増えたことです。米国連邦政府は2010年、貧困ラインの定義を「個人の年間収入が11.139ドル以下か、または一家4人の家庭収入が22.314ドル以下」としました。この後数年、ブルッキングズ研究所の調べでは、米国の貧困階層人口は過去10年で1230万人増え、総数で4620万人、総人口の15%になり、だいたい6人に一人が貧困者でこれは52年来の最高です。

     二つには中産階級の減少です。20世紀の50年代初め、中産階級は全米人口の60%前後でした。それが2013年には既に総人口の半数を割り込みました。4月22日、米国労働統計局の出した資料は更に警告的で「2015年、全米の8141家庭で、一家で誰も働いていない家庭が1606万あり、19.7%」、つまり米国の5家庭に一つは誰も働いていない家庭があるのです。歴史学者のBarrington Mooreは、「中産階級がなければ、民主はない」とはっきり述べています。

     オバマの政治遺産には同性愛結婚の合法化と同性愛の配偶者の移民を認め、数百人の麻薬関係の死刑囚の恩赦、さらには奇妙キテレツな「ジェンダーニュートラル(性別不問)トイレ通達」があります。これは全国の公立学校で、自分が属するとおもう性別によって男女トイレのどちらにも入れる、というもので、男性が自分は女性だと思えば女性用解いてに入れるというものです。(オバマ自身の二人の娘は私立学校に通っています)。同性愛者、麻薬中毒者、幼少時の個人的な経験から性的な異常心理者に対しての同情は彼の個人的経歴からです。2016年10月中旬、米国の有線テレビ番組での大衆との対話番組で、オバマは若い頃に犯した間違い、例えば麻薬を吸ったり、喧嘩をしたり、同性愛を語り、それでも最後に良い大統領になれたので、有色人種の青年にまともな道を歩ませたいのだ、と語りました。

     こうした遺産をヒラリーは全部受け継ぐというのです。ウォール街企業の内部での講演では国境を開放すると述べ、公開の講演でも自分が大統領になったら1年以内にオバマ時代の10倍の難民を引き受けるといい、ゴールドマン・サックスの内部講演では中産階級に対する大増税を行うと言いました。

    オバマの外交上の「政治遺産」

     外交政策を「オバマイズム」で概観しましょう。今年4月、米国の正論雑誌「アトランティック・マンスリー」の記者・ジェフリー・ゴールドバーグの取材に対してオバマは、中国政策、中東政策、アジア復帰戦略、キューバ国交回復、英米関係などの外交政策を答えて「オバマ主義」と総称しました。
     
     「オバマ主義」の肝心カナメな点は中米関係で、その確信となる内容は「中国の勃興より、中国の衰弱の方が恐ろしい」というものです。中東政策は現在、批判されており、欧州連合や世界の評価は、米国のシリアへの関わりが優柔不断だったために、今日の危機と欧州の難民危機を招いたといわれています。アジア復帰戦略も同様で、オバマにとって我慢ならないのはこの戦略の最重要な盟友のフィリピンが中国に寝返ったことで、10月20日首脳部が団体で中国訪問したのち、中国外交部は中国とフィリピンの関係は完全に回復した、と発表しました。フィリピンの突然の転向は、疑う余地の全くないまでにオバマが主導したアジア太平洋外交の重大な挫折であり、彼の価値観外交が中国の実利外交に敗北したということでした。

     オバマの太平洋復帰の経済的支柱のTPP(環太平洋経済協力会議)は米国国会でストップをかけられています。選挙期間中、オバマの指示を必要としているヒラリーですら、TPPを支持していません。米国にとっての「太平洋復帰」の未来図は、英国のフィナンシャルタイムズが9月に「オバマ大統領の直面する悲惨な将来;彼のシンボリックなアジア復帰外交政策は太平洋の底に沈没」と予測しています。

     西側国家、とりわけ欧州連合は今、幾重にもなる困難に直面しています。難民の生み出す各種の刑事犯罪とテロ攻撃は、国民に安全が失われたと感じさせていますし、金融危機も一触即発ですから、米国が引き続きグローバルな指導責任をになってくれるようにとどの国も期待しています。10月に世界銀行、IMF、WTOがワシントンで年次総会を開き、米国大統領選挙と英国のEU脱退が生み出す政治的危険性と不確実性がグローバル経済が直面する最大の問題だとしました。ドイツの財務大臣のWolfgang Schäubleは席上「英国の脱欧州連合の国民投票結果や米国の狂ったような反グローバリズムの勢いは共同の導火線を持っている。それはますます多くの人々がエリートや、政治経済界のリーダー達に不信感を持つようになっているということだ」と語りました。

     これらの国々は昔から知り合いのヒラリーが当選することを願っています。しかし彼らのヒラリーに対する懸念は、民主党内でサンダースの支持者を取り込むために、自分のスローガンの一部を調整したことです。例えば、選挙民に職場を取り戻すといった約束です。これはエリートからみるとグローバリズムに反することです。

     

    オバマの他の遺産

    その他の解決できないオバマの政治遺産を列挙します。

    ⑴ 米国国債の総額は19.7兆米ドルです。オバマの2009年から2016年までの間に、連邦政府の負債残高は8.26兆米ドル、74%増えました。オバマがホワイトハウス入りした時、米国国債のGDPに占める割合は73%でしたが、ホワイトハウスを去る時には105%になっています。

    ⑵ 資本主義ではなく社会主義を信仰するミレニアム世代

     2016年の大統領選挙で社会主義を信じるサンダース候補が大量の青年学生の熱狂的支持を受け、米国社会ではこれを「左翼ポピュリズム」と呼び、トランプの「右翼ポピュリズム」とともに米国の二つの政治的風景とし、西側メディアは「米国の反グローバリズムの熱狂」の二つの代表的な力だと見ました。右翼ポピュリズムの主体は、左派メディアからは「貧しい農民、給料の少ないブルーカラー層、退職者…一生米国から出たことのない連中で、おバカで貧乏で低級な層とされました。左翼ポピュリズムの主体はミレニアム世代の若者で学生です。青年は国の未来ですから、米国社会も右翼ポピュリズムに対するような軽蔑はせず、米国の「The Victims of Communism Memorial Foundation(共産主義の犠牲者を記念するファンド」は国債市場調査会社の「Yougov」に「米国人の社会主義にたいする態度」をテーマとする調査を依頼し、2000人以上に面接調査させました。その結果、米国の35歳以下の若者のうち53%が現行の経済体制に不満を抱いており、この体制は自分たちに不利であると思っており、社会主義のを容認していました。45%の青年は「社会主義者」を自分たちの大統領に選びたいと答えました。

    ⑶ ますます深まる民族矛盾

     米国国土安全保障省(United States Department of Homeland Security, DHS)の2016年6月17日に公開したデータでは、オバマ政府は2009年から2014年までイスラム教徒を主要な人口とする国々から難民として83.2万人を受け入れました。2015年から、オバマはシリア難民を大量に受け入れ、イスラム教徒の難民は100万を超えているでしょう。ここ数年米国のフロリダ州オーランドのナイトクラブで男が銃を乱射し、51人が死亡した事件、ニューヨーク、ニュージャージー爆弾事件はイスラム教徒移民によるものでした。9月のミネソタ州の州のショッピングモールで起きたナイフでの多数傷害事件もイスラム教徒が犯人で、オバマの祖国のケニアからのイスラム移民でした。オバマ政治の発祥の地のシカゴは今や再び犯罪の街で有名になって一年間に3000件以上の黒人の間での銃撃戦が起こっています。

     イスラム教徒の移民以外にも、オバマは各国からの貧しい移民への門戸を大きく広げており、自国の貧困層より高い福祉救済措置を与えています。今年5月9日にワシントンのシンクタンク「移民研究センター」(CIS)は移民にかかった費用の最新レポートで、無許可移民家庭は毎年連邦の福祉制度で平均5692ドルを受け取り、家長がアメリカ生まれの家庭の4431米ドルより多いことを指摘しました。さらに一番、福祉で恵まれているのはメキシコと中米からの移民家庭で、毎年平均8251ドルで、米国生まれ米国育ちの米国人家庭の86%より多いとも指摘しました。

     米国を支持していた中国系人士の傑物であるリー・クワンユー(*シンガポール元首相)はこれに対して早くから予言していました。「リー・クアンユー、世界を語る」で、民族構造の変化だけが米国の未来の命運にかかわる唯一の危険だと指摘して、米国の奇跡的伝統を生んだ白人が今や少数になっており(2040年には4割に)、その他の民族が増えてくるに従って米国的価値観と米国の民族的特性は変わるだろう、という彼の予言はいままさにテストされているわけです。

    ⑷ 深刻な分裂にある米国社会

     共和党選挙民と民主党選挙民は利益の違いから先鋭な対立をみせており、その矛盾の激しさはかつてないものです。これは民主党のはじめからまちがった選挙政策とも関連しており、最初から彼らはトランプの品格の下品さや汚さをその支持者の頭上にも広げて、トランプ支持者はみな高等教育を受けたことのない白人の人種差別主義者であり、さらに地方によってはトランプ支持者の車や家の窓を壊すなどの暴力的攻撃まで行われ、トランプ支持者はそうした言葉や暴力による攻撃を避けるために、初めから態度表明を表にあらわさなくなったのでした。そして最後にはベテラン政治家であるヒラリー本人までが「トランプ支持者はみな気の毒な連中」とまで公言して、共和党の選挙民を侮辱しました。この種のライバルへの攻撃をその支持者にまで向けるのは米国では極めて珍しいことです。そしてトランプ支持者(中間派も含めて)の少なからぬ人々がヒラリーを支持しなくなったり、憎むようにさえなりました。選挙後半には、ウィキリークスが不断にヒラリーの各種の事実を暴露し、アメリカの新聞も真偽を判別し難いトランプに関する数十年前のセクハラなど有る事無い事を報道し続けました。しかし、米国政治は既に、「何を言われても信じるものは信じるし、信じないものは信じない」ムードに突入しており、双方の選挙民は動きませんでした。

     レーガンと老ブッシュの時代に大統領の演説原稿を書いていたJohn Podhoretzは最近、コラムで「両党の支持者はどんどん相手側を嫌うようになって、コミュニケーション余地がなくなってしまい、悪口の泥沼合戦だが、これはワシントンをますますダメにしてしまい、どちらも自分の認識だけが真実だと思うようになっている。この双方の間の信頼の無い対抗心が米国社会に芽生え、選挙が激化することは巨額債務の他にもうひとつの社会的危機になる」と述べています。

     誰が勝とうと2016年の大統領選挙の結果は、米国にとってみれば敗者ということです。こうした見方は既に少なからぬウォッチャーたちのコンセンサスになっています。次の大統領は解決すべき三つの大きな任務があります。一つには内部分裂の回復。二つ目は巨大な財政赤字の解決。三つ目は対外的にどのような役割を演じるか。ヒラリーだろうがトランプだろうが、どちらもこのような重責に耐えることはできないでしょう。両者の違いといえば、曹長青(*中国生まれで米国籍の政治評論家)が述べたように「トランプが大統領になれば、損害は米国のイメージ低下だけ。彼の政策の基本はやはり保守主義で米国人民に利する。しかしヒラリーのペテン(メール事件、リビア米国大使館襲撃事件、クリントン財団問題)は、その人品はトランプに比べて良いとは決して言えない。トランプは表面的に一目瞭然で、強烈に人に反感を与えるが、ヒラリーは内側にかくれてわからないが本質的にはもっとひどい。特にその左翼的な社会主義的政策は米国人に損害を与えて、米国の立国の基本を危うくする」と述べています。

    拙訳御免。
    原文は;欧巴马留下了甚么「政治遗产」2016年11月5日  

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