• ★文在寅の民意基盤について★  2017年5月16日

    by  • May 16, 2017 • 日文文章 • 0 Comments

     民主選挙の最大の長所は、民意の支持のない人物が権力の座に就くことがないことです。しかし、民意は極めて移ろいやすいもので、どんな政治的結果がそこから生まれても、民意の責任を追及することは出来ません。ここでは文在寅(ムン・ジェイン)大統領の韓国が「北朝鮮核問題四カ国演義」にどのような役割を果たすか分析します。

     

    文在寅の当選は民意が政党を変えたかったからだけではない

     「北のシンパ」文在寅が当選で、少なからぬ論評は、これは朴槿恵前大統領の腐敗と、保守党の対応の失敗が、韓国人が強烈に政権政党の交代を求め、政治的な主張が二の次になったが故に起きた、としています。これは一見、もっともらしいのですが、しかし、韓国民衆が「太陽政策」に偏った好みを持っているようになったのは、もうずっと前からのことだ、という点を見逃しています。まさに、「川に3尺の氷が張るのは、1日だけの寒さによるものではない」です。

     今年、3月の朝鮮半島には暗雲が深く立ち込め、トランプ大統領は物騒な放談を続け、少なからぬ人々が朝鮮半島での戦争の危機が間近だと思いました。当時、私は、「ボイス・オブ・アメリカ」(VOA)に「朝鮮核問題の脅威の背後にある四カ国演義」を書いて、米国は、北朝鮮というこのゴロツキ国家に対応するに当たっては、三つの制限を受ける、と指摘しておきました。その三つのうち、「米国が、北朝鮮に対して自分から、軍事攻撃をするに当たっての大きな危険」と、「米国の財力は終わりのない戦争に対して維持出来ない」よりも重要だとして、首位にあげたのが、「韓国の北朝鮮に対する態度」です。たとえ、米国と中国がなんとかやっとのことで北朝鮮に対する態度を一致させたところで、韓国人の、親北朝鮮感情にはいささかも影響を与えることが出来ないのです。5月の韓国大統領選挙の前夜、5人の主要候補者がテレビ討論会で論議を交わしました。そのうち、THAADミサイル(終末高高度防衛ミサイル)システムを巡る、北との安全保障問題は、回答に苦労させられる問題でしたが、しかし、支持するにせよ反対するにせよ、誰もがはっきりと、北朝鮮を敵とすることは拒絶したのです。

     今、左派的色彩の極めて強い文在寅が当選したことで、中米北韓の四カ国関係の現状は、北朝鮮の有利な方向に変わりました。

     

    文在寅の「太陽政策」Ver3・0版;親中・親北・嫌米

     韓国の政界で、文在寅の親北朝鮮は大変有名です。これは彼が、「脱北者の息子」だから、北朝鮮に「血は水よりも濃い」絆を持っていて、かつて、朝鮮統一後、平和が実現したら母親を連れて生まれ故郷を訪ねたいと語ったことがある、とかいうだけではありません。彼の言論と、これまでの政治的な主張が、親北傾向なのです。文在寅は「太陽政策」を心から支持しており、南北朝鮮対話、経済協力推進を主張して来ました。2017年の大統領選挙においては、他の国がひたすら制裁と圧力を北朝鮮にかける政策を、極めて強く批判し、「韓国は北朝鮮人民を擁護することによってのみ、平和統一が可能なのだ。それを実現するためには、必ずや金正恩を彼らのリーダーで、我らの対話の相手と認めなければならない」と言っていました。そして、文在寅は、制裁の目標は必ずや、北朝鮮を対話に引き戻すために行われるべきだとも強調しました。

     つまり、文在寅の北朝鮮への姿勢には、強硬な主張はほとんど見られません。南北文化交流をより増やし、閉鎖された「開城工業区」を再開を望んでいます。韓国の学者の金容沃は、選挙前のインタビューで文在寅に、「本当に朝鮮難民の子供として、もし大統領になったら米国より先に、北朝鮮を訪問するのか? との質問に、いささかのためらいもなく、「先に北朝鮮に行く」と即答しました。

     米国は、文在寅の眼中には「友人」ではありません。文在寅は一度ならず、「米国にノーという」と強調しています。彼の選挙顧問の金元雄は5月9日に米中国系のメディアの「多維ネット」(DuoWei News)の取材に対して、露骨に「米国は韓国の友邦ではない。朝鮮半島の南北分裂を終わらせようと主張する国家こそが友邦だ」と言いました。この数年の状況では、ただ北朝鮮だけが積極的に南北統一を呼びかけています。もし、金元雄の話が、北朝鮮こそが韓国の友邦だというのであれば、朝鮮戦争で犠牲となった数十万の米軍将士と国連軍の軍人は、死んでも浮かばれないことでしょう。第二次大戦後の米国が行なった戦争への評価はどれもあまり芳しくないのですが、それでも朝鮮戦争は、自由のための戦いだったと認められています。米国のワシントン戦争記念碑の銘文には、「自由は無料では手に入らない」( Freedom is not free)、「わが国家の息子や娘たちに栄えあれ。彼らは呼びかけに応じ、見たこともない国の防衛のために、見ず知らずの人民のために戦いに赴いたのだ」と書かれています。(Our nation honors her sons and daughters, who answered the call to defend a country they never knew, and a people they never met)。

     かくて、文在寅は、米国の「TIME」雑誌のアジア版の表紙に選ばれ、「橋をかける人物」とされ、「朝鮮半島の危機を解決する人物」とされました。今の分析では、一致して、「文在寅は親北・親中・非米で、今後の5年間のアジア情勢に極めて大きな影響を与える人物」とされています。

    中国——とっくにクライシス、なのに崩壊しない“紅い帝国
      

    文在寅の当選は、その主張が民意に合致したから

     少なからぬ論評が、韓国民衆は、保守政権の政治実績に不満で、改革を渇望していた、しかし、改革を強調した文在寅を選択したのはわずか4割だったとして、「文在寅の当選の背景には潜在的な民意の戸惑いがある」としています。この説明は、実は半分しか正しくありません。なぜなら、この4割とは、選挙民の総数を指すからで、投票率は全体の選挙民の76%で、選挙民の4割ということは、投票した選挙民の半分を超えているからです。普通言われている「6割近くの韓国人は、文在寅を大統領と認めていないか、文在寅が韓国の勧告を変えるとするマニフェストを望んでいない」というのは、投票しなかった人々を、全て文在寅不支持の側に数えているのです。

     選挙結果がはっきりした今、上記の問題を論議しても意味はありません。検討に値するのは、「北朝鮮が、韓国の安全を何度も挑発して脅かし、中国はTHAADミサイル問題で韓国を罰しているわけで、理屈から言えば、韓国は直接北朝鮮と対峙しており、韓国人の危機感は一番強烈なはずなのに、それでも韓国の選挙民は、北朝鮮と中国に比較的温和な姿勢、どころか親密な感情を持つ指導者を選んだのか? ということでしょう。

     これは、文在寅が選挙中にアピールした、国内社会経済政策と、「太陽政策Ver3・0」(Ver1・0は金大中、Ver2・0は盧泰愚)が効果を発揮した、とみるべきでしょう。韓国はかつて、経済離陸の時期に、アジアの「4匹の竜」になりました。その時の豊かな日々は、韓国人民の心にいつまでも刻み込まれた記憶であり、韓国経済社会の常態であるべきだと思われています。しかし、近年、中国の経済発展や、韓国経済の発展の速度低下によって、青年の失業は深刻で、韓国人の生活水準も全体的に下がっています。ですから、文在寅が納税者のお金で、80万人の公務員の就職機会を作り出す、という提案を、社会は熱烈に歓迎したのでした。

     文在寅の「太陽政策」も同様に大歓迎されました。金大中、盧泰愚が遂行した「太陽政策」は、あからさまに言えば、北朝鮮に対する「屈服政策」で、お金で安全を買うという、第二次大戦時期の英国首相・チェンバレンがナチスに対して行なった「宥和政策」と本質的には同じものです。国際社会、とりわけ韓国が、北朝鮮のなすがままに核兵器開発を許し、今日の朝鮮半島の核兵器危機を生み出しました。この点について、今日の韓国人はみな、認めたがりません。文在寅は、左派政権が何度も深刻な失敗を繰り返したにも関わらず、北朝鮮に対して「太陽政策」を取り続ける姿勢を堅持しています。これはまさに、韓国人に普遍的に存在する、戦を恐れ、平和を願う気持ちにぴったりです。これはすでに、「朝鮮核問題の脅威の背後にある四カ国演義」に書いたので繰り返しません。

     韓国の態度は、北朝鮮の核危機解決のキーですが、文在寅の当選によって中米両国の暫定的な共通認識に変化をもたらすかもしれません。しかし、金正恩の行動方式からすると、文在寅が「太陽政策」を盧泰愚のVer2・0から3・0にしたところで、役に立つとは限りません。北京で「一帯一路」のサミットが開幕した時に、北朝鮮はミサイルを発射してみせ、一部の国際メディアは「金正恩が文在寅に送った挨拶がわり」と評しました。

     民意と政治の関係は、宋時代の「詠春風詩」ではありませんが、「民意は時によろしく、時にあしく。民意なければ花開かず、開いても風によって散る」です。民意は、基本的に、目先の利益を中心に考えます(悪く言えば、近視眼的です)。しかし、集団による意思表示ですから、民意を責めるわけにはいきません。例えば、ドイツ人は現在、安全に関して文句たらたらですが、メルケルの難民政策の民意の基礎は自分たちが作ったということには思い至りません。2017年、フランスのマクロン、韓国の文在寅が大統領になり、左向きの政治が続きますが、両国とも更に深刻な問題に直面するだろうと予見する人は少なくありません。しかし、両国の選挙民が、自分たちの責任を責めるようなことにはきっとならないでしょう。文在寅の運が、これまで歴代の青瓦台の主人たちよりちょっとはマシなものになるかどうか、実際、なんとも言えませんでしょう。(終わり)

     拙訳御免。
     原文は;文在寅青瓦台之路的民意基础

    当Webサイト連載のブログ集改訳;日中両文収録 
    「中国2015 何清漣」Amazon電子ブック発売中。「中国2016 何清漣」近刊予定。

     何清漣さんの「中国2015」表紙

    Share Button

    Leave a Reply

    Your email address will not be published. Required fields are marked *