• ★中国の海外メディア浸透 — ボツになった私の研究報告★ 2018年3月20日

    by  • March 21, 2018 • 日文文章 • 0 Comments

     先ごろ、北京で開かれてた全国人民代表大会(全人代)での経済閣僚の「ぶら下がり会見」の様子を国営中央テレビが生中継した際、「紅色上着の女性記者」の張慧君のヨイショ質問ぶりにウンザリした青い上着の女性記者が、白目をむいている姿がとらえられ、話題になりました。この「紅色上着の女性記者」が所属すると称した「全米テレビ」(American Multimedia Television USA AMTV)は、華人の富豪の秦嘉豪(Yong Qin,Jason Quin)が投資・創設した対外宣伝メディアだったので、中共の対外大宣伝という政治的テーマが話題になりました。私は、自分が2012年に書き上げた「中国の対外大宣伝」の研究レポートが、お蔵入りになってしまった原因を思い出してしまい、なんだか書いてスッキリせずにいられなくなりました。


     

    ★中国の大対外宣伝媒体はとっくにタイムズスクエアに

     中国政府は、2009年に450億人民元もの巨費を費やして、全世界に「対外大宣伝」プランを実施することを決めました。それによって、西側メディアと「発言権」の争奪戦をやろうというのでした。当時、私はこれは研究に値する問題だと思って、あるNGOに申請し、研究資金を得ることが出来たので、2011年に報告を書き上げました。

     当時、中国の対外宣伝英文メディア(アフリカを除く)は、始まったばかりで、中でも目を引いたのは中国政府の官製通信社・新華社の北米総局がタイムズスクエアに登場し、ロイターやニューヨーク・タイムズ、APなど、世界的な報道機関のお隣さんになったこと、「人民日報」傘下の人民ネット(People’s Daily Online)がマンハッタンのエンパイアステートビル30階に事務所を構えたことでした。

     こうした目立った攻勢は、米国メディア業界に、「とうとう中国がやって来た〜!」感を与えました。Center on U.S.-China RelationsのOrville Schellは、「我らのメディア王国がヒマラヤの氷河の様に溶けているこの時期に、北京はまさに力を広げ、出来るだけ世界各地のメディア中心地の一角を占めようとしている。だから、タイムズスクエアという象徴的な場所に出てくるんだ。これは連中の計画の一部だ」と語りました。

     中国は、アフリカで英文メディアを作ったことがあります。ただ、アフリカの上層・中層の人々は、イギリスのBBCやフィナンシャル・タイムズなどの方を好んで、底辺層にしか人気がありませんした。昔からある「中国画報」は、毎年無料でアメリカの議員のところに送られてきましたが、大部分は封も切られずそのままゴミ箱行きでした。マスコミ学の法則は、「情報伝搬は情報到達ではない。社会底辺層が喜ぶメディアは、一国の政治、経済に影響を与えない」です。ですから、中国の対外宣伝は、2009年以後、中国語メディアで陣地を奪えただけで、英文メディアではさっぱりでした。

      

    ★お蔵入りになった研究報告


     大規模対外宣伝の重点が中国語メディアだったので、私の研究もそこを重点にして、米国における中国国外中国語メディアや、台湾、香港を主に調べました。当然、アフリカにおける大宣伝も。資料的には、できるだけ関連する中国語と英語の資料をあたりました。前書きと後書きを除いて中身は5章で、目次は以下の通りです。

     前書き 中国の大規模対外宣伝と文化の壁
     第1章 中共の対外宣伝の歴史
     第2章 中共の大規模宣伝の「中国化戦略」
     第3章 世界の中国語メディアの政治版図 — 北京の対外中国語メディアコントロール
     第4章 香港返還後の、メディアの中共化
     第5章 中共政府の台湾メディアへの紅色浸透
     後書き 中国のイメージ過敏症と「大宣伝」の効果

     中国政府は、ずっと中国人社会、中国語学校、中国語メディアを「海外統一戦線の三つの宝」として挙げてきました。多くの海外中国人の子女は、中国語学校で勉強して、中共の影響を受けます。孔子学院がアメリカ各地に浸透を果たしてからも、この中華学校への浸透努力は続けられました。私は「世界华文媒体的政治版图」(世界の中国語メディアの政治版図 )で、中国政府の対外中国語メディアへの浸透や、間接的支配、直接支配を書きました。その他は各章のタイトル通りの内容でした。

     このレポートは、世の注意を喚起しようと思って書いたのでした。今後、いわゆる外国メディアに、少なからぬ中国政府の投資援助を受けたメディアが登場して、それらの最高目標は、国際社会における発言権の奪取にあり、最低限の目標は、中国人の洗脳である、と。中国人が様々な海外メディアの報道で、中国の実績が褒めちぎられているのを見て、ひょっとすると本当に、「杭州を汴州(べんしゅう)とみまごう」になりかねないとおもったのです。(「いい気になってえらい目に遭う」の意。汴州は河南省の北宋の都・開封。杭州は南宋の都。北宋が滅んで杭州に逃げた南宋王朝が、連日、浮かれ騒ぎ、「杭州が汴州みたいだ」と言われ、結局滅びた故事による。)

     しかし、この8万字におよぶ研究レポートは出版されませんでした。資金を出してくれたNGOのトップは、大変熱心だったのです。彼は、香港の部分を、香港の研究部門の意見を聞いてから出版すると言っていたので、私も同意しました。しかし、その結果まさか出版されないとは思いませんでした。香港の研究部門とやらの意見がどうだったのかは知りません。のちになって伝え聞くところによると、発表すると香港のメディアから憎まれて、自分たちが孤立しかねない、ということだったようです。

      

    ★レポートはいろいろな形で伝わりました

     しかし、中共が対外向けの大宣伝を、ますます大々的にやるようになって、時折、様々なニュースになりました。そうした時には、私はこの報告の一部を、そうした事件との関連で紹介してきました。例えば、《揭开神秘的“大外宣”计划之面纱》、《世界华文媒体的政治版图 ——北京对海外华文媒体的控制》、《晾晾多家港媒老板的政治面目》、《海外华文媒体缘何心向北京?》、《红色资本渗透与台湾媒体“靠岸”》、《同床异梦的“世界媒体峰会”》などです。

     こうした文章によって、多くの人が、私がこの分野に詳しいことを知って、何かあると意見を求めてきました。例えば、ボイス・オブ・アメリカ(VOA)の中国部は、2011年に廃止されそうになった時に、このレポートの初稿を国会説得の資料にしたいからと借りに来ました。2017年2月に龔小夏女史がVOA中国部主任に復帰して、やる気満々だった時にも、この資料を借りにきましたので、同意して貸しました。その内容の主な部分は議会の関連議員のルビオ上院議員に大変好評だったそうで、以来彼は、中国の報道の自由の問題に関心を寄せるようになったそうです。2018年2月、元ワシントンポスト北京駐在記者の潘文(John Pomfret)が、手紙で中国の国外大宣伝についてインタビューしたいと言って来たので、彼は英語で記事を書くのに適材なのでお役に立てばと、全文を提供しました。

    ★中共の対外大宣伝の猛攻

     

     私の研究報告がお蔵入りさせられている間にも、中国の対外大宣伝はものすごい勢いで発展していきました。小さいメディアは併合します。例えば、2009年の俏佳人传媒の米国国際衛星テレビ買収と、国際中国電子視聯播網への解明、松聯国際伝媒と天星伝媒による米国中国語テレビチャンネル「天下衛視」買収などはたいしたことはありません。しかし一部の大型買収、例えば2015年のアリババによる英文紙「南華早報」の買収は、名声ある同紙が、中共の喉舌になってしまう影響は、無視できません。

     2016年、香港記者協会は、「一国両魘 — 香港メディアは深くイデオロギー戦争」をテーマに、「2016年言論自由年報」を出しました。報告では、香港の「一国二制度」は北京のイデオロギーの締め付けで、深刻な状態になっていることを表明しています。年報編集者で、香港記者協会前主席の麦燕庭は、BBCの取材に答えて「一国二制度は、今や一国両魘(2悪夢)になった」と言いました。香港の26主流メディアの31%が、中国政府の直接コントロール下にあるか、中国資本が大多数を占め、そうしたやりかたで言論の自由をコントロールしており、香港人は大変その影響が、言論、出版、報道の自由に及ぶのを心配している」と。

     今年1月には、米国中国系ビジネスマンのトップと言われる黄馨祥が、5億ドルの高値で「ロサンゼルス・タイムズ」とその傘下の「サンディエゴ・タイムズ」を買収しました。中国メディアは嬉々としてこれを報道しました。黄馨祥が中共と関係があるかどうかというデータは無いのですが、しかしソーシャル・メディア上では、ロサンゼルス・タイムズが中国の外国宣伝メディアになったという声が圧倒的でした。

     中国側は、ロサンゼルス・タイムズを長年買収したいと願っていました。米国第二のマスコミ・グループであるトリビューン・コーポレーショングが2008年に破産申告したというニュースが流れた後、中国企業ではこれを買収して、中国の声を世界に伝えようとしました。当時、「人民日報」では、米国に長年いた上級編集者の丁剛は「ロサンゼルスタイムズは長い間独自の方針を持ってやってきた伝統があり、社長でもその編集方針に口出しできない。だから、本当に中国企業が買収に成功しても、それは変わらないだろう。だからネット友のいうような『世界に中国の声を』にはならない」と書きました。

     これは一見もっともらしいのですが、本当の理由は言っていません。本当は、中国側が直接、買収しようとしたならば、拒否されかねなかったのです。2010年、米国のニューズ・ウィークが、中国南方系列の「南方周末」を買収しようとして拒否されました。南方の編集長の向熹は、買収失敗の原因は「価格の問題ではなく、国籍の問題だったろう」と述べました。ロサンゼルス・タイムズもその米国にあたえる政治的な影響を考えると、迂回買収した可能性があります。

     中国の対外大宣伝がガンガン攻めていることは、とっくに「部屋の中のゾウさん」で、皆、見て見ぬ振りをしているのです。2014年の全国人大の期間、オーストラリアのGlobal CAMG Media Groupの女性記者Andrea Yuは、何度も質問するチャンスを掴んで、「質問姉さん」の名前が流行り、結局は「偽メディア」に所属していることがバレてしまいました。今回の2018年の全国人大では、青色スーツの女性記者が白目をむいたことで、中国内外の世論が憲法修正問題に不満だったことも手伝って、とうとう世界に知られてしまうことになりました。(終)

     元記事は;(台湾上报,2018年3月20日,http://www.upmedia.mg/news_info.php?SerialNo=37186)筆者の中国語サイトに中文記事

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