• 米中貿易戦争の「硬」と「軟」2018年4月5日

    by  • April 7, 2018 • 日文文章 • 0 Comments

     トランプ米国大統領が、3月22日に、中国製品に制裁関税を課す大統領覚書に署名し、貿易戦争の「戦況」は、ほとんど毎日のように変わっております。あれから十数日を経た今は、「硬」から「柔」に代わり、双方が交渉のテーブルに着いています。
     これは、中国人の好きな武侠小説風に言えば、「トランプは”大力金剛掌”で急所を直撃せんとすれば、中国側は、太極拳の”雲手”の技でこれに対抗し、柔をもって剛を制さんとす…」みたいな話です。お客はこういうのが大好きで、とりわけ、中共政権が早いこと倒れて欲しいと願う人々は、この中・米貿易戦争の結果が「屍山血河」を築き、最後には「新冷戦」までエスカレートする事を期待しています。

     しかし、所詮、願望は願望に過ぎず、現実ではありません。まず、ここ数日の戦況を見てみましょう。

     トランプの覚書が狙ったのは、「メイド・イン・チャイナ2025」((訳注;「中国製造2025」は2015年5月に、李克强が提出した中国を製造強国にするための10年計画)が決めた、10の戦略的領域)です。これは、

    次世代情報技術
    高度なデジタル制御の工作機械とロボット
    航空・宇宙設備
    海洋エンジニアリング設備とハイテク船舶
    先進的な軌道交通設備
    省エネ・新エネ車
    電力設備
    農業機械
    新材料
    生物薬品・高性能医療機器
    などで、中国製品の毎年の輸入総額は600億米ドル(6兆3000億円)になります。

     トランプは、なぜ、ここをターゲットにして切り込んだのでしょう?それは、こうAIだの、デジタル制御だの、量子コンピューターといった分野は皆、アメリカと競争になる、米国の国家と軍事の安全に関わる分野だからです。中国の知的財産権方面での窃盗行為の久しき悪名ぶり加えて、それで自国の生産力を生み出していることを思えば、米国は中国資本が米国に入り込んでくることには、頑張ってこれを阻止せざるを得ません。過去の何年かの間に、中国は米国に長く深く入り込み、知的財産権など、自分のポケットから取り出すのと同様に、米国が長年苦労して研究開発した成果を、軽々とパクリ、今後数年間に生産能力として、製造業の振興に役立てようとしています。

     これに対して、中国政府は、ホワイトハウスに対して硬軟両用の構えです。「軟」には、一番遅い場合だと5月に、外資金融機関が、中国国内の証券会社で株券で多数派になることを許す新法規や、米国から、これまで韓国や台湾製を購入していた半導体をもっと買うようにして、貿易差額を減らす、米国製造の車に対する関税を低くするなどがあります。

     「硬」の方は、中国が4月1日に宣言した、128種類の米国からの輸入品に対する関税を上げることによって、米国が3月初めに中国の鋼鉄とアルミ製品に対する税金値上げに反撃する措置です。そのうち、米国のアルミスクラップと冷凍豚肉は25%の特別税を付加されます。その他数種類の、干し果物、生果物、ナッツ類、人参とぶどう酒に15%の関税アップがあります。これは鉄筋関税の15%に対抗するものです。

     同時に、米中双方の官僚レベルでは、米中貿易関連の折衝が進行中で、懲罰措置を話し合っています。4月3日と4日に、中・米はそれぞれ相手方に対して、1333項目と106項目の商品についての関税値上げのリストを手渡しました。中国側は、米国と同じ強さで同規模の対等な報復措置をとる、と言っています。

     米中貿易戦争の趨勢を占うには、幾つもの分野が関わってきます。そうした問題をまずはっきりさせておけば、その結果の判定はむずかしくありません。

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     ⑴ トランプの貿易戦争は誰のために?

     トランプ大統領は、覚書に署名した時の声明で、米国の対中国貿易の赤字を縮小するという、自分の選挙公約を実現するためだと強調しました。いわゆる「貿易赤字」というのは、輸出と輸入の差です。2017年の米中間の貿易赤字は、米国側の3750億ドルで、これが大変気に入らないわけです。

     では、トランプの声明がこんなにはっきりしているのに、なぜ、政治目的があると言われるのでしょう?
     これは、世界の大統領でもある米国大統領は、いかなる事情があっても、まず自国の利益より他の国々の利益を考えなければならない、それが自国国民への責任だ、という思われているからです。ですから、もし米国大統領が、自国の国益を優先させるようなことが起きたら、世界はこれを批判しなければならないのです。米国大統領は世界の大統領ですから、全世界の利益を優先すべきなのに、自国の利益しか考えないのは、米国大統領にふさわしくない、というわけです。

     ブッシュ政権もそう振る舞わざるを得ませんでした。オバマ大統領に至っては自分から進んで世界のリーダーの役割を買って出て、米国国民は不満に思ったわけです。

     米国の納税者のお金で、他国を満足させるようなことは、もっと減らして欲しかった米国人は、この点について、不満をつのらせてきました。2016年5月のピュー・リサーチセンターのアンケートでは、57%の米国人は、自国政府が他国のあれこれにかまけず、自分たちの問題を解決すべきだと答えました。

     2016年のトランプの勝利の一因は、まさに彼が、米国を再び偉大にし、米国優先すると約束したことによります。こうした要素は、トランプが、対中貿易戦争の目的が、経済的利益を獲得するためであり、中共政府をやっつけるのが目的ではないことを、決定づけています。

      ですから米国の貿易戦争がエスカレートするかどうかは、その戦いの重点領域がどこにあるかと、米国国内の利益集団の希望によって決まります。現在、貿易戦争に反対している米国ビジネス界の組織には、全米商工会議所(US Chamber of Commerce)、米国小売業連盟(National Retail Federation)、全米製造業協会( National Association of Manufacturers )、情報技術産業協議会(Information Technology Industry Counci)等があります。

     こうした反対の中で、農業協会組織の農場主たちが「自由貿易支持」であることは、注目です。中国は、米国の大豆の最大の顧客で、米国産大豆の3分の1が、中国向けで、輸出総額は140億ドルです。この組織のトップのブライアン・チャー氏は、関税増額に対して、「農民を標的にさせようというもので、報復措置は十分ひどいものになるだろう」と述べています。大豆は、冗談に「米中間の政治性商品」と言われています。というのは、大豆を栽培している州は、民主党と共和党の間で奪い合いになっており、先の大統領選挙ではトランプに投票しており、トランプの地盤とみなされているからです。

    ⑵ 米中貿易戦争で、中国は絶対劣勢か、相対劣勢か

     中国が絶対劣勢にあるとみる人が多いのです。彼らは、米国が開戦に踏み切ったら、中国は仕返しする力がないと思っています。しかし、両国の輸出商品の構造を、一目見ればすぐ、米国は相対的に優位に立つだけだと判明します。

    2017年、米国の対中輸出商品を金額の多さから並べると、航空関係(航空機、エンジン、部品)がトップで、それ以外は大豆、原油、パルプ、原木・材木、液化天然ガスと農産物や原材料が重要な位置を占めています。中国の対米輸出品は、機械と電力設備、伝統的な労働集約的な産業の商品が依然として主力です。家具玩具、繊維製品と原料、非鉄金属や製品が、それぞれ米国の中国からの輸入品の2、3、4位です。

     以上の分析で、中国の対米輸出の伝統的な労働集約型商品は、比較的代替性が強いので、ベトナムや、メキシコ、イタリーなどから同種製品を購入でき、中国製品を米国から締め出せるでしょう。

     中国の航空機はボーイングが中心で、米国からは航空機エンジン、航空部品などメンテナンス製品は必要ですから、米国政府は、、各種の方式で、中国の調達コストを上げたり、ボーイングを修理できなくしたりするために禁輸さえ出来ます。しかし、そんなことをしたら、ボーイングは、取り返しのつかない最高の顧客を失ってしまうでしょう。ボーイングの航空機は25%が対中国輸出用なのですから。米国のビジネス界の巨人たちの中でも、ボーイングは、米国の顔のようなものです。米国政界にも影響力を持っており、米国は航空業界の製品を貿易戦争用のリストに載せることはできません。ですから、これは中国に輸出している製品の上で、米国はただ相対的な優位さを持っているに過ぎないのです。

     米中貿易戦争が始まってから、米国が関税アップをしようとしている中国産品の主なものは、製造業です。中国が報復関税をかけようとするのは、主に農産品と一部の原材料です。今年の1月に、中国側は、もし中国が同様の懲罰的な関税措置を講じれば、米国経済の被る潜在的影響は、中国より低いと見ていました。というのは、米国の経済体は比較的大きく、中国のGDPは、米国の3分の2です、米国が輸出に頼る度合いは比較的小さく、輸出はGDP総量の10%ちょっとで、中国は20%です。
     つまり、中国は貿易戦争の中では、確かに劣勢なのですが、ただ、相対的に劣勢なだけで、米国側はちょっとだけ優勢ということです。

     ⑶ 米中貿易戦争は、新たな冷戦になるか?

     こんな期待をしているのは、中国の政治的なプロテスター(反政府活動家)たちで、ほとんど彼らにとっては、政治的正義(ポリコレ)となっています。しかし、実際には、そんな可能性はまずありません。
     冷戦の生まれた背景は、冷戦の双方の距離が相対的に離れていたからです。当時、ソ連は「鉄のカーテン」を下ろし、対外経済関係は自分たちの側のメンバー国家に限られていました。つまり東欧社会主義国でした。西側諸国は投資もしていませんし、経済貿易関係もありませんでした。だから、西側諸国家は、イデオロギーだろうが利益の上でも、簡単にソ連と縁を切れたのです。

     中国は、対外開放40年、WTO(世界貿易機関)加入17年で、既に世界の170国家と経済貿易、投資関係を結んでいます。2017年、欧州連合(EU)、米国と東南アジア諸国連合(ASEAN)は、中国の三大貿易パートナーです。また中国は、全世界ナンバー2の投資国で、その投資は主に米国やEUなどにされています。

     西側大国の間のこうした「そっちの中にこっちがいて、こっちの中にそっちがいる」という利益のつながりは、冷戦時期のソ連の対外関係とは全く違い、中国は、あっさり鎖国するなどと言えないだけでなく、米国にしたところで、中国に軽々しく経済制裁など出来ないのです。こうした複雑な利益のつながりがある中で、制裁など発動すれば、それこそ自分も大変な被害を被ります。更に重要なことは、米国は私有性経済の民主国家であり、商業利益集団がもし損害を被れば、政府を批判して圧力を加えることができます。一方、中国は専制国家ですから、企業や消費者の利益が、たとえ損なわれたとしても、誰も政府をあえて批判しようとはしません。
     
     トランプが覚書に署名した際に、メディアは各種の悲観的予測を発表しました。今、まだ十数日しか経っていないのですが、今や、米国財務省長官のスティーブ”・マヌーチンと、中国国務院副総理の劉鶴は密接に接触し、双方で貿易会議を重ねています。米国通商代表のロバート・ライトハイザーはメディアのインタビューに対して、中米間では、関税戦争を、協議を通じて回避する望みはある、米国がリストにある品々に課税するまでは30日から60日の期間がある、と答えました。つまり、今年6月以前には、米国も中国の関連商品の関税アップは出来ないのです。

     北京は、中米関係の悪化を望んではいませんし、また、口に出せないお家の事情もあります。習近平は、当面、相対的に平和な国際環境を必要としており、国内の様々な事情に専念したいのです。2012年以来の、強力な「反腐敗キャンペーン」によって、中共権力貴族集団は、習近平に恨みを持っていますし、今年から始まった政府の機構改革で、多くの人々が地位を失いました。攘夷を行うには、まず国内の安定が必要ですし、ワシントンを大人しくさせておかねばなりませんから、貿易戦争も一定の範囲内で収めておく必要がある、というのは北京の努力目標でしょう。(終わり)

    (2018年4月5日台湾のネットでの放送原稿を翻訳)

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