• ★北京の頭痛 — 米国の「民主を買い与える」戦略の変化 2018年4月24日

    by  • April 25, 2018 • Uncategorized, 日文文章 • 0 Comments

     まるでジェットコースターのような、捉えどころのないトランプ大統領のせいで北京は大弱りです。4月の12日には、トランプは、自分の票田でもある米国の農業州で議員と会見した時には、「中国とは最終的には、徴税戦争にはならないだろう」と言っていました。それが、4月17日になると、通信機器大手の中興通訊(ZTE)に対して、米国企業に今後7年間の部品供給禁止の制裁措置を課したのです。(訳注;米商務省は16日、中国通信機器大手の中興通訊がイランや北朝鮮に対し通信機器を違法に輸出していたとして、米企業によるZTEへの製品販売を7年間禁止すると発表した)

    ★北京の反応は遅れた

     中興通訊の生産する機器である携帯電話基地局や端末、無線製品、ネットワークプロダクトは、米国の部品頼りですから、これは、「中興通訊の受ける打撃は、短期的な財政上の損失ではおさまらず、再起が危ぶまれるほどの打撃だ」と専門家は見ています。これによって、北京は、トランプの今回の措置は、中国経済の急所に狙い定めたものだと悟りました。しかし、それでも北京は戸惑っています。というのは、中興通訊の、今回制裁を受けた事情と言うのは、オバマ政権の時にすでに明らかにされたものであって、その際、ホワイトハウスは、大げさに制裁を加えるふりをしただけで終わっていたのでした。それが、トランプ大統領になってから、中興通訊が罰金を納め、罪を認めて服する姿勢を見せていたにもかかわらず、こんな厳しい追い討ちをかけられたのです。(訳注;ZTEは昨年、米国による対イラン制裁措置などに違反し、米国製品や技術をイランに輸出していたことで有罪を認め、8億9000万ドルの罰金支払いや、さらなる違反があった場合に3億ドルの追徴金を支払うことで合意していた)

     その理由は、トランプの対中国戦略において、根本的な変化が生まれていたからです。2017年12月18日、トランプ大統領は、政権として初めて包括的な安全保障政策を示す新たな国家安全保障戦略(NSS)を発表、米国の未来の軍事外交政策、国防費支出、貿易交渉、国際協力についての「新たな、はっきり実行出来るマニュアル」によって、最大の危険と持続的な脅威に対処するとしました。この安全保障戦略報告では、米国とロシア、中国の競争は日増しに激化し、この二つの国々は、米国の影響力、価値観、富に挑戦しており、中国の”経済侵略”には必ず報復するというものでした。
     この安全保障戦略は、米国のこれまでのはっきりしない状態で続いてきた対中国政策を終わらせ、1972年の国交回復以来の最大の変化を示していました。しかし、北京の反応は鈍いもので、その理由のひとつは、中共のハイレベルにおける矛盾の解決にかまけて、省みる暇がなかったことにもよります。

     ★トランプはなぜ「中国のための”民主”を購入」をやめた?

     米国が中国のために「民主を購入していた」などというと、変な感じがするでしょうが、これは確かに米国の対中外交方針だったのです。

     米国の対中外交方針は、 1971年のキッシンジャーの中国訪問と密接な関係があります。中国が「改革開放」を宣言してから、深くキッシンジャーの影響を受け続けた米国務省は、これまでずっと「接触、協力、影響、改変」の8文字方針でやってきました。政府の接触と、両国の経済協力、NGOを各種プロジェクトに送り込み、次第に中国を国際社会に溶け込ませ、責任ある国際社会のメンバーにしよう、というものでした。

     ですから、米国は積極的に中国のWTO(世界貿易機関)加盟を支持し、中国が何度もWTOの規則違反を繰り返すのを我慢し、知的財産権の侵害も容認し続けてきました。(米国の反知的財産権侵害に関する委員会のレポートでは、米国は毎年、2250億ドルから6000億ドルの損害を被っており、その加害者の筆頭は中国だとしています)。これと同時に、米国の在中国NGOは1000以上を数え、環境、人権、慈善など各種の活動を続け、同時に中国政府の管轄する研究機関、大学、NGOなどに援助し続けました。これら一切の支出は、みな中国に”民主を買い与える”費用で、中国政府から見れば、「平和的クーデター」とか「カラー革命」の陰謀ということになります。

     トランプは選挙中から「米国を再び偉大に」と言い続け、当選後はイデオロギー競争は放棄すると述べていました。この主張は民意の支持を得ました。というのは、911事件後、米国人はますます強く、海外の民主主義や民主思想をサポートする重要なプロジェクトはどれも、ちっとも効果がなく、受け入れ国の人民に感謝されるどころか、米国が憎まれると感じていたからです。ピューリサーチセンターの、この5年間の調査ははっきりと、過半数の米国人が、政府は他国のことにこれ以上かまけず、自国のことをやってほしいと望んでいることを示しています。

     トランプは当選後、ただちにオバマ政府時代の米国の対外援助の実績評価を始め、保守派のシンクタンクであるヘリテージ財団のジェームズ ロバーツの研究の結果は

     ;米国や協力国家などによる援助の大多数は、最後にはただ腐敗政権の温存につながった。

     でした。

     この後、ホワイトハウスは、国務省と国際開発庁予算の37%を削減するとして、強力な反対を受けましたが、最終的には、それが通って、2018年度の「公正と民主にかんする支出」は、2016年度の23億ドルから16億ドルに減額されました。これはニューヨーク・タイムズ紙に「トランプ、グローバル民主活動から撤退」と非難され、米国に不利を招くと批判されました。

     ★北京の二つの判断の間違い


     中国は、米国が「カラー革命の輸出はもうしない」という決断を大歓迎し、今後は米国が人権や民主といったテーマで圧力をかけてくるのを気にする必要はない、と考えました。ビジネスマン出身のトランプなら、利益を持って誘えばいいのだ、と。今から見れば、これは二つの点で間違っていました。

     第一の間違いは、北京が、米国の新国家安全戦略に対して偏った見方をしていたことです。トランプの対中国外交は、中国のイデオロギーを変えようとすることを戦略目標とはしていません。それは米国の利益を犠牲にしてまで、中国のために民主を「買い与える」策略は完全に役立たずだったからです。しかし、「買い与える」のがダメだったから、といって、米国は、中国が米国の知的財産権に対する侵害、購入後そっくり剽窃して類似品を作るといった行為をこれ以上我慢するつもりはありませんでした。その理由は中国の安価なパチモン製品は世界中に溢れかえっており、米国企業を破産させ、米国の経済再建に影響を与えるからです。これがトランプが米国の大統領が考えるべき国家の利益なのでした。

     第二には、北京はトランプの利益を考慮する時、もっぱらトランプの私人としての利益を考えたことです。中国では、江沢民、胡錦濤時代、特権紅色家族が国家の利益を吸い上げる丸儲け体制を生み出し、役所の管轄する公の資源を、自分の私物の金庫のように使いました。外資が中国に入ってきても、「郷に入らば、郷に従え」とばかり、各種の手段を通じて、上は政治局常務委員から下は、一般の役人に、自分たちさえ良ければ国家の利益などどうでもよいのだろうとばかり、賄賂を贈りまくったのでした。ですから、中共はてっきりアメリカもそうだと思ったようです。トランプ一家とさえうまくやっていけば、彼らの対中投資で利益を与えておけば、引き続きうまく米国とやっていけると思ったのでした。こうして、トランプの愛娘のイバンカやその夫クシュナーが、中国の重点攻略目標になりました。今年、3月になってトランプがイバンカ夫妻をホワイトハウスから遠ざけられるようになって、中国はやっとこうした交情に基づく投資は無駄なのだと悟ったのです。

     トランプを正しく知ろうと、中国側だって頑張ってはきました。中国共産党第十九回全国代表大会(2017年10月18日から10月24日)以後、いったん退職してまた復活した国家副主席の王岐山は、”知米派”とされています。長年、王岐山は意識的に、米国政界やビジネス界、学界と密接な関係を維持してきました。過去、数ヶ月来、王岐山は米国の前の財務長官ヘンリー・ポールソンや、多くの米国ビジネス界の大物と会談し、「友人との集い」と称しています。19大の前に、王岐山が米国の金融界の大物に、「トランプは偶然の現象なのか?それとも時の勢いなのか?」と尋ねたと言われています。王岐山だけではなく、王滬寧(第19期中央政治局常務委員・中央書記処書記、1988・1989年にはアイオワ大学、カリフォルニア大学バークレー校で客員研究員)も同様の動きをしています。

     しかし、トランプは米国政界ではダークホースです。彼と共和党はもともと関係ありません。2016年の大統領選挙では、彼は共和党を踏み台にして、共和党と民主党のエリートたちやブッシュ、クリントンという大政治一家を両方とも打ち破ってホワイトハウス入りを果たしたのです。中国側が長年にわたって政財界に築いてきた人脈は、大部分が民主、共和両党のエリートたちで、トランプ陣営とは無縁なのです。ですから、彼らはこの大統領が何を考えているのか、さっぱり分からなかったのでした。王岐山はトランプ陣営の大物だったバノンとも会ってはいますが、しかし面会後間も無く、バノンはトランプ陣営を去りました。ましてや、トランプはホワイトハウス入りをして、まだ一年3ヵ月しか経っていないのに、既に辞職したメンバーは25人もいるのですから、トランプ陣営のメンバーだって、自分が明日どこにいるか分からない有様で、中国政府がこうした人々とコネをつけようとしても、彼らだってトランプが一体何を考えているのか、教えようにも教えられません。

      ★北京はトランプの新戦略にどう対応すればよいか


     中国国内には、米中両国が20世紀の60年代〜70年代初めのような冷戦状態になることを心配する向きもあります。しかし、こうした冷戦が起きることはほとんど不可能なのです。

     冷戦というのは双方が相対的に離れているという背景があります。当時、ソ連は「鉄のカーテン」で、対外経済関係といえば、東側諸国との間だけで、西側各国とは、投資も経済関係もありませんでした。ですから西側国家もイデオロギーだろうが利益だろうが、簡単にソ連と縁を切ることが出来たのです。

     中国は対外開放40年、WTO加盟して17年です。すでに世界の170カ国と経済貿易、投資関係を結んでいます。2017年、欧州連合(EU)、米国、アセアンは、中国の三大貿易パートナーです。中国は世界第二の投資国で、投資先は米国やEUなどの国家や地区です。ですから、西側国家との間には、「お前の中に俺がいて、俺の中にお前がいる」とった相互入れ子構造で、冷戦当時のソ連との関係とは全く違います。中国が軽々しく鎖国などと言い出せないばかりか、アメリカにしたところで、中国に簡単に経済制裁など発動できはしないし、国内から各種の利益団体の集団的な反対に出会います。現在、米国の約110の商業団体、業界団体が中米貿易戦争に反対していますし、農業を中心とする各州も大部分が反対の姿勢です。

     しかし、中国はこうした米国内部の反対によって、トランプの対中国新戦略を何とか出来るとは思わない方がよろしい。というのは米国の、異なった様々な声の背後には、中国の不公平貿易のモデルに対して何らかの行動をとるべきだという点では共通認識があるのです。その違いは、どこまでやるか、どうやるかという違いだけです。

     中国は当然、トランプを、一時の偶然に過ぎないと見て、今後、中間選挙で共和党が敗れ、民主党が上院、下院、あるいはどちらかで多数派を奪回し、トランプが再選されないことを期待は出来ますが、現実的ではありません。というのは、トランプが当選した時の社会的な条件そのものは、今も変わっていないからです。ですから、中国はなんやかんやと、トランプの思惑を推測したりするのにエネルギーを注がず、自分自身を変えた方がよろしいのです。世界経済の中でのルールを守ることです。米国は、かつては「経済侵略」を我慢してきたのは、「中国に影響を与え、変えていこう」と思ったからです。ですから、「あんたのほうが変わりたくないのなら、当然、米国だっていつまでもあんたがたに甘い汁を吸わせてはおけないよ」ということなのですから。(終わり)

     原文は;北京的烦恼:美国停止为中国“购买”民主之后 

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