• ★共産党宣言とプロレタリアートのシュールな幻想★ 2018年5月7日

    by  • May 8, 2018 • 日文文章 • 0 Comments

     中共総書記の習近平が中央政治局委員による「共産党宣言」の学習を組織化し、「マルクス主義を選ぶことは完全に正しい」と讃える一方で、中央電視台はニュースでは、街のプロレタリアートが一夜にして、梁山泊の盗賊団化した事件を報道しています。これらは別にネットのヨタ話ではありません。

     ★若者たちがあっというまに集団泥棒に

     5月2日、中央電視台が伝えたニュースによると、江蘇省昆山市の警察は市民の李さんから、三人組の若い男の強盗に遭ったとの110番通報を受理。その3時間後には別の110番通報がありました。監視カメラの映像から、警察はすぐさま、同一犯人たちの犯行と断定し、犯人逮捕に至りました。その結果、この五人の”強盗団”は、なんと一晩で雪だるまのように誕生したのでした。

     まず、四川省と湖南省から仕事を探しに来た若者2人が、上海の職業紹介業者に騙されて、すっからかんにされて昆山市に泥棒に行くことにしました。で、襲った相手が、今さっき車の窓を壊したばかりの車上荒らしで、そいつは盗んできた携帯しかなく、その場で仲間になることに。3人で今度襲った相手は、その日その日を借金で暮らしている若者で、たった70元程度(約1200円)しか持ってなかったために、彼も仲間に。こうして4人組になった連中は、日給で仕事をして、夜はネットカフェで寝泊まりする未成年を狙うことにしたのです自分も働くより強盗の方が楽そうだからと、その場で仲間に加わって「5人組」に発展。しかし、たまたま、朝の警察訓練出動に出くわして、これはまずい、と別れ別れになってから、最初の通報事件を起こしたのでした。警察は彼らをあっさり捕まえました。

     犯罪の被害者が、即、犯罪者側に身を転じるというのは中国ではいくらでもあります。今回の事件のシュールさは、一夜のうちに5人の「強盗団」が誕生したことです。この事件は、もうひとつの「重大政治ニュース」を思い起こさせました。それは

     ;4月23日午後、中共中央政治局は、共産党宣言に関しての第5回目の集団学習会を実施した。習近平総書記は、「マルクス主義の基本理論は共産党員の必修である。我々は『共産党宣言』を再学習することによって、深くマルクス主義の真理の力を身につけなければならない」

     でした。

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     「マルクス主義の真理の力」とは何でしょう?中共の大元締めの毛沢東は、「マルクス主義の真理は、非常に複雑多岐だが、結局のところ一言で言えば、造反有理である。この道理に立つということは、つまり反抗し、斗争し、社会主義をやる、ということなのだ」と述べています。

     毛沢東が銃を持って井崗山にたてこもったとき、その部下たちは貧しくて将来性のない無産者たちでした。中共の説明では、彼らが革命に参加したのは、すべて「地主に圧迫されて」でした。毛沢東の「造反有理」という言葉は、文化大革命時に、音楽化されて紅衛兵たちに、胸高らかに、「天下は我々の天下、世界は我々の世界」と歌われました。中国の紅衛兵ばかりではありませんで、パリ語学革命の「1968西洋版紅衛兵」たちもそうでした。ハリウッドのウディ・アレンはテレビ番組の「Crisis in six sences」で、1968年の西洋版紅衛兵世界革命パワーを再現しました。
     
     「造反有理」は、毛沢東がマルクス主義を敷衍したものでしょうか?そうではありません。マルクス主義の聖典である「共産党宣言」のメインテーマは、「プロレタリア階級の暴力革命」です。マルクス主義の解釈に従えば、中共の改革開放以来、とりわけ1990年以後の社会の現状では、中共はとっくにプロレタリア革命の「対象」です。中共政権の「政治的正当性」(レジティマシー)は、有産階級から略奪した無産階級暴力革命に由来しますから、中共は、イデオロギーにおいては、古い殻に閉じこもって進歩を求めませんで、マルクス主義を堅持しています。かくして、権力貴族、官僚、大金持ちの実業家たちであろうと、皆、マルクス主義を信奉しているふりをしなければならないのです。

     しかし、普通の社会メンバーもまた小学校から中学校、大学と、中共革命のイデオロギーを叩き込まれており、「土豪をやっつけ、田畑を分ける」という革命理論は、熟知するところなのです。ですから、中国は、もうとっくに金持ちマルクス主義者と貧乏マルクス主義者が対峙する格好になっているのです。私は、「中国 — 膿潰れても崩壊せず」の中で、このなんともシュールな現象を分析しています。もし誰かが、「共産党宣言」の精神を3条にまとめて、ミレニアム世代に宣伝すれば、きっと中国共産主義二度目革命の先駆者になれることでしょう。

     ★「共産党宣言」の巨大な魅力

     「共産党宣言」はプロレタリア革命の聖典です。その要点は三つです。

     ① プロレタリアートが貧しいのは、社会制度が不公平で、資本家階級(中国なら役人と金持ち)が、君たちを大々的に、巧みに搾取しているから。

     これは「共産党宣言」の最初の、「第一章 ブルジョアとプロレタリヤ」で簡単明瞭に述べられている革命の基本原理です。この部分の初めには、「在來一切の社會の歴史は、階級鬪爭の歴史である。…我々の時代、すなはちブルジョアの時代は、この階級對立を單純化したといふ特徴をもつてゐる。全社會は次第々々に、相敵視する二大陣營、直接相互に對立する二大階級に分裂しつつある。すなはちブルジョアとプロレタリヤである。…ブルジョアジーは、いよいよますます、生産機關(生産手段)の、財産の、および人口の散在を抑止した。人口は集團され、生産機關は集中され、そして財産は少數者の手に集積された。それの必然な結果は、政治上の中央集權であつた」。(翻訳は堺利彦らの「共産党宣言」による。 )。

     この部分には、さらに欧米が東洋を搾取し、先進国が後進国を搾取し、都市が農村を搾取する、という記述があり、これが金持ちが貧乏人を搾取するに結びついて、後のすべての左派理論の源流になりました。

     ② ブルジョアジーが奪ったプロレタリアートの財産は、プロレタリアートの暴力革命によって奪い返さなばならない。

     「共産党宣言」は、労働者を各種社会メンバーの搾取の対象として描き出します。

     「彼らはブルジョア階級、ブルジョア國家の奴隷であるばかりでなく、機械のために、監督者のために、殊にはその製造家たるブルジョア個人のために、日々刻々、奴隷として使役されてゐる。…勞働者が、既に製造家から搾取されて、その勞働賃銀を受取ると、今度はブルジョアジーの他の部分、すなはち家主、小賣商人、質屋などが彼に襲ひかかる」。

     つまり、機械で生産する労働者以外の、あらゆる業界の従業者は、マルクスからみれば「搾取する側」なのです。マルクスよりちょっと早くイギリスの古典政治経済学理論を完成させたデヴィッド・リカードは、地代の労働価値を研究し、1817年に「政治経済学と課税の原理」を表し、集中的に自分の地租理論を述べました。それは地租は土地の占有から生まれ、地租は土地を使用するために、その所有者に払われる産物であり、それは労働によって生み出されるというものでした。今もって使われているこの地租理論は、マルクスの地租搾取理論とは違っています。

     しかし、マルクスは、激情的に様々な言葉で何度も、プロレタリアートは革命造反すべきだと勧めています。「プロレタリアートは…私有制を保護し、保障する一切を破壊しなければならない。プロレタリアートがもし政府側の社会的上部構造を破壊できなければ、台頭することはできない」、「プロレタリアートがブルジョアジーに反対する斗争は、まず一国の範囲内で戦われる。どの国家のプロレタリアートも、まず自らの国内のブルジョアジーを倒さねばならない」。

     こういった言い方は、たくさんありますので、興味のある方は、「共産党宣言」をお読みになればよろしい。

     ③ プロレタリヤは、自分の鎖よりほかに失ふべき何ものももたない。そして彼らは、獲得すべき全世界をもつてゐる。

     この生きた教科書は、まさに中共革命の元老たちの家の成功物語です。中共の革命元老のうちの大多数は、出身や教育程度の官僚組織社会では、まったく出世できなかったでしょう。しかし、革命によって、状況は一変しました。例えば、毛沢東は湖南省の中程度の専門学歴しかありませんでしたから、民主国家の選挙運動であっても、中国の改革開放以来の「知識化」した選抜基準でも、どちらも優秀な成績での政界入りは出来なかったでしょう。ただ、「王侯将相いずくんぞ種あらんや」(秦末の農民反乱リーダー陳勝の言葉)的な、草の根の暴力革命だけが、彼を権力の玉座に導いたのです。
     
     ですから、マルクスは「共産党宣言」の中で、革命とはプロレタリアートが元手要らずの大儲けできる商売だということを、隠したりしていません。詳しく、プロレタリアートがどうやって、一歩一歩、ブルジョアジーのすべての資本を奪取した後、最後に、こう書いています。「共産黨は、その主義政見を隱蔽することを恥とする。彼らは公然として宣言する。彼らの目的は、一切從來の社會組織を強力的に顛覆することによつてのみ達せられる。支配階級をして共産主義革命の前に戰慄せしめよ。プロレタリヤは、自分の鎖よりほかに失ふべき何ものももたない。そして彼らは、獲得すべき全世界をもつてゐる」。

     ★習近平が「共産党宣言」を偏愛するのはお門違い

     中国では、すべての階層で「共産党宣言」は、皆大好きです。しかし、ただ中共、それも中共の指導者はそうはいきません。その理由は

     ① 中共は、現在、中国で唯一の大地主であり、国家資源の独占者であり、国家資本主義の最終オーナーです。

     ② 40年前、統治集団以外の人民は全て、プロレタリアートでした。しかし、改革開放以後、中国は、世界にかつてないほどのスピードで、世界一の超億万長者たちを生み出し、貧富の差の激しさでも世界のトップクラスで、全国の三分の一の財産は、トップ1%の家庭によって所有されています。一方、社会底辺層の25%の家庭は、社会の富の総量の1%前後しか所有していません。このような富の不公平な分配状況が形成される過程で、中国人ははっきりと、「役人が権力を利用してうみだした政治とビジネスの結合体制によって、このような莫大な富を築いた」ということを知っています。

     ③ 「共産党宣言」によれば、マルクス主義の真理とは、「一国のプロレタリアートは、当然、まず自国のブルジョアジーを打倒しなければならない」のです。となると、中国の何億ものプロレタリアートは組織化されて、暴力で中国の現存社会制度をひっくり返さねばなりませんが、となると当然、その制度の擁護者である中国共産党も含まれてしまいます。

     ですから、中共の総書記が「共産党宣言」を有難がるなどという奇怪千万なことは、ふたつの状況下でしか、ありえないシュールな現象なのです。

     一つには、中共総書記は、お馬鹿で自分が統治している中国を、マルクスが分析対象とした19世紀の資本主義社会だと勘違いしている。

     でなければ、二つ目の可能性。習総書記は忙しすぎて、自分で「共産党宣言」を読む暇がなく、まったくこのプロレタリアートの聖典が何を書いているのか知らない。

     しかし、今時の中国の反政府派には、政治的幻想小説が好きな人たちもいますから、第三の可能性としては、「総書記は極めて深謀遠慮の人で、チャンスをじっと待っていて、今回の『共産党宣言』学習は、つまり、いつかチャンスが来たら、中国のプロレタリアートに呼びかけて、彼らを率いて、中共を倒す」もあるのかもしれません。(終わり)

     原文は、中国:《共产党宣言》与无产阶级的革命魔幻  「上報」に掲載。2018年5月7日

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