• ★中国は統制経済時代に戻れるか★ 2018年6月11日

    by  • June 23, 2018 • 日文文章 • 0 Comments

     安邦のCEO・呉小晖が裁判に掛けられてから、中国では「統制経済に戻ろうとしているのでは」と懸念する声が再び起きています。この心配は何も今日始まったものではなく、一昨年、アリババの馬雲(ジャック・マー)が、計画経済のためのデータを提供する技術的なサポートを始めると言いだした時以来、時折、ホットな話題となってまた忘れられてを繰り返してきました。

     本当に中国は統制経済に戻ろうというのでしょうか?

    ★「統制経済」の淵源

    「統制経済」というのは、1972年にオーストリアのノーベル経済学賞受賞者・ハイエクの名著「隷従への道」に登場した言葉です、その第7章のタイトルが「統制経済の様々な危険」で、ナチスドイツやスターリンのソ連の計画経済を元に、計画経済と民主主義の共存の可否を論じたものです。

     当時、西側では計画経済の弊害が知られておらず、民主主義と計画経済は共存できるという幻想が抱かれていました。ハイエクはこの点に深い分析を加え、
     ;政府がコントロールする経済は必ず、独裁政治となる。なぜならば経済システムとは大変複雑であって、もし政府が統制しようとすれば、必ずや一群の専門家の手を借りなければならず、政府の権力を強化し、最後には権力が唯一人の総司令官の手に掌握されるしかない。そして彼が、真剣に職権を行使しようとすれば、そのあらゆる行動は皆、民主主義の掣肘を受けざるを得なくなる。それをやり通そうとするなら、必ずや民主主義的秩序を消滅させなければならない。すなわち民主主義が統制経済をストップさせないならば、統制経済が民主主義をストップさせる。この両者は長期にわたっては共存できないのだ。
    と述べています。

     そこには深い哲学的な思考が、例えば、経済の自由は選択の自由を基本としているが、政府が経済を支配すれば、必然的にその基本となる選択の自由は失われる。政府が経済を支配するということは、一切合切を支配するということと同じで、それには思想の自由や、得られる知識の種類、品質というようなことも含まれるのです。

     毛沢東時代を体験した中国の知識人の大部分は、当然、「独裁政治」プラス「計画経済体制」が人々に服従を強いる(服従しなければ食を得られない)ことを、深く体験しているでしょう。少なくとも、食料や布類、食用油、肉などはみな購入証がないと、手に入らなかったことを覚えています。しかし、西側諸国の知識人は、身を以って毛沢東時代を体験していませんから、この時代に憧れを持っていました。パリ五月革命の参加者を代表とする1968年世代の、少なからぬ部分がその後、欧州やアメリカで大学の教職につき、イデオロギー教育を通じて一世代、一世代と左翼青年たちを育てましたし、トータルな教育体系も左寄りにしてしまいました。

     毛沢東時代の飢餓の記憶から、多くの中国人が,習近平は歴史の歯車を逆転させ、中国をむりやり計画経済時代に引き戻そうとしているのではないかと心配しているのです。

     でも、習近平がそのような考え方をしているかどうかは、重要ではありません。重要なのは、「計画経済回帰」を可能にする、外部的な条件があるかないかです。もしそのような条件がなければ、リーダーがたとえ独裁者であったとしても、そのような個人的願望は実現できないのです。

    ★計画経済は閉鎖国家

     ハイエクの議論は政府が経済を支配すると、独裁になる可能性が極めて高いということです。これはナチスドイツで現実となりました。しかし、ソ連と中国はまさに逆方向で、共産党が武装蜂起して政権を奪取したのが先で、あらゆる経済部門を掌握し、中共政権は5、6年の短期間で農村から都市部まで全面的に私有財産を没収し、私有制を消滅させ、独裁政治によって計画経済を実行したのです。つまり、中共は経済統制を通じて独裁を実現する必要などなく、計画経済はただ独裁政治に奉仕するものだったのです。

     毛沢東時代の計画経済は、幾つかの先行条件がありました。

    ⑴ 中国経済全体の対外依存度が極めて低かった。生産資材(原料から機械まで)、生活資材は基本的に自給自足であり、ソ連との関係が良好だった時には、ソ連の専門家に向上技術指導に来てもらって、援助計画を受け入れました。それには、機械や技術的な支援が含まれていました。ソ連との関係が悪化してからは、全ては「自力更生、奮起自強」ということになりました。香港だけが農産物の輸出窓口、そして限られた外国製品の国内への中継点でした。

    ⑵ 中国を含む社会主義国家は基本的には「欠陥経済」です。とりわけ中国は誰のために、何をどれほど生産するかは、全て国家計画委員会が決めました。例えば食料生産は都市人口を元に供給が計画され、一人当たり毎月21〜23斤(1斤は500グラム)とか、食用油は半斤、布は1年に12尺(1尺=33cm)、豆腐や洗濯石鹸などは交換券が、食堂で麺を食べるのにも食事券が必要でした。

     政府がこうした「計画」を実行できたのは、政府が経済部門の全てを握っていたというだけではなく、当時の物質生産が農産品の種類だけではなく、工業製品も相対的に単純だったからです。全国で最も著名な工業基地だった上海で生産されていた腕時計、ラジオ、自転車、ミシンはデザイン設計から性能まで、何十年も変わらないものでしたが、しかし貴重だったので、全て各地の百貨店で引換券がなければ手に入れることはできませんでした。

     ⑶ 毛沢東時代には人口の流動は制限されており、出張以外にはほとんどよそへ出かけることはありませんでした。つまり中国人はどこかへ出かけて遊ぶなどというお金はなかったのです。

     ⑷ 毛沢東時代は、政府は全中国で唯一の資本家であり、唯一の土地所有者でした。基本的には全てが国有経済か、小さい国有経済(地方の国営や集団所有制)で、個人が経済活動を行うことは違法であり、そんなことをしたら「違法取引罪」になりました。

     こうした閉鎖鎖国の条件下で行われた計画経済によって、中国人の大部分は半ば飢餓状態に置かれ当時の中国は貧困の極みにあったのでした。

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     ★改革開放40年、中国経済は今、高度に対外依存

     鄧小平の主導した改革開放は、事実上、計画経済を否定するという前提で、閉鎖鎖国状態と国家の全面的な経済分野での独占を皮切りに、次第に私有経済を開放し、外資を導入し、やがて国際貿易機関(WTO)加盟を果たし、全面的に国際市場に進出し、こうして世界第二の経済大国になったのです。

     40年の改革開放を経て、中国はかつての計画経済(統制経済)時代のあらゆる条件は、もはや全て存在しません。

     ⑴ 政府は依然として国有経済を政権の命脈を握るものと考え、国有経済を「共和国の長男」として資金援助し、市場の独占面でも特権・優遇をしていますが、しかし、中国経済はすでに、国有、私有、外資の天下三分状態です。2017年、中国国有企業の独占比率はわずか25%で、私有企業と外資企業のシェアは合計75%になっています。

     経済運営全体も、とっくに政府の計画に依存などしてません。国営企業だろうが、私営企業だろうが外国企業だろうが、原料の購入から生産品販売に至るまで、全て市場に依存しています。あらゆる企業が市場によって生産・販売量を決定し、極力、市場占有率を争っています。このような状況下では、当然、国家計画委員会といった機関が、誰のために何をどのぐらい作るか決めるなどということは不可能です。一時は中国経済の中枢的機関だった国家計画委は1998年に解散しています。

     ⑵ 中国経済の対外依存は深刻です。ここでいう意味は、「GDPに占める輸出プラス輸入の合計」の公式から計算する「対外貿易依存度」ではなく、「工業の血液」と言われる石油などのエネルギー源と、生活の糧たる食料など、全てが深く外国に依存しているという意味です。普通の人には、この違いははっきり分からないのですが、今回の米中貿易戦争の開始後、中国国家金融発展実験室の李揚理事長は、中国人民放送局(China National Radio)の取材に対して、「米の第6次対中301調査に対して、中国は我慢する必要はない。なぜならば、今の中国は過去のような高い対外貿易依存度は存在しない。今世紀初めの中国のGNPに占める輸出入は66%で、当時、中国は貿易制裁に耐えることはできなかった。しかし、今や30%にもならないので、米国と対決することができるのだ」と答えました。

     李揚の言う貿易依存度を、多くの人々は中国の対外経済依存度のことだと誤解しています。しかし、資源の対外依存度と貿易の対外依存度は、関係はあるのですが、同じではありません。中国経済が国際市場で資源を購入から決別するなどということはとてもできることではありありません。例えば石油を例にとると、中国は2003年から主に輸入に頼るようになって、2017年には石油の大河依存は67.4%です。業界の予測では2018年には70%を超えます。2017年の食料自給率は82.3%で、18%近い輸入依存率です。簡単に言えば、中国の14億人のうち、2.5億人前後の人々は、輸入食料に頼っているのです。

     このような状況の下で、自力更生が前提とする資源と食料自給は存在しません。鎖国は自殺行為なのです。ましてや、中国はWTO依存を必要としており、米国、欧州、日本などの経済大国による市場経済の地位承認を必要としています。もし、統制経済に復帰するとなれば、経済地位承認は遠ざかるばかりです。

     ⑶ 中国はいまだに戸籍管理制度を実施していますが、しかし、人口の移動は基本的には開放されています。2016年の流動人口規模は2.45億人に達しています。

     ⑷ 中共政府は依然として、全中国の唯一の最終的な土地所有者ですが、しかし、もはや全国で唯一の資本所有者ではありません。民営企業と外国企業は、膨大な資本を擁しています。中国政府はあの手この手で、民営企業に無理やり国営企業の株式を購入させていますが、戦争状態にでもならないかぎり、外国資本に敢えて手を出すことはしないでしょう。

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     ★習近平も「レーニン型統制経済」が好きなわけではない

     以上述べたように、中国経済が統制経済(計画経済)に逆戻りしてしまうのではないかと心配することは、いささか漠然としすぎた見方であり、むしろ政府が民間資本に対して更に搾取を強化することを心配したほうが現実的でしょう。というのは、現実的な条件から見れば、習近平がたとえどれほど計画経済を熱愛していたとしても、それを現実化する術はないのです。

     ハイエクは「統制経済(政府管制経済)が必ず、独裁に向かう」と心配していましたが、中共政権は成立したその日から、もうとっくに独裁体制なのです。ただ寡頭独裁か個人独裁の間を行ったり来たりしていただけです。個人独裁を基本的に達成した習近平にとって、今や既に経済コントロールを通じて独裁の実現を図る必要はありません。必要なことは、いかに適切に政府の経済コントロールを実行して、更にうまく政治に仕えさせることができるか、という話です。

     中国のこれまでの経済統制の積年の経験から得られた教訓は、すなわち、「管理すればすなわち死し、放置すれば乱れる」です。「管理すればすなわち死す」レーニン型の経済統制は、習近平が望むところではありません。彼が望むのは、「国営企業を主導として、民営企業が資金を出してそれに協力する」です。この度の米中貿易戦争の標的となった中興通訊(ZTE)が世界の同業界のトップ5に名を連ねるに至ったのは、中国で初めて、「国が株式を支配するが、経営は民間に任せる」という混合所有方式でやったからだといわれています。

     呉小暉や肖建華らが財産を剥奪されて、中国の富豪連は確かに「うさぎが死んで狐が悲しむ」同病相憐れむ状態です。しかし、それは他の人々から見れば、もともと彼らは共産党資本主義の特権を利用して巨富を築いただけの話であって、政治的には共産党の驥尾に付して「スーパー白手袋」としての汚れ役を演じた訳で、その財産を築き上げた理由が、今回剥奪された原因となったわけです。

     私は、「中国;溃而不崩」(中国——とっくにクライシス、なのに崩壊しない“紅い帝国”のカラクリ – ワニブックスPLUS新書)で書いたとおり、中国の政治と実業家の関係は明暗2層あって、表面上は政府と企業の関係ですが、実質的には官僚と企業家、ビジネスマンの関係なのです。この二つの層が一緒にくっついた関係が、中国の政治とビジネスの関係を二重の呪縛状態にします。もし、こうした人々が、共産党資本主義の特権を使って大金持ちになって、それから民主国家の唱導するような「私有財産の神聖不可侵」で持って、自分たちが特権を利用して得た財産を守ろうと言うのは、論理的にみても大変無理があるのです。
     
     現在、中国が計画経済(統制経済)に回帰しようというのは、現実的な基盤がありませんし、中共政権の安定といった見地からも、全く良いところはありません。例えば、株式市場や不動産マーケットの消滅とかは、中共財政収入の大本を断ち切り、中共の大発行し続けている通貨の”貯水池”を埋め立ててしまうものです。それは各国に、中共の市場経済的な地位を認めさせるという点でも、ますます貿易摩擦を強化するばかりで、大損することになり、習近平もその利害は十分わかっているから、やるはずがありません。ですから、一部の中国人諸氏は、統制経済復帰など心配するより、権力が強化される過程で社会生活が窒息させられることを心配した方がよろしいのです。

    原文は、台湾上报,https://www.upmedia.mg/news_info.php?SerialNo=42496 に繁体字で掲載)

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