• 「無・知・少・女」のユートピア — 米国民主党の夢 2018年11月7日

    by  • November 8, 2018 • 日文文章 • 0 Comments

    日中両文収録「何清漣 2017中国」Amazonで発売しました;20152016Amazon改訳版を電子ブックで。Kindle Unlimited なら無料です
    何清漣氏の2015~2017までのエッセイ改訳版

     2018米国中間選挙の結果が出ました。共和党が上院を、民主党が下院を制しました。この先2年間、米国政治は「一つの壁と一院」制になります。「壁」とは、「トランプの壁」建設、米国へ向かう「移民キャラバン」阻止など各種の大統領の政策に、下院で同意を得られず、2020年の大統領選挙にも影響を与えるでしょう。

     ★「ブルーウェーブ」と「ウォークアウェイ」の民主党

     今年3月に始まって、ニューヨーク・タイムズ紙が「ブルーウェーブ」(*ブルーは民主党のシンボル色)と報道した「民主党支持の波」が米国を席巻のニュースは、CNNなどを通じて広まりました。もし、こうしたメディアだけ見ていれば、本当にブルーウェーブがすごいことになって共和党を飲み込む勢いだ、と信じてしまいそうでした。

     でも、残念ながら主流メディアが報道したがらない別の革命が、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)上で大々的に起こっていたのです。今年、5月6日に一介の無名のゲイ美容師のブレンドン・ストラカ氏(26)が始めたユニークな「#Walkaway運動」(立ち去ることにした運動)です。同日、彼はFacebook、YouTube、twitterなどのSNS上に「昔々、僕はリベラルだった」で始まる自撮り映像をアップしました。そこで具体的に、一人の”進歩主義者”(あるいは新自由主義者、左派、呼称はどうあれ)、民主党支持者で同性愛者の自分が、如何に民主党左派のやり方に同意出来ず、失望して、離れるに至ったかまでを詳しく描いて見せました。そして、自分が作ったウエブサイト「ウォークアウェイ・フェイスブックページ」で、民主党を支持しなくなった話をみんなで書こうと呼びかけました。そこに共通しているのは、民主党の左派、いわゆる「新自由主義者」への大いなる失望でした。まさにこの理由で、民主党は市民権がなくても投票しようと呼びかけ、いくつもの州で身分証明書無しでも投票出来るようにしたのです。

     ★黒人選挙民の「ウォークアウェイ」運動

     5月以後、SNS上で#Walkawayのタグが増え、中には民主党をテロリストに喩えた「#WalkAway from Domestic Terrorists」のタグまで人気となりました。中でも注目に値したのは、黒人選挙民で女性政治評論家のキャンディス・オーウェン@ReaCandaceO が作った「#WalkAway movement」は最も影響力のある一つでした。

     彼女は自分のファンに対して、「民主党はずっと黒人の選挙民を利用して権力を獲得してきたが、その見返りは大変少なかった」「ある社会集団の9割以上が同じ政党に投票してきたから、ちっとも重要な存在でなくなってしまった」「我々の投票先が決まっていたので、どちらの政党も我々に対して約束をする必要がなくなってしまったのだ。この状況は劇的に改善しなければならない」と述べました。

     ワシントン・ポストは「#WalkAway運動がウィルスのように広まっているが、大勢には影響ない」という見出しでこれを報道しました。しかし、実際にはこの運動は民主党の基盤に影響を与えています。というのは、彼らが民主党離れを起こすと同時に、黒人のトランプ支持率が上昇したのです。民間の世論調査機関のラスムッセン・レポートによると、黒人のトランプ支持率は31%にもなり、これは一年前に比べて13%も高く、これまで10回の共和党大統領候補の最高記録は19%だったのですから。

     ★共和党攻撃の石を持ち上げ自分の足に落とした

     10月に民主党は共和党に打撃を与えようと大きな石を投げたのですが、それを自分たちの足の上に落としてしまいました。そのひとつはブレット・ カバノー氏(53)の最高裁判事指名問題で、36年前の「セクハラ」問題を攻撃したことと、中間選挙前に米国にむけてホンデュラスから出発させた「大移民キャラバン」でした。

     カバーノが心理学者のクリスティーン・ ブラゼイ・フォード(Christine Blasey Ford)女史が10歳のときに性的暴行しようとしたという指弾は、FBIの捜査結果でも根拠が見つかりませんでしたが、民主党は当然不満として、引き続き攻撃を続けました。しかし、ワシントンD.C.で1994年から発刊している政治専門紙で民主党支持のThe Hillは、「民主党は自らブルーウェーブを殺してしまった」と言う記事で、これは愚かだったと書きました。この結果、中間選挙で、伝統的な民主党支持者を怯えさせ、嫌悪感を与えてしまって、せっかくの流れに水を差したと指摘しました。(この辺り、「中間選挙で有利な状況を無駄にした民主、根強いトランプ支持者の存在 2020年大統領選への影響は?」西山隆行・成蹊大学法学部教授が詳しい)

     7900人のホンデュラスからのビザ無し移民のキャラバンが米国向けて出発したのは、報道によれば「国境なき人民」(People without Border)なる組織が支援したもので、11月6日前に米国中間選挙に”参加”しようというものでした。トランプ大統領はメキシコなど途中国に、阻止するように警告を発し、その進行を遅らせたために「期日」に間に合わせて、「移民の人権迫害」をメディアのテーマにしようというのには間に合いませんでした。民主党とメディアは、本来、悲劇的なシーンで共和党攻撃し、支持率低下を狙ったのです。あるメディアは、この「国境なき人民」の金主はジョージ・ソロスだと報道しました。(CULTURE Reports: Soros funding border caravan)。ソロスが民主党の大金主で熱心な支持者なのは、米国では周知のことです。当然これは「陰謀だ」という話になって、その結果、共和党支持者を一層団結させ、少なからぬ民兵が「米国の安全を守れ」とばかり、手弁当で国境に向かう始末です。

     国境を開いて移民を歓迎しようと主張した民主党は、一部の移民の支持を得はしましたが、しかし、却って自分たちの基本的な支持基盤を動揺させてしまいました。ハーバード大とハリス世論調査の研究によえれば、米国の黒人は実は、無制限に移民を受け入れることには反対でした。79%の白人が移民の社会的貢献度を考慮して合法移民を優先すべきだと考えていますが、黒人はこの主張に89%も賛成しているのです。しかし、ヒラリー・クリントンは2016年の大統領選挙で、自分が当選したらまず最初に国境を開放して、全ての移民を暖かく歓迎すると約束していました。

     黒人票は民主党の堅い支持層でした。しかし、アメリカ合衆国国土安全保障省 移民・関税執行局を廃止すると主張する政党は、まさにその支持基盤を喪失しかかっているのです。

     ★民主党支持者のミレニアム世代は社会主義

     青年の投票率の増加という調査結果は、民主党を元気づけています。ピュー・リサーチセンターの調査では、22から38歳の62%が11月6日の「投票に期待」と答えており、これは2014年の46%、2010年の39%にくらべて大幅に高いのです。

     民主党の支持基盤は「無・知・少・女」です。「無」は無収入で福祉に頼る人々(定収入のサラリーマンの少なからぬ部分は共和党支持)、「知」は教育界やメディアなど文化関係業界を含むインテリ、「少」は少数民族、青少年、性的マイノリティです。若い人々は昔から民主党の強力な支持層です。2016年の大統領選挙で、米国の大学生は基本的に皆、民主党支持者でした。この経験から、今年のこうして増えた青年票は、メディアの調査ではすべて民主党のものとして計算されました。女性、とりわけフェミニズムを支持する人々は民主党支持です。2018年の中間選挙では、民主党は逆転をねらって、「女性」を大いに利用しました。女性選挙有権者が男性より1000万人多いこと以外に、中間選挙の結果、2019年には100人を超す女性が下院議員となり、そのうち28人は新人で、18人が民主党です。多くの女性候補が当選したことは民主党の下院勝利の力となりました。

     しかし、実際はとっくに世論調査では分かっていたのです。18歳から30歳の若い世代の選挙民はミレニアル世代、ポストミレニアル世代、そして1990年代半ばから2000年過ぎ生まれ(z世代)までを含みます。彼らは伝統的には自由主義候補支持なのですが、しかし、最近は、多くの人々がどちらにでも投票できる「中間派」として有権者登録するようになりました(*米国有権者は投票するためには選挙登録しなければならず、その際、民主党、共和党を選ぶがどちらかを選べる立場)。さらに、一部の、特に若い白人男性は、正統派から社会主義陣営支持になりました。

     これは、今年4月のロイター通信とイプソス社(調査会社)の全国民意調査の結果と符合します。16000人以上の18歳から34歳の選挙民のネット調査で、彼らの伝統だった民主党国会議員候補者支持は、この2年間に9%下がっており、全体では46%です。ますます多くの人々が共和党こそ経済運営のプロだと思うようになっています。

     しかし、こうしたデータは米国の青年層が今、分化しており、民主党を支持していた若者の大多数が社会主義を支持していることを説明しているだけです。今年の7月3日、ニューヨーク・タイムズ紙の「民主党は社会主義化したか?」では、18〜34歳の民主党員のうち61%が社会主義に好意的で、彼らは党内の急進的進歩主義社だという調査を引用しています。つまり、今後、米国の共和、民主両党の論争は常識対ユートピアイズムの競争になります。

     今回の民主党支持基盤「無・知・少・女」のうち、変化したのは「少」と「女」です。「少」は、性的マイノリティを除くと、主にラテン系、アジア系の支持者増と、アフリカ系の支持率減、青年の投票率の30%増ですが、#Walkaway運動によって一部を失いました。女性の要素は大きく変化し、前述のように民主党に極めて有利になっています。

     ★常識かユートピアか?

     2016年の中間選挙では、共和党はトランプ政権下の、就職、収入、経済成長といった好調な経済の勢いが有利に働きました。候補者のトランプを選ぶ選挙ではなくても、トランプ政権をどう思うかが問われました。そして、民主党が主に争ったのは、前述の「相手に石を投げつける」以外では、主に国民医療保険問題でした。

     民主党のバーニー・サンダースは「全国民に医療保険を」を唱え、多くの民主党支持者を獲得していますが、ジョージ・メイソン大学などの調査によると、それだと今後10年間に政府医療支出は32.6兆ドルになり、史上最大の増税を必要とします。しかし、サンダースはこの計画によって米国人が受ける利益は語りますが、それに必要な財源について、語ったことはありません。

     2017年5月、カリフォルニア州議会の上院を独占する民主党は、全州民の無料医療保険(SB-562)法案を通過させました。これは違法移民を含むカリフォルニアに住む全ての人々の医療費を将来、無料にしようというものでした。しかし、それ以外のことは何も細かいことは決めておらず、とりわけ4000億ドルの巨額の費用をどこから調達するかについては言及されていませんでしたので、最後にはあまりにもユートピア的であるとして、6月に下院での投票はやめになりました。一州レベルで実行不可能な計画が、全国で出来るはずもありません。

     無制限に移民を受け入れるのも同じことです。米国の違法移民に対する各種の支出は既に今でも負担は耐え難いものなのですが、民主党はさらに国境を開放すべきだと主張しています。もし彼らがラテンアメリカからの「幌馬車隊」(ビザ無し移民の大群…一旦受け入れたら、無限の”馬車”が続くでしょう)を受け入れの恐ろしさを理解できないなら、欧州を見ればよろしい。

     かつて、「ドイツはいくらでも難民を受け入れる能力がある」と語っていたメルケルは、なんとか3年間持ちこたえてきましたが、とうとう自分の党の党首の座を失い、いつでも引退しかねません。当時はメルケルの難民政策を力強く支持したメディアも、今では「メルケルの2015年の難民入国歓迎門戸開放政策は、鉄の女性宰相の命運を変えた」とみなしています。今や欧州は未来の人口構造が引き起こす政治的な変化ばかりか、今の国民生活の安全すら深刻に脅かされています。

     民主政治のベストの状態は左右のバランスであり、国民の当面の各種の現実的利益への要求を満たし、同時にいささかの人道的理想を実現しようとすることです。しかし、米国民主党のような、極端な民主党の急進主義的な新パワーは、ますますユートピア主義路線に向かっています。大麻の合法化さえ「選挙民の訴え」になるようでは、米国の未来へ影響はとても健康的とは言えません。「米国を再び偉大に」するのは相当に難しいでしょう。(終わり)

     原文は;走向乌托邦化的美国民主党 

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