• ★貿易戦争の一時停止と米国の収穫  2018年12月3日

    by  • December 5, 2018 • 日文文章 • 0 Comments

    日中両文収録「何清漣 2017中国」Amazonで発売しました;20152016Amazon改訳版を電子ブックで。Kindle Unlimited なら無料です
    何清漣氏の2015~2017までのエッセイ改訳版

     2018年のブエノスアイレスG20サミットでトランプ — 習近平会談が行われた結果、米中貿易戦争の一時的停戦の同意が成立しました。2019年元旦から、2000億米ドルの商品に掛けられるはずだった関税は、暫時10%のまま維持されることになり、中国側は米国から大量の農業生産物、エネルギー、工業製品などを購入し、両国貿易の不均衡状態を和らげることを約束しました。習近平は、米国で過剰摂取による死亡急増が社会問題化している合成オピオイド、フェンタニルの密輸取り締まりも約束しました。米・中双方は、90日以内に協議を終える予定で、もし合意に達することができなければ10%の関税は25%になります。これによって、2匹の巨ゾウに踏み潰されるのではないかとヒヤヒヤしていた他の国々は胸をなでおろしました。しかし、中・米貿易戦争が新たな冷戦にエスカレートするのを期待していた多くの人々は、米国の”勝利”は、一時逃れの協議延期だけだと思っています。

     でも、全体から見れば、関税以外に米国が手に入れたものは、相当な成果なのです。

     ★勝ち負けを見るには、まず最初の戦略目標を

     米国の対中貿易戦の目標を、もう一度見てみましょう。トランプ大統領は、対中貿易の赤字と米国の国家の安全のために、中国がハイテク企業競争における知的財産権窃取を防止すると言っていますが、中国の政治制度に対しては、カケラほども不満を口にしていません。

      5月1日、米国貿易代表のロバート・ライトハイザーは、訪中前に、公開の場で、「目的は中国の経済制度を変えさせることではない。我々とは大変異なった制度だが、どうも中国にとってはあの制度が役立っているらしい」と述べていました。

     結果から見ると、米国は各種の「外堀作戦」で、その最重要目標を達成したようです。それは、中国による知的財産権窃盗行為と、中国製造2025(Made in China 2025)計画によって、米国製造業の巨大な脅威となることを防止したからです。

    ★知的財産権防衛 — 中国の「求・借・盗」を封じる

     今年の3月下旬に、米国側が対中貿易戦争を宣言してから出されたレポートは、大変率直に、知的財産権は今や鉄鋼問題の長期の戦いと同様に、デザインやデータ、実践面での知識などを含んだグローバル貿易システムの争点となっていること、そして、中国の長期にわたる手口を指摘しています。

     「求・借・盗」の「求」は、外国企業の中国市場参入意欲の足元を見て、例えば米国の電気自動車製造や、クアルコム、ヒューレット・パッカード、マイクロソフトなどが、面倒を避けるために中国側と合弁会社を作り、中国側にその技術を与えさせることです。

    「借」は、中国政府の官僚が、許可権や管理しなければならない、デリケートなデータのことです。例えば、中国の新しい規定では、コンピューター業務を営む会社は現地政府のコントロール下に置かれます。この規定を順守するために、アップル社やAmazonは中国でのデータを当局に引き渡さねばなりません。

     「盗」は、中国の企業がハッキング技術を使って、商業機密を盗み出し、風力発電企業などの実力の強化に役立てる、とかです。

     中国は当然、こうした事実の存在自体を認めません。ですから、今後、そういう窃盗行為はしない、と言うわけにもいきません。米国も、もう中国側の自制には期待もせず、知的財産権窃盗行為に対しては、産業スパイとして厳罰に処します。今年9月以来、米国で何件かの起訴状では、中国のスパイ部門である国家安全部(MSS)がいかにしてその支部である、例えば江蘇省国家安全庁をつかって、米国から貴重な技術を盗んだかを明らかにしています。

     それによると、2010年から2015年にかけて、江蘇省国家安全庁は9人のクラッカーからなる一団を組織して、米国のジェットエンジン技術を盗もうとした。これは航空宇宙技術の極めて価値の高い情報で、中国がまだ持っておらず、盗もうとしていた技術の一つ。中国は明らかに技術を盗んだ上、違法に生産しようとしていた。また少し前には米国司法省が、中国政府が援助した中国企業が台湾のパートナー企業を使って、マイクロン・テクノロジーから8項目のICチップ製造技術を盗もうとした事件も起訴されています。

     ★外資企業の中国撤退と、グローバルな再配置

     この点については、「★中・米貿易戦争の深い影響 — グローバル産業チェーン再配置 2018年09月22日」で、中・米貿易戦争の圧力が中国経済の未来に、外資撤退が与える悲観的な予測として指摘しておきました。9月13日、American Chamber of Commerce in China(在中米国商議所)と上海米国商議所が発表した430以上の在中米国企業のアンケートです。35%の企業が、生産拠点を中国から東南アジアなどの他国に移転するか、移転を考慮中。31.1%は、現在、中国投資の取り消しか延期を考慮していると回答。日本資本も国外移転を考えるか、新たな供給チェーンを調整中だとしました。

     米・ブルームバーグ社の10月22日の記事によると、米・中貿易戦争のおかげで、東南アジアの国家は外国からの投資が活発になり、マレーシア銀行では、暁星(ヒョソン)の12億ドル相当のポリプロピレン製造の投資を含む韓国製造業からの外資が、前年比で18%増加。タイ中央銀行のデータでは、1〜7月までに外資投資額は53%増加し、76億ドルとなり、製造業分野では5倍でした。フィリピンの純国外投資も、今年の1〜7月までに1.44億ドルから8.61億ドルに増えました。東南アジアに流れ込む外資は、主に消費物資、工業、科学技術、ネット関係、車、化学工業などでした。

     ★WTOに規則改正を迫る

     今年のG20サミットでは「20カ国集団指導者宣言 — 公正でかつ持続的な発展に対する共通認識」として、参加した指導者は世界中で地政学的な内国政治の脅威が増加していることを認識し、同時に多国間貿易の長所を認め「多国間貿易は、いまだ目標に到達しておらず、さらに改善の余地がある」と述べています。ただ、そこには、貿易保護主義や一国主義の台頭など、マイナスを直接批判する文字は含まれていません。指導的国家代表は次回のサミットまでに、WTO改革のプロセスを検証するとしています。また参加した欧州連合(EU)のメンバーは、作成の過程で米国は「保護主義に反対する」という言葉の削除に成功し、中国は「不公平貿易行為」の文字を削除するのに成功した、と明らかにしています。

     今後、WTOの規則改定では、米国の意見が中国よりはるかに重要になるでしょう。

     ★米国の大学、シンクタンクに中国との協力をやめさせた

     1990年代の中頃以降、米国のウォール街、Kストリート・ロビイング集団、大学、シンクタンクなどのエリートに、米国の中国外交政策に影響を与える利益集団が形成されました。これが「パンダ派」とよばれる人たちで、その中心は米中関係全国委員会(National Committee on United States-China Relations)です。この派についてのいきさつとその働きは、「★ペンス談話…米国の「屠竜派」の観点は”冷戦”ではない」。  2018年10月11日 
    で紹介しました。

     トランプ大統領は、対中関係の再構築にあたって、必ずやこの「沼地」を排除しなければなりませんでした。今年3月下旬の対中貿易戦争開始以来、米国下院の科学技術委員会は4月11日から米国の学術機関が、他国に浸透されている件の公聴会を開きました。そこで多くの証人が、中国の「学術スパイ」がまさに米国の各高等教育機関に浸透しており、科学技術の知識を得ていることが、米国国家と経済の安全に関わると証言しました。

     「スパイ学院 — CIA、FBI調査による、外国情報機関が以下に密かに米国の大学を利用しているか(邦訳 盗まれる大学:中国スパイと機密漏洩 原書房)」(ダニエル・ゴールデン)の著者もこの公聴会に参加しました。ゴールデンは特に、中国が孔子学院を通じて、自分たちのソフトパワーと長期的な影響力を、次世代の米国人青年の間に拡大してきたと指摘。同時に、中国は、米国の高校に資金を提供し、情報収集と、政治への影響力を与える土台作りを行なっているとも。これは議会が学界のスパイ問題で開いた公聴会ではなく、今年の2月にも、米国上院情報委員会公聴会で、FBIのChristopher Wrayが、中国の「学界スパイ」が米国各地の科学技術分野に浸透して、米国社会の脅威となっていると証言しました。

     「学界スパイ」の指摘、証言は、米国の中国研究にとって相当大きな圧力となります。2018年11月29日にスタンフォード大学のフーバー研究所と米国アジア協会の米・中関係センターのAnnenberg Sunnylands信託ワシントンが共同で出した「中国の影響と米国の国益 — 建設的な警戒心を」(Chinese Influence & American Interests: Promoting Constructive Vigilance)レポートがあります。数十名の中国問題研究者、学者によるもので、米国の大学、シンクタンク、メディア、中国系市民、企業、研究所などの分野への、中国の浸透活動を詳しく指摘しており、これまでの米国の中国研究界が、中国に対して間違った判断を下していたことを認めました。中国が、米国の民主的な開放主義を利用して浸透を図、米国の政府、大学、シンクタンク、メディア、企業、中国系市民を利用して、米国国内の中国批判や台湾への支持をを封じて来たことを指摘しました。注目に値するのは、筆者たちの中に、元々は中・米交流に積極的だった人たちが含まれていることです。

     「パンダ派」がこれまでの中・米関係にどんなに重要な影響を与えてきたことを知っている人なら、この報告が中国にとって大打撃となったことを理解出来るでしょう。中国が苦心して数十年にかけて米国のエリート集団の中に育てた親中国派勢力は、米国国内政治がまた大きく変化しないかぎり、今後、沈黙させられるからです。

     米国の対中貿易の巨額の赤字は、両国経済の構造と貿易政策によって決まります。90日間の協議で、米国の思惑通りにならなかったとしても、この8ヵ月間の貿易戦争は、中国に重大な損害を与えています。一時的停戦は中国に政策を転換させる時間の余裕を与えはしましたが、しかし、中国が米国と覇を競うという雄大な計画は、水の泡となったのです。(終わり)

     原文は;【观点】贸易战停火,美国收获在关税协议之外

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