• 程暁農 ★”舟”の大波、果たして「政治的狙い撃ち」か? 2018年12月17日

    by  • December 19, 2018 • 日文文章 • 0 Comments

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    何清漣氏の2015~2017までのエッセイ改訳版

     中国通信大手の華為技術フ(ァーウェイ・テクノロジーズ、以下華為)の創設者の娘で首席財務官(CFO)孟晩舟が、イランに制裁禁輸措置に違反した容疑で、カナダ当局に逮捕された事件に対する北京側の反応は、極めて異常です。これは本来ただの司法案件で、歴史的には東芝機械ココム違反事件に極めて似た事件です。ところが北京は、「小事を大事件にする」道を選び、高飛車に干渉し、米国とカナダの司法の公正さを信頼せず、両国の司法の独立にまで挑戦しました。この選択は多くの疑惑を生み出しました。

     孟晩舟事件は世界各国のメディアや、中華系市民の大きな関心を集めています。この数日、事件は司法問題から、政治経済的な角度から見られるようになり、中国カナダ駐在大使は、カナダ最大の英字新聞に署名文を発表し、孟晩舟事件は司法案件ではなく、中国に対する「政治的狙い撃ち」だと主張しています。同時に、中国の対外宣伝機関のメディアは、あらゆる外交部門を動員して孟晩舟を救出するとしています。なぜ、中国政府は孟晩舟事件を「小さく収める」のではなく、「より大きく騒ぎ立てる」方向を選んだのでしょうか? 米国が金融詐欺事件として指名手配した司法案件に対して、北京は高飛車な政治的干渉によって目的を達成できるのか? それとも逆効果になるのでか? 

     ★もともとは違法行為が原因なのに、なぜ?

     孟晩舟事件の原因は、米・ニューヨーク東地域の連邦検察官Richard Donoghueによって、今年8月22日に逮捕状が請求され、孟晩舟はちょうど12月1日に飛行機でカナダに来て一泊しました。カナダは1962年に「外国判決相互執行法」を制定しており、米国との間に相互司法判決協定、容疑者引き渡し協定が結ばれており、これによって、ブリティッシュコロンビア州は、11月30日に省としての逮捕状を出し、バンクーバー空港で孟晩舟の身柄を確保し、米国へ引き渡すべきかどうかの公聴会を開くことになりました。

     孟晩舟が逮捕されたのが、ちょうどトランプ大統領と習近平首席のアルゼンチン会談の当日の12月1日だったことから、米国が貿易交渉関連で逮捕したのではないかという疑いが起こりました。しかし、実は逮捕はカナダ当局が行った純粋に司法的な執行行為で、事前にトランプ大統領に通知もしておらず、同大統領も知らなかったのでした。カナダの検察官John Gibb-Carsleyは、孟晩舟の保釈審理の場で、「孟は、華為が、2009年から2014年の間に米国の対イラン制裁を逃れて、イランと(違法に米国製品を売り渡す)ビジネスを行った香港の天通科技(Skycom)有限会社と無関係だとして、多数の銀行を欺いた銀行詐欺罪に米国で問われている。しかし、天通科技は事実上、華為の子会社である」と述べました。米国では金融機関への詐欺罪は連邦法の経済重罪事件であり、30年の長期刑及び数百万米ドルの罰金を科せられる可能性があります。

     2013年1月のロイター通信報道によれば、天通科技と孟晩舟の関係は密接であり、2007年に華為傘下の管理会社が全株を所有していました。天通科技の香港での登記記録では、孟晩舟は2008年2月から2009年4月の間、天通科技の重役会メンバーでした。ロイターは、華為が天通科技のテヘラン事務所を通じて、イランの主要電信会社数社に対して移動用のネット通信設備を提供し、テヘラン事務所は表面的にはイラン人のものになっていたが、実際には華為が運営していたとしています。ロイター通信とウォール・ストリート・ジャーナル誌の4月の報道によれば、米国は少なくとも2016年には華為の違反行為に注目していました。ニューヨーク東区の連邦検察官に、情報を提供したのは香港上海銀行(HSBC)で、同銀行はかつてイランの為に資金操作を行ったとして処罰されています。2013年に香港上海銀行は、孟晩舟に対して華為と天通科技の関係を問い合わせたのですが、孟は同銀行の幹部と会って「一切無関係」との回答だったので、以後、華為に金融サービスを提供したといいます。しかし、後に米国司法省から、同銀行に派遣された係官が、華為がダミー会社を通じて、天通科技とイランの疑わしい交易記録を発見し、事件がニューヨーク東区の連邦検察官の担当となったとされます。

     以上のいきさつは、中国国内では報道されておらず、アメリカの”対華為攻撃”に怒り狂う読者が目にすることが出来る情報は、「防衛戦」の話ばかりです。

     ★司法の公正を信ぜず、テーマを「防衛戦」にする

     現在、孟晩舟は既に保釈され、暫時、バンクーバーの家に電子監視機器付きで拘留されて、カナダの裁判所の引き渡しの可否採決待ちです。表面的にはこの事件は、二つの問題に関わる簡単な話です。一つは、華為がイランに米国が禁止した輸出品を売ったかどうか。もし売ってないなら、天通科技がダミー会社であろうがなかろうが問題ではありません。第二には、もし天通科技が実際に売っていたら、それでも、天通科技が実際、華為と無関係だと証明出来たら、問題ありません。しかし、胡散臭いのはまさにこの点で、被告としての華為は、この二つの問題にはっきり否定の答をしたがらないのです。つまり、華為は違法にイランに米国製品を販売したばかりか、ダミー会社も使っていたようなので、金融詐欺事件になる可能性があるのです。当然、孟晩舟が米国に引き渡されて、検察が起訴しても、裁判の判決が出るまでは、「推定無罪」は適用されるのですが。

     違法に米国の技術を輸出禁止されている国々に売るのは、別に目新しいことではありません。迂回して売る手口も昔から行われています。冷戦時代の東芝機械ココム違反事件は、世界を驚愕させました。西側国家安全に関わるハイテク技術の密輸事件でした。1983年、東芝はソ連に輸出が禁止されている同時多軸制御NC装置及びソフトウェアをノルウェー経由で、ソ連に輸出したのです。別の部品はソ連の海運会社の「老共産党員丸」で、芝浦桟橋から直接ソ連に運びました。ソ連はこの技術によって、それまで途方もない音を立てていた原子力潜水艦の騒音問題を解決し、米国は新型の戦略原潜の航跡をたどるために、技術水準を上げるため、国家安全上の研究開発支出が千億ドル掛かったといわれます。1987年、東京警視庁は米国側から提供された情報に基づき、東芝を捜索し大量の証拠を押さえ、東芝機械幹部2人を逮捕しました。日本は百万ドル以上の費用をかけ、米国の50紙に謝罪広告を掲載しました。

     今回の華為事件は、東芝事件を超えるほどの深刻さではありません。米国とカナダの司法の公正さを信じるならば、孟晩舟事件は、別に解決は難しくないのです。もし、弁護側が検察側に有効に反論できればそれまでです。もし弁護側が否定するだけの証拠を示せなくても、法廷外での和解して罰を受け、孟晩舟個人への司法処置を軽減することは可能です。香港上海銀行の事件はそうして解決されています。どちらのケースでも、司法の範囲内で協議出来る問題であり、あるいは司法の場に出る前に口を塞ぐことだって可能で、これが「大事を小事に収める」通常のやり方なのです。実際、北京は福建省の晋華が、米国司法省に知的財産権窃盗容疑で起訴され、商務省に禁輸対象とされても(訳注;開業前に倒産に追い込まれた。詳細は程暁農氏★中・米貿易戦争の核心 — ICメモリチップ戦争の話 2018年11月29日参照)、低姿勢で抗議などしませんでしたし、事件の判決の公正さについて異議を唱えず、ましてや「晋華防衛戦」などとは言いませんでした。

     それなのに、今回の孟晩舟の事件では、北京は司法の道筋を離れて、「小事を大事に」する方法を選びました。つまり、華為の違法問題を、米国の政治経済上の問題、中国と華為に打撃を与えるという話にしてしまったのです。華為が如何にして成功し、中国と世界にとってどれほど重要かという話から始まって、世論を盛り上げ、外交上の「華為防衛戦」にしました。この選択は、では華為事件がカナダや米国の司法で裁かれるとなると、更に多くの尻尾があらわれるか、事件を意図的に別の話に持っていきたいのか? という疑問を抱かせるものです。

     ★三権を握る中共から見ると、「政治的狙い撃ち」に見える

     「華為防衛戦」のために、北京は一連の外交レベルの行動を取りました。孟晩舟がバンクーバー国際空港で拘留された後、中国外交部と駐カナダ大使館、バンクーバー領事館は相前後して抗議し、釈放を要求しました。同時に、外務省は金融にカナダの駐北京大使を呼び、釈放するように要求しました。12月13日、駐カナダ大使の盧沙野は、カナダのグローブ・アンド・メール紙に「カナダが公平正義の道から外れないよう期待する」という署名原稿を掲載し、孟晩舟事件は、米国による中国への「政治的追い討ち」であるとしました。こうした反応は、民主国家の司法の独立を、独裁国家としての思考法で見ているということを表しています。カナダと米国政府、司法部門は、これを聞いて、「何でまたそんなことを? 」と不思議に思ったことでしょう。

     中国では、国際関係のあらゆる問題はつまり政治、経済の現実的な利益から考慮され、経済的な利益で懐柔するか、外交交渉にするか、司法的な手段にするかは、技術上の問題に過ぎません。こうした思考法に沿って、中国大使は理の当然とばかりに「孟晩舟は政治的追い討ち」だと発言したのです。中国の司法システムは、中共の指揮下にありますから、裁判官だろうが検察官だろうがみな上級に拘束されます。いわゆる「党か法か? 」という問題は、毛沢東時代は当然、「党は法より大」で、「毛は党より大」でした。80年代になって彭真が人民代表大会委員長になったとき論議されましたが、はっきりしませんでした。後になっては、はっきり「党が上」と黙認されました。この考え方だと、西側国家の司法システムも当然、政府と政権政党の言う成りになるべきである、という考え方になります。中国政府が正面から干渉したらには、カナダ政府、米国政府の配下である司法機関は、たった一つの事件で両国の経済、政治関係を壊してはならないと思うだろう、と。

     ところがどっこい、こういう「華為防衛戦」は、華為事件は更にもっと裏があるのではないか? という各国の臆測を招いたばかりか、政治的干渉によって、カナダと米国の司法の独立に挑戦していることになるのです。行政、立法、司法の三権を全て独占している「中国式モデル」では、全くカナダや米国の三権分立政治制度における行政、立法、司法のそれぞれの役割が理解出来ないのです。三権分立の下での司法の独立は、つまり司法機関の裁判官、検察官の事件の取り扱いから、裁判まで行政当局の指揮を受けないし、またその結果も行政当局のお許しを得なくても良いのです。

     孟晩舟事件を扱う予定のニューヨーク東区の連邦検察官は、米国連邦政府の司法大臣によって任命されてはいますが、独立して事件を扱います。米国国務省が、北京の抗議を聞き入れたところで、検察官はそんなことにはお構いなしです。最も良く司法の独立の意味が分かりやすいのは、今まさにニューヨークでは、別の連邦検察官によって、米国大統領のトランプが2017年就任式の実行委員会が不正な企業献金を受け取っていないかどうか調査中だということです。連邦検察官が大統領に対して刑事調査を行えて、大統領がもし直接それに対して干渉したりすれば、それ自体が違法性の疑われる大変な弱みになるのです。どんな大統領も孟事件に関われるわけがありません。 

     しかし、先週、ロイター通信の独占取材に応じたトランプ大統領の談話は、北京にとって「尻尾をつかんだ」になりました。トランプ大統領は、孟事件の処理に関与するかどうか聞かれたときに、「もし、米国の国家安全利益に合うもので、中・米貿易協議達成に役立つのであれば、必要なら自分は当然、関与する」と答えたのです。この話に従えば、北京は自然と「孟晩舟事件は中・米貿易戦争の人質になった」のだという結論に達します。

     しかし、実は、トランプ大統領の権限といっても、せいぜい、司法長官を通じて事件の内容を知り、事件処理を急がせるといった程度なのです。事件をどうこうするわけにはいきませんし、起訴内容にあれこれ指示を出せるわけではありません。ましてや裁判官に判決を命令することは出来ません。ただ北京においてのみ、この三つの不可能なことが、可能になるのです。

     孟晩舟事件はまだ、引き渡しの採決審理までもいっていません。北京の高飛車な政治干渉は、確かにカナダ政府と司法機関にある種の圧力にはなるでしょう。しかし、まさにその北京の高姿勢によって、この種の圧力は大いに北京の希望と反対の結果を招くこともあります。孟晩舟事件のために、カナダと米国は司法システムや法治主義、司法の独立を放棄するでしょうか? 三権分立の政治制度は、民主主義、法治主義の国の根本です。孟晩舟事件が、米国とカナダ両国の奉仕主義を動かすテコになるでしょうか。おそらく、北京当局もそこまでび自信はないのではないでしょうか?(終わり)

     

     

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