• ★米中知的財産権交渉 — 中国側の疑心に住む「暗鬼」 2019年2月2日

    by  • February 3, 2019 • 日文文章 • 0 Comments

     米・中貿易交渉で劉鶴・中国副総理が訪米中ですが、依然として何の結果も出せないままです。会談内容は七つの方面にわたり、1、2、4条は全て知的財産権がらみです。米国企業の中国への技術移転強制、中国国内での知的財産権保護とその実効性、中国の米国実業界に対するネットハッキングによる窃取行為被害です。

     これで分かるように、米国が強く解決を求めているのは知的財産権保護です。論評の多くは双方の価値観の衝突だとしていますが、深く分析すれば、米・中両国の価値観の違いとは、知的財産権問題に他ならないと分かります。

    ★米中衝突の焦点は知的財産権

     米・中貿易戦争が始まるや、米国側は公開で米国知的財産権の窃盗行為をやめるように要求しました。その後、次々に少なからぬ中国の「海外ハイレベル人材招致計画」(通称千人計画)に参加者を含む各種の産業スパイ事件を起訴しました。

     米司法省は、1月28日に正式に中国電子産業の巨頭「ファーウェイ・テクノロジーズ」(華為技術)副会長で最高財務責任者(CFO)の孟晩舟と関連会社2社を、銀行、ネット詐欺、司法妨害と産業スパイなどを主要な罪名とする計23の罪状で正式に起訴しました。

     米国の業界団体は、全て対中国への圧力としての関税利用には反対しています。しかし、知的財産権問題での「中国政府は中国企業への補助金制度と、技術の強制移転をやめよ」という点では、ホワイトハウスと立場を一つにしています。

     中国は、他国の知的財産権を尊重する重要性を理解していないのでしょうか? もちろんそうではありません。鄧小平が改革開放を宣言して以来、中国はずっと国際社会の知的財産権関連法規を尊重する姿勢を示してきました。1980年から今日に至るまで、中国は17の知的財産権関連の国際多国間条約に加盟しています。

     中でも最重要なのは、「著作権に関する世界知的所有権機関条約」(略称:WIPOまたはWCT)、1985年の著作権に関する世界知的所有権機関条約(略称:WIPO著作権条約またはWCT)です。専門家によると、知的財産権保護に関する多国間の重要な条約は6つあって、中国がすでに加入しているWIPOの他に、ベルン条約、TRIPS協定(知的所有権の貿易的側面に関する協定)、WCT、実演及びレコードに関する世界知的所有権機関条約(略称:WIPOまたはWPPT)です。このうちTRIPS協定以外の5つは、世界WIPOの管理下にあります。

     米国は、米・中経済関係が発展し始めた当初は、中国が知的財産権保護に注意を払うようにリードしてきました。1979年7月には、米・中貿易関係協定が結ばれ、1992年1月には米・中政府間知的財産権保護の理解に関する覚書にサインし、これは中国の特許、著作権、薬品、農薬、化学物質、コンピューター・ソフト、企業秘密などの知的財産権保護に関する具体的な要求でした。1996年6月には「米・中知的財産権折衝協議」がサインされています。

     これほど多くの国際条約や米・中相互協定がありながら、なぜ、中国の知的財産権の違法行為を防げないのでしょうか? なぜ、知的財産権の交渉が、米中貿易交渉の不一致となる最大の難関なのでしょうか? 私の考えでは、この分野で中国側には、認識上の障害 — 「暗鬼」が潜んでいるからです。

     ★知的財産権への中国的特色の理解

     中国は後発国家で、イデオロギー教育は、一貫して国民に、帝国主義の迫害、略奪、圧迫を深く受け続けてきたと叩き込みました。そして、「追いつき追い越せ」戦略思想を徹底し、知的財産権は「人類共同の文明の財産」だと考えます。ですから、北京当局は表面上、国際ルールを尊重するかのような姿勢をとりつつも、政府の文書では明確には書きません。

     しかし一部の知的財産権の国家的課題の中から、中国がどういう考えを持っているかは、はっきり知ることができます。こうした論議は大変多いのですが、ここでは中国国家知的財産権局科研基金が助成した「20122S0077号研究報告」の「知的財産権とグローバリズムの政治経済学分析」を例に、中国人の知的財産観をみてみましょう。

     そこではこう書かれています。

     ⑴ 米国は、世界的に各国に知的財産権保護で圧力を加えることによって、「知的財産権は私的権利」という言い分で、国際的に無料の知的産品を提供することを拒否しており、これは覇権意識である。

     ⑵ 米国は知的財産権を、他国の国際的な義務だとして、自分の知的財産権での優位性で、他国の発展を抑え込み、自分の覇権を維持しようとしている。米国の「スーパー301条」(1974年通商法に第310条として追加された、対外制裁に関する条項)、「337調査」(註1)は、こうした意図を十分明らかにしている。

     ⑶ 米国は、多国籍企業による知的財産権の障壁構築を利用して、技術的な圧力を、政治的、法律的な圧力に転化している。

     中国社会の知的財産権に対するこうした姿勢を十分理解しないと、「中国製造2015」(メイド・イン・チャイナ2015)計画が、なぜあのように臆面もなく高飛車なのかが理解できません。

     この文章では、こうした「知的財産権圧力論」と「米国無料提供義務論」の心理的基盤の上に、知的財産権に対する中国的定義がはっきり出ています。

     つまり、「イノベーションには3種類ある。最初のイノベーション、模倣によるイノベーション、取り入れ吸収してからのイノベーション」というのです。

     米国や国際的な知的財産権法は、全て第一のイノベーションだけが知的財産権だと認めています。後者の二つは、コストを払わず取得する行為で、すなわち「盗用」です。

     しかし、中国は何年もの間、ずっと半ば公然とこれをやってきました。「千人計画」の参加者から巧みに知識ノウハウを頂戴する以外にも、外国資本に対する規制や、米国企業に中国への技術移転を迫る(強奪)や、さらにはハッキングによって盗み取ることまでやってきました。

     2018年12月12日、米国上院司法委員会は中国スパイ問題で公聴会を開き、ジョン・デマーズ司法次官補(国家安全保障担当)が証言台に立ち、「2011年から2018年までの9割の国家スパイ事件が中国関連で、中国の行動は大変素早く、『中国製造2025』とは一種の窃盗指南書だと証言。「シナリオは大変簡単だ。略奪、複製、簒奪だ。つまり米国企業の知的財産権を略奪し、米国企業の技術を複製し、中国市場と全世界の市場で米国企業に取って代わるのだ」と述べました。

     2018年米国貿易代表事務局による「中国301調査報告」は何度も校正され、詳細に中国の間接的な、非公式な要求や技術移転のやり口を報告しています。そこには、不透明な「任意」的な許可制度や、合資の要求、外国の株式所持制限などが含まれます。

     更には、中国は2010年から2016年の間に米中交渉において、最低8回も技術転移を市場参入の条件にしないと約束し、更に故意にネット上のハッキングによる窃盗行為を支持しないと言いながら、依然としてやり続けていることが大量の証拠で明らかだ、と述べています。

     ★中国の「国際規則順守」への特殊な理解

     あらゆる国際ルールは、その国際組織や機構が作られたときに決まり、時代の条件の変化に基づいて修正されます。例えば「工業所有権の保護に関するパリ条約」は、1958年と1967年の2回改正されています。しかし、「パリ条約の三大原則」と呼ばれる絶対変わらない条件があります。それは、加入国家は、必ず守らなければならないということです。

     しかし、中国にはこれとは異なった別の解釈があります。ソ連解体後、鄧小平は、「韬光养晦、善于守拙、决不当头、有所作为」(目立たないようにしながら、じっと我慢して力を蓄え、当面は突出しないように。やがて良い日が来る)が、中国外交の指導方針でした。

     WTO加入前後には、「国際ルールと軌道を繋ぐ」として、各種の国際条約にサインして順守し、国際社会に次第に溶け込むと言いました。しかし、これは全て、中国がまだ強大になる前の、策略でした。

     例えば、WTOを例にみると、中国はWTOに加入した2001年から最初の5年は比較的真面目に関連規定を守っていました。しかし、2015年末の「中国崛起」宣言以後、国際ルールに抵触する行為がしょっちゅう起こるようになり、米国から、「国際社会の責任ある一員になるべきだ」と何度も言われるようになりました。

     この米国の督促を、北京は、煩わしく思いました。2011年のハワイサミット(アジア太平洋経済協力首脳会議)において、ずっと北京に友好的な態度を取って来たオバマ前大統領は「国際ルールを弄ぶのをやめるように」「大人としての対応を」求め「ルール違反はもうたくさんだ」と言いました。

     これに対して、中国外交部(外務省)の龐森は「もし、そうしたルールが中国も参加して決めたのであれば、中国はルールを順守する。しかし、それが特定の国家や特定の複数の国家が決めたものなら、中国は順守する義務はない」と言い返したのでした。

     これを龐森の個人的な考えだなどと言う人もいますが、大間違いです。外交官がこのような重大な会議の席上で、個人の考えなど言うはずがありません。

     龐森のこの発言の不適切な言葉に対しては、当時、私は、「中国は国際社会に後から来たのであって、大多数の国際組織は、国連も含めて全て中国の加入する前に成立している。こうした組織の、国連憲章を含む組織は中国が加入して制定したものではない。もし龐森の言う通りにしたなら、中国はどんなルールも守らないで良いという話になってしまう」と書きました。

     中国から「古い友人」と見なされているキッシンジャー元国務長官も、中国のこの「暗鬼」についてはっきり分かっています。その著書「ワールドオーダー」(「世界秩序」=邦訳;日本経済新聞出版社 2016/6/25)で、「外国が国際的制度のルールを守れと中国に言うと、中国人は本能的に、俺たちはその規則決定に参加していないという。中国に自分たちが決定に参加していないルールを守れと要求すると、中国人は、よくよく考慮してから同意するのだ」と書いています。ですから、彼は婉曲に、中国にとって、米国との関係をうまくやることは大事だ、と述べているのです。

     しかし、中国側の知的財産権への理解という「暗鬼」はコントロールができません。2月1日、米中貿易交渉の終了した翌日、北京に本部を置く北京の対外宣伝華字メディアの「多維ニュースネット」は「貿易戦争が北京に与えた教訓。首に刀を突きつけられ、脅されるような恥辱は、もうあってはならない」という記事を掲載しました。

     米国が発動した米・中貿易戦争は、中国のヘゲモニーを制圧するための論理であって、1840年のアヘン戦争と同じだと考えているのです。帝国主義が中国を侮辱し、圧迫しているという状況はなんら終わっていない、だから北京は「韬光养晦」を続けることが、恥辱を洗い流す道だ、というわけです。

     予測できることは、「知的財産権による圧迫論」と「米国は知的財産権を無料提供すべきだ論」が「暗鬼」として存在する限り、中国は国際社会の知的財産権法規を守ることはありますまい。

     知的財産権交渉では、まず時間を引き延ばし、米国の国内政治状況が変化して、トランプ大統領に不利に傾き、米・中貿易交渉の妨げとなって、うまく2年間引き延ばせれば、ホワイトハウスの主人が交代すると期待しているのです。たとえ関連条約にサインを迫られたとしても、ただ「韜光養晦」とうこうようかいによる一時逃れのためだと考えることでしょう。(終わり)

    訳注1 「関税法」第337条に基づき、外国産製品による不正な行為を調査し、輸入排除などの裁定を下す権限を有する。

    訳注2 1883年にパリにおいて、特許権、商標権等の工業所有権の保護を目的として、「万国工業所有権保護同盟条約」として作成された条約。
     原文は;中美知识产权交涉难 难在中国有心魔

     原文は;中美知识产权交涉难 难在中国有心魔

    中国 何清漣

    中国2018 中国2017 中国2016 中国2015

    これまでの何清漣さんの論評の、翻訳はこちら。「拙速」でやってますので誤字、脱字ご勘弁。(電子本の方は校閲して直してあります。多分w) なお、お気付きの点がございましたらお知らせください。ツイッター → @Minya_J。

    中国 何清漣
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