• 警戒すべきは中国の「超限戦」と「シャープパワー」2019年3月25日

    by  • March 26, 2019 • 日文文章 • 0 Comments

    日中両文収録「何清漣 2017中国」Amazonで発売しました;20152016Amazon改訳版を電子ブックで。Kindle Unlimited なら無料です
    何清漣氏の2015~2017までのエッセイ改訳版

      西側世界は、中国が「新冷戦」や第3次世界大戦の主役になると心配する必要は全くありません。でも、中国の「超限戦」にはご用心あれ。つまり、これは西側で言う「シャープパワー」です。

     現在、米・中貿易戦争の交渉はまだ終わっていませんが、「強弩”きょうど”の末魯縞ろこうに入るあたわず」です。米国の「強弩」に対して、中国側は「引き延ばし作戦」で、米国国内の政治情勢の変化をじっと待つ策は、明らかに有効です。メディアの「第3次世界大戦の始まり」とか「新冷戦」といった耳目を驚かせる表現も、どうやら人々に忘れられかけているようですが、米・中間のこの戦争もどきの状態は、一体、どういうタイプの戦争に類するのでしょうか?

     ★西側社会の敵は一体誰か?

      3月上旬に私は「紅色の浸透作戦 — 中国メディアの世界進出」「紅色滲透:中國媒體全球擴張的真相」(八旗文化出版; 2019年03月)(訳注2)を台湾で出版しました。取材に来た人から「専門家が『第3次世界大戦』、あるいは『新冷戦』が既に始まっていて、これは中共が起こした『超限戦』による対全世界戦争なのか、そこにはメディア戦争も含まれるのか?」と尋ねられました。この質問には、3種の形の異なった戦争が含まれています。でも、多くの時事評論を読んで、一部の人々は、この3種の区別が分かっていないように、私には思えます。

     2018年3月、米・中貿易戦争が起きてから、「新冷戦」と「第3次世界大戦」といった言い方、特に前者が多くの西側メディアの紙面に登場し、その上、多くの悲観的予測がありました。でも、私は、そんなことにはなるまいと思っています。

     第3次世界大戦は、ひょっとするといつか起きるかもしれませんが、その一方の主役は、決して中国ではありません。一つには、中国には西側と戦争を始める力はありませんし、もう一つの理由は、現在の中国は、資源を高度に対外依存している国で、必要な利益は戦争でなけれ得られない訳ではありません。第2次世界大戦のような旧来の軍事征服によらずとも、外部世界と経済貿易関係を維持することによって得られるからです。

     ★西側諸国が認めたがらない二つの事実

     ⑴ 西側文明に対する最大の圧力は、中国ではなくイスラム文明です。第2次世界大戦以来、米英など西側国家は、イスラム諸国と同盟を結んで共産主義に対抗する道を選びました。ソ連がアフガンに侵攻して以来、米国は中東に関わってきましたが、今に至るまで彼らを民主国家に導くことは出来ないばかりか、逆に世界動乱の源にしてしまいました。西側は、サミュエル・P・ハンティントンの予言した「文明の衝突」(1966年)を直視しようとしませんが、現段階では、この種の「文明の衝突」は、既に絶え間ないテロ襲撃事件となって、西側各国の安全を深刻に脅かしています。

     ⑵ 米国や欧州連合(EU)は、国内の左派勢力の社会主義の圧力に直面しています。この種の左派は、西側国内に誕生したもので、中共の共産党資本主義の影響とは無関係です。例えば、フランスでは多種多様な要求を掲げた「黄色いベスト」運動に直面したマクロン大統領は、やむをえず福祉の大盤振る舞いして「団結の回復」すると同時に、2019年の新年の演説では「ただ仕事を減らして、お金をたくさん欲しい、税金を減らして政府支出を増やすことなど出来ない。自分たちの暮らし方を変えないで、正常な空気を吸いたいと思ってはならない」と警告しました。米国では、バーニー・サンダースを代表とする民主社会主義が、現在、米国の伝統的価値観に挑戦する潮流となっており、必ずや2020年の大統領選挙の主要なテーマになるでしょう。

     この二つの大矛盾は、西側の政界・学界・教育界・思想文化分野で、何十年にもわたって頑固に堅持されてきた「ポリティカル・コレクトネス」(政治的正義)に関わるもので、政治動揺の根源というべきです。

     一方、中国は、トランプ大統領の始めた貿易戦争の目標です。確かに、それは理由のないことではありません。なぜなら、中国は長年にわたって、ずっと米国を頂点とする西側国家と「超限戦」を繰り広げてきたからです。

     ★なぜ「新冷戦」ではない「超限戦」か

     「新冷戦」という言い方はあちこちでみられますが、しかし、この言い方をする人々は、完全に米ソ冷戦が起こった条件を無視しています。その事情を良く知っていれば、あの冷戦の二つの大きな前提を承知のはずです。政治的には、世界がイデオロギー的に両陣営に分かれ、様々な法の上でも、はっきりと敵と同盟国が分かれていました。経済的には、二つの大陣営の間には、いくらも経済往来はありませんでした。ソ連にしたところで、西側各国との経済関係はなかったのです。

     現在、世界を見れば、実際はどうであろうと、各国ともイデオロギーでは、深刻に対立などしていません。米国も、ロシアも、中国も、強固な同盟国などいささかも持ちません。今日の中国は、世界170カ国と国交を結び、様々な経済貿易関係を結んでいます。経済上の利益の話を抜きにしては、いかなる政治的なテーマも存在し得ないのです。米国の伝統的な盟友国にしたところで、どんどん薄まっています。

     ここ数カ月以来、騒ぎになっている中国の華為(ファーウェイ)問題にしたところで、米国は、多くの証拠によって華為の技術を使用すると国家の安全の危機を招くと、「盟友」国家に華為の5G技術導入に反対するように呼び掛けました。しかし、その結果は、オーストラリアが華為採用に反対しただけで、インドやアラブ首長国連邦、その他の「盟友」国家はアメリカに逆らいました。ドイツのメルケル首相は「ドイツ人は自分で決める」と大っぴらに華為との協力を宣言しました。

     第2次世界大戦後、英米は多くの秘密協議から生まれた多国籍監視組織のUKUSA協定(訳注3)を結んでいましたが、米国が、それを使って華為を攻撃しようとしても、イギリスは「華為の5G設備の危険はコントロール出来る」とし、ニュージーランドもそれに倣い、華為はこれらの国々の5G分野で「アウト」には至りませんでした。

     こんな有り様ですから、米国は、中国との「新冷戦」に対して、ほとんど「盟友」を結集出来ていませんし、そもそもトランプ大統領自身がそんなつもりは持っていません。彼が対中国貿易で求めているのは公平な貿易と、強制技術移転、知的財産権問題なのです。

     ★中国の「超限戦」、すなわち「シャープパワー」とは何か

     「超限戦」とは、中国空軍の喬良(中国人民解放軍空軍政治部創作室副室長、当時は空軍大佐)、王湘穂(空軍大佐)が、これからの戦争を、あらゆる手段で制約無く戦うものとして捉え、その戦争の性質や戦略について論じた本です(訳注4)。2016年に改訂版が出版されています。2人が提起した概念の「超限戦」は、これまでの伝統的な戦争(第1次、第2次世界大戦)や冷戦などと違って、これまでの伝統的な戦争を超越した、あらゆる手段を使った新型の戦争形式です。

     同書は、米国のベトナム戦争後の何度もの戦争、特に第1次湾岸戦争、コソボ紛争以来の現代の暴力的衝突と、現代経済、文化、科学技術分野の高速発展、とりわけネット攻撃、アジア金融危機、国際的テロ組織などを結合して総合分析しています。そして、未来の戦争は、至る所が戦場となり、血を流さないで、これまでの伝統的な戦争がなし得たどころか、それ以上のことがやれるとしています。「超限戦」はとりわけ、未来の戦争における技術の地位を強調し、同時に軍事思想と現代の軍隊は依然として、その重要な部分だとしています。

     西側国家は、「超限戦」に多少の反応を示しました。中国の日増しに強まる国際的な影響に対して、一部の中国研究者も、新たな言葉として「シャープパワー」を作り、いわゆる「ソフトパワー」(ハーバード大学ケネディ行政大学院特別功労教授のジョセフ・ナイの作った言葉)と対比させました。2017年12月、全米民主主義基金( NED)は報告書「シャープパワー;権威主義国家の影響の高まり」を出し、「ソフトパワー」が一国の文化やイデオロギーといった吸引力のことで、非強制的な方法で、人々を心服させることによって目的を達するが、「シャープパワー」は異なることを指摘しました。それは、「利益」と「威嚇」を併用することによって、自国の利益に合うような世論を主流化して、マイナスになるテーマや言論を回避するものだと強調しています。そして、強権国家が海外プロジェクトや国家イメージの上で遭遇する障害を軽減させるとしています。同報告は詳細に、中国がいかにメディアや、経済交流、学術・文化交流などのやり方を通じて、ラテンアメリカで中共の政治的影響力や経済利益を維持擁護するかを論じています。

     私の「紅色浸透」を、今年3月に台湾で出版したら、国立台湾大学新聞研究所の張錦華教授が、その序言を書いてくださいましたが、そのタイトルは「中共のシャープパワーを警戒せよ — 紅色大宣伝」で、中国が長年行ってきた対外大宣伝を正しく位置付けたものでした。

     全米民主主義基金とほとんど時を同じくして、英国のエコノミスト雑誌も「シャープパワー」を取り上げ、中国が買収や利益による籠絡ろうらくなどの数々のやり方で、世論に影響を与え、各国の政策を操っていることを指摘しました。

     国際社会が認めているソフトパワーと異なり、シャープパワーの影響力は侵略的であり転覆性を持ち、他国の主権を犯す、特定の独裁国家が、自由主義国家の開放社会の「非対称」を利用した作戦です。「超限戦」が書いている通り、西側は、中国が「新冷戦」や第3次世界大戦の主役になることを心配する必要はありません。しかし、中国が「超限戦」を今やっているのだ、という事実には十分注意すべきでしょう。(終わり)

    訳注1:強い弓で射た矢も、最後にはその勢いが衰えて、薄絹さえも射通すことが出来ない
    訳注2;日本語版は「中国の大プロパガンダ」福島香織訳、扶桑社刊
    訳注3;アメリカ合衆国の国家安全保障局やイギリスの政府通信本部など5カ国の諜報機関が、世界中に張り巡らせたシギントの設備や盗聴情報を相互利用・共同利用する為に結んだ協定)
    訳注4:1999年。2001年共同通信社より邦訳、絶版。2020年に「超限戦 21世紀の『新しい戦争』 角川新書・kindle版がある)

     原文は;【观点】中国对西方的“超限战”与锐实力
     
     
     

     原文は;【观点】中国对西方的“超限战”与锐实力
     
     
     

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