• 中共の浸透を憂慮する台湾 2019年5月28日

    by  • May 29, 2019 • 日文文章 • 0 Comments

     5月25日、私が台湾から帰米する機上でした。そのころ、台湾外交部の国家安全会議の李大維事務総長が、ホワイトハウスのボルトン国家安全保障問題担当大統領補佐官と会見し、台湾の北米事務協調委員会を台湾米国事務委員会に改称する、と胸を張って報じました。北京の圧力を受け続けてきた台湾にとって、相当な政治的意義のあるニュースです。

     台湾がこの声明を発表したのは、中国が台湾を統一対象の1省と見なし、武力統一の意図を捨てていないという理由だけではありません。北京の台湾への浸透ぶりが、あらゆる方面に見られ、台湾が深い警戒心を抱いているからです。こうした状況の下で、米国と一層緊密な関係を維持し、台湾の安全を図るための選択なのです。

     ★中共浸透はいまや「部屋の中のゾウ」状態

     この3月に台湾で出版した私の「紅色浸透;中共メディアの全世界拡大の真相」(日本語訳:「中国の大プロパガンダ」福島香織訳、扶桑社)出版社の要請で、私は夫(程暁農氏)と共に、この5月、台湾に行きました。2000年に初めて訪台してから、今度が3度目の台湾旅行です。

     前回、前々回は大変慌ただしい訪問でした。今回は時間をかけて、余傑氏(在米の中国人作家)との講演合わせて24日間の日程でした。その間、様々なお招きをいただき、旅程は始終変わって、観光は5、6日でした。台湾の最も有力な各界の代表の方々とお会いすることができました。

     また国立台湾大学、中正大学、中山大学、台湾国立政治大学や各種の機関で十数回の講演や座談会を行いました。読者と直接会えたのはわずかに2度でしたが。出版社は大変喜んでくれました。

     私の「紅色浸透」は、中共の全世界的な大宣伝の仕組みを分析対象にしたものです。台湾に関しては第5章の「中共政府の台湾メディアに対する浸透ぶり」として、過去20年の台湾の各種の文献史料を元にしただけなのですが、意外なほど大きな反響と共感を得ました。講演の後や座談の席で、台湾の各界の人々は、私の中共の台湾浸透についての以下の分析に基本的に同意しました。

     ① 政治的には、国民党内の親中共派が、中共の代理人となっている。台湾の各界に存在し、誰もが知っている。馬英九政権時代には、中共と最接近し、大陸と両岸一体化のサービス貿易にあわや署名するところだった。これはこうした親中共派政治的代理人が重要な働きをしていた。

     ② 経済的には、大陸投資の実業家たちが利益にひかれて、大多数が中共と良好な関係を持っている。少数の実業家たちは、内心では中共が嫌いだが、あえて口には出さない。これが中国側に「ビジネスで台湾政府をけん制」しやすくしている。

     ③ 文化的には、台湾の伝統的なメディア業界と大学に浸透している。台湾のメディア業界への浸透ぶりは、「紅色浸透」でも詳しく書きました。学界や出版業界に対しては、中国大陸への旅行許可が切り札となっています。大陸に対して友好的な学会は毎年大陸を訪問して、大歓迎され関係機関と交流できて、研究に必要な資料を得られます。出版社も大陸と良好な関係なら、大陸からの本を輸入輸出できますし、大陸市場は大きいので、これも重要な働きをします。

     ④ 上は上流文化から下々の庶民層に至るまで、中共は全て積極的に浸透を図っています。通常は主に政治経済の話題に集中してしまい、こういった分野には目が届きません。

     今回、訪台して話を聞き、改めて資料を探してみると、こうした件は2017年に暴露されていました。2016年、台北市の百人以上の里長(訳注1)が5泊6日で上海旅行に招かれていました。その費用はたった1.5万台湾ドル(1台湾ドル=3.46 円)でした。上海到着後は、中共上海台湾工作弁公室の接待で、「中国統一は責任」の垂れ幕の前で記念撮影していました。

     2017年、あるネットで、中国海軍の将軍が、「中華台北の里長連合総会」の草案をネットにアップし、里長たちに入会を呼びかけていることが暴露されました。この文献を探してみると、内容は中国側が環境保護、文化、老人福祉などで交流しようというものでした。

     この二つの事件が結びついて、台湾では、これは中国と台湾の底辺の村の里長レベルでの、中共の統一運動だと言われました。準備会の発起人は台北市の里長連絡会の会長の勤栄輝でした。台湾の村長や里長は民選ですから、政府は手出しできません。しかし、台湾人は、皆、2018年、2020年の選挙では、こうした里長たちが中国が支持する候補者に投票をと、働きかけるのではないかと心配しています。

     この問題は明らかなのに、なぜ誰も問題にしないままに「部屋の中のゾウ」になってしまったのでしょうか? 簡単な話で、台湾では中国国民党(国民党、青陣営)と民主進歩党(民進党、緑陣営)の党同士の争いが久しく、この問題が提起されたら、すぐさま緑陣営による青陣営への攻撃だと見なされたからです。台湾の学者やアナリストは皆、いったん、こうしたレッテルが貼られたら、相手陣営は信じようとせず、中間派も党同士の争いだと見なすと言います。

     私は、台湾にあまり行ったことがない上、台湾の両党とも全く無関係です。ただ4冊も台湾で本を出したことがあるので、ある程度の影響力があります。台湾人にしてみれば、局外人士の客観的な観察が、台湾の現実にぴったり合致したので、容易に受け入れることができたようです。

     ★台湾の現状、最大の焦慮は

     中国と台湾の関係は、実は米国を含めた三角関係です。台湾の各界の人々も、皆、台湾民進党は、イデオロギー的には米国の民主党に近く、その政策の大部分を自分たちの政策としています。しかし、米国の共和党政府の方が、台湾の防衛のためにより頑張ろうという意思がある、という点では、皆、一致した見解でした。

     また、米・中の貿易戦争のエスカレートは、まさに台湾の実業家が台湾に回帰するチャンスです。「4匹の小竜」と言われた地位を失い、20年もの経済不振にあえいでいる理由は、台湾の実業家が皆、大陸投資に走り、台湾経済が空洞化したせいだと思っています。しかし、現在チャンスが来ても、では、それをつかまえることができるかどうかは、なかなか難しい話です。

     というのは、一切は、2020年の総統選挙で誕生する新総統に任されているからです。現在、民進党の立候補可能性のあるのは蔡英文と頼清徳です。国民党の2人の候補は、韓国瑜と郭台銘に、加えるとしたら柯文哲です。世論調査での、彼らへの支持は時々刻々変化して上がったり下がったりです。

     多くの台湾人に、アメリカでは、前回の大統領選挙で世論調査は全く信用を失ったが、台湾でも同じようなことがあるのか? と聞いてみました。答えは、多少、党争の影響はあるが、米国での大失敗ほどのことはなく、自分たちは通常、世論調査の結果を見て結論を出しているとのことでした。

     何十人もの各界の台湾の方々とお話ししましたが、皆さん、来年の米国の大統領選挙、台湾の総統選挙が台湾の命運に密接に関係すると承知していました。しかし誰一人として、台湾の2020年の選挙結果はこうなるとおっしゃった方はいませんでした。それでも多少の分析で言えることがあります。

     一つには、台湾の有権者は皆、自分たちの票が重要で、当選するには、候補者は「票のために頭をさげる」(拝票)必要があると知っています。この「拝票」は、台湾でないと分かりにくい言葉です。

     郭台銘について言えば、台湾人は、皆、その性格の強気一辺倒、唯我独尊で、絶対に「票のために頭を下げる」ことができまいとみています。郭台銘の企業に働くある人物の言葉が代表的で、「鴻海で働いている仲間同士で、個人的に話をすれば多くが、絶対郭台銘には投票しないと言う。彼は成功した起業家だが、総統職には向かない」と。

     二つには、台湾の地方選挙と総統選挙に対する、有権者の重点の置き方が違うことです。2018年、台湾の最大の政党は、「民進党にお灸をすえる党」でした。青組も緑組も蔡英文の3年間の政策には不満でした。

     とりわけ反感を買ったのが、軍人、公務員、教員の年金改革で、労働基準法改正は労使双方に不満を抱かせ、クリーンエネルギー政策(脱原発と代替の火力発電所建設)。同性婚合法化は、選挙基盤の下層住民層の支持を失わしめました。

     人々は、皆、こうしたことが蔡英文に不利で、頼清徳に有利になる要素だと認めていました。しかし、ある大陸系の知識人の見方はもっとも楽観的で、台湾の総統選挙は、中国との統一問題を最重要に考えるだろう、というものでした。

     誰もが、これからの数カ月、2013年の「ひまわり運動」のように、あっというまに、なんの予兆もなく、候補者、北京、米国の情勢のどれかに、何が起きても、台湾の総統選挙に大きな影響を与えるだろうとは思っています。

     また、皆、北京は絶対、2020年の総裁選挙に干渉してくるだろうが、どんなやり方で、台湾の反感を買わないようにやるのかについては、分からないと言います。

     台湾人は、習近平総書記はえらく高飛車だが、話はコロコロ変わると言います。今年1月には「台湾の統一は阻止させない」とし、台湾に「一国二制度」を提案し、承諾しなければ武力の使用も放棄しないとまで言い、国有企業改革も厳しい姿勢でした。それが、その後にはゆるゆるになり、今回の米中貿易戦争でも、一年間以上の談判を突然、ちゃぶ台返ししたことなどを例に挙げました。

     この捉えどころのない指導者が、中共指導者の連任制限を撤廃するのに成功してしまったので、台湾側は誰を選出したところで、1任期以上、付き合わねばならず、「全く大変だ」ということでした。

     中共が米国との国内の緊張状態のはけ口として、台湾攻撃に出る可能性については、私の答えは「ノー」です。理由は、チベットや新疆・ウィグル地域の情勢があり、米・中関係が大変緊張しています。中国の国内軍改革は未完成で、統治集団内部の矛盾も多く、戦争に訴える時期ではないからです。

     台湾に対する、より現実的な脅威は、中共が「台湾と戦争するより、台湾を買収するほうがいい」という浸透方式す。このやり方は必ず効果があるでしょう。台湾人はすでに「ゆでガエル」状態ですし、香港の痛みは、しょせんは台湾の痛みではありません。台湾にとってみれば、「14億人の中国人はとっくに、長い間のイデオロギー洗脳教育を受けてしまっっており、『台湾は中国の不可分の一部』という考え方が中国人の常識」なのです。

     ですから、中共政権の前に、台湾が民主制度を守る困難さは、かつて民主制度を樹立したのと全く同じぐらい大変なことです。

     世界の4大中国系住民の社会で、香港には自由と法律はあったのですが、民主が無くなりました。「一国両制度」の下で、今や自由も法治も風前の灯火です。シンガポールは民主制度(選挙)と法治はありますが、自由はありません。中国大陸は、民主も無ければ、もちろん法治も自由もありません。

     ただ、台湾だけがこの三つを兼ね備えています。その存在が、「中国人には民主は合わない」という説を否定する証拠なのです。それが、私が台湾の原動力に興味を持つ理由であり、また一部の中国人たちが、私と同じ気持ちだと信じています。

     台湾の人々が、やっとの思いで勝ち取った自分たちの民主的権利を大切にして、自分たちの選挙権をもって、台湾の政治的安全を守り、民主制度の指導者を擁護することを願っています。(終わり)

    (訳注1:古代には50戸長。今なら自治会長みたいなものか)

     原文は、何清涟:台湾在“红色渗透”之下的焦虑感

    中国 何清漣
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    これまでの何清漣さんの論評の、翻訳はこちら。「拙速」でやってますので誤字、脱字ご勘弁。(電子本の方は校閲して直してあります。多分w) なお、お気付きの点がございましたらお知らせください。ツイッター → @Minya_J。

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