• ★米中関係は危険領域に — 金融戦争前哨戦へ  2019年5月31日

    by  • June 1, 2019 • 日文文章 • 0 Comments

     米・中双方が一年2カ月にわたって協議し、署名も間近と思われていたのが、北京側が突然態度を変え、一歩一歩積み上げて来た協議内容を全面的に否定したことで、ワシントンの怒りは想像できます。(訳注;7分野150ページにわたる合意文書案を105ページに修正・圧縮したうえで、一方的に米側に送付したこと。日経5月15日「対米合意案3割破棄 」など参照) 現在、関税増額以外に、双方の関係は危険領域にまで進んでいます。フォーブス誌によれば、ワシントンは中国の「ちゃぶ台返し」に対して、一つには関税値上げによる人民元切り下げ(中国は輸出促進のためにやる)、二つには、モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル(MSCI)ファクター指数とブールムバーグのグローバル指数に対して圧力をかけ、中国のA株をキックアウトさせようとするといいます。この二つの指標は、米中関係が危険領域に、歩みを進めていることを表しています。

     ★2018年の中国は、米国の「貴人」に救われた

     一国の通貨の値下がりと、他の国家の関税値上げの相互影響に関しては、関連データを詳しく分析せねばならず、あまりに専門的大作業なので、ここでは第2点について述べます。

     2018年6月、米・中貿易戦争が始まった時にはMSCI指数とFTSE EPRA指数 (不動産投資信託協会と世界的に有名なFTSEの専門家が協力して開発した、国際不動産投資のベンチマーク)は、中国A株を指数に組み入れました。続いてブルームバークも追随し、中国国際と国家開発銀行、 中国輸出入銀行、中国農業発展銀行(政策金融を担う「政策性銀行」と呼ばれる)の債権は、総合指数に組み入れられました。これらの企業の決定は中国に巨大な外資の流入をもたらし、中国資本市場の苦境を緩和しました。3月25日、私はツイッターで「2018年グローバルに中国衰退が言われている時、中国へ貴人の救いの手」を書きました。この「貴人」というのは、一つはトランプ大統領弾劾と政権復帰を目指す米国民主党、二つ目は、グローバル指数に組み入れてくれたこれらの企業で、その第1はMSCI指数によるA株組み込み、第2はFTSE EPRA指数でした。

    2019年4月1日、ブルームバーグが正式に、中国債券をグローバル指数に組み入れることを発表しました。中国債権と三つの政策性銀行の債券です。中国の資本市場にとって、この宣言は大変素晴らしいニュースで、習近平が「ちゃぶ台返し」するに至った”自信”の由来の一つでもあります。これまで、国際的な三大債券はドル、ユーロ、日本円だけだったのに、今や、ブルームバーグが人民元債券が第四の国際通貨債券だと裏書きしたわけです。
     

     この三つの機関に認められたことは、中国国内の投資家が危険視していたA株や、人気のなかった中国国債の信用が裏書きされたことで、直接、全世界の資本の中国流入に影響を与えました。世界は、ブルムバーグが行なった4月1日の制限だけで、10数億元の外貨が中国に流入し、13億元規模だった米ドル債権市場に流れ込んだと見ています。

     ★グローバル資本市場の「神の手」

     指数化を含む金融格付け機関の威力たるや、世界的に有名な大手コンサルタント企業のマッキンゼー・アンド・カンパニーが、1996年の「マーケット・アンバウンド」(Market Unbound: )では、「グローバル資本の主権国家政府への力はますます強まっており、主権国家の資本市場コントロール能力は、日々弱まっている」と書いています。「誰がグローバル資本市場の価格決定権を持ち、グローバルな資金の流れをコントロールする者が、主権国家の通貨・金融政策を握るのだ。今の世界で、誰が全世界の債券市場と資本市場の決定権を持つか? 答えはムーディーズ・インベスターズ・サービス(MCO)であり、スタンダード&プアーズ(S&P)に代表される米国の信用評価機関なのである」と書いています。

     この本が出版されて間も無く、アジアでは1997年の金融危機が起きましたが、クリントン米大統領の政治顧問だったジェームズ・カーヴィルは、多少皮肉に「前は自分が生まれ変わったら、大統領か、教祖、ホームラン王になりたかったが、今や、来世は債券を支配したい。債券マーケットを手にすれば誰だっておどかせる。当然、評価会社の支配者になれば、債券価格を自由にできるから、もっとすごいけど」と言いました。数年後に、トーマス・フリードマン(著名コラムニスト)が「フラット化する世界」(2005年)で、こう書いています。「私が見るところ、現代の社会の二つのスーパー権力機構というのは、アメリカ合衆国と格付け会社のムーディーズだ。アメリカは爆弾で破滅させるが、ムーディーズは格付け評価を下げることで破滅させる。で、どっちが凄いかは、なかなか決めがたい」と。

     かくて、こうした国際評価機関の中国の信用が上下するたびに、北京は一喜一憂させられました。高評価を得れば、まるで鬼の首を取ったように喜び、逆に評価が下がると、針のむしろとなりました。、例えば、2017年、3大評価会社が全て中国の信用を下げた時、北京はこれに対してじっと我慢するしかありませんでした。今年、5月7日にモルガン・スタンレーが中国4大銀行(中国銀行、中国建設銀行、中国工商銀行、中国農業銀行)の信用格付けを下げた時には、工商銀行と建設銀行の株価が値下がりし、北京は我慢出来ず様々な反駁を加えました。

    S&PやMCOが各国の信用評価を、MSCIとブルームバーグが各国株式市場をどう評価するかという、そのさじ加減次第で、資本市場に雨風を呼び起こす権力を持っているのです。今回の「貴人」たちの援助による中国資本市場への影響は並大抵のものではありませんでした。2018年、中国債券市場に流入した外資は一千億米ドルで、新興市場の流入外資の8割を占めました。それが、2019年の第1四半期に、香港、上海、深圳を通じて、中国株市場に流入した金額は186億ドルで、前年同期の3倍でした。4月10日には、中国銀行が国外で38億ドル相当の「一帯一路」債券を、米ドル、ユーロ、オーストラリアドル、人民元、香港ドルで発行しました。投資家は、ユーロ債券が83%とこれまでで最高となり、イタリア、ドイツ、フランスの投資家が45%を占めました。

     ニューヨーク・タイムズ紙は今も、欧州連合がワシントンに米・中対立で、どちらの陣営を選ぶか去就を明らかにせよと強制されているなどと書いています。しかし、欧州はとっくにこうしているのです。米国は、かつての日本との貿易戦争の時のように、同盟国と一緒になって北京にプラザ合意を呑ませることが出来なくなっているばかりか、自国の国際評価機関さえ中国に対する評価緩和をどうこうさせることが出来ないのです。ですから、中国は国際社会にでまだ行動の余地が残されており、米国の圧力を一定程度、緩めることが出来ました。

     ★トランプのパンチはどのぐらいの威力か?

     中国は「市場と技術を交換する — 求め、借りて、だめなら盗む — というやり方を30年近く続けて来ました。クリントン大統領時代は、グローバル化が中国市場を必要とし、911事件はブッシュ大統領に反テロのために中国と友好関係を継続することを迫られ、オバマ大統領時期には、中国が知的財産権を盗むチャンスを一層多く与えましたが、今や、米国がこのツケを清算する時代になりました。ただ、米国の態度が、あまりに急激に変化したために、長い間米国にタダでおんぶしてきた乗客(欧州連合を含む)が、皆トランプ大統領を恨んでいます。

     もし、トランプ大統領がMSCIやブルームバーグに圧力をかけ、中国A株を指数編成から追い出すことが出来たら、たしかに中国にとっては大打撃で、相手の資本市場の集金能力をやっつけることになり、これはすなわち金融戦争の前哨戦になります。逆に、中国の官製メディアが流している「レアアース戦略」は、ただの空砲でしょう。米国国防部は、レアアースは確かに米国の国家安全保障のための、レーザーやレーダ、ソナー、暗視システム、ミサイル制御、ジェット機、走行戦車の合金といった各種の武器システムに使われていると認めています。しかし、ニューヨーク・タイムズ紙の「レアアースは中国の貿易戦争の切り札か?」(2019年5月24日)によれば、米国の中国レアアースへの依存度は極めて低いのです。中国税関のデータでは、去年、中国から米国へのレアアース輸出は3.8%でした。中国は去年から、既に世界最大のレアアース輸入国で、米国は中国にレアアースを販売する最大の供給国の一つなのです。

     しかし、米国の攻撃にも難関があります。トランプは米国の大統領ではあっても、自国の金融評価会社に対して、圧力を掛けることは出来ません。会社が彼のいうことを聞かなくても、中国がまだ正式な敵国になっていないうちは、トランプ大統領も企業の独自の決定を変える術は持たないのです。

     ここまで書いて来て、グローバルのスーパー経済権力が、グローバルなスーパー政治権力センターたる米国政府のメンツを潰した出来事をもう一度指摘しておきましょう。2011年8月5日、S&Pが突然、米国国家の信用度を“AAA”から“AA+”に引き下げたことがあります。米国は1世紀近く自国の債券は最高度の信用を維持して来たのですが、その先の展望をマイナスにして、引き続き下げる可能性があると警告したのでした。S&Pは当時、米国の信用度をそれ以上下げはしませんでしたが、警告は米国の信用度に影響を与えかねないものでした。

     現在、米中双方が進めている”戦争”の動きは、まだ、口喧嘩のようなものですが、そのレベルは異なります。米国側は、ホワイトハウスの主人のツイッターの脅かしや、高級官僚の態度表明をしていますが、中国側の主な官製メディアの人民日報、新華社や華為技術有限公司の任 正非CEOなど利害関連のある人士、中南海の主人の習近平やその側近高官らは不思議なほど、沈黙を守っています。

     世界はかつての「クレムリンの占星術」のように、「中南海占星術」的な憶測をたくましくするほかなく、習近平がレアアース鉱山を視察したら、「レアアース戦略をやるぞという合図か?」とか、人民解放軍の記念式典で「再度の長征に出発だ」という言葉があると、米・中貿易戦争を続けるという決心の意味だとか”解読”しています。
    でも、中国の体制は、すべての企業は党と政府の言うことを、唯々諾々と聞くだけで、一社たりとも中共総書記の指導する貿易戦争で、「敵に通じる」罪を冒そうなどとする企業はありません。

     私は、習近平は、自信を持っていいと思っている「状況変化待ち作戦」だと思います。これについては別稿で書きますが、来年の米国大統領選挙で、トランプが負けて、民主党時代に戻ることを期待しているのです。トランプ大統領の方も、十分それを承知で、「自分たちは戦争終結を急がない」というしかありません。2020年の大統領選挙の前に、双方がたとえまた話し合いのテーブルに着いたとしたところで、大した結果は出せないでしょう。今の時期は、双方がずっと「危険地帯」に、ゆっくり進んでいる状態なのです。(終わり)

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