• ★習近平の引き伸ばし作戦の自信はどこから? 2019年6月3日

    by  • June 4, 2019 • 日文文章 • 0 Comments

     米・中貿易戦争において、 中国側のカードは少ないとずっと思われてきました。 しかし、 習近平が5月3日に「ちゃぶ台返し」(訳注1)をやってのけました。 

     以後、 習近平の性格や判断能力、 国内ライバルの牽制説など色々な推測が増えました。 しかし、 外交は内政の延長です。 最近の米国と国際社会での出来事に注目した方が、 習近平の狙いを判断できます。 

     ★「魔物」は細部に宿る

     貿易戦争が始まってから、 私は、 中共が「時間で空間を買う」引き延ばし戦略を採ると見てきました。 北京の「ちゃぶ台返し」後も、 依然として、 中国は2020年の米国大統領選挙の結果を待とうとしているのだと見ています。 

     5月29日、 習近平の中共改革深化委員会の第8回会議講話が証明しています。 中共の対米戦略は「守りをもって攻めとなし、 有利な変化を待つ」です。 

     多維新聞ネットの5月31日の文章の題名は「トランプは極限の圧力をかけ、 習・李王は手を携えて戦いに備える」でした。 これは中共トップレベルの策で、 習近平一人だけの決定ではないと強調しています。 

     習近平の動機をあれこれ推察するよりも、 最近起きた出来事を時間系列に整理してみた方が良いでしょう。 「魔物」は往々にして、 細部に宿っています。 

     以下は、 公開関連情報を時系列的に表にしたものです。 

     4月26日、 習近平は北京で開かれた第2回の「一帯一路」国際協力会議サミットの開幕式でこう演説しました。 

     「外国の知的財産権所有者の合法的権益を保護し、 強制的な技術移転をやめさせる。 ビジネスの秘密を完全に保護し、 法に基づいて厳重に知的財産権侵害行為を取り締まる。 中国は世界各国と共に、 知的財産権保護強化に協力する」と言ったのです。 

     米国側の官僚は、 この話を「安心できない」としながらも「慎重に前向きにとらえる」とし、 中・米貿易戦争協議合意の可能性があるとみました。 

     しかし、 この演説のたった1週間後の5月3日、 中国の交渉代表団は米国に、 削除修正した内容のWord文書を送りつけたのでした。 これを見た前中央情報局(CIA)中国問題アナリストのクリストファー・ジョンソンは、 北京が送ってきた修正版は、 一面赤文字だらけだったと言っています。 

     5月5日、 激怒したトランプ大統領は、 関税制裁の実施を命じました。 
     この間に幾つかの出来事があり、 それは、 「★米中関係は危険領域に — 金融戦争前哨戦へ  2019年5月31日」 で書きました。 

     中国は「ありがたき人々」の助けを得たのでした。 モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル(MSCI)ファクター指数が、 中国A株を指数に組み入れたのです。 ブルームバーグも中国国債を組み込みました。 それによって、 人民元を米ドル、 ユーロ、 日本円に次ぐ、 第四の国の債券として認められ、 大量の国際資金が中国資本市場に流れ込みました。 

     さらに数件の重要な出来事が起こっています。 

     5月1日には、 ジョー・バイデン前米副大統領(76歳、 民主党)がアイオワ州の集会で、 「中国は我らのライバルではない」と演説しています。 

     ワシントンポスト紙によれば、 バイデンは「米国は中国が地政学的に政治的脅威だと思う必要はない。 中国が我々のランチを食べてしまうって? まさか。 兄弟たち、 中国南海問題も東チベットをめぐる巨大な意見の相違もまだ決めていない。 つまり、 彼らは悪人ではない、 彼らは我々のライバルではないのだ」と言いました。 

     これには同類の発言があります。 5月5日のNBC放送では、 「レイチェル・マドウ・ショー」に出演したヒラリー・クリントンが、 1日夜、 ロバート・モラー特別検察官とロシアゲート問題調査結果に関して、 発言したのです。 

     ヒラリーは、 依然としてロシアが2016年の選挙結果に干渉してトランプを勝利させたのに、 共和党はそれに目をつぶっていると批判。 そして、 「ロシアが共和党を支持するのなら、 私たちはなんで中国に民主党を支持するように頼んではいけないと言うのか?」と、 えらく大胆で奇妙な発言をしたのでした。 

     バイデン前副大統領は、 民主党内で現在最も支持を集めている2020大統領選挙の候補者です。 ヒラリーは民主党主流派に対して、 今でも大きな影響力を持っています。 中国人が最も愛読しているのは、 ニューヨーク・タイムズ紙です。 

     中国政府はずっと一貫して米国の政治・ビジネス界の(基本的には親中国派)と接触する努力を続けてきました。 公にも裏でもパイプを持っています。 そこから得た情報は、 トランプ大統領の2期目はない、 というものなのでしょう。 そして、 この民主党の2人の大物の態度表明は、 中国から見れば、 待てば海路の日和という希望になります。 

     ★米ドルに変わる支払いシステム

     欧州連合(EU)諸国は、 去年から、 ずっと米ドルに換わる支払いシステムを築こうとしてきました。 数日前、 ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、 これは米国のグローバル政策能力を減らすためである、 と報道しました。 

     グローバル貿易の運営は米ドル頼りです。 これが、 全世界の輸出で米国が極めて大きな影響力を持ってこられた理由でした。 米国を敵にまわすと、 容易に米国から貿易制裁による打撃をこうむる羽目になるわけです。 

     EU各国が米ドルに代わる決済方法を考えたのは、 2018年にトランプ政権が、 2015年にイランと「P5プラス1」(米、 英、 仏、 中、 露)が締結した核合意からの離脱を宣言し、 イランに新たな貿易制裁を科したのがきっかけでした。 

     制裁措置には、 イランの銀行とのドル取引も含まれていたのです。 しかし、 欧州にとって、 主要産油国のイランは「欧州のともしび」です。 英、 独、 仏3国はこの制裁を支持しませんでした。 

     3国は、 代わりの支払いシステムを作ろうということになりました。 (訳注2)自国企業が米ドルを使えない状況でも、 イランとの貿易を発展させようとしたのです。 現在、 ロシア、 インド、 中国はこの代替えシステムに参加しており、 既に運用が始まっています。 

     米国の覇権の源の一つは、 米ドルが「ペーパー・ゴールド」としての通貨の地位を持っているからです。 米ドルに変わる決済システムは、 必ずしも米ドルの覇権的地位を脅かすものではありません。 しかし、 中国にとっては、 ある程度、 外貨準備高減少の圧力を緩和することができて、 米国の対中貿易戦争の打撃を和らげられます。 

     
     ★米国内の利益の矛盾を利用

     専制国家と民主国家が貿易戦争をする場合、 実質的に重要なのは、 戦闘力ではありません。 二つの体制の「痛みに耐える能力」の相違です。 この「痛みに耐える能力」は、 人民に我慢を強いる強制力のことです。 専制独裁国家は、 この方面の能力で、 民主国家をはるかにしのいでいます。 

     毛沢東統治時期には3千万人の中国人を餓死させましたが、 毛沢東は、 今でも中国人の偉大な領袖であり導師のままなです。 北朝鮮では金王朝の統治下で、 人民は衣食にもこと欠き、 ともすれば厳しい政治的懲罰を加えられますが、 それでも国家はやっていけます。 

     一方、 民主国家では、 貧乏人の存在、 収入の減少、 気候の変化、 治安の悪化などすべてが政府の責任です。 米・中両国で互いに関税を値上げしあって物価が上昇したとしたら、 中国の世論は一致して、 これは米国のせいだと非難します。 しかし、 米国では、 遠慮会釈なくトランプ政府のせいだと批判されるでしょう。 こうした庶民の不満が、 来年、 トランプ大統領落選の原動力になる、 と北京は期待しているのです。 

     これと同時に、 中国は一連の報復措置を取りました。 5月31日の英国放送協会(BBC)によれば、 中国は「信用ならない連中のリスト」を作りました。 非商業目的で中国企業に封鎖や販売中止を行い、 中国企業の正当な利益を著しく損させた外国企業の組織や人間をリストに入れて、 近い将来、 具体的な懲罰を与えるというものです。 

     これは、 米国企業と政府の関係に楔を打ち込む狙いです。 米国では、 多国籍企業と国家の利益が一致していません。 中国投資にあたっては、 少なからぬ米国企業が市場や、 強制的に技術移転(ハイテク企業は、 その上、 中国政府のネット監視に協力)しているのです。 

     そうした企業は、 こうした企業が中国で利益を上げられなくなった場合、 中国政府に対しては、 どうしようもありません。 ですから、 必然的にホワイトハウスを恨むようになります。 政府が自分たちの利益を守るべきだ、 と自国政府に文句を言うだけです。 これこそが中国政府が望む結果なのです。 

     「中国擁護派(パンダ派)」の民主党議員が、 トランプ大統領の貿易戦争を、 「とことんやれ」と”支持”して来たのは、 実は「煽り立て」いるのです。 

     貿易戦争は今では、 「生煮えの飯」状態で、 来年の大統領選挙でトランプ攻撃に使える結構な口実になっています。 「国際経験、 外交経験もなく、 軽率に貿易戦争を発動してしまった。 そして、 勝利できず、 多くの国際組織から脱退して盟友を失った」とか、 批判できますから。 

     ★「守りで攻める」は、 毛沢東の持久戦論

     以上、 中南海のハイレベルが米・中貿易協議へのサインを拒否した背景です。 

     新華社ネット6月2日の「米・中貿易折衝における中国の立場」の全文を読むと、 この白書は単純な宣伝ではないことがわかります。 その中の記述の中で、 例えば「知的財産権窃盗」や強制技術移転避難について、 の部分は完全に現在の国際ルールを否定しています。 

     とりわけ、 知的財産権保護の国際法体系では、 自分たちが世界のルールを作る願いと決心が表れています。 この願望は2011年のアジア太平洋経済協力会議(APEC)ハワイサミットで表明されています。 (訳注3)

     習近平は毛沢東の「良き弟子」ですから、 必ずや、 毛沢東の「持久戦論」思想の精髄に通じているでしょう。 この本の中心思想は、 一つには政治動員にあたっては、 「必ずや、 兵士一人一人に、 皆、 なぜこの戦いをやるのかをはっきり理解させて、 自分たちとどんな関係があるのかを理解させねばならない」のです。 

     これは文化、 宣伝方面での力比べとなります。 二つ目は戦略、 戦術は、 相手の意表を突かねばならないと言うことです。 

    この本には「日本(今なら米国)は、 中国が反抗するとは考えていない。 それも頑強な抵抗に遭うとは思っていない。 日本は中国の西側への抵抗を、 アジア的な保守的で遅れた文明未開だと思っている。 しかし、 中国はこの種の圧力を自らの改革の動力に変えることができる。 西側への抵抗の中から、 新たな中国を作り、 中国の道を進めるのだ」と書いてあります。 

     三つ目は、 しっかりと戦う意志をもって力比べをすることす。 成功者と失敗者の違いは大変簡単で、 「どちらが頑強に頑張れたかだ」です。 

     以上の点で、 北京は、 持久戦で変化を待つことができるので、 来年の米国の政局が変化することが、 「時間を空間に換える」ことになるのです。 もし、 トランプ大統領が再選されたとしても、 それから交渉のテーブルに戻ったところで遅くはない、 です。 

     ただ、 時が過ぎても、 米国内の説得は難しいでしょう。 メディアの世論の一致や、 真の民意とも一致しないでしょう。 来年の後半には、 中南海の今回の大勝負の結果が、 戦塵の中から姿を現すことでしょう。 (終わり)

    訳注1;7分野150ページにわたる合意文書案を105ページに修正・圧縮したうえで、 一方的に米側に送付したこと。 日経5月15日「対米合意案3割破棄 など参照)

    訳注2;核合意を維持すべく、 イランとの円滑な金融取引のために「貿易取引支援機関」INSTEXを設立した)

    訳注3;2011年11月13日のハワイAPECサミットでは、 オバマ大統領が、 中国に「大人らしく振る舞うべきだ」と注文。 しかし、 中国の龐森国際部副大臣は「国際ルールが決められた時に中国も参加していたならば、 中国は規則を遵守するが、 別の国に決められたルールなら、 遵守する義務はない」と答えた。 (何清漣「中国2018」★米国はなぜ中国人より”鄧小平好き”なのか? 2018年10月16日)

    原文は、习近平“以拖待变”的底气从何而来?

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