• 程暁農氏★ウォール街は北京の約束を信じない 2019年07月30日

    by  • August 1, 2019 • 日文文章 • 0 Comments

     米・中貿易交渉の先行きが不透明で楽観視できないというのに、中共は、楽観的にもさらに多くの外資を吸引しようと、金融業の開放強化を宣言した。しかしウォール街は慎重姿勢で楽観的な声は聞かれない。ウォール街の冷めた反応は、米・中双方の現状の関係と未来の不安や、中国経済の前途が暗いだけだからではない。北京の金融開放の約束を信じていないからだ。

    ★中共の約束はウォール街を動かせたか?

     7月20日、中国国務院金融安定発展委員会は、金融業に関する対外開放リストを公表し、「金融業開放拡大11条」なる対外開放措置を公布した。この中の第3条は、中国銀行や債券市場に対する外国の信用評価機関の等級評価を通じて、国外投資家が中国の銀行や債券市場に投資しやすくする狙いだ。第8条は、保険金融資産管理業務に関連して、中国保険業界や金融業の理財商品に、大量の外国資金を呼び込む期待だ。

     現在、先進国では米国経済だけが一人勝ち状態で、欧州連合(EU)や日本はいささかお疲れ状態だ。このような背景の下で、北京が金融開放新政策を打ち出したことは、疑いの余地なくウォール街の運用する巨額資金目当てであり、そのお金で焦眉の急にある自分たちのマネー不足を緩和しようということだ。

     当然、ウォール街の投資熱をかき立て、トランプ米大統領の対中政策にブレーキをかけさせる期待もある。マルクス主義の教義の通り、中国当局は、資本主義国家の政治家は皆、大銀行の言いなりに操られると信じている。ウォール街を抑えれば、トランプ大統領など心配無用だ。だからこの金融開放の11条は、一見、経済カードのようだが、実は政治カードなのだ。

     中共が今、こうした一連の金融開放新政策を打ち出すタイミングは、客観的に見れば、非常に良いとは言えない。一つには、米・中貿易交渉が膠着状態にあり、二つには香港情勢が緊迫し、金持ちが資金を海外に移しており、投資家は二の足を踏んでいるからだ。このタイミングで西側投資家に呼び掛け、資金を大陸に呼び込もうとするのは時期が悪い。しかし、それでも中共は自信満々で金融開放の切り札を切った。

     これは恐らく二つの考慮からだろう。一つには、中共の巨大な金融市場の潜在的誘惑力の「奇貨居くべし」意識で、ウォール街は気持ちを動かされないはずはない、という見方。

     20年前に世界貿易機関(WTO)加入時に、中共は、「できるだけ早く金融市場を開放する」と約束しながらも、いまだに実現していない。しかし、中国にはお金が山ほどあり、米・中関係がギクシャクしていなかった時だって、西側国家に、これまでずっと開放してこなかった「金の鉱脈」を開放すれば、ウォール街が指をくわえて見ているはずがない、と中共は見たのだ。

     表面的に見れば、中国というこの世界最大の人口大国は、現在、豊かになり、不動産は暴騰し、金持ちは大量に資産を海外に移し、中産階級は頻繁に海外旅行を楽しみ、お土産を爆買いしている。

     利益をテコに使うことに慣れ切った北京当局は、西側国家に、稼げるチャンスを与えてやれば、誰も拒否できるものか、と考えている。米・中関係は悪化しているが、米国の金融エリートたちに大金儲けのチャンスを与えれば、必ずや、彼らは「北京からの吉報」に狂喜して踊り出すはずだというわけだ。

     そして、ウォール街さえ乗り気になれば、ホワイトハウスや米国議会なんぞは言いなりで、米・中交渉だろうが、香港情勢に対する牽制だろうが、この金融開放措置によって、エビで鯛を釣るように簡単に実現するだろうと考えたのだ。しかし、このソロバン勘定が間違ないか分析してみよう。

     ★外貨備蓄の問題

     中共がなぜ大急ぎで、今、金融開放を発表したのかには、もう一つ口には出せない理由がある。外貨準備高だ。多くの人々は、今や中国の外貨準備は世界ナンバーワンで、米・中貿易交渉がはかばかしくなくて、対米輸出が減っても、外貨準備総額は3兆米ドル以上で安定し、全く心配はないと思っている。しかし、これは見せ掛けに過ぎない。

     中共の外貨準備高の大部分は自由に使えず、別に持ち主が存在するお金だ。一般人は、中共は1兆ドル以上の米ドルで米国政府の債券を購入していて、その金は中共の意のままに使えて、不満があれば投げ売りして、米国をパニックに陥れられると思っている。

     実際、中共は大量の米国国債を保有している。しかしこれは、巨額の外貨を金庫に入れておくようなものなのだ。世界広しといえども、突然政府が破産したりして紙くずになる心配しないで、中共の外貨準備額をのみ込めるのは、米国国債だけだ。

     米国国債を買わないで、どこか他の国の国債を買うとか、国債市場で株券を買うとかするのは、どちらも巨大な損害を被る危険に直面する。例えば、今、ドイツ国債を買うなら、その利率はマイナスで、ドイツ政府にお金をくれてやることになってしまう。

     さらに重要なことは、中共には巨額の外貨備蓄があるが、同時に巨額の外貨債務も負っている。こうした債務は、まず中国政府、銀行、企業の外国からの借金は、今年3月末で1兆9,717億ドルになる。その約3分の2は、1〜2年ものの短期債務だ。これは期限が来たらすぐ返却しなければならない外貨の借金である。

     次に、外国企業の中国資産は、いつでも外貨に替えて出て行くことが可能だ。外貨準備の5分の1が外国資本からの投資で、約6千億ドル以上ある。外国企業が同時に撤退しないとしても、そして、最近数年、当局が阻止できているとしても、国際金融の信用破綻を避けるためには、外国資本と利潤が必要とする外貨はちゃんと準備しておかなければならない。

     こうしたことを差し引くと、外貨準備高で動かせるのは数千億ドルしかない。それも既に用途の決まっているお金だ。毎年、支出を保証しなければならない石油、食料、製造業の部品など、経済に必須の外貨支出であり、また出国者も外貨を必要としている。

     以前は、中国は毎年、対米貿易で3千億〜4千億ドルを稼いでいたから、外貨準備は安定していた。しかし、今後、対米輸出が下降すれば、この米国からの儲けはあてにならない。この数千億ドルが減れば、毎年輸入に必要な外貨は、備蓄を取り崩すしかない。

     上記の分析のように、せいぜい2年間で、外貨準備高のかなりの部分を食べ尽くしてしまい、外国企業はパニックになりかねない。中共の本当の心配は、こればかりでなく、問題はさらに世界中を探しても、米国のように、毎年数千億ドルも稼げる豊かな市場はないということだ。

     となれば、北京の外貨準備に対する心配は、容易に見えてくる。輸出で数千億ドル稼ぐ可能性が期待できず、外貨収支の大体のバランスを保証するためには、金融開放の餌でウォール街のエリートを誘い、、もし毎年数千億ドルの投資が得られれば、いくらかは安心というものだ。

     ★ぼた餅か毒まんじゅうか?

     西側の経済界から見ると、北京の金融開放新政策は、果たして「棚からぼた餅」なのか、それとも「毒まんじゅうのわな」なのか?

     北京が金融開放を宣言して1週間あまり経ったが、ウォール街はもとより、他の欧州、アジアの先進国も、大喜びする様子は見られない。経済金融関係の各国の主要メディア、ブルムバーグ、ロイター、AFP通信、フォーブス誌、日本経済新聞の反応は、どこも冷静で、この金融開放新政策は、北京が米・中貿易交渉に向けての一手だとみている。

     ウォール・ストリート・ジャーナルは、「中国の開放した新市場に投資家は入るべきではない」と、米国の投資家に警戒を呼び掛けた。中国金融の専門家のフレイザー・ホーウェイと、元英国外交官のロジャー・ガーサイドは、日経アジアンレビュー誌で、マルコ・ルビオ上院議員が米国上場の中国企業への監視監督を強化すべきだとの議案を提起し、ウォール街市場は、米・中貿易戦争の新たな戦場になる可能性があると指摘した。

     さらに、一部の米国政治家は、米国の退職者ファンドとその他の資産管理会社が中国企業に投資するのを制限する法案を考慮中だと報じた。英国のフィナンシャル・タイムズだけが、中国語版にドイツ商業銀行で働く中国系人筆者の、金融開放は改革の意義はあるが、将来情勢がどうなるか楽観はできないと、あまり熱のこもらない文章を掲載した。

     国際金融界の反応は、なぜこんなに冷淡なのか?当然、まず北京の皮算用には信用がない。国際金融界が、中国経済と金融状況に疎いわけがない。中国経済が下降し、銀行の危機が潜伏している今日の中国は、とっくに10数年前の「BRICs4カ国」のトップを切っていた金城湯池ではない。

     こうした中国国内経済の要素は、ウォール街金融界が遠巻きに見ていて近付こうとしない理由には十分だ。中国は、お金欲しさのあまり、金融界の鉄則を忘れている。金融界は「錦に花を添える」のは大好きだが、「雪中に炭を送る」ことはしないのだ。

     金融界は、政府の税金による福祉機関でもなければ、義援金に支えられる慈善団体でもない。金融界はお客様のお金を投資しているのだ。失敗したら名声はフイになり、やっていけない。だから、少しでも危険の臭いがあれば近付かない。

     ましてや、ウォール街に言わせれば、現在、中国への金融投資の唯一の保証は、中共が国際的なルールを守るという約束だけなのだ。しかし、そんな約束は、北京が米国との交渉でちゃぶ台返しをして木っ端微塵にしてしまった。だから、中国経済には、上述の危険の上に、更に将来の「犬をおびき寄せて、戸を閉めてからひっぱたく」危険が増えたのだ。

     ★中共政策の約束の値打ちはどのぐらい?

     民主国家と専制国家の最大の違いの一つは、法治か党独裁かということで、法治国家では法律が変わらなければ、どんな政府も法に基づいて行政を行うから、外国企業の投資はそれによって保証される。

     しかし、一党独裁の党治国家では、トップレベルの意図と政策が一切を決する。政権の安全が何よりも上で、いわゆる憲法、法律は、党の包装紙に過ぎず、中共が何とでも変えられて、無効にしてしまえる。

     党治は世界を統治することはできなくても、外国企業ならなんとでもなる。中国に投資した外資企業は永遠に党治の下に置かれる。

     この点に関して、ウォール街のエリートは、当然、はっきり承知している。ここで大挙して中国に新たな金融会社など作ろうものなら、党治による不確定性の危険は、極めて大きなものになる。

     「前車の覆るは後車の戒め」の格言は眼の前にある。マルコ・ルビオ上院議員(共和党)が、米国株式市場の監視監督を強化する議案を提出したのは、少なからぬ中国企業の並べ立てた嘘八百の財務諸表に対して、ニューヨーク証券取引委員会が、なすすべがなかったからだ。

     中共がこうした企業の金融詐欺行為を保護して、中国の米国市場における企業の財務諸表は「国家機密である」としたからだ。これで、米国の何百万人もの投資家の血と汗の結晶は、中国という”国家”にのみ込まれて無くなってしまったのだ。

     だからこそ、過去1年以上、米・中貿易交渉の期間中、米国側は何度も、中共が口約束する様々な政策の変化をしっかり法律にさせようとしてきた。それが米国が、中共の体制下の制度で唯一の望み得る約束だからだ。

     中共統治の下での法は頼りにはならないが、しかし、もし中国の法律が、米・中交渉の中で約束されて修正されたなら、法律の「百面相」といえる変わり方も、少なくとも政策としての「百面相」ぐらいにはなって、法律もその時々の都合によって、四川省の川劇で使われるあの仮面のように「明」「暗」が一瞬で入れ替わったりはしなくなるのでは、というわけだ。

     だから、米国は交渉中の政策での約束をグレードアップして、しっかり法律として明文化することが、米国の疑問に対して、中国側が政策的承認をする国際的な誠実さなのだ。

     では、なぜ、中国は交渉中に「百面相」をしたのか。上述の要求が中共を激怒させたからだ。だからちゃぶ台返しをしてのけた。中国の官製メディアによれば、「米国側の極限のプレッシャー」によって、ということだ。

     ではなぜ、政策の約束を法律化すると、中共の「許容限度を超える」ことになるのか? 中国が大変腹を立てたのは、米国側が中共の政策的約束を信用しないからだ。それは、中共が政策で「百面相」をやると見破られているということだからだ。

     逆から言えば、今回の交渉での中共側のボトムラインは、「政策は約束するが、法律ではいい加減にやる」だった。話し合いの後、政策は百面相で変えてしまって、「それは主権の範囲内」だと言い張れば済むだろうという腹づもりだった。

     米・中交渉のちゃぶ台返しは、ホワイトハウスと中南海のメンツ問題ではない。「主権の範囲」とも無関係で、これは国際的な誠実度のテストなのだ。

     ちゃぶ台返しは、「答案を破り捨てさって去る」と同じことだ。その警戒信号は当然、ウォール街を直撃した。ホワイトハウスが交渉しても結果がゼロならば、ウォール街のどの銀行や投資会社が、あえて賭けに出るだろうか? 

     北京が今日、金融開放の新たな約束をしたところで、経済の情勢が変わればどうなることか。「お金が入国するのは簡単でも、出てくるのは大変」ではないのか?ということだ。

     中共は、国内の法律を統治ツールとしか見ていない。国際法にしたところで同様にもてあそんでいる。例えば、世界知的所有権の条項ごとの公約だって、堂々と踏みにじっている。国連海洋法条約の規定も、満潮時にに海に沈む岩礁は、どこの国の領土でもないのに、国際法廷の判決など歯牙にもかけず、南海の多くの暗礁を埋めて軍事基地にしてしまった。

     そして、今までにこれに対して米国だけがはっきりと疑問を呈したが、その他の国家の大半は「国際法規」の中で、「中国は例外」を黙認してきた。北京の金融開放の約束は、確かに「内政」に属する。となると、外資企業の中国での安全は、国際法規によっては保証されないし、いかなる国際機関も北京当局に約束を守らせることはできない。いったん、また「ちゃぶ台返し」されたらウォール街は、どうすることもできないのだ。

     米・中貿易交渉で落としてしまった国際的な信用度は、いまや北京の金融開放の新たな約束に対して、逆に働きだしたのだ。

    (原文は;程晓农:华尔街为何不相信北京的承诺?

    中国 何清漣

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