• ★中国の大豆戦略は如何に鍛えられたか — 貿易戦争棋譜再考 2019年8月3日

    by  • August 4, 2019 • 日文文章 • 0 Comments

     7月31日、再起動した米・中貿易交渉は、予定時間を40分も余らせてあっというまに終わってしまいました。中国商務部のスポークスマンは、米国の農産物購入の増量を確認し、近い将来、購入契約を結ぶことを確認しました。これで交渉が進むかとみられた時に、トランプ米大統領は、中国商品に対して10%、3000億米ドルの関税をかけると言い出しました。

     何が起こっているのでしょう? 西側の多くのメディアがトランプ大統領の気まぐれを非難するのに大忙しでしたが、ロイターはシカゴに記者を派遣し、その秘密を発見しました。中国は、大した量を買っていなかったのでした。

     ★中国の大豆購入はどこが手管の偽りか

     米国で最も歴史の古いシカゴ商品取引所(CBOT)は、米国と世界の農産物の貿易センターです。シカゴ発ロイターの8月1日のニュースでは、米国農務省は、7月25日の週に、中国の民間企業一社の6.8万トンの米国産大豆購入を確認しました。これは中国政府が、大豆粕を輸入する許可を与えている5企業のうちの1社です。しかし、購入規模は少なく、大豆価格は依然として下落しています。

     トランプ大統領が怒りを抑えきれなかったのは、米国の通商代表のロバート・ライトハイザーが、今回の上海交渉前に、公開の席で、中国がより多くの大豆などの農産物を購入することを希望するという談話を発表していたからです。トランプ大統領は更に7月30日にツィッター上で中国に「自分の第1期が終わってから、貿易協議をしようなんて思うなよ」と警告し、「俺は2期目もやるから、そうなってから協議しようったって、今より厳しくなるばかりだ。いや協議なんて全然しないかもしれんぞ」とも言いました。

     中国は虚々実々のゲームをやっています。「虚」とは米国農産物を買うと言いながら、購入量を減らし購入時間をズルズルと引き延ばそうとすることです。これに対してトランプ大統領は、即座に関税値上げを宣言しました。しかし、期間は9月1日として、この期間内に北京から何らかの意思表示があることを期待しています。しかし、中国側は、大豆はトランプ大統領の票田地帯に関わり、その票の行方の鍵を自分たちが握っている以上、なんでやすやす応じるものか、おあいにくさま、と腹をくくっています。

     ★机上演習では、大豆は「必殺兵器」

     中国は、米・中貿易戦争の開始以来、孫子の兵法「不変をもって万変に応じる」方針でやってきました。理由は一つには手中にカードが余りないこと。二つには、自分の手中の切り札はトランプの票田の鍵 — 大豆(豚肉など農産物を含む)だからです。

     これは中共の独りよがりではなく、机上演習をやった上です。2018年3月下旬、トランプ大統領が対中貿易戦争を開始後、米国のブルッキングス研究所(中道リベラル系シンクタンク)は4月9日に「中国の関税が米国人や産業に与える影響」(How China’s proposed tariffs could affect U.S. workers and industries)というレポートを出しました。それによると、中国側が米国の関税リストに反撃をした場合、米国の地方に与える影響を被る2742の選挙区のうち、2247(82%)が、2016年大統領選挙でトランプに投票していたと指摘しました。

     同レポートは、もし米・中貿易戦争が勃発したら、最も打撃を強く受けるのは、トランプ大統領を支持する真っ赤な(共和党の)票田地帯だとしました。米国農務省のデータでは、豚肉と大豆に対する増税措置は、中西部のトランプ支持州に明らかに巨大な打撃を与えます。

     2016年の大統領選挙前に、ベスト10に名を連ねる大豆や豚肉の輸出州のうち、トランプは8州で勝利を収めています。この10州とは、アイオワ、ミネソタ、ノースカロライナ、イリノイ、インディアナ、ミズーリ、オクラホマ、ネブラスカ、オハイオ(激戦州)、カンザスの各州です。

     この事実を発見した北京は、これでトランプ大統領の弱みを握ったと、もう鬼の首を取ったような喜び方でした。その時から大統領選まで引き伸ばせば、転機がつかめるとばかりに、ゆっくり時間をかけて、引き延ばして情勢の変化を待つ「空間を時間に交換」する一手に出ました。

     北京がこの手を使うだろうということは、私は米・中貿易戦争開始後に指摘しておきました。今では大多数のチャイナ・ウォッチャーが同様の見方をしているばかりか、トランプ大統領だって北京の計略を見破っています。

     普通、陰謀というのは見破られたらおしまいなのですが、米・中貿易戦争では違います。この戦争には、ずっと舞台の上には登場しなかった主役、つまり、膨大な米国の農産物生産者がいるからです。

     中国ははっきりと、米国大豆の主要な購入者は中国で、損害を被った米国農家の不満は、最終的に2020年の大統領選挙の選択に影響すると、ソロバンを弾いています。

     トランプ大統領が中国に農産物を買えと迫ったのは、農場主たちの不満をなだめ、自分への支持をつなぎ留めるためでした。中国が買わないという立場で突っ張ったのも、農場主たちの不満に”燃料”を絶やさないようにするためでした。

     ★「華為」をカード化、しかし退路を断たれたトランプ

     2018年、米国中間選挙の後、民主党が下院を制しました。トランプ大統領は、なるべく早く貿易戦争を終結させたいと思ったでしょう。しかし、中国側は肝心の残る10%(知的財産権交渉)に応じず、この5月に90%まで合意に達していた協議をちゃぶ台返しで否定しました。米国は事実上、主導権を失ってしまい、大統領選挙をやりすごすため、中国に米国産農産物を買えというしかありませんでした。

     中国はこれを百も承知でした。これが米国にもっと高値をふっかけるチャンスとばかり、華為技術(ファーウェイ)に対する解禁を交渉の条件としました。しかし、この道は、素早く米国の議会によって断たれました。7月17日、6人の超党派上院議員と、4人の下院議員が共同で「米国の5Gの未来守る法案」が提出されたのです。トランプ大統領に国家の安全に脅威となる外国企業が、米国の5Gシステムに関わることを禁止する行政命令を法律化し、国会の関与なしに華為を商務省の対象リストから外すことを禁止したのです。

     同時に、行政府が華為相手にビジネスをしている米国企業に特別許可を与えるなら、議会はそれを無効にできるという条項があります。これは議員たちが、トランプ大統領が初志を曲げて、制限条項を廃止するかもしれないと思ったからです。

     ★トランプ大統領は選挙戦略練り直す必要

     米国大豆農家の苦境に、トランプは焦り、北京は大喜び

     米国の大豆農家が緊急事態だというのは、2018年以来、米国メディアが常に報道してきたテーマです。大豆価格は既に25%下がっており、農務省の計算では、半数近い米国農家が既に損をしています。

     「農業部門の破産の増加、さらに激しく」(Agriculture sector sees increase in bankruptcy、More farms are going bankrupt; bankers fear more are to come)といったデータは、しょっちゅう中国メディアに使われています。

     米国の三つの主要農業地域での破産申請した農民の数はここ10年来最高水準で、それには北ダコダ、アーカンソー州では、破産申請が96%増えました。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は次々に、米国大豆農家が苦境に陥る記事を掲載しています。「米国農家は、中国が生んだ大豆輸出帝国にしがみつく」などは、中国の大きなネットにずらりと掲載され、いろいろなルポルタージュもあります。

     トランプ大統領は当然焦っています。一方で、大農場への補助金で危機を解消し、2018年には120億ドルの補助を行い、今年もまた160億ドルを大豆と養豚農家に準備しています。そして、米・中貿易戦争が中国経済に深刻な打撃を与えており、中国が早く米国が望む協議にサインするようにさせる方法を考えています。

     しかし、習近平はちっとも焦りません。自国経済が深刻に衰退しているのは、米国の貿易戦争のせいにしてしまえますし、一方では嘘と遅延戦術でトランプ大統領と渡り合っており、最近の結果は冒頭に書いた通りです。

     ここで、再度、米・中貿易戦争に関しての私の観点を述べておきます。

     ;米国の対中貿易戦争の重点は、知的財産権問題を中心に、「メイド・イン・チャイナ2025」(中国製造2025)を攻撃すること、その助けとして関税値上げなどの手段を使う。これは方向としては正しい。しかし、中国政府の「痛みに耐える力」がどれぐらいあるかについて見誤っており、米国国内の利益集団に足を引っ張られる度合いを低くみすぎた。それに加えて、大統領再任への時間的な危険性のある時期を選んだということで、今日のような「騎虎の勢い、降りるに降りられず」の苦境に陥った。

     大統領選挙が近づいて、9月には米国民主党全国代表大会で、大統領候補が選出されれば、トランプ大統領ははっきりとした方向を持って選挙戦略を立てなければなりません。大声で社会主義に反対するのは、バーニー・サンダース上院議員ら少数に対してしか殺傷力無く、ジョー・バイデン前副大統領には有効ではありません。バイデン氏は極左ではなく、民主党伝統派の希望を担っていますから、「激戦週」の中間派に対しては影響力を持っています。もしバイデン氏が候補者になったら、今の極左選挙民に迎合して左傾化する民主党を修正するかもしれません。

     ですから、トランプ大統領が現在しなければならないのは、戦略の調整です。中国に大豆を致命的な弱みにされないようにすることです。引き続き、大豆農家を支持者にしておきたいなら、米国人に対中貿易戦争の正当性をちゃんと述べて、受け入れてもらわねばなりません。

     大統領は、各州の農場主の未来のためを真剣に考えて、米・中貿易戦争をやっているのだと言わねばなりません。自分はただ公約を果たそうとしているだけであり、米・中貿易戦争の時間をもうちょっと早めていたら、あるいはもし第2期の初めだったら結果は違っていただろうと。

     本当の難題は、知的財産権の直接の被害者である多くのハイテク企業が、米・中貿易戦争に反対しており、米国の国家利益が損害を受けていることです。

     ただ米国の被害というのは、長期にわたって間接的なものですから、この問題をもっと選挙民に注目させ、理解と支持を得ようとするのは、容易なことではありません。

     ただ、米国の情勢にはまだゆとりがあります。民主党の政治家には新人がたくさんいますが、その多くは社会主義者かセミ社会主義者です。米国人口は、深刻に構成が変化してきてはいますが、しかし、まだ半分の選挙民は、別に社会主義が好きというわけではありません。

     トランプ大統領の連任の可能性は、選挙戦略がちゃんとしていれば、42〜45%の基本的な支持に、10%ぐらいの中間選挙民と、5〜6の「激戦州」があれば、成功する望みはあります。(終わり)

     原文は;贸易战复盘:中国的大豆战略如何炼成的

     

     原文は;贸易战复盘:中国的大豆战略如何炼成的

    これまでの何清漣さん、程暁農さんの論評の、翻訳はこちら

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