★米・中貿易戦争はなぜ習近平・トランプのガチンコ勝負になったのか? 2019年8月8日
by minya-takeuchi • August 9, 2019 • 日文文章 • 0 Comments
米・中貿易戦争は雲行きが激変し、未知の深みに突入しました。8月6日、中国商務部は未明に突然、中国の関連企業は、米国からの農業産品の新規購入を暫時停止すると発表、続いて、中国中央銀行が人民元の値下がりを許容、人民元の対米ドル交換率はたちまち7元を切りました。トランプ米大統領がツィッター上で、9月1日から関税値上げを宣言し、中国側がそれまでに交渉のテーブルに着くように願っていたのですが、中国側はきっぱり、「綿の中に針」式で回答するのをやめ、ガチンコ勝負で応えたのです。
★為替レート操作国認定はただの武器
米国が中国を為替操作国に指定したニュースが初めて伝えられたとき、私はツィッター上で、「短期間に様々なコントロールを施すすべはないから脅しだ」と言いましたが、1日後、米国は、中国がワシントンで交渉に応じることを希望するという話を流しました。
2018年3月に貿易戦争が始まった時から、中間選挙前まで、チャイナ・ウォッチャーの大多数は、中国は四つの反撃手段があると言いました。
(1) 関税による反撃(2)レアアース供給の制限(3)人民元の切り下げ、(4)在中米国企業へのみせしめです。
そして一年半の交渉と喧嘩の末、中国は選択肢がますます少なくなって来ているのに気が付いたのでした。
(1) 関税武器化は困難。
以下は2018年のデータ(米ドル)
2018年、米国の対中国関税徴収商品の価値は2500億ドル、トランプは、3250億ドルにすると。中国の対米輸出総額は5390億ドルですから、米国はまだ約47%の中国商品に税を課していません。さらに攻撃の余地が残されています。
一方、中国の米国商品課税は1100億ドルです。米国の対中輸出総額は1200億ドル。中国は91%課税しており、残された余地はあまり大きくありません。
(2)武器としてのレアアース
今年5月、中国は対米輸出のレアアースを減らしたことがあります。習近平が江西省のレアアース鉱を視察し、国家発展改革委員会の第3次座談会のテーマにもなりました。世界に中国はレアアースのカードを切るのでは、と思わせました。米国のレアアース輸入は8割が中国からで、2018年の中国からの輸入価値は2.5億ドル。これに変わるルートは無いことは、業界では公認の事実です。米国の軍事工業業界は、かつて、中国のレアアースに過度に依存する危険を訴え、米国経済の柱のハイテク産業は、レアアースなしではやっていけないと警告したことがあります。9年前、中国は領土問題で、日本にレアアース供給カットの手段をとり、レアアースは暴騰し、全世界の製造業は、中国が全世界の供給チェーンの鍵をコントロールする力があることを認識しました。
しかし、メディアが専門家に取材すると、このカードは中国にとっても使い難いことが判明しました。と言うのは、中国自身も多かれ少なかれ米国産鉱石に依存しているからです。専門家によると、「グローバル供給チェーンは、極めて複雑で、米国がレアアースを手にいれるのを本気で阻止しようとするなら、世界の他の大部分の供給、例えば韓国とタイの工場が生産する大量のランタン触媒を断つに等しいとかです。レアアースカードは悪手なのは、トランプ大統領の貿易戦争に大いに批判的なニューヨーク・タイムズ紙やBBCも認めていて、「敵を千人倒すが、味方も八百人死ぬ」ことになると報道しています。
(3)為替レート
米国は1988年に「貿易と競争力の総合法案」を作り、財務省に半年ごとに一度、主要貿易パートナーが不公平な優位性を得たり、自国通貨の為替レート操作の有無を分析、報告させています。この3004条の規定では、為替レート操作行為の判定基準は、巨額の経常収支黒字(中国は当てはまらない)、米国との巨額の貿易黒字(中国はずっと当てはまる状態)。2015年には更に、継続的に為替市場に一方的な介入を行なっていること、を付け加えました。この最後の一条は、対中国向けに作られたと言えます。
1994年以後、今にいたる25年間、米国が他国を為替レート操作国に認定したことはありません。トランプは、大統領就任後の1年目、2017年に、米国財務省とIMFは一致して、中国は世界通貨市場に貢献しており、為替操作国ではないと認定しました。ですから、米国が為替操作国に認定したら、当該国がどんな苦境に陥るかについては、関連法規の規定から、結果を予測するしかありません。
米国の法律では、中国が米国政府から為替操作国と認定されたら、米国財務省は低い為替レートを矯正するように専門的な交渉を要求します。交渉期間は、大体、半年から一年だと見られています。そして相手国が米国の要求を飲まなければ、米国大統領は以下の措置の一つ、乃至、それ以上行動に移すことが出来ます。
❶ 米国の海外のプライベート投資会社からの有志が受けられなくなる。
❷ 米国政府の調達からの締め出し。
❸ IMFに対中国への監視強化要請
❹ 米国通商代表部(USTR)による中国との貿易協定再評価
中両文収録「何清漣 2017中国」Amazonで発売。「2018」編集中;2015、2016Amazon改訳版を電子ブックで。Kindle Unlimited なら無料です。
トランプ大統領の第1任期はまだ1年3ヵ月ありますが、中国の為替操作国認定は威嚇的な意味が実際与える効果より大きいでしょう。もし、トランプ大統領の2期目続投があるとして、彼の意思が変わらなければ、その時は本当に意味を持つことになります。トランプ大統領側もこれは分かっており、中国を為替操作国認定した翌日、ラリー・クドロー国家経済会議(NEC)委員長が、協議への門はまだ大きく開かれており、北戴河会議の後、中国側の代表が協議のために9月1日までにワシントンに来るように、との和平サインを送りました。
(4)在中米国企業への見せしめ
この面では色々あります。今年5月31日、中国商務部のスポークスマン高峰は記者会見で、中国は「信頼できない団体リスト」制度を作ると発表しました。非商業目的で、中国側に対して供給、流通停止その他の差別的な措置をとり、中国の関連産業に損害を与え、国家の安全に脅威または潜在的脅威を与えた外国法人、その他の組織をリスト化するというのです。これは米国の同様の措置に対する報復です。
米国商務省は、1997年2月に「エンティティ・リスト」(好ましからざる人・団体リスト)を作っており、これは米国が国家安全の見地から、輸出コントロールする重要手段となっています。このリストに入れられた企業は、許可が出るまでは米国企業と取引できず、許可を申請しても輸出管理条例の744条の規定にある審査を受け、この企業との輸出、再輸出については米国企業はいかなる例外扱いも得られない。つまり、これはブラックリストであって、一旦、リストに載せられると事実上、米国の関連企業と貿易出来ないということです。
中国が今「信頼できない団体リスト」制度を作るのは、一種の報復と言えます。中国にある米国企業は、更に中国の別のある種の嫌がらせ的懲罰も心配しています。米国の一部業界は、中国が、強制的な検査、許可証発行の引き伸ばし、外貨決済の故意の引き伸ばし等々を行う危険を警告しています。これらは全て、中国政府に”前科”があります。
効果の面から言えば、中国側が有利です。というのは中国政府は、ロビイング活動など許しませんから、自国企業は唯々諾々と命令を聞くしかありません。しかし、米国企業は中国での損害を自国でロビイングできますし、おおっぴらに政府を批判出来ます。
★習近平の思考課題;大豆を買うか、金融戦に打って出るか?
「中国経済の衰えは米・中貿易戦争が原因ではない」(2019年7月25日)で書いたことですが、中国経済はもともと下降していて、米・中貿易戦争はそれを加速させただけなのです。しかし、習近平は、今に至るまで一部の人々が想像していたように、膝を屈して許しを求めようなどとはしていません。逆に守勢から攻勢に出て、大豆取引を武器と化し、ちっとも弛めようなどとはしていません。中国は明らかに、米国の優秀な農産物を必要としていますが、それを捨ててでも、代替え資源を探します。あまつさえ、地方政府に養豚をせよとの命令を下しています。
例えば、広東省ではこれまで養豚などしたことがないのですが、最近、各県に数百万頭の養豚を行うようにとの命令が下されました。こんな初めから利害を考えない戦いのやり方は、米中両国はもう持久戦ではなく、習近平とトランプのガチンコ勝負なのです。いかなる代価を払っても、トランプ大統領の2期目を阻止するためなら、コストはどうでもよいのです。
★何でそうなった?原因を分析すると
中国の態度が豹変したのは今年の5月初めでした。その理由は、劉鶴副総理が公開の場で、はっきりと言明しています。米国の八つの要求に対して、中国は三つの主な意見の相違点を返しています。
関税取り消しに関しては、中国は全面的に取り消しを求め、購入問題には、アルゼンチンサミットで習近平とトランプ大統領がかわした数字を堅持し、軽々には変えないと。三つ目が「文章のバランス」でした。
多くのメディアは、第1と第2に注目して、第3の「条約のバランス」についてちゃんと説明していません。「いかなる国家も尊厳を有しており、条約にはバランスというものが必要だ。、この問題で、中国は見直しを行っている」ということの意味は、大変はっきりしているのです。北京(習近平)から見て、この条約の文面は中国の国家の尊厳を傷つけるもので、必ずや改めさせなければならないのです。
中国人を知ってる人なら誰でもわかるでしょうけど、中国政府の尊厳というのはメンツです。メンツが傷つけられたと言うのが、まさしく習近平が譲ることが出来ない一線に他なりません。
トランプ大統領も「メンツ」文化については、多少の理解はあるようですが、浅い理解なのです。例えば、中国人が会えばすぐ「朋友」とか呼ぶ習慣があるのを知っていて、対外的に名前を出すときは「習近平はいい友達だ」などと言えば、メンツをたてたことになると思っているようです。でも、彼は「朋友」の他に、、もう一つ中国文化の大きなタブーがあることをご存知ない。「口先で朋友と言いながら、背後で悪辣なことをする」のは、道義に反するのです。毎回、習近平はいい友達などと言いながら、すぐ要求を押し付けるのは、習近平自身、愚弄されていると感じるばかりでなく、彼が皇帝である中国への愚弄になるのです。何度も愚弄されていると感じれば、次第に怨みは怒りとなって、中国側の戦略は、「どんな代価を支払っても、絶対にトランプを再選させてはなるものか」となります。お前の票田の鍵は、俺が握っているのだ、だが、お前にだけは絶対に渡さない、さ、どうする?どうする!といったところです。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙の8月7日付ニュースでは、米・中貿易戦争のあおりで、中国の対米国産品への課税によって、今後2年間の米国農業部門は、5.9万人から7.1万人の雇用を失うと予想されるとのこと。トランプの選挙対策グループがいかに楽観的であっても、これには焦らないではいられますまい。
人類はインターネットのハイテク時代になって、世界第一のハイテク強国と、世界一の人口大国の間の貿易戦争によって、人類の生存に必要な大豆がなんと、後者の武器になってしまいました。これは、後世になって、現在の国際関係研究に一つの重大な教訓を残すことでしょう。(終わり)
原文は;何清涟:中美贸易战缘何变成习对川的超限战?