• ★グローバリズムの折れた翼 — ベルリンの壁崩壊30年 2019年11月13日

    by  • November 16, 2019 • 日文文章 • 0 Comments

    中国 何清漣
    中国 何清漣

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     ドイツのベルリンの壁が崩壊して30周年を記念式典は、5年前のそれと比べて寂しいものでした。冷戦時代の大国指導者が欠席しただけでなく、米国のポンペオ国務長官は、記念活動の前日にドイツを離れてしまい、フランスのマクロン大統領も出席しませんでした。これは、誰かが言うような、「30年周年は、別に大事ではないから」ではありません。本当の理由は、ベルリンの壁が崩壊してから、すぐに始まったグローバリズムが、今や広範な疑念の対象になってしまったからです。アメリカの政治学者のフランシス・フクヤマが「歴史の終わり」(The End of History and the Last Man)で述べた結論(訳注1)は、20年近く経った今もグローバリストからは愛されていますが、もうお終いでしょう。

     ★「歴史の終わり」は痴人の夢

     ベルリンの壁崩壊後に、グローバリズム政治に熱狂した人々の中には、日系米国人のフクヤマの「歴史の終わり」で、人類歴史上のイデオロギー闘争は、まさに終結すると結論を下しました。冷戦の終わりとともに、「自由主義」と資本主義が「最高の権威」となった、つまり、「資本主義陣営」が勝利したと。ベルリンの壁が崩壊して4年後に、ビル・クリントンがホワイトハウスの主人となって、野心満々にグローバル化を推進した時、フクヤマは「米国の新世紀プラン」シンクタンクに加わり、グローバリズム推進に大いに尽力したため、「歴史の終わり」はグローバリズム理論の大黒柱になりました。欧州連合(EU)は「世界は一つ」のコンサイス版として、6.5億人が参加したグローバリズム実験でした。EUの推進者は、EUの成功は人類が一つになってグローバリズムの深化推進を意味すると考えていました。

    ジョージ・W・ブッシュ大統領(任期;2001年1月20日 – 2009年1月20日)の時期、グローバリズムは組織化されました。ライス元国務長官は、著名な国際政治学者で、彼女は、グローバリズムは4つのレベルで国際的な往来を推進すると考えました。第1レベルは、世界の絶対多数の国々が国連に参加。第2は政府と政府間の往来、第3にはNGOで、国家が大ぴらに出にくい領域で、代わって働き、第4では、各国国民レベルの個人の往来です。ライス女史の推進の下で米国のNGOは爆発的に増え、大量に中国に入り込み、後に中国政府から「カラー革命の道具」と見なされました。

     ★グローバリズム経済の翼には得と損があった

     グローバリズムの翼には、政治と経済の両翼がありました。

     経済の翼は、先進国には、経済発展効果をもたらさなかったのです。一部の多国籍企業は、先進国での広告は感動的なものでした。例えば、米国のシティバンクがある年に中国で配ったカレンダーの表紙には「中国人民と共に21世紀を拓こう」と書いてありました。、

     グローバリズムは、確かに、発展途上国の人民には利益をもたらしました。例えば中国はグローバリズムの最大の受益者で、WTO加入から20年足らずの間に、GDP総額は2001年の1.339兆米ドルから、2018年の13.45兆ドル、世界のGDP総額の16%を占め、米国の20.5兆に次ぐものです。中国には、世界最多の中産階級が出現しました。世界銀行の基準で言えば、可処分所得の年収10万〜96万人民元の都市の中流家庭のグループです。この基準で測ると、2017年の中国の中産階級は3億人で、米国の1.2億人をはるかに超えます。中国は、更に世界一多い超級の大金持ちを生み出しました。富豪ランキングによると、中国の超級大金持ちは819人で、連続3年、米国のそれを上回っています。

     しかし、先進国の中産階級はグローバル化による失業が原因で、収入が低下し、生活状況が悪化し、すでに何人かの著名な経済学者がデータに基づいて研究を行っています。元世界銀行のシニア経済学者だったブランク・ミラノビッチは、1998年から2008年の全世界の収入の増減の変化を調べ、その結論は、中国とインドの中産階級の収入は、1998年から2008年までに、6〜7割増えましたが、米国の中産階級のサラリーマン家庭の収入は、増えていませんでした。

     彼の研究は論議を呼び、3人の経済学者の重鎮がこの論争に参加しました。マサチューセッツ工科大学のディビッド・オーサー、スペインの金融財政学センターのデビッド・ドーン、カリフォルニア大学サンディエゴ分校のゴードン・ハンソンです。この3人は、グローバル貿易と技術の進歩が就業に与えた影響を分析し、同様の結論に達しました。米国には、まさにそうした状況が現れているというのです。米国は、2016年の大統領選挙で、グローバリズムと世界各国の弱者グループ(自国の弱者グループは除く)に対する関心度の高さを自らの政治責任とする民主党が敗れ、トランプが勝利したのでした。

    ★グローバリズムの「政治の翼」は飛ばず

     政治の翼はグローバリズムの民主化理念です。米・ハーバード大学のジョセフ・ナイ教授が提起した「ソフトパワー」という概念が一時大流行しました。米国自身と世界の主流は、米国は十分なアピール力と影響力を持っていると皆が思い込んで、全世界に人権、自由、民主などを確信理念とする普遍的な価値を広めようとしたのでした。これに加えて、ソ連、東欧、ポーランドでおきたビロード革命や、カラー革命が出現し、人々は、民主革命が平和を推進するものだと信じ込んだのでした。

     しかし、願いもむなしく、グローバリズムの政治の翼は、その本当の力を一度も発揮することは、なかったのです。かつて西側の進歩的左派が、感激の涙を流した中東・北アフリカ4国のジャスミン革命は、「アラブの春」をもたらさなかったばかりか、反対に、それらの国々を「アラブの長い冬」の時代にしてしまい、最後にはISIS(自称イスラム国)を生み出し、欧州への難民の大波となって、EUを息も絶え絶えにしてしまいました。英国の欧州連合離脱(ブレクジット)の二大原因の一つは、この難民たちの流入を恐れたからでした。今年のベルリンの壁倒壊記念日の前々日、マクロン仏大統領は欧米のパートナーシップと北大西洋条約機構(NATO)は「まさに脳死状態」で、欧州は「危機に瀕している」と発言しました。

     グローバリズムの第一の旗手だったクリントン元大統領は、最初、中国のWTO加盟で、米国政界を説得するにあたっては、「中国をWTOに加入させ、開放的マーケット経済体制を打ち立てれば、中国を民主化に向かわせることが出来て、中国を国際社会に融和させられる」と言いました。しかし、これはとことん失敗してしまい、中国は今に至るまで、世界最大の独裁体制の牙城です。クリントンというお馬鹿さんの夢が産んだ政策は、ずっと影響を残しました。これは★中国という「経済版・進撃の巨人」は如何に出現したか?(上) —  米・中間の天地返し — 2019年10月31日★と★中国にお伺いをたてた「中国政策」の愚(下) —  米・中間の天地返し — 2019年11月9日★で、詳しく分析しておきました。

     ★独裁は揺らがず、西側はバラバラ

     上述のあらゆる問題の原因は、グローバリズムもたらす無国境化が、憲政に対する権利と責任を破壊してしまったから、つまり、一国の納税者は、必ずや全世界のいかなる地方の秩序破壊の結果のツケを、無限責任をもって支払わなければならない(これがメルケルが主張した、自国民の財布で、難民を無限に引き受けるという意味で、これでグローバリストたちの賛美の声一色になったわけですが)という話になったからです。グローバリストは、上述の現象がグローバリズム理論に対して、真正面から挑戦されているのはどの点なのか?ということを学ぼうとはしません。しかし、国連人権理事会の出版した、「2019世界人権報告」では、ついに別の形でグローバリズムの政治的な翼は既に折れていることを認めました。それにはこうあります。

     ;見方によっては、我々はまさに人権の暗黒時代にある。…伝統的な独裁者と変わらない、今日の独裁者は、普通の民主政治の中かから登場する。まず、罪を弱い集団に着せて悪魔だといいくるめ、自らの民意基盤を構築し、各種の公権力のバランス装置、例えば独立した司法や自由なメディア、活発な市民団体などの力を弱める。伝統的な民主国家でも、こうした扇動やコントロール手段に、抵抗するのは難しい」

     この話の、唯一正確な点は「今日の独裁者は、通常、民主政治のなかから登場する」です。そのほかの部分は、各国の政治によってことなりましょう。

     かつて「歴史の終わり」を宣言したフクヤマは、何度も自分のボロボロに破綻した鬼面人を驚かす理論に修正を加えてきましたが、福山であろうと、グローバリズムを様々に支持してきた専門家であろうと、皆、一つの基本的な事実を無視しています。民主政治が持つ優越性とは、それが権利と責任を負う政府にあるのに、グローバリズムは、反対に完全に権利と責任を負わない構造、すなわち軟弱無能な国連と各種のNGOに依拠していることです。

     国連という「超政府」の下にある機関は、例えば、国連薬物犯罪事務所(United Nations Office on Drugs and Crime)は、麻薬密輸を取り締まるのですが、国連難民高等弁務官事務所(The Office of the United Nations High Commissioner for Refugees、略称:UNHCR)は、あらゆる密輸関係者も「難民」とみなし、加盟国に無条件受け入れを要請し、客観的には、麻薬密輸業者に安住の地を世話し、麻薬密輸を助けたりして、お互いに争い合っています。

     各国の納税者は自国政府には、選挙でノーと言えますが、国連は世界各国、とりわけ米国や日本などの、大量の資金で支えられているのに、どの国に対しても責任を負いません。大多数は会議で、足の引っ張り合いですし、人権理事会は、相対的に小さな国の独裁政権は批判しても、中国の文革や今に至るまでの無法行為には一度も譴責決議をしたことがありません。いわゆる「全世界ガバナンス」はますます、空文句、決まり文句になっているのです。

     ★左派の幻想から現実に向かったマクロン

     ベルリンの壁崩壊30周年記念活動の凋落の背景は、まさに一時大モテだったグローバリズムの政治の翼がとっくに折れてしまったことにあり、かつてベルリンの壁を倒した西側同盟は、今やバラバラなのです。要するに、三つの要素がグローバリズムに疑問を突きつけているのです。

     一つは、先進国内部の、グローバル化によって損害をこうむるグループからの深刻な懐疑と否定。二つ目は、民主制度を広めるのが阻害されていること。世界の「暴政クラブ」が復活し、中国という暴政クラブの最大の国が受益者になって、日々、普遍的な価値が遠のいていること。三つ目は、グローバリズムが与える福祉の上限が限りがないこと。先進国の中産階級は、税金がいかに重かろうと、必ず、限りなく湧いてくる経済移民に福祉を提供しなければならないことです。

     グローバルな指導者たる米国としては、その「ソフトパワー」も、ついにそのコストがあまりにも高く、金銭的な援助をちょっとでも減らすと、同盟の友人たちから疑われ批判を浴びます。隣国のメキシコの大統領は、トランプ大統領が違法移民を受け入れないことに対して、「米国は我々(これには欧州も含まれます)の価値観と違う」と言いました。

     欧州大国のリーダーの中で、自国で「黄色いベスト運動」がいつまでも終わらず苦労しているマクロン大統領は、ついにグローバル化に問題があると悟ったようです。彼が「欧州は危機にある」といった発言は、ずっと批判されてきましたが、彼は11月12日にのパリ平和フォーラムでこんな談話を発表しています。

     ;「我らの国際的なシステムはまさに、前代未聞の危機にある」。国連は、既に「妨げばかりで、実行が困難」な組織だ。国家と組織の間には、新しい協力のやり方が必要で、新たな連盟が必要だ。そして批判の声に対しては、「我々は本当のことを知る必要があり、建前や虚構の話をしていてもダメだし、沈黙していては解決できない」と。

     (終わり)

    原文は;何清涟专栏:全球化政治之翼断折—柏林牆倒塌30周年纪念活动落寞缘由 
    (訳注1;国際社会において民主主義と自由経済が最終的に勝利し、社会制度の発展が終結し、社会の平和と自由と安定を無期限に維持するという説)

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