• ★ 虻蜂取らずのマクロン政治 2019年11月19日

    by  • November 21, 2019 • 日文文章 • 0 Comments

    中国 何清漣
    中国 何清漣

    中国2018 中国2017 中国2016 中国2015

     「政界の神童」と言われて39歳という、歴史上で最も若いフランス大統領になったエマニュエル・マクロンですが、この2年間は、苦労の連続でした。大統領選の時、賢明にも「左でも右でもない」を方針として、左右も中間派の有権者から支持を受け、就任後は大鉈を振るって改革を推進したのですが、各種の反対勢力に遭遇し、一年余を経て、左、中間、右が皆参加した「黄色いベスト運動」(ジレ・ジョーヌ)が爆発。この11月には、また二つの頭の痛い出来事が起きました。

     一つは、11月8日に、22歳の奨学金を打ち切られたリヨン第2大学の大学生が、自分の窮状は仏政府の政策のせいだ、国民は大学生の苦境に注目してくれ、との遺書を残して焼身自殺をはかりました。16日には、「黄色いベスト運動」が一周年を迎え、全国総動員をかけて大規模なデモを行いました。

     マクロンは、あらゆる政治的なスペクトルをカバーする「左でも右でもない」政策を掲げたのに、なぜ、今となっては「左にも右にも行けない」苦境にあるのでしょうか? それはフランスの様々な社会的な弊害が重なり合って、どんな政治家であっても、何とも出来ないからなのです。

     ★「左派でも右派でもない政治」

     左派のマクロンは、2年前に大統領選挙に出馬した時には、公約を真ん中寄りに調整変更しました。マクロンの公開発言と変化の過程をたどってみると、フランスの現状を認識するのに役立ちます。

    マクロンは本来左派でしたが、大統領選挙に際しては、国民がもう左右対立にうんざりしており、また、国民戦線の右派マリーヌ・ル・ペンが当選しかねない勢いだったのを恐れているのを見て取って、賢くも「左でも右でもない」という理念をスローガンとしました。フランスメディアの分析では、これが当選出来た主たる理由とされます。マクロンは、公約に違わず、就任後は一連の社会経済改革を、自信満々、強硬姿勢で実行に移し、短期間に人気を上昇させました。エリゼ宮の主人となってから一周年、フランスのElabe研究所の調査では、69%がマクロンは「本物の改革者」だと見ていました。

     しかし、「改革」は、人を感動させますが、実際には大変難しいのは古今を通じて言えることです。わずか一年内に、政府は労働法、財政、税収、教育、移民など多くの分野で改革方案を立案し、鉄道、医療、退職制度、公共サービスなどの部門での改革は、現在進行中か、あるいは近く実施されます。こうした改革に対する疑問や反対の声があちこちで出てきたのでした。

     それぞれの業界で、ことを長引かせようとするストライキの頻発は、政府の頭痛のタネとなりました。巨大な壁にぶつかっても、マクロンは一歩も引かず、改革は公約の実行だとして、自分のスローガンは、「有言実行」だと主張しました。フランスの主要経済紙レゼコーは、「フランス大革命は12級台風。ドゴール大統領は9級の台風、オランドー前大統領は2級だったが、マクロン改革は6級の台風だ」と書いたことがあります。

     ★改革は、右も左も真ん中も反対

     2018年11月17日、フランスの「黄色いベスト運動」が始まり、マクロンの苦闘が始まります。
     「黄色いベスト運動」の始まりは、ディーゼル燃料用の値上げとマクロン政府のエネルギー製品消費税値上げ反対への抗議でした。しかし、その要求は雪だるま式に、草の根レベルと中産階級の購買力アップや、マクロン退陣を含む内容に急速に拡大しました。

     マクロン大統領は、当初の「左でも右でもない」というスローガンは、万事順調でエリゼー宮の愛される主人にしたのですが、一連の経済・政治改革は、左、中、右全部を共同の敵にしてしまったのです。「黄色いベスト運動」には、左、右、中間派の全てが参加して、中には無党派層まで加わりました。

     後の十数回の抗議デモの内容から見ると、ディーゼル燃料用の値上げは、ただの導火線に過ぎず、それがフランス国民の、政府の高税収政策への不満に火をつけ、マクロンの経済改革の意図を全面的に否定するようになったのです。

     デモ側は、政府に全面減税と同時に最低賃金や退職金水準を上げるようにと要求しました。運動の始まった頃は、ニューヨーク・タイムズ紙の報道に酔えら、多くのアンケートが、7〜8割のフランス人が「黄色いベスト運動」に同情的な見方を表明しました。

    「黄色いベスト運動」は、1968年の五月危機以来、最大規模の社会的な広がりを見せました。マクロンは、賢明にも国民的討論を広げようと提起しましたが、フランスの現状は、t討論したところで、簡単に終わりになるようなものではありませんでした。

     マクロンもついに、国民の複雑な利益の要求を、全て満足させる方法はないことを発見し、2019年の新年演説では、あの有名な、「仕事を減らして、給料を増やし、税金を減らして、福祉給付を増やすことは出来ない。我々の暮らしの習慣を変えないで、もっときれいな空気を吸いたいというのは無理な話だ」と言いました。彼は、大衆に、あれもこれもといった相反する要求を求めるのは、非現実的だと率直に指摘したのです。

     しかし、彼は、自分が最初に「左でも右でもない政治」というスローガンで、万事順調にいくことを願って、矛盾した大衆の要求を満足させようとしたことを忘れています。それが、実行不可能な任務だから、「黄色いベスト運動」で、マクロンは「さっさと辞めろ」という話になったのです。

     ★フランス社会の積年の病弊

     こうした咎を、マクロンの個人的な指導能力のせいだとするなら、大間違いです。「黄色いベスト運動」に参加している大部分は、パリ郊外の小さな村に住む中・低層の大衆で、今回の騒動は実は、フランスの底辺層大衆が、このチャンスに心中に抱いて久しい鬱憤ばらしをしているのです。

     この社会に対する不満の源は、三つあって、ますます高まる失業率(原注;9.1%。若い人々だと24%とも)、暮らしの質的悪化、可処分所得のますますの悪化です。この三つは、実はフランスの長年にわたる社会的な悪弊の蓄積で、マクロンの改革はただ、フランス社会の傷の膿を、出したに過ぎません。

     フランスの債務はとっくに積み上がっています。「黄色いベスト運動」が勃発する前の、2018年第3四半期のフランスの公的債務は、2兆2553億ユーロでした。同時に、フランスは早くから経済協力開発機構(OECD)内で、税負担が最高の国です。

     マクロンが大統領に当選した2016年には、世界銀行とプライスウォーターハウスクーパース会計事務所が共同で発表した「世界税務報告2016」では、フランスの企業税率は、欧州最高の62.8%でした。個人所得税も、欧州有数で、1法人の平均年間収入は、5.58万ユーロで、納税後の実際の収入はたった2.81万ユーロで、税率は、欧州連合(EU)平均の45.1%を上回る57.5%です。

     こんなに税金が高いのは、当然大衆の日増しに高まる福祉の要求を満足させるためです。フランスの政党は、選挙で勝つために、全て福祉を約束しますから、その結果、フランス人の福祉は益々向上し、保障は益々手厚くなり、労働時間はますます短くなり、各種の有給休暇も益々長くなります。

     3000ページ以上にもなる「労働法」の保証の下で、フランス人は毎週、35時間しか働きませんし、ちょっとでも気に入らないことがあると、すぐ何週間ものストに訴えます。貧乏人と失業者には、各種の福祉措置があり、補助金、救済金がありますから、多くのフランス人は仕事をしないでも、そこそこ暮らせるのです。

     フランス人は、「我々は暮らしのために仕事をする」と得意になって、「生きるために仕事をする」米国人を小馬鹿にしています。でも実は、フランス人はとっくに、暮らしを楽しむ資本を失ってしまっているのですが、知識人も民衆も、現実を見ない方を選びます。

     IIMF(国際通貨基金)は、ずっとフランスに、「大幅に政府および公共支出を削減し、負債水準を下げない限り、フランスはギリシャのような災難に見舞われる」と警告し続けています。


     ★マクロンの希望は、中国とロシアに?

     マクロンの改革は、自国フランスのこの”怠け者”たちにひと鞭当てたいと願ったわけです。彼はかつて、おおっぴらにデモする群衆に「服を買いたかったら、仕事を頑張るべきだ」と言いました。しかし、一国の民族性はそう簡単には変えることができません。「あれもこれも」欲しいという大衆に、マクロンは、ついに人々に極めて不評だったあの、2019年新年演説をかましたのですが、それでもフランス人の国民的な習慣の惰性を変える力はありませんでした。

     分析によれば、フランス人学生の福祉は、ちっとも悪くありませんで、11月8日に、焼身自殺を図った大学生は、卒業後の展望のない前途の苦境を問題にしていましたが、全フランス学生連盟の議長が言う解決法は、「住居も、交通も、食事も、すべて若い人の社会保障システムが悪い」で、解決法はやはり福祉を増やすことでした。

     国内改革に展望を見い出せなかったマクロンは、対外的な包囲網突破を思いつきました。どうやって?米国という兄貴分は、もう欧州防衛費用の負担を嫌がってますし、パリ気候協定をふくむ国連の諸組織からも脱退していますので、マクロンは、現在、勢い良く勃興している国際勢力に目を向けました。例えば、中国やロシアです。

     ロイターによると、8月27日、G7サミット終了後、マクロンフランス大統領はフランスの大使相手に外交談話を発表した時にこう警告しました。「我々は18世紀の初めに打ち立てられた西側の覇権の上の世界秩序に慣れきっているが、西側の覇権は終わりつつある。中国は今世界の最先端におり、ロシアもまた戦略的な成功をおさめている。そして、マクロンは西側国家に、ロシアとの関係を反省して、「米国とロシアの戦略的戦いの中に巻き込まれる」ことを免れるために反省を呼びかけました。

     もし、フランス国内で、左右、中間派の共同の反対で、政治的な苦境にあるのは仕方がありません。彼の抱える問題は、1日にして出来上がったものではないからです。しかし、国際戦略でとんでもない間違いを犯し、国連と国際体制の欠陥への批判は、彼のものの見方に問題があることを表しています。

     中国とロシアと結ぶと言うのは、間違った処方箋で、それもむちゃくちゃです。どうもドゴール元大統領が、「第三極」たらんとしたのを学ぼうということのようですが、これでは「虎を描いて、却って犬になる」という結果になるでしょう。(終わり)

     原文は;何清涟:马克龙理政:左右兼顾终成左支右绌
    いうkっっっっj

    Print Friendly, PDF & Email

    Leave a Reply

    Your email address will not be published. Required fields are marked *