• ★政治、経済、社会の「中国式モデル」の苦境 2019年11月25日

    by  • November 27, 2019 • 日文文章 • 0 Comments

    中国 何清漣
    中国 何清漣

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     中共が「崛起」を宣伝しているけれど、中国モデルは苦境に陥っている。経済的にも、盲目的な発展を目指して陥穽に落ちただけでなく、政治的にも専制体制が「囚人のジレンマ」に陥り、価値観でも道徳的なピンチだ。この三つの苦境はそれぞれ、互いに繋がっており、縛り付け合っており、抜け出すのはすこぶる困難だ。

     ★中国で流行る「陥穽」論

     2019年は中国情勢に重要な展開のあった年となった。中国「崛起」論の余韻が冷めないうちに、中国モデルは既に苦境にある。しかし、これを見て取れる人は多くはない。西側国家には、ほとんどいないと言ってよいかもしれない。

     過去30来、中共の政治の業績を褒めちぎってきた西側人士は相当な数だ。彼らは「長年、中国経済の成功は大変なものだ」から「中国の今後は過去の経済の栄光の延長にある」とかいう結論を簡単に出してしまう。間違いの共通点は、中共の置かれている立場と、中国経済への理解が欠けているために、往々にして幼稚で馬鹿げた結論になる。

     今年11月5日に、「中国は米国に変わってグローバル経済の機関車になる」を書いたロイターの市場アナリストのジョン・ケンプなど、まさにそれだ。そしてケンプを崇め奉る国際通貨基金(IMF)の研究は更にむちゃくちゃだ。IMFは今年の10月に「世界経済展望」報告で、2013年から2018年の中国は、全世界の成長の28%を占め、米国の2倍以上だとした。この予想だと今後5年間、中国はグローバル経済成長で、ずっとこの水準を維持するというのだ。

     実際には、こうした賛美は、中共の官製メディアに洗脳された国内の大衆以外、中共御用達のシンクタンクだって信じちゃいない。彼らの中では、とっくに「陥穽」の分析が流行り始めている。近年の中国は「陥穽論」が大変かまびすしいのだ。

     例えば「中収入の陥穽」「トゥキュディデスの罠」(訳注1 アテネとスパルタの様に従来の覇権国家と、新興の国家の矛盾が戦争が不可避な状態になる。)「キンドルバーガーの罠」(訳注2;チャールズ・キンドルバーガー。1910〜2003年 米国の経済学、歴史学者。新興国家が覇権国家に変わる時に後者の役割と責任を引き受けないと1930年代のような不況を招くという理論。・2017年、米の国際政治学者ジョセフ・ナイの米・中関係の指摘で再認識された)などなどである。

     こうした「罠」の名称は、中国国内の学者が外国から拝借してきたもので、用法の正否はどうでもよい。はっきりしているのは、中国国内では、中国モデルが「陥穽」にはまるかについて、これほど関心が持たれているという事実だ。

     ではなぜ、中国国内のそんなに多くの学者が、「罠」を熱心に論議しているのか? 原因は、実はストレートに論議しにくい、本当の問題が、そこにあるからだ。彼らは現実と未来に、もう以前のように自信満々ではいられず、不確定感と迷いに満ちているからだ。

     「陥穽論」の中国国内アナリストたちは、当然「中国的特色あるポリコレ」として、常に多少は「光輝く未来図」を描写して見せなければならない。だから、彼らは上述のロイターの記事やIMFのような「舶来品」を使って、自分たちの「国際的な視野で見た論拠」とすれば安全なのだ。だから、中国政治経済を本当に理解してはいないIMFなどの「国際的な視野」は、中国が陥穽にはまることの心配や、あえて全面的な真相を話そうとしない中国の学者たちが、うわべを繕うとするときに便利なツールとして使われる。

     しかしながら、本当に注目に値するのは、中国国内の「陥穽論」分析は、往々にして、肝心の問題を回避しようとしていることだ。もし「ナントカの罠」に落ちたとしても、そこから簡単に抜け出せるというのなら、別に大した問題ではない。しかし、なかなか抜け出せな位のなら、困ったことになる。

     実際は、中国の情勢は、ただ落とし穴に落ちたばかりではなく、苦境にあるのだ。この点に関して、政府側は既に経済、政治、道徳の三つのレベルから分析をして確認しているのだが、ただ、この3分野の苦境が一緒になった時どうなるか、という全体の結論は出していない。

    ★共産党資本主義は自らを支えられるか?

     いわゆる中国モデルというのは、私は、4年前に英文と中文で文章書いて指摘したんが、その実質とは、つまり資本主義経済制度を採用した中共の専制政治が強化されたということだ。制度的にはこのモデルが「共産党資本主義」だ。ならば、この共産党資本主義はもともと十分な生命力があるのかという点だが、これは事実によって検証しなければならない。2019年の中国情勢が一連の証拠を提供してくれていて、中国モデルが全面的に苦境にあることが分かる。

     1990年代から、中共の全面公有制度と計画経済体制は改革の途上で数々の壁にぶつかって、最後には経済が潜在的金融危機に引き込まれ、国有銀行システムは全面的に原資不足に陥った。これは、社会主義経済が必然的に招く結果だが、そこから抜け出すために、朱鎔基は国有化の全面私有化を推し進めた。(原注;つまり制度改革)

     同時に計画経済体制を放棄し、最後には、計画経済の管理システム(原注;中央の指揮する中枢の国家計画委員会から、市、地域レベル、更にその下の県レベルの一級計画委員会まで)全てを解消してしまって、共産党資本主義が誕生した。そして、市場経済の旗印をもとに、まんまと世界貿易機関(WTO)に加入し、20年近い経済繁栄の時代を迎え、同時に中共の集権政治体制を強化した。

     もし、この経済繁栄が長期にわたって続けていけたのなら、あるいは「共産党資本主義」制度の力だということが出来たかもしれない。中共の集権体制が、それによってより強固になって、今後も続いていけるように思えたかもしれない。この種の、中国が未来のグローバル経済の牽引車になるという論法や、中共の「発展は確固たる真理」といった宣伝は、つまりそうした考えの上に立つ推論なのだ。

     しかし、これは根本的な現実を無視している。つまり、共産党の集権体制は、本来確かに、資源(原注;財政、金融、土地資源)を、行政力によって集中し、経済成長を加速する。しかし、このやり方では同時に、経済繁栄の過程の中で、自ら墓穴を掘ってしまう。一連の悪い効果が出てしまい、最後には、経済発展の基礎を動揺させてしまうのだ。2019年はまさに、そうしたマイナス面の結果が、全面的に展開された1年だった。IMFの専門家たちがこれに気がつかない理由は、彼らが権力集中体制の運営ルールを理解していないからで、だから幼稚な「中国繁栄病」にかかってしまう。

    ★短い繁栄の日々は窮迫の日々へ

     多くの人が、過去の経済繁栄を懐かしんでいる。当面の困難は一時的なもので、中国は経済繁栄を再建するのだと盲目的に信じている。しかし、こうした判断は、別に客観的な分析の上の本当の現実状況の上に建てられたものではなく、「そうなってほしい」という願望が前提になった主観的な想像の類だ。実際は、過去20年の中国経済繁栄の原因が、まさに今、繁栄が消えていく理由でもあり、両者には深い関連がある。

     中共も「輸出景気」と「土木プロジェクト景気」に望みがないことを認めている。中共の新たな言い分は「産業のアップグレードが経済繁栄の再建」だ。しかし、この点では中共の言い分は矛盾している。

     中共は国内では技術創造、革新の十分な力があって、産業のアップグレードを実現できると強調するが、米・中貿易交渉では、知的財産権問題では堂々巡で、一番デリケートでかつ最重要なこの問題を避けようとしている。決して、西側国家の知的財産権侵害をやめるとは約束しようとしない。いったん、やめれば、産業のアップグレードも止まってしまうからだ。米国上院は、最近、米国の研究型企業に対する数多くの脅威 中国の”千人計画”」を発表し、詳しく紹介している。

     国際実業界を宥めるために、中共は「10数億の人口の消費力は巨大で、中国国内消費だけで、経済成長を引き続き牽引できると宣伝している。実際は、中国の放漫な不動産バブルの苦しい結果はもうはっきりと見て取れるのにだ。不動産バブルによる高すぎる住宅価格は、ずっと国民の消費力を圧迫している。のみならず「不動産景気」が消えてしまい、経済が下り坂になって、まず企業の赤字、次に労働者の収入減、更に企業が不断に新規雇用を停止しばかりか、人員削減まで行うようになって、失業率が次第に上昇している。

     国家統計局の最新データでは、2019年1〜8月までの、全国工業企業利潤は、マイナス1.7%で、うち8月には2%下がっている。経済発展地域の工業企業利潤は、二桁で減少しており、北京は14.4%、河北11.2%,山東13%で、金融、貿易、運輸の中心の上海では19.6%も減少だ。実体経済の不振は、中国経済が既に苦境にあることを示している。

     現在の経済苦境は、単に企業が損をしたとか経営が困難だとかではなく、もう国民の収入にまで影響が出ている。都市住民の収入が下降し始めているのだ。国家統計局が発表したデータを分析したのだが、今年上半期と今年の前の3四半期の全国の家計における可処分所得(原注;税引後の消費や貯金に回せる収入で、給与収入、経営収入、財産収入、移転性の収入を含む)では、今年第3季度の全国の都市住民平均収入は、上半期の平均収入を下回っている。

     まず先に説明すると、去年10月1日から、当局は消費を刺激するために、個人所得税の徴収を限度を、最低限3500元だったのを5000元に改めた。これまで所得税納付が必要だったのは1.9億人だったが、この改定で6400万人前後に減少した。

     この意味は、二つある。一つは1.3億人の労働者の月平均収入は、5000元以下だということ。第2には、徴税最低額が下がってから、3200億元が、所得税として徴収されなくなって、手元に残せるということだ。だから、市民の可処分所得は、本来なら一定程度上昇しなければおかしい。
     にもかかわらず、今年の実際の状況は、上半期の一人当たり可処分所得は3557元なのに、第3季度では、月一人当たり3,532元で、上半期より25元少なくなっている。

     これは20世紀末からこのかた、始めて出現した状況だ。そして、サラリーの減少分は、完全に個人所得税減税によってもたらされた収入増加分を飲み込んでしまっているということだ。つまり経済の下降が、市民の購買力にマイナスの影響を与え始めており、今後の状況は、失業者数の増加、就業人員の給与が更に減っていくと言うことだ。

     明らかに、中国は経済下降のプロセスの中、これまでの繁栄に別れを告げる屈折点にあり、いまや厳しい歴史段階に入ったのだ。

    ★中国式モデルの直面する、経済、政治、道徳の苦境

     経済の苦境は、中共が現在直面している唯一の問題というわけではない。中共の政治システムも「囚人のジレンマ」に陥っている。

     この言い方は、中共の対外宣伝メディアである「多維ニュースネット」が言い出したことだ。最近数年、中共の官僚界に登場した一種の「新ムード」のことを指し、それは役人たちが「二心」を抱いているというものだ。

     典型的なのは、仕事をサボろうとする態度で、官界とトップレベルの関係が、江沢民、胡錦濤時代のような「上下一心、金儲けに励む」といった「共犯関係」ではなく、毛沢東時代の「猫とネズミ」関係で「ネズミどもは猫を恐れ、みんな寝たふり」になっている。中共の官製メディアが「囚人のジレンマ」というゲーム理論の概念を用いて、官界の矛盾を説明しているのだ。

    この官界の苦境については、程暁農★「囚人のジレンマ」の中の「国家ガバナンス」 2019年11月5日
     と《中共官场新“气象”》5月1日(わ、未訳だ)で分析しておいた。

     いわゆる官界の「囚人のジレンマ」の実質とは、トップレベルの反腐敗キャンペーンの後、役人たちは腐敗で旨い汁を吸えなくなってしまい、現状に不満たらたらとなって、やる気を失ってしまった。そして、中南海の命令が行き届かなくなって、トップレベルが基盤の役人たちの力を使って、経済苦境から脱却しようとしても、うまくゆかなくなっていることだ。

     独裁体制が短期間、経済繁栄を推進出来るのは、制度的理由として、役人たちが儲かるからだ。反対に、「囚人のジレンマ」の下では、役人はサボるから、こうした体制はうまく働かなくなる。官界の政治的な苦境は、腐敗は国家を空っぽにするが、反腐敗キャンペーンは逆に官僚たちの「力」と「心」を空っぽにしてしまう。独裁体制から、命令力がなくなってしまえば、残されたのは政治的弾圧で「治安維持」するしかない。

     官界の政治的な苦境と関連するのが、全社会的な道徳の危機だ。中共政権が出来てから、中国社会の価値観は奇形化し、1980年代後期から、道徳面での悪化がますます深刻になった。中共は10月27日に「新時代の公民道徳建設実施要項」を発表して、中共が直面する道徳的危機を卓上に載せた。

    官製メディアはこの道徳的危機についてこう書いている。

     ;こうした問題は、拝金主義、享楽主義、極端な個人主義の突出を含む。是非、善悪、美醜を分かたず、利益の前に義を帰りまいず、ただ利益を貪り、他人の損害を顧みず自らの利益を図り、公に損害を与え、私利を求める。嘘を平気でついて信用を重んじない。

     現在、中共のトップレベルの言う「道徳建設」とは、主に官界を対象としている。これは官界の悪辣さが社会全体の道徳の悪化の根源の一つだらからだ。今、官界の「囚人のジレンマ」は、官界の腐敗についての「注釈」のようなものだ。

     過去に、中共の役所腐敗対策は、正面から「やめなさいよ」と宣伝して御茶を濁すだけだった。現在の官製メディアは「江沢民時代には、腐敗と拝金現象が氾濫し、中国の道徳分野で多くの弊害を与えたが、ずっとそれが変わらない」と言くようになった。

     で、最近、習近平は、もう正面から宣伝で呼びかけるのはやめて、「官徳」をもって、官界に対処しようとしている。つまり、今後はGDPの上昇を基準とせず、「官徳」をもって、抜擢の基準とするというのだ。同時に、監察部門を使ってプレッシャーをかける。しかし、政治的な圧力で「官徳」を正すことなど出来ようか? 官界の「囚人のジレンマ」が証明するように、役人たちはずっと消極的抵抗を続けているのだ。

     経済の苦境が、官界の「囚人のジレンマ」となり、更には道徳の危機になると言うのは、中共が確かに現実に、経済、政治、社会の三つの主要な分野で危機にあることを表している。しかし、これは結局のところ、共産党資本主義体制の必然的な産物だ。

     経済の苦境は、中共が長年、目先の経済目標を盲目的に発展させた必然的な結果だ。現在、中共は役人たちが、経済の苦境から脱出するために努力することを願っているが、政治的苦境にあるトップレベルのこの望みは虚しい。道徳的な危機は、その実、政治的な苦境の原因の一つだし、経済的な苦境の盲目的発展に関係する。というのは官僚たちがそうしたのは、”腐敗出来るチャンス”が存在したからやったのだ。この三つの分野の苦境は、それぞれに、お互い絡まり合っており、簡単に抜け出せるものではない。これが、まさに現在の中国情勢だ。(終わり)

     原文は;程暁農 中国模式步入困境 

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