• 程暁農★NATOの危機 — 中国が揺るがす欧州の軍備と福祉制度 2019年12月13日

    by  • December 15, 2019 • 日文文章 • 0 Comments

     北大西洋条約機構(NATO)各国の分裂は、カナダのジャスティン・トルドー首相がエマニュエル・マクロン大統領、ボリス・ジョンソン英国首相、マルク・ルッテオランダ首相と一緒に、トランプ米大統領の悪口を言ったから、などという単純なお話ではない。これはNATOの存在自体が必要か否かに関わる話だ。

     欧米主要国家の国家防衛政策の違いは、今月初め、ロンドンで開かれたNATO首脳会議で、はっきりと露呈した。この意見の相違は、NATOの存在の必要性にまで関わる問題だ。しかし、米国の希望する、NATOの範囲をアジアまで広げて、中国に対応すべきだという主張は、冷淡な反応しか得られなかった。西側主要国家間の複雑な意見の食い違いは、各国の防衛政策の違いだけではなく、各国が直面する経済上の難題に関係するもなのだ。

    (1)NATO設立70周年記念。「脳死論」の由来

    NATOは、ソ連と北半球の脅威に対応するために生まれた国際的な防衛組織で、今年、設立70周年を迎えた。この記念すべき年に、主要メンバー国の間で、互いに名指しで非難し合う前代未聞の論争が起った。

     12月5日付のウォール・ストリート・ジャーナル紙は、「NATOサミット、てんやわんや」では、2日間の会議では、各国指導者が大っぴらにお互いを責め、文句を言い合った。しかし、非公開会議では、その分裂は押し隠され、戦略問題と防衛計画では一致を見せた。記事の筆者は、こうした意見分裂を弱めることを望んではいるが、問題は解決しておらず、棚上げになっただけだと指摘している。

     これらの国家同士の論争は、どれほど深刻なのか? それを知るにはまず、どこからこの意見の相違が生まれたのかを見なければならない。

     NATOの存続に関する論議は、マクロン仏大統領が言い出したことだ。同大統領は11月6日に、英雑誌エコノミストのインタビューに、歯に絹着せず「米国は我々を見捨てつつある」「NATOは脳死状態」と言った。彼は、「欧州は今や崖縁で、まず、戦略上から、自分たちが地政学上の政治大国だと認識せねばならず、さもなくば自分らの命運を握っていられなくなる」と言った。「脳死論」は、NATO軍に変わる防衛共同体の欧州軍構想の論議を引き出すためだった。そして同日、ヴェルダンで「本当の欧州の自分たちの軍隊を作ろう」と呼びかけた。

     このマクロンの「脳死論」に対し、不満を表明したのがアンゲラ・メルケル独首相で、ニューヨーク・タイムズ紙11月23日の報道では、11月10日の夜、ベルリンの壁倒壊30周年記念のパーティの席上で、マクロンに「異常なほど腹を立てていた」と言われる。メルケルは、「あんたがガラガラポンをやりたがってるのは知ってるが、もうあんたの起こした騒ぎを収める役割は真っ平だ。何度もあんたがぶち壊した破片をつなぎ合わせて、やっと落ち着いて話し合えるところなのに」と言ったとかで、明らかにメルケルは、マクロンの北半球防衛体制を揺さぶりに怒っている。

     また、NATOメンバーであるトルコのレジェップ・エルドアン大統領大統領は、11月29日に、大っぴらにマクロンを「自分の脳みそが死んでないかチェックしたほうがいい」と批判した。

     続いて、12月3、4日には、ロンドンで開かれたNATO70周年記念首脳会議で、トランプ大統領とNATO委員長が共同記者会見を開いて、席上、トランプ大統領は、「マクロンの脳死論は。大変、大変、人を馬鹿にしたもので、なんでもかんでもNATOの悪口ばかり言えばよいというものではない。これは無礼だ。NATOは、フランスが一番必要としているというのにだ。NATOから一番受ける利益が少ないのは、米国に他ならない」と言った。これはフランスが、米国から甘い汁を吸っているくせに、自分らは馬鹿を見たのだと文句を言ってると批判したのだ。

    この70年、基本的には国際防衛組織として歩調を合わせてきたNATOが初めて直面した主要メンバー国同士の対立だ。が、先に引用した各国指導者の言葉は、既に、外交的辞令の限界を越えてしまっている。事実上、NATO内部に存在する多くの異論は、上記の話だけにはとどまらない。少なくとも米仏、仏独、米欧、欧州とトルコの4つの方面で対立がある。

     ⑵ NATO内部の4大対立

     ソ連崩壊後、ロシアの政治動向の風向きが変わるにつれて、ロシアはエリツィン時代から西側と協力的だったのだが、それがプーチン時代になって、再び関係が悪化した。そして、プーチンがウクライナ分裂の挙に出でからは、ロシアが欧州の平和を脅かす可能性がまた生まれた。こうした風向きの変化の中で、NATOの主要国家の条約に対する姿勢も、次々と重大な変化が生まれた。

     ドイツはロシアの脅威の第一線にありながら、自分では軍事費を出し惜しんで、軍備は大変劣化している。だから米国が引き続きドイツの安全を保護してくれることを願っている。さもないとドイツは防衛力無し国家になってしまうからだ。

     フランスはロシアの脅威を受けるドイツと違って、より西側に位置するので、東欧、中欧のような安全についての心配は、事実上感じないでいられる。その上、軍事力もまずまず(訳注;核兵器保有国)なので、NATOを捨てて、別の機構をつくり、欧州連合(EU)が、フランスの「核の傘」に頼ってくる様にしたいのだ。

     イギリスはブレクジットで忙しく、他のことをかまっている暇はないが、自衛には十分な軍事力(訳注;核兵器保有国)を持っている。

     米国は、現在、中国の潜在的な軍事脅威に独自で対決せざるを得ないので、NATOの協力を期待しているが、NATOの他のメンバー国の反応ははかばかしくない。

     こうした背景の下で、NATOの主要メンバー国家の間の紛争は、現在以下の四つになる。

     ① 米仏間の争い。仏国は米国の欧州防衛任務への貢献を貶め、これを理由に、核兵器を持つ仏を中心とする「欧州軍」を作ろうとしている。これが出来ると、仏工業界が欧州の軍事関係の発注をどっさり受注出来る。

     ② 仏独の争い。ドイツは国防支出を長期的に減らしてきた点は、仏と同じ。しかし、米国が提供する国防上の安全は必要としているので、マクロンの「NATO脳死」説による欧州軍設立には反対。

     ③ 米国と欧州の争い。NATOの大多数の欧州メンバーは長期にわたって極力、軍事費を削減した。その結果、米国がそうした国の支出削減分を引き受けてきた。トランプ大統領になってから、ずっと軍事費支出を増額を要求しており、最近、一部の欧州国家がやっと少しだけ軍事支出を増額した。

     ④ 欧州とトルコの争い。トルコは武器をロシアから購入。またシリア問題でもロシアと協力し、NATOの不満を買っている。

     こうした、既に明らかになっている争いのほか、NATO諸国の欧州メンバー国と米国の間には、防衛任務の重点に関して潜在的な意見の相違がある。マイク・ポンペオ米国務長官は、11月20日にベルサイユの外交会議で、盟友国家は、中国共産党の潜在的な長期的脅威に対応しなければならない、NATOは、中共と自分たちの『根本的な違いと、異なった信念』に警戒を怠ってはいけない」と語った。

     質問に答えて、ポンペオ長官は、1949年にNATOが成立した時点では、「中国共産党の脅威」など考えてはいなかったし、冷戦でNATO側が勝利したのは「自由と民主」のためだったが、今やNATOと中共の価値観は完全に対立しており、NATOの重心は、中国に設けるべきである、と述べた。

     しかし、12月はじめのNATOサミット後も、米国の、NATOは、ソ連だけでなく中国にも注意を向けるべきだという願いは、欧州のメンバー国家からの積極的な反応はなく、閉幕に当たっても、声明文、中国を脅威とする文章は盛り込まれず、注目すべきだ、という程度だった。

     この意見の相違は、冷戦終結後、NATOメンバーは、それぞれ自国が直面する国際情勢が不断に変化し、それぞれの情勢判断と戦略の選択において、ますますくい違いが大きくなったことを表している。特に、一部の欧州の先進国は、地政学上と経済の需要から、米国との摩擦が増えて、NATOが出来てから40年続いた協調防衛の共同体戦略は、もう存在しなくなった。

     こうした意見の違いの背後には、NATOの多くの欧州メンバー国家が考慮しているのは、いかにして国防支出を減らし、国防支出が社会福祉の費用を減らすのを回避するかだ、という問題がある。これは、誰もが大っぴらには認めたがらないが、期せずして、どの国もがやってきた国策なのだ。この「アメリカから甘い汁を吸う」のは、EU諸国の大部分の国家の共通したニーズだった。

     (3)NATOメンバー国の国防支出とドイツの現状

     2016年、トランプが大統領戦に望んだ時、ジョージ・ブッシュ(父)大統領以来、歴代の米国大統領がデタラメをやってきたNATO関係の財務問題を俎上に載せた。事実上、米国の絶対大多数の選挙民は、それまで自国の政府がNATO軍のために長期にわたって無駄金を使ってきていたことを知らなかった。

     NATOの規定では、国防負担の費用は各国は必ずやGDPの2%を支出することになっていた。ただ、ウィキぺディアが発表している最新のGDPと軍事費の当初の費用は、その合計も、各国の百分率も多くの間違いがある。筆者が計算して得た正確な数字は以下の通りだ。

    最新資料によれば、NATOの総軍事費支出はGDPの2.56%だが、NATOの米国を除く他の28メンバー国家の総軍事費がGDPに占める比率は1.53%に過ぎない。米国の軍事費は、GDPの3.56%を占める。だから、NATOの多くの欧州メンバー国家が、出来るだけ軍事費を少なくしても、国防上の安全を手に入れられたのだ。

     27カ国の欧州メンバーで、ラトヴィア、リトアニア、エストニア、ポーランド、ルーマニアのロシアと国境を接している国と、バルカン半島の不断に角突き合わせるギリシャ、防衛力保持を堅持している英国の7カ国は、国家の国防支出がNATOの規定に達しているが、他の欧州国家とカナダは、基準に達していない。

     その中の最も典型的なのはアイスランドで、GDPの0.02%だ。NATOの防衛支出は、この組織の「鉄板バイキング料理」主義の欠陥をはっきり表している。せっかく甘い汁を吸えるのに、吸わないのがバカであり、甘い汁は吸い放題、ということだ。

     NATOの主要メンバー国のうち、英、独、仏、イタリー、カナダはみなG8のメンバーで、この5カ国の富裕な先進国のうち、英国を除く、独、仏、イタリー、カナダの国防支出は、甘い汁派だ。

     仏はGDPの1.83%,独は1.35%,イタリーは1.18%,カナダは1.28%。NATO加盟国は皆、自国の軍隊を持っており、軍隊には給料を払わなねばならず、更にその他の人事費用や福祉支出も必要だ。NATO諸国が自国の国防経費を節約した直接の結果は、人件費を払ったら。もう武器の研究開発費は残らず、装備更新は出来ず、軍事力維持に使う金もない。だから、国防は空洞化した。

     欧州最大かつ最も豊かな国はドイツで、ロシアからも近く、本来なら国防は高度に重視されるべきだが、実際には、その軍隊の人数や装備の状況は、軍事費を圧縮したために、驚くような実態になっている。
     2013年10月4日のドイチェ・ヴェレによると、ドイツ連邦の軍人は減り続けて降り、本来25万人のはずが17万人。多くの志願兵は、就職や進学、軍隊生活を好まず兵営から脱走したり、兵役を中断したりしている。2015年12月2日の報道では、国防軍の老朽トルネード偵察機は、23年から34年も使用されて降り、新型のユーロファイター戦闘機は55%しか稼働状態にない。この数字は更に悪化して、最近では2018年5月2日のデア・シュピーゲル誌によると、2017年のユーロファイター戦闘機は39機しか出動態勢にない。2018年にいたっては、たった10機しか実際の戦闘力がなく、弾丸の在庫も極めて少ないので、実際に作戦任務にあたれる戦闘機はたったの4機しかないという。2018年10月31日のドイチェ・ヴェレによると、2017年に配備された攻撃ヘリコプター、ティーガーは、2018年になっても2機しか運用できず、7機の輸送用ヘリコプターで使用できたのは4機だけだった。2017年に軍に引き渡された米国の装甲車71台は、2年目に動いていたのは27台だけ。新戦車の6割はまったくのお飾りだった。

    中国 何清漣

    中国2018 中国2017 中国2016 中国2015


    (4)欧州主要国の防衛政策は、自国の社会福祉制度に制限される

     ドイツは欧州国家の中で防衛が空洞化している唯一の国というわけではない。NATO(原注;実質は米国)の保護下で、多くの欧州国家は、似たようなものだ。

     では、これらの国家はNATOの規定通り国防支出を増やせるのか?フランスのマクロンの頭痛のタネとなっている公営部門の従業員の大ストライキを見れば、答えは出るだろう。フランスの少なからぬ公営部門は、民間部門の従業員より10年以上前に退職出来る。退職金もずっと高い。これは本来、長年の弊害が蓄積した結果で、公営部門のある種の特権と深刻な社会の不公平を表している。マクロンは、フランスの財政困難を緩和しようと、ちょっとこの公営部門の退職と福祉制度を変えようとしたら、公務員たちは大ストライキを組織して、マクロンを威圧した。

     欧州国家の社会福祉は、長期にわたってますます手厚いものになって、各国の債務はますます積み上がった。こうした状況で、国防予算を増やそうとすれば、社会福祉予算にしわ寄せが行く。そして、社会福祉予算を減らそうものなら、必然的に選挙民の反感を買うことになり、政権は揺らいでしまう。

     この視点から見れば、NATOの防衛問題を巡る争いは、単純な国防の必要性の問題ではなく、福祉システムと政治的安定に関わる問題なのだと分かる。

     欧州国家の多くの民衆はトランプ大統領が嫌いだが、それは異なった価値観が引き起こした立場の違いというだけでなく、自分たちの「バター」に関わる問題だからだ。また、トランプ大統領がNATOメンバーに、当然負担すべき国防支出を負担せよと要求しているからあって、米国選挙民の「バター」を守ろうということだ。だから、NATOの存続をめぐる問題の背後には、実は先進国の間での国民の利益の争いがある。これは冷戦終結後、欧州政治家が、ずっと認めたがらなかったことであり、また向き合うのが難しい大難題なのだ。

     このNATOの存続の難題には解決法はない。メンバー国家も永遠に、米国から甘い汁を吸い続けることは出来ないし、米国の有権者だって、いつまでも無駄金を払ってはいられない。もし、EU国家がNATOに頼らず、自主防衛しようというなら、米国は大々的にNATO諸国への防衛責任を軽減出来るが、EU諸国の軍事費は大幅に増えるに違いない。核兵器による安全という意味では、全面的にフランスに依存することになるが、それは他の欧州国家の政治家たちが受け入れられる話ではないが、自国民に福祉を諦めて国防費の支出を増やせと説得する方法もない。

     NATOが在ったから、冷戦時代に欧州は、ソ連の核の脅威の下にありながら、経済はずっと繁栄させることが出来た。しかし、冷戦が終わって20年近くたった今、NATOは、自分の内部から生まれた危機に直面している。

     米国の保護の下で幸福に過ごせた日々は、フランスからの挑戦を受けている。そしてまさにこの時、欧州国家は、経済が停滞し、社会福祉は高止まりしたままで、どこもここも財政は火の車だ。NATOの存続問題は、欧州各国の、政治、社会、経済に内在する数多くの困難を映し出しているのだ。この問題は、簡単に手っ取り早く解決する道などない。

     こうした状況下で、米国は、NATOが東の方向を(訳注;中国のこと)向くことを望んでいるが、見たところこれは「志の高と、仲間は少ない」になりそうだ。しかし、フランスの「欧州軍」を作ろうという案にも同様に応じるものは、ほとんどいないだろう。

     NATOが現状維持だという前提の下で、アジアにも目を向けて、中国の新たな登場に照準を合わせよ、というのは、中共の脅威だけを強調したところで、効果はないだろう。欧州国家にすれば、大事なのは国際関係に対する認識の問題ではなく、お金の問題だからだ。

     欧米間の防衛に関する争いは、実は自分たちの納税者にどれほどの荷物を背負わせるかという争いなのだ。米国人は確かにこれまで気前が良かったし、20年間ずっと自分たちの福祉面を手抜きしてまで、欧州国家が本来負担すべき「国防の税金」を負担し、欧州国家が「楽になった分、福祉の水準も上がる」ようにしてきた。

     しかし、この問題は、現在、EU内部の利益の衝突と国際構造の変化(原注;主に中国の軍事力強化)によって挑発を受けており、今後の相当長い間、欧米関係や欧州内部の関係に、重要なテコの働きをするだろう。このテコは、欧州の自主防衛問題を左右しかねないだけでなく、欧州各国の社会福祉制度の改変と。それに連動して起きるであろう社会の変動と国内政治の変化までひっくり返しかねないのだ。(終わり)

     原文は;程暁農★NATOの危機 — 欧米主要国家の当面の防衛政策論争

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