• ★米国政治の「トライバリズム」を示す党利党略の弾劾騒動 2019年12月17日

    by  • December 29, 2019 • 日文文章 • 0 Comments

     米国のこの3年間の最大の政治テーマは、大統領弾劾といってよいでしょう。米国の民主党は、議員選挙や大統領選が不利と見て、自信がないことから、大統領弾劾を唯一の突破口としました。この種の弾劾や弾劾への政治行動では、いかに無実の罪をでっちあげるかが難ししいのです。弾劾の証拠を求めて民主党は、大変苦労しました。今年になって何度も弾劾へと動き、その中で、弾劾という重みのあった手段は、すっかり党派的な闘争の道具に堕してしまい、ウォール・ストリート・ジャーナル紙が指摘したように、弾劾は、米国政治の政治的トライバリズム(部族化)のメルクマールになってしまったようです。

     ★権力喪失の恐れが、軽はずみな弾劾を招いた

     2019年のロシアゲート(訳注1:大統領選挙中に、ロシアとの間に非合法な関係があったという疑惑。証拠はあがらなかった。)からウクライナゲート(訳注2:トランプ大統領が今年7月のウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領との電話会談で、2020年大統領選挙のライバル民主党候補ジョー・バイデン前副大統領に対する汚職の告発を促したという”疑惑”)の7カ月の間には、更に民主党の重鎮たるナンシー・ペロシ下院議長ですら、議論に付すのには距離を置こうとした差別主義弾劾案(訳注3;トランプ大統領の弾劾調査の中心だった有力民主党議員のカミングスに対して、「メキシコとの国境線の問題などを批判する暇があるならネズミだらけの自分の選挙区を何とかすべき」と口汚く非難したことに対して)と性的差別弾劾案(訳注4:トランプ大統領がアレクサンドリア・オカシオ=コルテス議員ら4人の少数人種の女性議員を黙示録の4騎士=人類の厄災=に例えた)の動きがありました。

     最初の、ロシアゲートは、まだしも真面目に準備されたものでしたが、23カ月もの間に、500通の捜査令状が出され、2300通の召喚状と一連の訴状が出されたあと、ロバート・モラー特別検察官は報告書を提出し、ウィリアム・バー氏司法長官は議会に報告書を要約した「主要な結論」を提出したが、トランプ大統領自身がモスクワと結託したという証拠は得られませんでした。しかし、大統領選挙を控えており、ずっと冷静を保ってきたペロシ女史も、もう冷静ではおられませんでした。しかし、最後に2カ月半かけて準備された「ウクライナゲート」弾劾案は、12月18日、下院を通過しましたが(原注:民主党3票が賛同せず、共和党は全員不賛成)、ペロシ女史は、当分の間、弾劾案を「上院が公正に審議出来るようになるまで」上院には送らないと宣言しました。

     私は、ツイッターで冗談に、「ペロシ女史は弾劾案を手にしてハムレットの心境。送るべきか、送らざるべきかでお悩み。この問題はいつ送るかが大問題。トランプ大統領がまた何か大きな失言をやらかすまで鉄ついを下すのを待つおつもりのよう」と書きました。

     テキサス州選出のテッド”・クルーズ共和党上院議員は率直に、「ペロシ女史の威嚇は異例のもので、『私の言う通りにしなければ、私は大統領を弾劾しないし、弾劾案を上院に回さない』だ」と言いました。ペロシ女史の動きは、彼女が何を本気で考えているにせよ、「この弾劾案は、あまりにも無謀だ」と分かっているということです。だからこそ、この弾劾案が下院を通過したと議長の彼女が宣言した時、議場の民主党議員は大喜びで手を叩いたのですが、彼女は、「そんなに喜ぶな「とジロリと議場を睨みつけていました。

    中国 何清漣
    中国 何清漣

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     ★メディアの冗談抜きで、トランプの支持率上昇

     比較的中立のラスムッセン社が行った12月21日に発表された世論調査は、「ペロシ女史のクリスマスプレゼント? トランプ大統領の12厚15日から21日にかけての、日毎の支持率は、月曜日は47%、火曜日は48%、水曜日は49%、木曜日は49%で金曜日には50%になった。注目すべきは人口構成で、民主党登録者が22%、アフリカ系が34%もいた」(原注:アフリカ系はこれまで民主党の鉄板支持者層)とやや皮肉な調子で発表されました。

     ずっと反トランプで民主党びいきの政治専門誌「ザ・ヒル」が12月20日に発表したアンケート結果も同様に、トランプ支持率が50%近くでした。同じく、反トランプのケーブルテレビ・衛星テレビ向けのニュースチャンネルCNNは、18日発表されたギャラップ調査を例に挙げ、下院民主党が正式に弾劾調査を発動して以来、一つは、トランプ大統領の支持率が39%から45%に上昇し、もう一つはトランプ罷免の支持率が52%から46%に下降したと報じ、「ますます多くの証拠が、弾劾は事実上、政治的にトランプ大統領を有利にさせている」と指摘しました。CNNが12月20日に発表したアンケートによると、76%が米国経済の状況を「素晴らしい」とみており、去年同期の経済状況の67%を、はるかに上回りました。そしてこれは、2001年2月以来の、経済状況良好と見る最高記録です。「素晴らしい」と答えた中では、97%が共和党登録者、75%が独立派、62%が民主党支持者でした。ずっとトランプをけなし続けてきたCNNも、こうした状況は、2020年の大統領選挙で、トランプ再任への有利な状況だと認めざるを得ませんでした。

     フロリダ州はいまや基本的にレッド・ステート(共和党支持の州)に変わりました。オバマ前大統領が2度とも勝利した州なのですが、2016年の大統領選挙と、2018年の州知事を選ぶ大接戦の末、トランプと共和党知事が勝利し、現在、共和党知事の支持率は全体の68%で、共和党の87%、民主党の57%、スペイン語系の67%、白人の71%、黒人の63%の支持を得ています。

    ★ペロシ女史の計算と誤算

     民主党のウクライナ電話問題を理由にしたトランプ大統領弾劾は、失敗と決まったようなものですが、しかし、民主党と共和党が認める失敗の理由は、全然異なります。民主党と民主党支持のメディアは、共和党が上院で多数を占めていることを理由に、弾劾案は通過しないのだと言い張ります。共和党は、弾劾には事実としての根拠がないからだと言います。クルーズ上院議員は、「米国歴史上、2度あった大統領弾劾では、2度のどちらも連邦犯罪を問題にしていたが、今回の弾劾案件は以上なほど根拠が脆弱で、重罪にも当たらないし、憲法に基づく軽い罪にもあたらない。ペロシ女史は、これを上院にまわしても、たとえ公正な裁判であても弾劾が成立しないと知っているわけだ。下院の弾劾案件は成立しえないのだ」と述べています。

     多くの人が、ペロシ女史は、ゲームの形勢を見誤ってヘボな一手を指したとおもっています。さらに、バイデン候補と仲が悪いので、わざとバイデンの息子のスキャンダルを暴露して困らせようとしている、と見る人もいます。しかし、ペロシ女史は長年政界にあって、その娘は母親を大変尊敬しており、かってこう述べたことがあります。「彼女はよく人の首を切りとばすけど、切られた相手は自分の頭が切られたことすら気がつかないのよ。クリントンも小ブッシュもやられたのよ」と。こんな政界の大ベテランには、当然、彼女独自の計算があるはずですし、たかだかバイデンをはめてやろうなどというケチなものではないでしょう。私は、今回、彼女が危険を冒して、証拠も十分ではない状況の下で弾劾の道を選んだのには、実は、バイデンがちゃんと大統領候補になれるようにするためではないかと思っています。

     2016年の大統領選挙の失敗以来、民主党ではバーニー・サンダース議員に追随する各種の社会主義者が続々と加入してきました。これは、2018年の国会選挙で、民主党が勝利し、下院の多数派を奪還するには大いに助けになりました。しかし、民主党は、これによって急激に左傾化し、伝統派の特別代議員たちがこれまで、大統領指名に利用してきた彼らだけの特別な投票権も、廃止されてしまいました。(注6;民主党特別代議員とは、予備選挙・党員集会の結果に拘束される一般代議員の約3300票と違い、拘束されない。元大統領、元副大統領、連邦議会の上下両院議員や州知事、党委員会のメンバーなどから構成される代議員。約800票。2016年にヒラリーに敗れたサンダース派が反対し、2018年、党大会第1回投票に特別代議員は今後投票出来なくなった。)

     民主党の目に余る左傾化に対しては、オバマ前大統領ですら見かねて、11月16日には「あまりにも左の道を歩見過ぎないように、我々は現実にねざすべきだ」と警告を発せざるを得ませんでした。民主党の大スポンサーのウォール街は、サンダースら金持ち重税を唱える反資本主義者だとして、ウォーレン女史やサンダースを支持しないと明言しています。こうした他の極左派候補たちに比べれば、バイデンはまだ民主党伝統はとウォール街が受け入れられる大統領候補なのです。

     しかし、バイデンの息子は、父親が副大統領だった時代から、父親の身分と権力をバックに、ウクライナや中国から利益を得る関係を結んでいました。2014年5月には、ウクライナのエネルギー企業が、高給でバイデンの息子や国務長官の家族と親しい友人に職を提供していました。米国の多くの政界の要人の子女は、「アメリカン・ドリーム」が語るような、自ら徒手空拳で創業などはやっていません。米国の名望家の若い世代は、簡単に現状の政治的コネを利用し、人脈と財産を資本として経済上の巨大利益を、とりわけエネルギーや、ロビイング業界、投資で暴利を得るなど、珍しくもない話です。

     米国の主流メディアは、民主党への偏愛から、こうしたことはあまり報道はされませんでした。しかし、今回、大統領選挙に名乗りを上げた民主党の他の候補者たちは、バイデン以外は、極めつきの左翼候補ですから、勝利のための候補者争いでは、バイデンにいささかも手加減しません。どうすれば、こうした極左候補者を黙らせておけるか? となると、当然、民主党のコアな凝集力を発揮させるには、トランプ大統領への恨みです。バイデンの息子の腐敗など困った話も、トランプ大統領が職権を利用して圧力をかけた電話の話と一緒くたにしてしまって、トランプ大統領がライバルを罪に落とそうとしたという話にすれば、トランプ大統領に本当に打撃を与えられるかどうかはどうでも、自党の団結第一になってバイデンの悪口など言いにくくなります。こうしてバイデンを指名獲得に多少でも有利に運ばせることが出来ます。

     下院に召喚された証人の誰一人として、この電話の録音を聞いた人はおらず、皆が「誰かが言ったのを聞いた」とか、ネタ元の「誰か」もやはり伝聞です。でも、ペロシ女史の目的は達成されました。6回の演説会で、民主党の指名競争から3人が退出しましたが、だれもバイデンの息子の腐敗事件で攻撃しませんでした。12月に行われたばかりのアンケートでは、バイデンが民主党候補のトップとなっています。

     ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、民主党は、トランプ大統領が連任するのを助けるかのようだ、と評しました。しかし、ニューヨーク・タイムズ紙だけは、依然として、結果のいかんにかかわらず、下院を弾劾条項が通過したことは、トランプ大統領の任期に「決して消えない汚点を残した」と言っています。ありもしない罪名が、汚名を残すという無茶な論理からは、この新聞が完全に、イデオロギー優先の泥沼に落ち込んでいることがわかります。百年の歴史を誇る、かつては栄光の報道機関だったのですが、今や、イデオロギーに対する執着から、民主党の党報として、米国政治のトライバリズムの1番の推進役になってしまいました。(終わり)

     原文は;何清涟专栏:美国政治的部落化—党派弹劾

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