• ★米・中貿易協議の勝者は誰か? 2020年1月17日

    by  • January 18, 2020 • 日文文章 • 0 Comments

     この15日に米・中両国が貿易協議「第1段階」の合意文書に署名し(訳注1)、トランプ大統領は米国が勝利したと言い、中国は「双方が勝利」と言い張ります。一体どちらが勝ったのでしょう?

     中国の国内世論は、両極に分かれています。学界はこの結果は良かったとしていますが、ネット上では、主権を失う国辱的な「城下の盟」で、劉鶴副首相は、”劉鴻章”(訳注2)などと罵倒されています。しかし、国際主流メディアの見方には、私もメガネをとり落すほど驚かされました。なんと、「米国が負け、それも戦略上の負け」だった、と言うのです。

     ★”屈辱感”は否めないが

     中国がこの「第1段階の合意」にサインしたのは、明らかにトランプが去年12月15日に宣言した新たな関税措置(訳注3)を回避するためです。協議では、中国側は、2020年〜2021年の2年で総額2000億米ドルの米国商品をサービスを購入する。そのうちの約500億ドル分は農産物で、その他は、エネルギー、製造業製品です。この貿易協議では、米国は、北京からの経済の構造性改革の約束は得られず、中国も米国に全ての関税を取り消させることは出来ませんでした。3600億ドルの米国内で販売される品物分への税金は依然として残っています。その他の条項は大部分が「暗黙の了解」にすぎず、トランプ大統領も、11月の大統領選挙以後の話し合い次第だと分かっています。

     では、協議が双方の期待を満たしていないのに、なぜサインしたのかといえば、双方とも、損をしないで膠着状態を解消する必要があったからです。

     米国は、実力でも知的財産権の道義性においても絶対的な優位にありながら、結局、中国側の”大豆戦略”によって、目立った成果があげられないままでした。ですから、大変現実的かつ政治的考慮から、トランプ大統領は休戦を選んだのです。第1段階協議は、農産物とエネルギー購入の話です。トランプ大統領は、今、自分の票田の各州を安定化するのに必要でした。これは、民主党が「全面勝利をめざすべきだ」という口実で、協定合意に強く反対した理由でもあります。

    中国側の貿易戦争でのダメージは、もっとひどいものでした。これは
    ★米・中貿易戦争 — 米国が得た三つの勝利 防御に追われる中国  2019年12月21日で分析しています。米国は、3重の勝利を得ています。中国は、対外拡大路線を縮小せざるを得なくなりました。グローバル産業供給チェーンが再配置され、中国の貿易のピークは過ぎ去りました。知的財産権分野でも、「千人計画」と称する窃盗手段が使えなくなり、全世界に中国には用心しろ、という警戒心が生まれ、反中国国際戦線が、既に隠然と形成されたのです。

     中国側の厄介ごとは、それだけではありません。2019年香港の「逃亡犯条例」改正法案反対デモが何ヵ月も続いて、その間の警察の横暴ぶりは、全世界の人権組織の中国非難となりました。米国では「2019年香港人権・民主主義法」が作られ、部分的に世界貿易機関(WTO)加入以前の状態に戻ってしまいました。つまり、香港は毎年、最恵国待遇を得るためには、米国国務省の香港人権状態に対する評価によって決まることになりました。

     更に、下り坂の経済、外資の撤退、失業問題が大変深刻で、中国政府の社会安定維持への隠れた脅威となっています。こうした状況の下で、これ以上抵抗を続ければ、増額された関税は、少なからぬ中国の貿易企業にとっては、「ラクダの背骨を折る最後のわらしべ」になりかねません。中国は、ここでストップをかけなければならなかったのです。

     両国とも戦略的に回避する余地を求めていました。これが協議の内容が双方の期待通りでなくとも、協定をまとめたいと願った理由でした。この他に、中国には、トランプ大統領が2020年大統領選挙で勝利して、連任する可能性がますます高まっていることに対する配慮もありました。米国農産物とエネルギーはもともと中国が必要とするものです。サインすることによって、関税の圧力を緩め、国内の貿易企業の生存を図り、その上、トランプ大統領に「こんなにたくさんの農産物を購入して、お前さんの農業州の票田を安定させてやったのだから、第2期以後も交渉の余地を残せよ」と言いたかったわけです。

     しかし、ウォッチャーの中には、これが気に入らない面々もいます。そして、その理由は様々です。

     あるウォッチャーはこう言うます。

     市場はずっと、中国側が400〜500億ドルもの米国農産物購入の約束を疑ってきた。中国にはそんな強力な消化能力はない、と。だから、約束は守られない可能性が大変高い、と。

     トランプ大統領はこれに対して、調印式に大勢の「観客」を用意しました。この儀式の米・中双方の参加者の比率は52:10で、米国側の52人の「観客」の中の32人は、アーカンソー、モンタナ、アイダホ、カンサス、ノースカロライナ、テキサス州などの農業州やエネルギー州からの上院議員、下院議員、州知事でした。これらはトランプ大統領の2016年の主要な票田です。トランプ大統領は、無言のうちに「俺は、大統領として、こうして公約を守るのに最大限の努力をした。もし中国が買えなかったとしても、それは中国が約束を守らなかったのだ」ということを示したのです。

     英国放送協会(BBC)の1月15日の「勝利の旗を高々と掲げて退却したトランプか、第一段階は終わりか?」 は、戦略的な高度な観点からみて、「米・中貿易戦争の第一段階は、政治経済評論家からもビジネス界から見ても、米国が負けたというのが普遍的な見方で、おそらくもう挽回のチャンスはないだろう」でした。

     筆者は米国際戦略研究センター(CSIS)のスコット・ケネディ上級研究員の見方を引用しています。それは「米国は、目先の限られた利益のために、深い実質的な対価を支払った」というものです。ケネディの見方は広く引用されていますが、ポイントは四つです。① 中国は外国から基礎技術を取得することを続けられなくなったので、これまでのような成功は継続出来ない。② 米国資本の中国進出のチャンスは減って、中国人と、例えば気候の変化などの緊急の領域とグローバルな問題で協力することがより困難になった。③ 米国の一方的なやり方は、欧州、アジア、ラテンアメリカの盟友との関係を破壊した。④ 第2次世界大戦後、米国はずっとグローバル経済システムを育ててきたが、今や、最も深刻な状態にある。それは、中国が蝕み、ついで、トランプの関税戦争によってだ。

     ケネディの見方は代表的です。米国が貿易戦争を発動して以来、盟友国家は、基本的に米国を支持しませんでした。例えば国際通貨基金(IMF)や世界銀行、世界貿易機関(WTO)などのグローバリズムの推進機関は、すべて、米国を支持しませんでした。理由は簡単です。今の経済構造は、国際機関が何十年もかけて努力して作り上げてきて、盟友国は、ずっと米国にタダ乗りできたのです。しかし、トランプ大統領は、貿易戦争を通じて全世界の経済構造を変えてしまいました。こうして、今や、「世界の大統領」たることを望まないトランプ大統領は、米国はこれまで大損してきたから、もう一度偉大にしようとすれば、ただ孤軍奮闘するしかないのです。

     早くも2019年11月に、米・中双方が第1段階の協議合意達成が伝えられた時、国際連合貿易開発会議(UNCTAD)は、「米国の対中関税による貿易と貿易移転効果」で、誰が米・中貿易戦争の被害者で、誰が一番得をするかを指摘しています。

     この報告は、貿易データを分析した上で、最も被害を受けるのは、中国の化学工業、家具製造業、電子機械製造業だとしています。米国の関税値上げ後の2019年上半期の中国の対米輸出は、350億ドル減。関税値上げによる商品価格の値上がりの大部分は、米国消費者にかかると言いました。同時に、中国の工場が最近、輸出価格を下げ、関税コストの一部を負担しているとも。

     この報告は更にある事実を指摘しています。中国からの輸入品に関税を上げた結果、米国への中国の輸出の減額分の350億ドル中、6割(210億ドル)が、他の国家や地域に向けられたと。そのうち42億ドルが台湾に向かい、更にメキシコ、欧州連合(EU)、ベトナム、韓国、カナダ、インドがあり、これらの国々は、以前より多くの分け前にあずかった、としています。

     UNCTADの結論は、米・中貿易戦争は双方が負けで、両国に損害を与え、更にグローバル経済の安定と未来の成長に危険を及ぼしたというものでした。この分析にはおかしなところがあります。UNCTADの「中国経済の安定は、全世界経済の安定バラストで、中国の利益だけが全世界の利益だ」という思い込みを除けば、米・中双方、グローバル経済がある部分で損をしても、別なところで得をした国々があるわけですから、この結論は半分しか正しくないということになります。

     この報告が発表される前、IMFの去年10月のグローバル経済予測は「米・中貿易戦争が世界経済の成長の足を引っ張り、2020年までに世界のGDPの0.8%を減らし、これはスイス一国の経済規模の7000億ドルに相当する」でした。クリスタリナ・ゲオルギエバIMF専務理事は、最近、貿易戦争では「誰もが敗者」だと言いました。この「誰も」は人ではなく、国家のことです。でも、彼女は、UNCTADが列挙した「得をした国々」のことはお忘れです。

     ★「米国消費者が関税を負担」説の間違い

     米・中貿易戦争が始まってから2年間の間で、「米国の消費者が値上げされた関税を負担する」という説は、国際メディアの常識になっています。米国の消費者は3億人以上いるのに、誰もこれに関する調査を行なっていません。しかし、関税の消費者の利益に対する影響では、インフレ率と国民の消費価格指数のデータに反映されます。

     2008年のリーマン・ショック以来、経済学者のデフレに対する恐怖感は、インフレに対するそれを上まっています。適切なインフレは、経済発展に貢献すると思われています。2012年、米国の連邦準備制度理事会(FRB)は、新たなルールを打ち出しました。もしインフレが2%以上になったら利上げ、もし2%より低かったら利下げするというものです。そして、2019年上半期は、関税はインフレや消費者価格指数(CPI)の値上がりを招きませんでしたし、個人消費支出(PCE)物価指数はでインフレ率を計算すると、たった1.5%です。

     米国のCPI指数は、2019年12月に2.3%で、11月の2.0%よりちょっと増えました。米国の歴史的なデータから見れば、これは真ん中からちょっと低めの数値です。歴史のデータでは、1948年から2019年の平均値は、2.8%。最高は、1980年3月1日の14.6%で、最低は1949年8月1日のマイナス3.0%でした。つまり、この二つのデータは、米国の消費者の利益が損なわれていないことを示しています。

     最後に、米・中貿易戦争の勝敗ですが、私の結論は、「中国の負け」です。戦術上だけではなく、実力的にも、技術、資源共に国際マーケットに高度に依存した国家が、米国と力比べをしても敵いません。最後には負けますし、時間が長引けば長引くほど、負け方も悲惨になります。現在、協議に合意して損害を食い止めるのは、賢明な選択でした。

     米国の負けというのは、フィクションです。現実には米国経済情勢は良好で、ずっとトランプ嫌いのウォール街すら、去年12月には、株式市場の勢いはこのまま2020年も続くだろうと認めました。

     IMF、UNCTAD、スコット・ケネディが米国は将来負けると見るのは、彼らが皆、グロバーリストの目でこの問題を見ているからです。彼らは、米国が、他国のために自国の利益を犠牲にするのに慣れきっており、世界各国が米国にただ乗りするのが理の当然だと考えています。今、盟友国家と中国経済が下降して、一人繁栄を謳歌している米国が、盟友国家や発展途上国に対して援助しようとしないのは、「世界の指導者の模範として失格」であり、だから「負け」なのだという考えです。

     これは、トランプ大統領が米国ファーストを唱え、国際主義者とは完全に異なる価値基準を持っているというだけの話です。もしトランプ大統領が2期目も続投するならば、こうした局面は、更に続いていくことでしょう。(終わり)

    訳注1:①知的財産保護②技術移転の強要の禁止③米農産物の輸入増④金融サービスの市場開放⑤為替操作の禁止⑥米国製品・サービスの輸入拡大⑦合意の履行を確実にするための相互評価・紛争解決の枠組みなどが柱。「輸入拡大」の章には、中国が工業製品、農産物、エネルギー、サービスの4分野で、2020〜21年の2年間で計2千億ドル(約22兆円)の輸入を増やす数値目標が明記された。

    訳注2;李鴻章になぞらえた。李鴻章は、日清戦争の講和条約である下関条約で清側の全権大使となり調印を行った

    訳注3;9月に15%を発動した追加関税「第4弾」の約1200億ドル分を7・5%に半減。

     原文は;中美贸易协议,两国孰赢孰输?

    中国 何清漣

    中国2018 中国2017 中国2016 中国2015

    これまでの何清漣さんの論評の、翻訳はこちら。未熟ジジが「拙速」モットーでやってますので、誤字、脱字ご勘弁。(電子本の方は校閲して直してあります。多分w) なお、お気付きの点がございましたらお知らせください。ツイッター → @Minya_J。

    中国 何清漣
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