• 程暁農氏★「中国の勃興」の終わりと米・中貿易交渉の意味 2020年1月21日

    by  • January 23, 2020 • 日文文章 • 0 Comments

    ★⑴ 中共勃興の道は阻まれた

      2019年の年末に「中国勃興(崛起)」のスローガンは、中共政府の宣伝文句から静かに姿を消していった。そして、李克强総理の「経済安定」「就職安定」の号令も、経済下降が迎えた「寒冬」の中で寒々と響いた。大多数の省や市は財政赤字で、企業は不況だ。2020年には、数々の様々な困難が待ち受けていると予想して、民衆は財布の紐を締めている。

     2019年は、転換の年だった。と言うのは、この1年、中国経済は、過去20年の繁栄に別れを告げ、全面的衰退期に入ったからだ。今年1月の米・中経済貿易交渉協議は、中共の勃興戦略の挫折を表している。数十年続いてきた米・中の蜜月期間は終わった。

     今回の米・中貿易戦争は、米国側が始めた。トランプ大統領の目的は明快だ。経済貿易と技術分野で、米国から旨い汁を吸い続ける中国の脅威を、これ以上は許さない、だ。

     米国はなぜなぜ貿易戦を始めたのか? 関税の高い安いや、輸入商品の量といった交渉の技術的レベルをいくら検討しても答えは見つからない。これは、戦略レベルから見なければならない。

     戦略レベルから見れば、米・中対立の根源は中国の「勃興」だった。中共だってそう思っている。では、なぜ、中国の勃興は必然的に貿易戦争になったのか? 中国が勃興しただけで、米国は焦って、中国に打撃を与えたのか?

     もし、米国の財産と富を掘り崩して、ある国が勃興したとする。それが米国の国家の安全への脅威になるというのなら、これは、パラドックスだ。つまり、こうした富のかじりとりを、ネズミが行なっている間、猫は黙って見ていたということになるからだ。

     米・中貿易交渉での、米国側の初歩的な成果は、中共の勃興の道を阻止できたことだ。中共の命運転換の原因は、元はといえば「勃興」戦略にあった。この「勃興」戦略は、短期的には”成功”したが、それは同時に失敗への陥穽でもあった。

     簡単に言えば、中共が夢見た「勃興」は、経済成長で世界貿易機関(WTO)加入がもたらしたチャンスと、不動産バブルに依拠したものだった。(つまり、中共の官製メディアの言う「一つのチャンスと、ひとつの業界」)

     技術発展面では、米国などから「知的財産権と技術の秘密」を頂戴した。軍事面では、航空母艦群と核の力に頼ろうとした。

     ★⑵ 勃興戦略の内在的パラドックス

     中共の失敗と、国家戦略の誤りには直接関係がある。民主国家の場合、国際ルールや国際法規を守って正常な発展を遂げようとする。「勃興」自体が国家的な目標ではない。それは自然な成長の結果だ。

     同時にこれらの国々は、民主選挙を行って、政党も「勃興」を選挙スローガンとして、民心を引きつける旗印にする必要はない。有権者も、そう簡単に、民族主義の包装紙つきの専制主義に騙されはしない。

     しかし、中共は、独裁専制制度で世界でも数少ない独裁主義政党だ。こうした執政者は、往々にして「勃興」と、それに相応しい「勃興戦略」が必要となる。だが、そこにはパラドックスがある。必然的に失敗する要素が内在するのだ。

     しかし、国民は洗脳されており、政治的な弾圧で国民が政治に疑問を挟むことはできない。だから、よしんば国家戦略が間違っていようが、誰もそれに疑問をさし挟むことはないのだ。

     米・中貿易交渉は、まさに中共の勃興戦略自体が本来持つパラドックスを反映している。中共は、米国の経済、技術力に依拠して勃興を図った。なのに、米国が搾取されて空っぽにされても、最後まで黙って見ているだろうと思っていたのだ。

     つまり、貿易では輸出補助金によって、長期的な巨額の貿易黒字を得て、米国側に巨額の借金の山を築かせる。同時に、知的財産権と技術窃盗行為によって、米国の知的財産権という財産を空っぽにする。そして、その上、米国市場でお金を稼いで自分たちの資本にするというわけだ。

     中国は、「世界の工場」によって、「勃興」を支えた。米国の小ブッシュ、クリントン政府が中国のために米国市場を開放したのは、ただ中国勃興へのチャンスを作ったにすぎない。世界の工場を造ったのは米国政府ではなく、中国の中央と各級地方政府と、多くの多国籍企業がやったことだ。そのおかげで、中国が突然、世界最大の貿易大国となり、勃興を果たせた。

     お金ができると、中共は軍備拡張を始め、空母艦隊と艦載機を代表とする遠洋攻撃力を発展させた。同時に、南海の国際水域を内海とした。米国に照準を合わせた遠距離核ミサイル戦力と核潜水艦に、安全に隠れる場所を提供するためだ。こうして、米国と周辺国家に、軍事上の脅威を与えるようになった。

     ★⑶ なぜ米国は、ずっと中共の「最大の敵」なのか?

     多くの西側の人士と、親パンダ(親中国)派たちは、ずっと米・中関係の悪化は、トランプ大統領一人のせいだと責めてきた。事実は違う。トランプ大統領の対中政策は、経済グローバル化の下で、一国に産業チェーンが集中することがおよぼす米国への危険度合いを下げようとしただけなのだ。

     中共は、経済の短い繁栄時期の、前半には、戦略的に「低姿勢」を演じてみせた。つまり鄧小平の「韜光養晦」とうこうようかいだ。これによって、多くの米国の政界人士たちも、中国問題専門家も、中共は資本主義と仲良くなれば、早晩、民主主義の道を歩むだろうと思い込んだ。

     しかし、こうした幼稚な見方は、完全に、中共が最初から最後まで米国に深く根ざした敵意を持つ点を見落としていた。

     米国が、中共の最大の敵に選ばれたのには理由がある。米国が始終使う軍事力が、直接中共の脅威になるから、ではない。実は、中共が本当に米国の軍事力を心配していたのは、1950年から60年代にかけてだった。1970年代以後になると、「米帝国主義が滅びるまで、我が心は休まらない」ようなことは起きなくなった。

     1960年代に、毛沢東が共産陣営の親分になるために、ソ連共産党と袂を分かった。以後、中共は確かに南ではベトナム戦争の米軍に備え、北はソ連の大軍と向き合羽目になり、孤立して困っていた。ソ連も、以前、助けてやった中国と冷戦中の米国を相手に、同様に両面の敵に向かい合っていた。

     1970年代初め、中共は米国寄りになって、中国を囲む国際的な環境は、かなり緩和した。中共は、米国の力をバックに、「北のクマ」の圧力をかわせた。米国も喜んで、共産陣営の最大国家たる中国をパートナーにした。中共は、もう米国の脅威を本気で心配せずに済むようになったし、米国も中国に対して、本当の軍事的脅威とは見なくなった。
     
     理屈の上では、米国市場と技術に頼って金儲けをする国としては、米国と信頼関係を築いて、協力しあい、運命共同体になるのが、一番良い戦略だ。しかし、中共は、最大の民主国家とは、絶対、運命共同体にはなれないのだ。

     と言うのは、国家の運命を共にするとのは、中共の命運が、民主主義的な考え方によって動揺させられるからだ。

     米国の民主主義的な価値観は、中国の多くの民衆にとっては、大きな魅力となる。しかし、中共にとっては、常に中国社会内部からの政治的脅威となるのだ。

     だから、中共は常に、世界最大の、最も繁栄した民主主義国である米国に対する国民の憧れを何より恐れるのだ。両国間の経済や文化交流がどんなに緊密になっても、中共は、政治的な反米洗脳教育をやめたことはない。

     同時に、中共の官僚界が腐敗すればするほど、民主化に対する恐怖もつのった。だから、私は、★経済グローバリズムにおける「中国の陥穽」 (2019年12月28日)で、「資本主義と抱き合った後の中共は、改革前の中共より、一層、重症の『民主主義恐怖症』にかかった」と書いた。

     

     ★⑷ 中共の勃興戦略は、自らの地雷を踏んだ

     中共が米国を敵としたのは、単純に価値観が民主大国の米国と正面衝突するからではない。中共の実力増大後は、必然的に米国に挑戦しなければならない、内的な理由がある。

     中共にとっては、政治上、最大の必要性が、まさに米国に対して「勃興」することなのだ。というのは、経済制度ではとっくに社会主義経済体制など放棄してしまっている。それでも引き続き「社会主義は、必然的に資本主義に勝つ」と言い張っているわけだ。この話の辻褄をあわせるのは大変難しい。鄧小平のように「わが国の主義が『資本』か、『社会』かについては争わない(不戦論)」を唱えるしかない。

     中共にとってのポリティカル・コレクトネス上での、唯一の代用品となるのが、愛国主義的スローガンの「勃興」なのだ。中共は「紅色勃興」によって、「中共が永遠に政権を握ることが、中国の成功だ」と証明したいのだ。政治的な国民動員で、民主主義的考え方の蔓延を抑えるには、不断に「勃興」を自慢し続ける。それが統治を続けるためには必要だ。だから、米国に対しての「勃興」戦略を内外に宣伝し続けるのは必然なのだ。

     この勃興戦略を推進するためには、インドのように悠長に市場経済が自然な成長を遂げるのを待ってなどいられない。また、単純な平和的な道筋をたどることもできない。

     専制体制としては、経済的な勃興推進のためには、経済的に米国を利用して、軍事的には米国を敵とせねばならない必然性がある。中共にとっては、米国をビビらせる実力がないようでは、「勃興」したとは言えないのだ。

     世界最大の人口大国にとって「勃興」とは、中規模の国々のそれとはわけが違う。米国を超え、圧倒してこそ、本当に中共が永遠に政権握っていられる「元手」となる。中共にしてみれば、それは当たり前のであって、なんら不合理な話ではない。

     世界の歴史をさかのぼってみれば、似たような例はある。

     大日本帝国が太平洋戦争を始める前の対米戦略だ。日本は、米国から石油や鋼鉄など多くの戦略物資を輸入した。それで、壮大な軍事力を築き上げ、重工業と武器製造産業を実現して勃興をはたした。同時に、米国を敵としたのだった。海軍は、ずっと太平洋で米国に対抗する目標をたてて、軍艦を造り、訓練し、磨き上げて戦争に備えた。

     大日本帝国は、自国を強制的に経済・軍事上で勃興させる戦略を推進した。また利用できるすべての資源を、自国の崛起のために必要だとして征服し、勃興加速を図った。

     そして、まず中国の東北地方を占領。次に南下して、インドシナに進攻した。そこで米国は、日本に対する経済制裁を開始。日本は太平洋戦争を始めた。

     戦前の数十年間にわたって、日本は経済上、米国の資源と市場を利用してきた。しかし、政治と軍事では米国を敵視しての勃興戦略をとった。それ自体が矛盾であった。その結果がまさに、期待はずれとななった。自らの努力が自らの帝国を葬りさることになったのだ。

     米・中関係で、中共の独裁体制思想が、経済でずっと抱いてきた最大の誤解がある。どっちがどっちに依拠しているのか、という問題だ。

     専制体制の産んだ完璧な工業化システム、といった考え方がある。これだと、「世界の工場」を握っていれば、世界の運命を握れることになる。だから、米国は、中国の「世界の工場」に頼ることによってしか経済を維持できない。そうなれば、世界は中国の意のままになるしかない、と考えていたらしい。

     しかし、経済のグローバリズム思想からいえば違うのだ。経済のグローバル化とは、市場経済の産物である。市場経済のグローバル化とは買い手市場だ。売り手市場ではない。だから、実際には、明らかに、中国が米国市場に依存しているのだ。それを中共は、世界が中国の「工場」に依存していると解釈した。

     その結果、米国がちょっと関税を上げたら、「世界の工場」への発注書は、たちまち大量にどこかへ流出した。中国には戻ってこなくなった。こうして「世界の工場」は、ゆっくりと「世界の空工場」になっていったのだ。

     こうした完全にあべこべの認識によって、中共は自分の勃興戦略が根本的に内蔵している矛盾に気がつかなかった。つまり、米国の力を借りて勃興しながら、しかも米国は、それに「ノー」とは言わないだろうと思ったことだ。

     この勃興戦略こそ、米中関係悪化の主要な原因だ。自分で自分に地雷を仕掛けるようなものだった。米国を空っぽにして、米国をやっつけようなどというのは、当然、米・中関係を悪化させる。現状のまま不変で続くはずもない。トランプ大統領が、対中政策を変えたのは、どのみち早晩、避け難いことだった。

     そして中共は、この2年間、米・中経済交渉で喧嘩腰の交渉戦略をとった。これは、完全に西側ビジネス界の期待した外交とビジネス交流における誠意をぶち壊してしまった。

     現在のところ、米国は中国に限定的な関税措置しかとってない。ただ、グローバリズムの産業チェーンの一国配置と知的財産権の窃盗防止に関しては、中共の喧嘩腰交渉の策略は良くなかった。

     多国籍企業は、過去20年でつくられた構造の将来は、企業破産の危険だらけの落とし穴だという認識に達してしまった。

     だから、今、貿易関係での、一部のデカップリング(切り離し)が起こりつつある。中国の勃興戦略は、思っていたのと違う方向に動き出している。

     大局が逆転するに至って、中共はあたふたと対応を始めた。現在、中国国内の宣伝から、自信たっぷりの盲信は、潮が引くように消えていった。

     同時に、米国を敵だとする基調も変化した。数日前、中共の中央テレビニュースには、「共和国の盟友米国。風雨を共に耐えた40年」と題するニュースが流された。

     しかし、もう昔日の米・中関係は戻ってこない。中共は、勃興戦略は、止むを得ず変えるしかない。「紅色の勃興」は、必然的な終局を迎えることになったのだ。(終わり)

     原文は;中共从崛起到收敛:美中贸谈说明了什么?

     

    中国 何清漣
    中国 何清漣

    中国2018 中国2017 中国2016 中国2015

    これまでの何清漣さんの論評の、翻訳はこちら。「拙速」でやってますので誤字、脱字ご勘弁。(電子本の方は校閲して直してあります。多分w) なお、お気付きの点がございましたらお知らせください。ツイッター → @Minya_J。

    中国 何清漣
    Print Friendly, PDF & Email

    Leave a Reply

    Your email address will not be published. Required fields are marked *