• ★米・中貿易協議は「下関条約」ではない 2020年1月21日

    by  • January 24, 2020 • 日文文章 • 0 Comments

     米・中貿易交渉の第一段階協議が合意され署名されましたが、両国国民の反応は大違い。米国人は、概して冷静で、多くが争いの解決を望み、双方の経済交流の正常化を望んでいます。大多数は、米国の知的財産権が中国に盗まれていたことすら知りません。

     しかし、中国では違います。国内の主流の意見は、この貿易協議の合意書は、日清戦争の下関条約に匹敵するほど国辱的だというのです。

     さらに、これまでずっと米・中貿易戦争には、言葉をさし挟まなかった欧州連合(EU)が、今になって「均等に利益を受けるべきだ」と中国との投資協定に関する交渉を提起しました。これは、一層、中国国内の被害者意識を刺激しました。まさに一枚の合意のペーパーが、あちこちに波紋を起こしています。

     ★極端な理解――貿易協議は米国の強奪説

     ここに紹介するのは、ある中国の経営者であるGongさんが、私の書いた★米・中貿易協議の勝者は誰か? 2020年1月17日★の、フェイスブックのコメント欄に書き込んだものです。

     「中国は、米国の第五十一番目の納税州ではない!」
    米・中が、さっき署名した協議はゴミだ。俺の見るところ、中国の角層の人々は、皆不満だ。これは「下関条約」だ。多くの人々が大っぴらに議論している。……特に、この条約が、中国が米国から巨額の買い物をするという点だ。中共は、もう一度考えよ――

     といったものです。

     報道によるとこの17日、欧州連合は、米・中貿易第一段協議をチェックして、EUも中国に同様の約束をするように求めたと言います。つまり、米国が先頭に立って、中国からお金を奪ったので、その他の国々も次々に、奪おうとしており、中国は、100年前の暗黒の日々をまた迎えようしている、というわけです。

     私は、Gongさんにこう答えました。

     ;⑴ 両国貿易関係は、納税関係ではない。あなたの愛国の熱情は膨らみすぎ。
    ⑵ あなた、私の記事を読んでないでしょ。実際は双方とも、なんとかしなければならなかったのです。中国はもともと年に1300億米ドル以上の米国農産物やエネルギーを購入していたの。協議された数だけみるとびっくりするけど、2年で達成なら、別にこれまでに比べて特別多いわけではない。中国はこうした資源を高度に依存している国であって、それをA国から買うか、B国から買うかというだけの話。
    ⑶ 中国は何とかしようとサインはしたけど、実際には完全実行は無理。全ては、今年の11月の米国大統領選挙の後での話。

    ★米・中貿易協議は、「下関条約」ではない

     まず先に、大清国が、日清戦争(1894年7月25日〜95年4月17日)の黄海海戦(鴨緑江海戦)で敗れて、署名を迫られた下関条約(1895年4月17日)の主な内容は以下の通りです。

    ① 日本の朝鮮の管轄権を認める(日本は事実上占領済み)
    ② 遼東半島、台湾、澎湖島の割譲
    ③ 日本に2億両の銀による賠償金支払い(光緒年間の歳入は8000万両前後)
    ④ 沙市、重慶、蘇州、杭州の開港。日本船の揚子江航行を認める。
    ⑤ 日本が中国の開港地に工場建設を認める

     中国歴史学会の、下関条約に対する評価は「国権を失い、国辱もので、土地割譲、賠償金によって、大々的に、中国の半植民地、半封建化を深めた。

     この条約は、中国人にとって断腸の想いであって、一年後、台湾の詩人で、抗日義勇軍の首領だった丘逢甲は「春愁」と題する詩で

    春愁难遣强看山(やるせない春の愁に気晴らに強いて山を見やる)
    往事惊心泪欲潸(思い出せば心は驚き熱い涙が流れる)
    四百万人同一哭(4億の民はみな泣いている)
    去年今日割台湾(去年の今日は、台湾割譲の日)
               ⭐︎訳者ジジイ;詩の()内は適当ですw。

     と歌い、ほとんど時を同じくして、のちに戊戌変法六君子と呼ばれる改革主義者、民族主義者の譚嗣同(1865〜 1898)は「有感一章」をこう書きました。

    世间无物抵春愁(世に春愁いを償うもの無し)
    合向仓暝一哭休(ただ空に向かいて哭すのみ)
    四万万人齐下泪(4億の民はみな泣いている)
    天涯何处是神州?(広大無辺などこが中国領土だというのだ)
                ⭐︎訳者ジジイ;詩の()内は適当です。

     最後の2句は、民国年間の国難の時期に、常に引用されました。

     一方、米・中貿易交渉の第一段階合意の内容は、

    中国が工業製品、農産物、エネルギー、サービスの4分野で、2020〜21年の2年間で計2千億ドル(約22兆円)の輸入を増やす。うち500億ドルは農産物で、その他はエネルギーと製造業製品。

     この協議では、米国は、中国政府による巨額の産業補助金やサイバー攻撃などの構造問題構造的な改革についての約束は得られず、中国も、米国が課した関税を全部は撤回させられませんでした。3600億ドルの米国で販売する商品の関税はそのままです。

     実質的な関税条項以外、他の条項は概ね、暗黙の了解みたいなもので、トランプ大統領だって、肝心な話は11月の大統領選挙の後になってからの交渉だと分かっています。

     この二つを比べてみれば、すぐ後者を下関条約だなどというのは、ただ憤激のあまりの言葉にすぎず、事実ではないことがわかります。

     ★米・中それぞれの必要性。肝心な交渉はまだまだ先

     この貿易交渉第一段階の協議内容を見れば、これは米・中両国の意思の現れとわかります。米国は、ビジネス界や農業州の選挙区の願いをなんとかしなければなりませんでした。中国側は、外資の撤退や経済の下降スピード、失業の激増などの経済的苦境を食い止めねばなりませんでした。

     中国政府の、一番肝心な利益に関わる、いわゆる「構造性改革」(原注:政府の国営企業補助金など)は、まったくこの調印文書には書かれていません。

     金融業の外資解放については、本来、中国が世界貿易機関(WTO)に加入したときからの約束です。2006年から、中国は、外資が株式市場に参入する制限を、「適格外国機関投資家(QFII)」や「人民元適格海外機関投資家(RQFII)」を実行して、次第に開放してきました。その後の10余年で、外資銀行の参加制限や外資銀行支店の中国内法人化条件を中国国民並みにするなど、開放してきました。

     4月28日には、中国銀行保険監督管理委員会が、更に外資銀行の市場参入の門戸を広げるという通知が出され、外資銀行も中国国内で、ファンドの代理委託、代理兌換、政府債券販売業務ができるようになりました。外資企業の外資株保有率も51%までに緩和され、3年後には制限撤廃されることになりました。これらは皆、文章化されています。外国為替だけは解放されていません。米国がそれを要求しなかったのは、中国が外国為替管理を開放したら、中国だけでなく、世界にとっても災難になるからです。

     実行段階の話となると、中国側には自分の考え、例えば、どんな農産物、エネルギー、ハイテク用品を買うかには、自分のそろばん勘定があるだけではありません。本来、中国は世界中から買おうとしているのです。ただ貿易戦争が始まってからは、米国に懲罰を与えてやろうとして、ボーイングを袖にしてエアバスから買ったり、大豆の購入先を米国からブラジル、アルゼンチンに変えました。いくらぐらい買うか、いつ買うか、第二段階協議はどうするか、については中国側のそろばんは明快です。つまり11月の大統領選挙の結果を見てから、です。

     知的財産権問題に関しては、原因が、中国側の、求め、借りて、かっぱらうというやり方で米国から盗んでいたわけで、中国側が、協議の中で言ったのは、もともと「暗黙の了解」的なものです。

    ★EUがタダ乗りを図る

     EUは米国の盟友と称していますが、近年は同床異夢状態です。とりわけ、米国が対中貿易戦争を始めてからは、基本的には、第三者の立場にたって、味方する様子も見せずに、米国が自分たちを巻き込まないでくれと願っていました。

     米国は、対中貿易戦と同時に、日本やEUとも新たに、2国間協議を再開し、去年9月には、日本と日米貿易交渉」「米日デジタル貿易協定」を達成。12月には、カナダとメキシコとの間に、25年間の歴史を持つ北米自由貿易協定(NAFTA)に代わる米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)を結びました。

     EUとの交渉だけがやや難航して、トランプ米政権が航空機紛争で欧州連合(EU)への報復関税を発動し、自動車への関税値上げをちらつかせる可能性があり、この三つの問題が、現在の米欧間の主な問題となっています。

     米・中貿易交渉の第一段階が調印されて以後、EUにはとても大きな失望感が広がりました。欧州35カ国の商業連合会でつくる企業組合ビジネス・ヨーロッパは「中国の投資障壁は多く、合弁企業への要求は厳しく、政府購入の市場は欧州企業に閉ざされている。欧州企業はEUに対し、中国により強い立場をとり、欧州企業に公平な競争環境を確保するように要求する」と言いました。

     ロイターによると。EUの貿易執行委員のフィル・ホーガンは、16日、ロンドンでビデオ会議を開き、席上「悪魔は細部に住む」として、「米・中貿易協議第一段階」は、通常達成される協議の枠組みを超えており、二カ国の直接協議の上でなされた協議に対して、我々は評価を行い。WTOの規則に違反しないかどうかを検討する必要がある、と言いました。

     更に、米・中の「第一段階」貿易協議が提供する経済利益には限りがあるとし、トランプ大統領が2期目当選を果たし、政治的な行動をとる必要があるとほのめかしました。

     私は、EUが本当に、中国とは平等な関係にないと思うなら、米国に学び、自分たちの利益を守る態度を鮮明に打ち出すべきだと思います。今まで、対岸の火事ように、冷やかしてばかりいて、中国と、様々なインチキくさいことをやっておいて、またしても米国の交渉を利用して、より有利な条件にタダ乗りしようとするのは、臆病者の行為です。中国はこれに対しては、完全に主導権を持っています。

     しかし、かのGongさんと同じような考え方の同胞は安心してよろしい。中国はもう、その昔、太平天国の乱を鎮圧しにきた8カ国連合軍の時代ではありません。この後どのような貿易協定にサインするにせよ、すべてビジネス上の取引であって、領土割譲だとか、賠償金だなどはありません。中国は、もはや百年前の帝国主義に好き勝手に分けられる暗黒時代ではないのです。

     最後に説明が必要なのは、Gongさんは、中国人の中のおバカさんではありません。彼の観点は多くの人々の見方と同じです。こうした考え方が生まれるのは、一つには、中共による長年の愛国主義教育によって作られたものです。

     二つには、中国政府は、最初から貿易戦争は、米国が日増しに強大になる中国をやっつけようとしていると言いながら、自分たちがやってきた国際ルールに違反する知的財産権窃盗の話は、一言も言わないせいです。

     三つ目には、国際、国内のすべての争いや協議において、中国人は、勝つか負けるかしかなく、双方がウィンウィンという観念がありません。自分が損をすれば、相手の勝になると考え、正常な協議の交渉家庭とは、双方がそれぞれ、自分たちの求める結果を得るためで、一方が得することは、必ずしも自分の側が損をするとは限らないのだ、ということは理解しないのです。

     例えば、農業製品の購入ですが、中国が失うものはありません。米国が手にする文は、中国がブラジルやアルゼンチンから購入していたものです。

    ★米・中貿易戦争 — ★米国が得た三つの勝利 防御に追われる中国  2019年12月21日 など、これまで書いた論評でも、何度も述べたのですが、米・中貿易戦争の勝ち負けはとっくに決まっていました。

     今回の第一段階の調印は、中国側が、損害を食い止めるための賢明な措置でした。ですから、この貿易協議を「下関条約」と見ることは、中国国内の人々が当局にうっぷんばらしで言うのであれば、理解できます。しかし、本当にそう思っているなら、自分をバカにしていることになります。

     同様に、この協議を「危機を安定に転じた快挙」だと言うのも、これもいささか当局を褒めすぎたことになるでしょう。(終わり)

     原文は;评论 | 何清涟:中美贸易协议引发八面来风 

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    これまでの何清漣さんの論評の、翻訳はこちら。「拙速」でやってますので誤字、脱字ご勘弁。(電子本の方は校閲して直してあります。多分w) なお、お気付きの点がございましたらお知らせください。ツイッター → @Minya_J。

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