• ★武漢肺炎から見える中国の公共倫理の課題  2020年1月30日

    by  • January 31, 2020 • 日文文章 • 0 Comments

     武漢肺炎発生から、ずっと流行状況の変化に注目してきましたが、1月23日の武漢封鎖措置以後、ツイッター上では封鎖反対の声一色となり、さらに感染の疑いのある患者が検査を拒否し、強制隔離は中共の暴政だとの意見もありました。

     都市封鎖前には「社会からの自己隔離」を主張し、疫病流行期間中は、他人との接触の機会をできるだけ減らし、時には全てやめるのがよろしいと申し上げました。都市封鎖後は、現代の国家の法定伝染病に関わる措置、自主的な隔離と、患者の強制隔離の必要な理由、そして、非常時には公共倫理を守るべきだと言う点に重点をのべてきたのですが、ツイッターの書き込みなどを見ていて、疫病流行における公共の倫理の話をする必要を感じました。

     ★現代国家と伝染病

     現代国家に、伝染病に対して一連の厳格な法律があります。早くから伝染病と認めてられいる病気以外に、さらにその国が決めた法定伝染病(Legal Authorities )、法定伝染病に指定された完全な検疫と隔離措置( Quarantine and Isolation)があります。各国の医療条件の違いは大きいのですが、伝染病への検疫と隔離措置には、基本的に以下の2点が含まれています。

     1;強制隔離治療 :病人、病原所持者に対しては隔離治療。期間は医学検査で決定。病気の疑いのある人に対しては、指定場所の個室に隔離、治療する。

     2:発生地域の封鎖 すでに深刻な伝染病の発生した場所や特定区域の人間に対して、現地政府関連機関が隔離を実施。

     この二つは、一部にツイッター上で言われているような人権侵害ではありません。疫病が出た時期に強制隔離するのは、専門的な防疫に必要ですし、法律の規定でもあります。人権のためにも求められていることで、ウィルス感染者が隔離措置を受けるのは、健康な人々に感染させない公共的責任です。

     アメリカ疾病予防管理センターにも検査・隔離の規定がありますし、日本、豪州、英国などみな類似した法律があります。豪州では、本土から千キロ離れたクリスマス島に、武漢から引き上げた国民を二週間隔離します。英国でも百人の国民に、隔離同意書を求めています。中国の武漢以外の地域からの帰国者には、強制隔離はしませんが、2週間、自主的な隔離を行うように提案しています。

     ★中国の都市封鎖と強制隔離

     中国の「伝染病予防法」と「伝染病予防方実施方法」は、改革開放以後、西側の同様な法律にならって作られたもので、専門性の高い、基本的には国際基準と同じものです。

     今回の流行に際しては、中国的特色の宿痾ともいえる流行の隠蔽や言論統制を受けました。しかし、流行の爆発後にとられた強制隔離や治療と地域封鎖宣言は、原則的に言えば、専門分野の範囲内です。

     問題は、都市封鎖前の12月30日から1月22日までに、武漢から500万人もの人々が抜け出してしまったことです。彼らの中のウィルス保持者は、他の都市や世界中にウィルスを撒き散らしてしまっています。現在、中国人旅行者の一番人気のある東南アジアはじめ、米国、欧州、そして中国移民の多いカナダ、豪州では、診断結果で感染者と認定された人がたくさんいます。

     武漢封鎖に関して、武漢人は最初、地域差別だとして抵抗しました。私はツイッターで、これは病気蔓延を防ぐために必要だが、中央政府は封鎖地域の医療と物資供給の方法を講じるべきだと申し上げました。

     西側各国のウィルス専門家は、封鎖自体には肯定的ですが、しかし、このような大規模な都市の封鎖は、珍しいし、大変困難だろうと見ています。さらに重要なことは、「馬がもう封鎖前に飛び出してしまったようなもの」と指摘でした。この「馬」は、当然、全国各地や国外の親戚訪問や旅行にでかけた500万人のことです。

     1月24日に、ドイチェ・ヴェレ(ドイツ連邦共和国国営の国際放送事業体)の豪州伝染病専門家のライナ・マッキンタイアにインタビューしています。彼女は、現在中国が採っている「都市封鎖」は、海外感染を減らすのに有効だとみています。というのも、今までのところ、大部分の症例は武漢で発生しており、ウィルスの拡散源は武漢にあるということだからです。タイやシガポール、米国など多くの海外の症例も皆、感染者たちの旅行先でした。武漢封鎖計画が、ちゃんと行われれば、一定程度、ウィルス拡散を減らし、海外感染数も減らせるでしょう。

     武漢封鎖計画は、中国政府がウィルス伝染阻止に、自主性をもって取り組んだもので、これまでのダメダメだった措置へのリカバリーで、これ以上の損害阻止だといえるでしょう。実際、1月28日までに、英、独、カナダ、米国の航空会社は次々と中国便を停止(一部残しているところもある)しています。それ以前には、マカオ、香港、台湾も次々に中国への団体旅行を中止しました。症例の比較的多い東南アジア国家もこれにならうでしょう。

     英・BBCによると、武漢肺炎流行後、中国旅行者は、東南アジアで「反中ムード」に遭遇し、数カ国ではビザが有効期間中なのに、繰上げ帰国を促されたといわれます。1月23日、韓国大統領府の公式サイトには、中国人の入国禁止請願が出て、28日までに53万5千人の署名が集まっています。大統領府は20万以上の署名があった場合は回答しなければなりません。

     ★批判の多い強制隔離だが

     流行初期段階での中国政府の口封じや、日常的な防疫の常識普及活動の不十分さに加えて、先進省の地方の基層レベルの自治体政府の荒っぽい仕事ぶりが、流行防止への数々の困難を生み出しました。中国国内各省では、民衆が協力を拒否する現象が多々発生し、基層レベルの行政機関による、乱暴な各戸封鎖がありました。

     隔離恐怖症は、中国国内ばかりでなく、米国中国人留学生にもあります。例えば米国バージニア州のジョージ・メイソン大学では、武漢からの学生が戻ってきて発症。SNSのグループの間で話題になりましたが、本人は医者に行こうとしませんでした。同郷の学生たちに、個人を特定されて学校に通報されてから、隔離されました。

     この学生は米国に対する理解が不十分で、多分、強制帰国させられるとおもったのでしょう。実際は、米国ではこうした高度に危険な症例の患者は、まず回復まで治療を受け、その後に法に従って処遇されるのですが。

     現代に至るまで、人類の流行病への対処能力は、大変低いものでしたが、しかし、隔離が最良の方法であるとは知られていました。BBCが2015年に掲載した「17世紀にエイム村のペスト」という英国で昔起こった事件を取り上げた番組があります。

     450年前に、17世紀にダービーシャー教区のエイム村がペストに感染した際、ウィリアム・モンペッソン牧師が指導した決定的な行動によって、より広範囲の大災害を回避した話です。村人は、自分たちで隔離を決定したのです。村の道路に石垣を作って村を囲い、絶対にそこから出ないと誓いを立てました。中には、まったく症状の出ていない村人もいたのにです。今回、武漢にも「自分が英国に戻って病気を蔓延させてはならないから」引き上げを断った英国人がいました。

     中国人が伝染病隔離を恐れる理由は、多分、下記の理由でしょう。

     ⑴ 関連常識の欠如。米国では中学に社会科で、公共倫理と公共責任といった基本常識の科目があります。

     ⑵ 政府に対する深い不信感。隔離後は、治療もされず、死ぬのを待つだけだという疑念。この部分は、確かに中国政府はダメダメで、民衆の信頼を失っています。今回の流行開始時に、故意に隠蔽を図ったのがその一例です。

     ⑶ 公共的な責任感の欠如。少数の人々は、「自分が死ぬなら、他の奴らも道連れにしてやろう」と考える。病院で故意に、医師や看護婦に、息を吹きかけたり唾を飛ばしたりする極端な患者もいました。人間性の明暗は、今回の流行のなかでいたるところに見られます。
     「不止有武汉:湖北疫区16城实录(上篇)」にあるように、荊州では、第一線の医療関係者が「人間性の悪を見せつけられたが、自分たちはやめるわけにはいかない」と語っていますが、似たような動画もたくさんあります。

     あまりにこうした状況があるために、湖北省公安庁は「医療秩序の保護と医療関係者にに関する犯罪を厳罰に処する通告」を出して、新型コロナウィルス感染の疑いのある患者が、他人に向かって唾を吐くなどの行為をしたり、強制隔離や治療を拒絶したり、故意や過失で他人に伝染させた場合には刑事責任を問われると発表しました。

     ★流行期間のパニックは被害を拡大する

     2003年のSARS流行は突発的でしたが、終わるのも早かった。事後の中国政府は、伝染病防疫に力を入れ、各地方政府も関連行政措置をとりましたが、重大な伝染病を防止する仕事が、政府の日常になったとは言えません。

     あれから17年もたって、SARSの記憶も薄れました。武漢封鎖からおこった社会的パニックは、外国旅行中の武漢人と湖北省人に、大変な思いをさせました。ホテルや商店では、疫病神扱いを受け、ひどい扱いをされたり、少なからぬ人々がホテルから追い出されました。

     数日経った今、ちょっとは良くなったようですが、それは、ひとつには専門家が、武漢肺炎はSARSやエボラ熱に比べた場合、症状が出ていなくても他人に感染させること。二つ目は、武漢人がウィルスをまきちらしているニュースが普段に伝えられたため、ついに彼らも(湖北省人も続いて)、差別視されることに憤るより、隔離措置を受け入れようとするようになったことです。

     三つ目は、各地の政府も、行き場をなくした湖北省人が街をうろうろするのは、人道的にも問題があり、地元の流行阻止にも良くないと気がついて、各地に湖北人専門の宿泊施設を設置し始めたことです。

     これは、上海方面で一番成功しました。上海市政府と関係部署が、この二週間に武漢や湖北省から来た人たちをより分け、各区ですぐ面接を行い、隔離観察対象9804人、住宅内隔離8706人、集中隔離1098人を強圧的な手段ではなく説得指導しました。集中隔離は、宿泊、食事は無料ですし、在宅隔離の場合は、居住委員会が日用品購入を助け、ゴミ出しを行い、毎日、地域の病院から検査に来ます。

     どんな国でも、流行病発生には、政府の救援と個人の自力救済のどちらもが必要です。この二つは公共倫理に支えられています。公共倫理は、非常事態に際し、個人が公共の利益を第一に行動するということです。

     死に直面する疫病に対して、流行地域の人々が、個人の利益をまず考えて逃げ出せば、逃げ出す過程で病原菌をばら撒き、他人の健康に被害を与え、公共の利益を害します。ですから、患者や患者の可能性のある人々は強制隔離を受け入れ、時には地域封鎖もされます。

     今回の武漢肺炎では、政府が発生初期に、間違った処置をとったために、流行が極めて速く拡大してしまい、取り返しのつかない損害を与えた他に、中国の公共倫理教育が、個人の責任感を弱いままにしているという点も、今後、検討に値する重要な課題です。(終わり)

    何清涟:从武汉肺炎看瘟疫期的公共伦理

    中国 何清漣
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    これまでの何清漣さんの論評の、翻訳はこちら。「拙速」でやってますので誤字、脱字ご勘弁。(電子本の方は校閲して直してあります。多分w) なお、お気付きの点がございましたらお知らせください。ツイッター → @Minya_J。

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