何清漣氏 @HeQinglianブログ
2013年07月23日
全文日本語概訳/Minya_J Takeuchi Jun
http://twishort.com/B29dc
2013.7.24
今年6月バークレイズが英文報告書で「Likonomics(李克强経済学)」なる新語を使って以来、この言葉は国際投資業界で大いにもてはやされた。メディアの反応はさらに熱烈で、この概念たちまち大人気。7月3日、上海自由貿易区の成立が国務院で承認され、中国財政部部長の楼継偉が20か国中央銀行会議で「中国政府は大規模な経済刺激策をとらない」、と述べ、続いて7月19日の中央銀行が貸し出し金利利率を自由化するという声明はともに「李克强経済学」の実践とみなされた。
《李克强経済学の意味するもの》
リコノミクスは「アベノミクス」同様、ある国の首脳の経済学への貢献ではなく、その経済政策の特徴を意味する言葉だ。李克强は歴代総理のなかで唯一、経済学博士の学位をもっており、遼寧省党委書記時代、米国の大使に中国のGDPは信用できず、自分独自の方法でマクロ経済を見ている、と語ったことがあった。海外ではこうしたことで経済のプロとみなされており、先に英国のエコノミスト誌は李克强の言った3つの指標、電力使用量、鉄道貨物運送量、銀行貸し出し金額を「李克强指数」(Keqiang index)として中国経済の分析に使ったことがある。
李が首相になって数ヶ月後、バークレイズはその「景気刺激策をとらず、信用圧縮し、構造改革へ」という主要政策をを「リコノミクス」と名付け、たちまち投資業界やアナリストの人気を呼び、この言葉を使わないと時代遅れみたいになってしまった。バークレイズの総括した「リコノミクス」 の主な考え方は政府の行為を制限しようというものだ。2008年の経済危機以来、政府の投資と国有経済の過度の膨張、例えば「財政刺激策」を次第に国家主導の投資を減らして正していこう、というもの。信用圧縮」は預金と貸し金の膨張を抑制し、大幅に債務を削減しようというもの。「構造改革」は内容は豊富で、金融の自由化、財政システム、生産ファクターによる価格、土地、行政コントロール、独占、収入分配、戸籍制度などの領域での改革で、短期的な痛みをガマンして長期持続発展の潜在力にしようというものだ。
では、目下の中国で、リコノミクスのどの部分が実験的に実施しうるもので、どの部分が根本的に実施不可能だろうか?
まず、現在実施されている部分から分析しよう。政府が大規模な経済刺激策に出ない、という部分。中央政府は2009年以後、政府の大規模投資刺激策の教訓を得て、経済が巨大な地方債務によって悪影響を受ける懸念を抱いており、景気経済刺激策によってこの危険の極大化、収益の極めて悪い旧モデルを中止してより長期的な視野から見たいわけだ。
しかし各地方政府にとっては難問難関が一杯だ。成長減速は財政税収入面で極めて大きな困難に直面するから、政府投資刺激策は継続を願っている。各地方では最近、経済情勢分析会議が次々に開かれ、産業の構造転換や投資拡大が今年後半の地方経済の重点として強調され、16省2直轄都市は声明を発表し、投資プロジェクトの重要性を大いに讃え、下級政府が計画を加速実施するように促している。
中国メディアによれば、近く中国の多くの都市のトップが北京の財政部長ら幹部に、自省の経済基盤の弱さを訴え、中央財政の一層の支持を陳情しに上京する予定だという。この種の訴えの中味はちがっても、中央政府に資金的支持を要求するという一点では共通しており、この地方政府の強い圧力のもとで、中央政府の「経済刺激策をとらない」という方針が果たしてどこまで持ちこたえることができるかは疑問である。
二番目の信用圧縮、つまり通貨の過度発行投入を減らして行く件は既に実験的に開始されている。中国人民銀行は7月19日に、金融機関の貸し出し利率の制限解除を宣言し、金融資本のコストを下げ、金融資源配置を合理化するとした。多くの英語メディアはこれは重要な金融改革で、これに寄せる期待も大きい。多くの論者は利率の値上げは借金のコストを上げ、借りる側の行為を制限出来るというが、私はこれは効果がないとおもう。
米国のような信用経済だと、「信用縮小」というのは効果絶大で、カネを借りてる側を様々に制限することができる。しかし中国の金融市場というのは米国と違ってその難病の原因は政府の過度の干渉を排除できないから不良貸し出しが超過するのだ。(現在、この20数年以来の第三次大規模不良債権が累積)利率自由化では二つの大問題を解決出来ない。
それは ⑴ 地方政府が銀行の借金のおもな利用者だということ。(2012年末の債務残高は14.8億元) ⑵ 司法政府から民営資本にいたるまですべての債務者はすべてが無責任主体である。2013年地方政府の債務償還期の総額は6.24億元。しかし大多数が未償還。少数が新規起債で旧債を返還。民間資本はここ数年多くの債務者が不動産投機に走り大損して逐電する始末。
つまり、この両債務者の主体は正常な債務者とは言えない。だから利息があがって借金のコストがあがったところで、もともと借金など踏み倒せばいいというわけで、コストなしの借金なのである。夏斌は「中国は事実上経済危機にある」という一文で、融資量とGDPの関係でかってあるデータを提示した。2012年、利息を控除する前の鉱業企業資産収益率は8.88%。だが銀行の一般貸し付けと加重利率は7.07%で、もし計算すると各種の財務管理ではシャドー銀行の高利によって、企業の資産収益率は事実上融資コストに接近しており、相当な部分の企業は融資コストを割っている。 2013年5月のデータはさらに深刻で、企業資産収益率は融資コストに追いつけないでいる。このデータは中国の金融環境は既に極めて不正常で企業は正常な債務者としてはすでに自らの信用を維持することができない。
それがつまりここ数年の民営企業の大部分が正常な業務をおこなわず、浙江省江蘇省一体の民営企業が借金をしてまで不動産投機に走り、しくじってスタコラ逐電してしまったのだ。この信用圧縮政策の効果はすぐわかる。半年後に結論が出る。
《制度的基礎を欠くリコノミクス》
リコノミクスの最も重要な理念は政府の行為を制限して、経済主体が自分の行為による負債の責任を負うことを強調している点だ。しかし、これには権力の市場への介入を制限しなければならない。問題は中共の政治の3つの独占(政治、資源、世論)が必然的に無責任政治となり、中央政府(首脳を含めて)はどんな間違いをしても下野せず、地方政府(行政長官も含む)も借金がかさんだからといって下野することはない。この一点でリコノミクスは現実的な制度の基礎を欠いているのだ。
更に詳しく言えば、3項目のうち最初の2項目はまずは経済政策なのでテスト可能だ。しかし最後の項目の構造改革は関連する領域が広すぎて、国家の根源を揺るがすことになる。土地政策は中国政府の国家重要資源コントロール方式にかかわり、行政コントロールは政府と市場の関係にかかわる。政府は国家資源を掌握・配分すると同時に市場経済の規則制定者である。ゲームの審判員であり、同時に競争参加者でもある。とくに自分が独占している領域でだ。もし国家が経済行政制御を放棄し、西側国家のように「市場経済の番人」になるというなら、それは政治的独裁、世論独占の実質的基礎を放棄するに等しい。
いかにしてリコノミクスのために制度の基礎を作るかは李克强の総理という地位がなんとかできるわけではなく、全局を握る習近平書記でなければならない。
しかし、更に深く解剖すれば、習近平は中共利益集団の管理人にすぎない。中国の現実は、政治だろうが経済だろうが、中央政府、地方政府の間に中国の高層各利益集団が一種の相互に支え合う危険防止平衡バランサーを形成し、それを動かすことは大変に困難である。
このほど、南華日報が内部情報として、上海自由貿易区計画構想を李克强が外国投資者にも上海の金融サービスを解放しようとしたが、この考えはたちまち中国銀行業監督管理委員会と証券監督管理委員会の大っぴらな反対にあった。金融業界に風穴をあけることすらこんなに困難なのに、制度の基礎を再建するなどということが容易な筈はあるまい。私はリコノミクスは一時もてはやされているだけで、すぐやり方を変えることになるだろうとおもう。(終)
拙訳御免。
原文は;www.voachinese.com/content/heqinglian-blog-20130722/1707192.html
何清漣氏のこれまでの論評は;Webサイト 清漣居・日文文章 heqinglian.net/japanese/ に収録されています。
Comment on “「李克强経済学」の制度基礎は何処に?”