何清漣 @HeQinglian 氏ブログ
2013年7月28日
全文日本語概訳/Minya_J Takeuchi Jun
中国が英国医薬会社のグラクソ(*世界第4位の製薬企業)賄賂事件を調査するのは、外資の中国での贈賄行為を暴露する以外に、もっと重要なことは中国の医薬品流通業界の黒幕を再度暴きだすことだ。しかし、中央テレビや環球時報等の官製メディアは歓呼の叫びを上げながら別な方に走っている。つまりこれらの賄賂行為は外資が「郷に入れば郷に従え」とやった事を否定して、「多国籍企業の贈賄醜聞は世界中どこでもある」と。その意味は「外資は何処でも皆腐敗しており、中国の制度環境とは無関係だ」と言いたいのだ。これは成立しない。なぜならグラクソの贈賄手法は中国の医薬品流通業界のみほんのひとつに過ぎずグラクソへの調査というのは、実は中国の経済構造調整計画のひとつで、自国企業の保護計画の一部分で、別に当局が本気で医薬品流通業界の腐敗退治に乗り出したわけではないからだ。
《腐敗は中国医薬品流通業界の潤滑剤》
中国の各種報道を総合すると、グラクソ贈賄事件の要件は;賄賂による販売促進で賄賂のキーマンは各医院の医者。薬の値段の一割は医者への賄賂。中でも医薬に代表される新人訓練はこの業界の真相を物語る。医者に気に入られる為には飲み食い接待に留まらず、もっと盛んなのは「講義費」とか「食事代」など一見もっともらしいが実は違法な賄賂、フロ、按摩、女性の接待、さらには女医対象にセックスサービスも大流行。
賄賂費用は薬代の約一割になる。中国メディアは「グラクソの仰天賄賂、暴露される」などという見出しをつけ、あたかも医者に対する賄賂はグラクソが初めてで、中国の他の医薬業界はみな天使の様に純潔みたいなフリをしている。二十世紀の90年代に中国医療保険改革があり、私はかって追跡取材したことがあり、医薬品業界の腐敗について深く知っている。ここ数年にも中国メディアの腐敗報道も沢山あった。ネットで「医薬代表」「腐敗」などのキーワードで検索すると「ボクの仕事は賄賂を贈ることと性的な賄賂」「薬品の利潤は20倍。医者が4割とる」「医薬の出荷額は3.8元、病院価格は98元」等等。こんなのがゾロゾロでてくる。つまり、飲んでも死なないが治りもしない、値段の高いリベートの多い薬が最も医者に喜ばれ、それぞれの段階で支払われる賄賂はすべて最後には薬価に上乗せされて患者の負担となるのだ。こうした情報が表しているのは中国医薬業界の賄賂は何もグラクソ等外資系医薬品会社の独創ではなく「郷にいらば郷に従え」とそうしたに過ぎないということだ。ただ二つの点は特殊で有る。一に、それが外国の薬品会社だったということ。二に賄賂の金額が膨大だった。長年の賄賂の総額は30億元(約500億円)という。
《医薬非分業体制が”薬が医者を養う”に》
公開資料に依れば中国の7割の薬品は病院を通じて販売される。だから各大手医薬品会社は絶対、”最大の顧客”、即ち病院の各科と処方箋を出す権限のある医者と”親密な関係”を築かねばならない。これは自社の薬を市場に販売する必然の経路であって、外国企業だろうが中国企業だろうがこの経路を通るしかないのだ。
「南方周末」7月15日報道によると、グラクソの幹部の梁宏は自分が担当していた「お付き合い」対象は病院の主管部門の指導者か専門家だった、と述べた。「新薬を販売するには必ず各部門と”お付き合い”しなけれならない。登録には薬監督部門、価格なら国家発展改革委員会、医療保険は人力资源和社会保障(部)、地方なら入札関係、病院なら病院長、各科の主任、医者…もし薬品に関係する鎖の環が少なくなれば、腐敗も減るでしょう。しかし上述の通り、医薬非分業で薬が医者を食わせているわけで、これが最大の問題です」と。湖南省衛生庁事務局の彭亮主任はグラクソ事件の賄賂について、もし全面的にすべての医療関係で商業的賄賂の査察がモーレツに進んだら、「この問題に関わっていない病院や医者なんていくつあるだろうか?」と憂慮を表明している。
中国の薬代の値段が非常に高い病根は何処に有るか?主管部門は分かっているし、病院もわかっている。医薬業界の人達も知っている。2012年6月、「千人」(医療雑誌)が流通専門家の谷春光にインタビューした。題して「医薬流通;業界は医薬分業を待望」で、このインタビューでは中国の医薬流通方面の専業性の敷居は問題ではなく、主要な問題は医薬分業だ、と言っている。
「中国の医薬品業界全体の水準が世界に追いつけない最大の問題は”薬で医者を養う”大政策にある。外国は完全に医薬分業で、病院はまったく薬を販売していない」「病院内部の状況は大変複雑で、ある薬が病院で使われるかどうかは市場が決定するのではないし、医薬の価格も市場原理で決定されていない」「病院という市場では、市場原理は完全に機能喪失している」と谷春光は今の流通体制が薬品開発技術に影響するとまで述べている。
「こんな状況下では、たとえ企業が資金を投じて新流通技術を開発しても、経営効率を上げても、コストを下げても企業収益は上がり様が無い。それより”不透明な手段”で競争した企業が大きな市場を獲得していく。これが進んだら業界の進歩はどうなるかは想像がつくだろう」と。
《なぜ今年特に外資薬品企業の腐敗に打撃を?》
今回、中国当局が凄まじい勢いで外資薬品企業の腐敗を調べたのは確かに外国薬品企業を仰天させた。だがいくつかのトップ級の官側メディア以外は当局がこれで中国医薬市場を整理しようとしているとは見ていない。
グラクソ賄賂事件が捜査対象になると同時に、華潤集団が捜査を受けたとも伝えられた。胡耀邦の娘の李恒と息子の刘湖が分担してこの二つの企業の役職にある。だから、噂では北京はこの両家の企業に打撃を与えて、胡耀邦一家に「お前等、さっさと批判の矛を収めないとこうなるのだぞ」というサインを送る目的だったとの説もある。というのはこの四月に出した公開学術論文で胡徳華(*胡耀邦の息子)が政治改革を要求して、さらに習近平を批判したからだ。
しかし私は別の原因こそが重要だと思う。それは巨大な経済下降圧力の下で、中央政府が経済構造を調整するために、自国企業の保護を考え始めた、ということだ。雑誌「千人」の特集でも触れていたが2010年の中国薬品市場の成長率は21.9%、で同時期の全世界の医薬市場総体の成長率はたった4.2%。業界では今後中国の薬品市場は毎年20%以上の成長がみこめる極めて大きな市場空間だと。
米国の著名コンサル会社Frost&Sullivanは2020年の中国薬品市場の価値は米国を越える1200億㌦と予想。その巨大な潜在力は医薬研究開発、生産業界の発達、医薬品流通業界への極大発展空間を与える。2009年から国内の吸う企業の医療流通企業の国薬、上薬、九州通等が次々に上場して発展の速度を早めており、大規模投資も珍しく無い。外資の大会社も投資研究開発に力をいれてシェア確保を狙っている。
医薬品流通業界はすでに中国でもそれ以外でも資本の激闘の大舞台になっている。巨大市場の潜在力に加えて国家政策の援助で医薬流通業界は「黄金の十年」を迎えようとしているのだ。
中国は以前は外資を呼び込む為に市場と技術を交換し、外資優遇政策をとっていた。税収でも市場参入でも中国企業はこれまで政府の援助はなかった。しかし 2008年にはじまり、資本不足はなくなり、次第に外資優遇政策は取り消しに税も同額に。しかし、中国企業を支援するのは去年になってから。その方法も” 中国的特色”の濃いもので、例えば今年7月、中国国家発展開発委が5大外資ミルク会社に独占調査を決定したのは国産ミルク振興策だった。これは消費者のブーイングを浴びた。毒ミルク事件でその質に消費者が不安だったから。経済発展の時期には絶対多数の国家がすべて自国企業を援助する産業政策をとる。中国のそれはやや遅過ぎたぐらいだ。
現在、中国政府がこの種の方法で外資薬品会社の中国市場への影響を殺ぎ、自国企業の市場占有率を拡大しようとするのはふたつの事をしなければなるまい。まず、医薬分業。源流から整理しなければ、医薬流通の腐敗は将来も続き中国人は高い薬をのみ続けさせられ古い病はなおらないままになる。2つ目には政府がマジメに薬の質を監督し、中国企業も真面目に質の向上をはからねば、その市場の運命は結局、国産粉ミルクと同じ様なことになるだろう。(終)
拙訳御免 (*印は爺がつけた注)
原文は; www.voachinese.com/content/article/1711633.html
関連情報 中国当局、グラクソの従業員18人を拘束;jp.wsj.com/article/SB10001424127887323670304578634713740113072.html
英グラクソ、贈賄問題受け中国部門トップ交代;jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE96P02420130726
何清漣氏のこれまでの論評は;Webサイト 清漣居・日文文章 heqinglian.net/japanese/ に収録されています。