何清漣氏 @HeQinglian
2013年8月12日
全文日本語概訳/Minya_J Takeuchi Jun
中国経済は良くなるのか悪くなるのかについての論評はどちらとも決められません。海外で流行の「李克强オプション」は国際投資業界の中国経済の良くなる方への期待を表し、一方、中国の国家発展改革委員会の出した「ザーサイ指数」は中国の実体経済が悪い方へ向かっていることを示しています。
《李克强オプションの背後にある不安》
所謂、李克强オプション( Li Keqiang put)という言葉は李克强が中国経済の発展に提供した保険です。オプション取引とは、ある商品(為替、株式、債券などの原資産)を将来の一定期日(あるいは一定期間内)に、特定の価格で売る(または買う)ことができる権利の売買で、投資者にとっての一種の保険です。中国の今年の経済成長率が7%を下回るかもしれないという予測が、外資を不安にさせましたが、李克强が最近、今年の経済成長率を7.5%以下にはしない、と表明したため、外資をいささか安心させたのでした。
今年6月、バークレーが出した「リコノミクス」という言葉は李克强の経済政策を3つの部分に分けて、(1)景気刺激策を行わない、(2)金融機関の負債(レバレッジ)を抑制する、(3)構造改革、です。私は先頃、李克强の経済学は実施出来る制度的基礎がないことを指摘(2013年07月23日「李克强経済学」の制度基礎は何処に?」p.tl/UKNV )したのですが、国際投機業界はこの3点を中国政府が金融改革を突破口として経済改革を進めようとするものだとみなしました。
しかし2か月もたたないうちに、国際投機業界はあまり楽観的とは言えない「李克强オプション権」という新機軸を打ち出しました。2か月の間にこのような変化がおきたのは中国経済がさまざまな下落の兆候を出し始めたからです。この期間中、中国政府はミード・ジョンソン、ダノン、フォンテラ等6大外資企業がカルテル行為を行ったとして重罰を課しました。薬品会社のグラクソ・スミスクライン等の西側薬品企業も賄賂問題で今、中国当局の調査を受けています。これらを「フィナンシャルタイムズ」は「外資の中国悪夢」と呼びました。この二大業界の外資が遭遇した理由は、中国政府が反腐敗目的で市場を清掃しようとしたというより、自国経済機構の改革が極めて困難なので、当局が民族工業保護の挙にでた、というべきなのです。「リコノミクス」といおうが「李オプション」と呼ぼうが、それは国際投機業界が中国の経済の真実に対して下した判断というより、外資が勝手に自分達で描いた中国経済への幻像というべきものです。
国際投機業界がなぜ中国経済の堅調を期待するのかという原因は簡単です。2013年5月からずっと国際短期資本は新興市場に流出し、新興市場の貨幣価値と資産価格を下落させていました。5月から6月中旬には大部分の新興市場経済の貨幣価値は米ドルに対して明らかな下落で、南アフリカは9.2%、インドルピー、ブラジルレアル、フィリピンペソは5%以上下落しました。これと同時に新興市場の株価も下落し、国債も投げ売りされ、国債利回りは上昇しました。これまで中国市場に大量の資本を投入した経理担当者たちは業績の暴落を怖れ、中国市場が持ちこたえてくれることを願っています。李克强オプションとはこの種の不安の表現なのです。
《ザーサイ指数って何のこと?》
所謂”ザーサイ指数”とはメイド・イン・チャイナの言葉です。最近国家発展改革委が作り出して紹介したもので、ザーサイの消費量に基づいて農民工(爺注;下層流動労働人口)の動向を分析し、相応する福祉政策の根拠にしようというものです。私はこの「ザーサイ指数」が意味する内容はなかなか豊富で農民工の流動方向だけではなく、更には中国産業の構造的類型の変化と沿海経済の衰えを表しているとおもいます。簡単に言えば、長江・珠江デルタ地域の市場競争型産業の衰亡、中西部地区の政府支援プロジェクトが現在勃興していること、これらの興亡がつまり農民工の流動方向の変化の原因なのです。
「ザーサイ指数」の意味をここで紹介しておきましょう。「経済観察報」8月9日号が「市街化のザーサイ指数」で紹介したところによると重慶涪陵産のザーサイは近年、全国各地で販売額が変化しており、人口の流動動向を繁栄しています。ザーサイは安価な消耗品なので中ぐらいの収入のある都市人口では消費が安定しています。国家発展改革委のプランナーが発見したのは重慶涪陵産ザーサイは華南地区での販売額が減少して、2007年の49%から2011年の29.99%まで下落しました。その他の市場では平均して25%を越えて売れているのにです。一方、2009年から2012年の間に華中地区では2.6%から10.57%に、中原地区では8.02%から10.1%に、西北地区では9.38%から11.92%に増えました。中国の統計数字はウソをつくのが習慣になっておりますが、しかしザーサイ工場はまさかウソをつく必要はありませんから、これを指数に使えば中国経済をみるのに役に立つだろうというわけです。
中国経済の状態をみるのに、珠江と長江の両デルタ地帯は確かに最重要窓口です。近現代以来、このふたつの土地が他の土地に先駆けて振興し、衰退も他地区より遅かったのです。もしこの両地方が困窮すれば、他地区の問題はさらに大きいでしょう。珠江デルタは中国という「世界の工場」の主要な工場ですが、現在、工業の衰亡に直面しているだけでなく、広州市は近年、育てて来た日系の自動車を主体とする「戦略産業」が税源として枯渇してきています。
地元政府は企業からさらに税をとる以外に、中央への納税額を減らそうと試みています。最近、各省の行政長官が北京の財務部に救援を求めに行った際、これまで意気軒昂で大いばりだった広東省省長がなんと哀訴の列に加わったのでした。長江デルタの浙江・温州はずっとこれまで私営企業経済発展のモデル地区とされてきました。しかし現在、労働集約型の軽工業を中心とする温州モデルは行き詰まっています。靴、服、皮、眼鏡、筆、ライター各産業全部衰退です。今年1月から5月の間に浙江省の中小企業は1500社減少しました。温州と広州はかって豊かな一流都市だったのですがいまや国内メディアに産業衰亡都市リストに載せられています。
珠江と長江の両デルタ地帯の労働集約型企業はずっと中国農民工の主要な就職先でした。しかし現在、農民工は華中、中原へ西北地区へと流れており、それは中国経済にとっての福音とは言えません。その意味は農民工が家に戻るか家に近い所に就職しているということだからです。そしてこうした就職は市場競争型の産業に就職したのではなく、多くはおそらく政府が推進しているプロジェクト、つまり新市街化計画の基礎施設、不動産や建築業に就職しているのです。
現在、新市街化計画は中原地区では経済発展の旗頭となっており、西北地区では陕西省の「撤郷並鎮」、つまり中心になる町村を市街化して僻地の村を減らすモデルを押し進めて十年で完成させようとしている。華中地区の長沙、武漢の新市街化の内容は新規の区を整備しあらたな商業圏をつくろうというものです。これらはすべて政府主導の投資で大部分が市場の需給創出や動機、収益性に欠けており古い幽霊街経済の陰でまたぞろ幽霊域経済をやってるのと変わりがありません。
以上述べた事が悪いニュースの全てではありません。今、中国は30年来最大の第一次産業の構造調整に直面しています。中国経済の主役を演じて来た太陽光発電、造船、鋼鉄、LED、中小不動産など9大産業は破産に瀕し、資源枯渇型都市と産業衰退型都市の数は増加中です。中国は現在、金融経済と実体経済の両方が衰退するという困難な局面に直面しているといえるのです。
国債投資業界は中国の金融経済の苦境を理解し、中国政府の債務とシャドー銀行が中国経済と金融危機という両方の大きな危険地帯で、この3年来急速に発展して来た信託会社が破産したり、第三理財業界今年中に600社倒産したりする兆しを知っていますから、「李克强オプション」というのは彼らにとっての「精神安定剤」なのです。
そしてザーサイ指数は国家発展改革委の福利政策の根拠、というよりは中国の実体経済の衰退を示す指数といったほうがいいのではないでしょうか。(終)
拙訳御免
原文は 2013年8月12日 点评中国:从“李克强看跌期权”到“榨菜指数” www.bbc.co.uk/zhongwen/simp/focus_on_china/2013/08/130812_cr_likeqiangandzhacai_byheqinglian.shtml
何清漣氏のこれまでの論評は;Webサイト 清漣居・日文文章 heqinglian.net/japanese/ に収録されています。