程暁農氏
2013年8月12日
全文日本語概訳/Minya_J Takeuchi Jun
http://twishort.com/ZfHdc
私は8月5日と9日に《纵览中国》ネット上で2回に分けて「6月のマネーショートの背後」heqinglian.net/2013/08/10/china-hot-money-1/と「中国の偽外国商」(拙訳;heqinglian.net/2013/08/10/china-hot-money-2-japanese/)を書いて中国ホットマネーの動向と金主を分析しました。今回は最終回としてなぜ偽外国商が中国を震撼させる巨大なエネルギーを持っているかを分析します。
《1;ホットマネー原動力学》
中国の外国商人の皮を被っている偽外国商達には中国経済の”奇跡”を支える前向きの力は所詮ありません。連中は風向きを窺って資金を出し入れし中国経済動向を揺るがすのです。中国メディアはよくホットマネーの動きは米国FRBの政策の変化のせいだ、というのですが、まあそういっておけば政治上安全ですし、中国の重要性を高めることになりますからね。でも、そうして中国に導入される外資の7割が「偽外資」だという正体を覆い隠してしまうわけです。それは同時に国家の経済政策の制定を誤らせます。
御法度の裏街道を行く大量の”ホットマネー”を操って、時に中国に入り、ときに突然逃げ出すかとおもうと、また戻って来る闇のお金の「黒衣(くろこ)」つまり、金主達はこうした苦労をめくらめっぽうやっているだけなのでしょうか?むろん、そんなことはありません。
汚職役人達の資金出し入れは、実は米国FRBと関係するというより、中国の経済的風向きや情報と関連します。国内金融が緩んだり「GDP成長率8%を保証」されれば偽外資は大挙入って来ますし逆に、国内で汚職取締とか、不動産バブル抑制が強まると偽外資は逃げ出しますから「資金ショート」が出現し、外国借款が下降し銀行預金が流失します。
たった1、2か月に数千億元が行き場を探して右往左往するというのは当然、何百何千の汚職役人がコントロールできる話ではありません。現代経済学風に言えばそれは「何千何万の見えざる手」による結果なんですね。連中の間には別に何も「組織化」されている協力体制があるわけではなく、各自の敏感な嗅覚がなせる本能的なしわざなのです。
《2;中国のマクロ調整;偽外商が中央銀行をコントロール》
中国のホットマネーは中国経済の安定を深刻に損ないますがこれはもう争えない事実です。最近、中国政府は金融改革の構想を温めていますが、その狙いは市場改革を通じて中興なマクロ的制御の有効性を強化したいと願っているのです。その中の重要目標の一つが国際社会の中国経済に対する信用を揺るぎないものにしたいということです。
西側の金融機構もやはり正常な市場経済の論理から、”外国マネー”の動きが中国経済にあたえるショックを理解しようとしています。しかし、偽外国商達は唯の普通の「市場パワー」と言えるでしょうか?連中は「外国投資家」なのかそれとも「内部の中国人」なのか、どちらでしょう?
この問を一歩進めると、彼らは政策の受動的な存在なのか、それとも政策決定の参与者なのか?という疑問になります。もし後者なら、中央銀行は千にも万にものぼる体制内の偽外国商達に向き合う事になり、表は中央銀行、裏では偽外国商、そのどちらがマクロコントロールの主導権を持っているのでしょうか?何千何万の偽外国商達が軽々と数千億元のホットマネーを国境が無いが如くに出し入れするなら、中央銀行の政策など容易に左右できます。
例えば、中央銀行が金融緩和したくても、偽外国商達が政治の風向きが厳しいと判断したり、経済情勢がマズいと思い踏みとどまれば、ホットマネーは逃げ出し、外資比率は下がり、金融は却って緊縮されます。逆に中央銀行が引き締めに転じようとしても、偽外国商達が同時に何千億というホットマネーを中国内に持ち込めば、引き締めの努力は無に帰してしまいます。ただある種の状況下でのみ中央銀行と偽外国商が協調一致した行動をとることができます。それは中央銀行の政策が偽外国商たちの利益に合致した場合です。では偽外国商の利益はどこに存在するのでしょうか?
彼らは当然のことながら中国の危険な不動産バブルが大きくなればなるほどいいのです。そうなってこそ中国で大儲けできるからです。もし偽外国商と中央銀行がどちらもバブルがますます大きくなるとおもえば双方の動きは似たものになります。どちらも資金を市場から引き上げるでしょう。しかし偽外国商達は絶対、中央銀行の緊縮政策の実施を待ってから行動するなどということはしません。それでは大損ですから。彼らは風向きを察するや率先して資金を逃がします。
ですから、偽外国商たちは収縮する中国経済の「首つりの足をひっぱる」ような、たとえば中央銀行が本来バブルを少し冷そうと思っただけなのに、偽外国商によって一挙ににバブルの亀裂をおおきくしたり、またはバブルそのものを崩壊させかねないのです。例えば、中央銀行とか発展改革委員会の政策が経済安定と国際社会の中国経済への信用を安定させようとすると、その政策が発表される前に偽外国商達は行動を開始します。
ですから中央銀行がまず”安定”させないといけないのはなんと偽外国商達の信用、ということになります。連中につけ込まれたり攪乱されないようにしなければなりません。が、偽外国商の動向をはっきり事前に考慮にいれるなんていう事は口で言うほど容易なことではありません。それでも中国の通貨政策を決めて実行する過程で、中央銀行は数えきれないほどの偽外国商達の思惑を考慮せざるをえません。このような構造で誰が政策に成算がもてるでしょう?
忘れてはならないのは偽外国商の多くが各級の政府経済部門の人間ですから、当然政策を決める過程で一定の影響力を持っている、ということです。或は、彼らが直接政策に関与する立場にないとしても、間接に政策の決定に影響をあたえるルートと能力を持っているわけです。さもなければどうして自由自在に膨大なホットマネーを動かせるでしょうか?「国際投資家」と「インサイダー」の一体になったとき、誰が国際社会の中国に対する信用を動揺させているのでしょうか?答えは一目瞭然であります。
数知れない偽外国商、インサイダー達は自分達の私的利益の必要に応じて、中国経済のなかから利を漁り、いつでも中国経済に打撃を与えることができます。このような状況下では中央銀行が偽外国商のホットマネーを有効に制御するというよりは、むしろ偽外国商たちが中央銀行をコントロールしている、と言った方がよろしいでしょう。
《3;中国経済を揺るがす黒衣の巨大な力》
偽外国商の資金源は汚職官僚たちの”活動所得”です。これらの資金を外資に変身させるのは一種の安全措置です。多少面倒ですが彼らにとってはメリットは火を見るよりも明らかです。中央紀律委員会だろうが、監察部だろうが直接、調査班を遠い海外へ派遣して外国の企業の資金源や経営の記録を調べるわけにはいきません。また中国が開放政策をとっているからには外資流入を禁止することはできません。
そして外資にたいする全面的調査、その真偽を弁別し、対応を区別するというのは極めて難しい仕事です。国内や香港、マカオはさておき、オフショア金融センターの島々からはおそらく調査にたいして「高度な協力」など得られないでしょう。そうした島嶼国家はとっくに「ホットマネー依存症」になっており、いまや地元で企業を経営する中国人はメシのタネになっています。少なくとも彼らからみれば中国からくるドルはホンモノの外資であり、自分達の法律になんら違反するものではありません。
中国で偽外資の金主による腐敗が続くなら、彼らの活動所得は大河の源のように途切れることはないでしょうし、ましてや彼ら全体が急速に大成長するでしょう。疑いなくこうしていけば、ホットマネーの中国流入量はますます増加します。
そして偽外国商が中国経済を揺るがす力も日々強大な恐るべきものになるでしょう。なぜならば彼らはそのカネをホットマネーとしてつかいますから、国内のいかなる小さな動きにも高度に注目しております。小鳥が弓の陰に脅える程敏感だといってもいいでしょう。少しでも危険を感じたらパッと逃げます。危険がさったとみるやたちまちどっと流入します。18回大会前にそんな状況がありました。今までの所、ホットマネー流入量は数千万人民元単位でしたが、これが兆の単位になるのはただ時間の問題です。
このような大規模なホットマネーは「銭荒」(資金ショート)や、逆に台湾の90年代初めに起きた「お金がじゃぶじゃぶくるぶしまで状態」を巻き起こす事ができます。経済がこのような衝撃を受ける度に中央銀行は偽外商のあとで後始末に追われます。ホットマネーが流出したら「資金ショート」となりますから、中央銀行は2013年6月末のようにただちに通貨を補給します。逆に流入したら家賃が高騰し、中央銀行は金融引き締め、発展改革委は不動産市場を調整しなければならないのですが、おそらく、このような政策が発表されるやいなやホットマネーはまた蜂の巣をつついたように逃げ出すでしょう。
中国金融当局にとって焦眉の急はできるだけ早く、ホットマネー流入の法則をあきらかにする、つまり毎回の大規模ホットマネーの流出入の動機を理解する事です。そうしてこそ初めて有事の備えができるわけです。しかしこれは通常のアンケート調査では絶対無理な難題です。ちょうど研究者が役人達に「どうやって違法腐敗活動やってますか?」と訊く様なものですから。ホットマネーの金主が「政治のこれこれの動向が不安だから」などと答える筈がありません。
ましてや誰がホットマネーの金主かなんて誰も自分から明らかに名乗ったりしません。アンケートも聞き取り調査もダメなら残る方法はこっそり監視することですが、それをやったらますます相手に不必要なまでに警戒させて却って薮蛇になってしまうことでしょう。
《4;中国的特色の経済関係;ホットマネー依存症》
腐敗は中国で千年の歴史があります。ホットマネーは世界中で珍しく有りませんが、現代中国のホットマネーの動きはやはり中国独自の特色を持っています。まず他の国のホットマネーは外国から一時的に流れ込む資金で、すぐ撤退しますからその国の経済的基礎まで動揺させることには至りません。
しかし中国のホットマネーは本来中国経済の生み出した重要な富の一部です。深刻な収入分配の不公平によって中国の富の大部分は権力貴族集団の手中に集まります。一般庶民の「内需不足」を変え様がない現状では権力貴族達の資金は経済成長の最大の潜在的内需、であります。
しかし、不動産購入を制限しても、不動産情報ネットワークを作って監視しても、反腐敗の圧力にしてもすべてすべて権力貴族たちが直接不動産を購入するとき直面する煩わしさと危険を意味します。ですから海外で資金洗浄した後再び国内にファンドを通して間接に不動産に”投資”するのは金主にとって最善の選択であるばかりか中国経済の成長を維持する原動力の一部になっています。さもなくば、中国権力貴族たちがつかんだ冨を全部国境外に持ち去ってしまえば 中国経済は成長の勢いをうしなってしまうのです。
だからホットマネーは中国にとってなぜ重要かと言えば、なんとそれが中国が本来既に失った経済バランスを回復するというある種の平衡状態復帰を助けているからです。これが中国経済成長の秘訣であり世界経済に他に例の無い奇妙なケースなのです。
次に、中国のホットマネーの金主の大部分が”外国人投資家”であると同時に”体制内に影響力をもつインサイダー”でもあるということです。ですからホットマネーが中国で出入りするのは他の国とはまったく情況がちがいます。他の国ではホットマネーの外国人金主はその国の中央銀行の通貨政策に影響力をもつなんてことはあり得ません。ただ単に市場を通じての操作で中央銀行と公開状態でウデを競うわけです。
しかし中国ではホットマネーの金主は政策制定過程や内部情報に通じ、政策決定能力に影響力をもっているのです。その結果「春がくるのを真っ先に感知する鴨」のごとく、中央銀行が動き出す前に自分が動けるのです。さらに、他の国に流れ込むホットマネーは一般に全部金融市場で活動しますから、金融危機は引き起こす事があっても、直接その国の製造業に流れ込んでメチャクチャにすることはありません。
しかし中国では偽外資は不動産転がしをつうじて、国際的にはおそらく前例のないほど国内経済に深く介入します。偽外資の金主達は”インサイダー”ですから自分の資金が一番儲かる所(当然、不動産業)を探し出しいつでも安全に撤退する自信ももっています。
だから彼らは中国経済の支柱である不動産業そのものとその他の川上企業に対して巨大な衝撃力〜製鉄、非鉄金属、建材、家具、運輸等諸産業を大繁栄させたり、逆に一気に深淵に叩き落とす力を持つのです。また不動産の川下企業(例えば広告業、メディア)にとっては、ホットマネー洪水の逆流効果が無ければたちまち商売あがったりになります。こうして中国経済の「ホットマネー依存症」状態ができあがるわけです。
ですから、もしもホットマネーが不動産業界の基盤を揺るがすのをやめさせようとしたら地方政府の”活きる路”を断つことになるのです。つまり、もしもホットマネーが不動産業界の基盤を揺るがすのをやめさせようとしたら地方政府の”活路”を断つことに等しいのです。
ホットマネーの猛威をこうしてお話してくると、おそらく「そんなに問題があるのなら、なぜそれが中国に流れ込むのを杜絶させて、一挙に消滅させないのか」とおもわれるでしょう。残念ながら政府にとってはそれは実行不可能な選択肢なのです。
ホットマネーを操る偽外商達が深い暗闇の中で資金を回しているやり方や様々なルート、通常は一見合法的な外見を装っていることや隠れた金主達や資金が真実の目的を探り出す困難等の難しさはさておいても中国経済の「ホットマネー依存症」だけで、大規模なホットマネー退治の実行は無理なのです。中国政府は経済の安定を一番大事だと考えてるわけで、その経済の安定はホットマネーに支えられているからです。
ホットマネーに打撃を与える、ということは即ち中国経済に打撃を与えると同じ事なのです。この角度からみるなら偽外商は中央銀行をコントロールできるだけでなく、中央政府から地方政府まで「拉致」している状態なのです。
中国にとって皮肉な事に偽外商は中国経済を揺るがす巨大な力量は彼らの日々増長する膨大な財力から来るばかりでなく、その「インサイダー」という身分から嵐を呼べるほどの力を持っているからだという点だけでもなく、彼らの正体を暴こうという如何なる試みもすべて大規模なホットマネーの逃亡を招いてしまうという事にあるのです。ですから、隠れた偽外商やホットマネーの金主に打撃を与えようとする人は、すなわち中国経済の前途を破壊するという政治責任を負わざるを得ないのです。
これまで、腐敗問題やホットマネー、不動産バブル等等の現象の数々の議論は、往々にしてだた別々の問題として注目をあつめていました。以上の分析でこれらの問題をつなげて考えてみると、ひとつの新しい結論がでてきます。
中国社会の深刻な分配の不公平、一般庶民の内需不足、汚職官僚の資本の国外逃亡、は本来持続的に中国経済をそこなう命運を背負っています。しかし汚職官僚達がホットマネーが国内に回流し不動産バブルで儲ける抜け道を見つけたことによって、汚職官僚たちの冨は再び中国に戻ってきて不動産業界に投資され中国経済をホットマネー依存症、不動産依存症の悪の道へと誘い込みました。このような軌道上では、中国経済の成否の程はすべてホットマネーの動きにかかっています。この意味はホットマネーの金主達は中国の未来の命運を支配する一種のカギを握る勢力になっている、ということです。
この点がわかると、なぜ中国で反腐敗の動きが中国では二階から目薬のようなものになってしまうかわかります。ホットマネーの金主をゆるがしたなら、彼らは中国経済をまるごと震撼させるからです。同様に、なぜ中産階級が自らの経済・社会的地位が不安定だと感じているかというと、その命運は事実上、ホットマネーの金主達の手に握られているからです。金主達が一斉に逃亡すれば中産階級は不動産価値の暴落によって無産階級や負債階級になってしまうのです。
中国経済がここまできてしまうと、所謂「市場化による改革」はすでに「アスピリン」のようなもので、「飲んでも死なないが病気も治らない」程度のものでしかありません。ホットマネーの金主達が”愛国心”でもって中国経済とともに滅びてもかまわないとでもいわないかぎり、どんなときにちょっと風が吹いて草が揺れたら、不安になった彼らの資金はたちまち逃げ出し、中国経済は泥沼に陥るでしょう。
中国は未来をホットマネーの金主達の愛国主義に托せるでしょうか?彼らのうちの多くがとっくにサモアやトンガのような国までも含む別の国の国籍をもっているのも知っておくべきでしょう。財産の確保という問題に直面した彼らはどちらの国を愛するか、誰がわかるというのでしょうか?(終)
拙訳御免。
原文は;探寻中国热钱的踪迹:撼动中国经济的隐身者 www.chinainperspective.com/ArtShow.aspx?AID=22306
程暁農氏/何清漣氏のこれまでの論評は;Webサイト 清漣居・日文文章 heqinglian.net/japanese/ に収録されています。