何清漣氏 @HeQinglian
2013年08月13日
全文日本語概訳/Minya_J Takeuchi Jun
今や、経済バブルは概念バブルをも伴うご時世となりました。一つの概念を検証する暇すら無いうちに当の概念が破綻してしまのです。今年の6月にバークレイが世に送り出し、国債投資業界に好感をもって迎えられた「李克强経済学」(リコノミクス)がまさにこれだといえます。その主な内容(1)景気刺激策を行わない、(2)金融機関の負債(レバレッジ)を抑制する、が中国政府の吹き鳴らす投資ラッパによって破産を宣告されました。これによってその(3)の構造改革 もまたこの政府投資の刺激策にたよっての旧来の道を狂奔するしかなくなったのです。
《中央新政策は『姑が嫁に家のやりくりをまかせる』方式》
楼继伟(爺注*まあ財務大臣)がG20の席上「中国政府は経済刺激策をとらない」といったその舌の根も乾かぬうちに、江蘇、安徽、重慶、四川、貴州、陕西省等多くの省と市は次々と下級政府に文書命令や会議を開かせて「第12次5か年計画」の鉄道、道路、飛行場建設を加速せよと要求し、約36の都市の発展改革部門は下部からの都市交通プロジェクト申請にゴーサインをだしました。鉄道工事とスラム街は新しい地方政府の投資先のホットポイントになり、モロモロの投資のうちライトレール・トランジット(都市の電車)は建設の重点です。2020年までに中国の軌道系交通機関の距離は6000㌔に達し、その方面の投資額は4兆元に達します。各地でライトレール・トランジットを作ろうという理由は都市の基礎インフラ強化、つまり有効な投資先と消費の牽引力にということです。また、都市の総合能力をアップし人中心の新型市街化質を向上させて、各大形経済圏を連結させることです。この情報は中国交通運輸部の杨传堂(*運輸大臣)が交通部の会議で明確に「都市の軌道交通建設は今年下半期の交通での5大重点のひとつ」と述べていることでも確かです。
総理と財務大臣がどちらも「経済刺激策をとらない」と言うのに、地方政府が中央政府にあえて逆らって勝手にやっていいのでしょうか?プロセス的に言えば、じつはそういうわけでもないのです。「リコノミクス(李克强経済学)」の概念を2013年の6月に売り出したバークレイは、その年5月に中央政府が既に地方政府に大変大きな政策を「行政許可プロジェクト等における一連の取り消し及び下部に任せる国務院の決定」 において、117項になる一連の取り消し/下部に権限を委譲するか、審査認可していたことを見落としていたのではないでしょうか。
その中には、発展改革委員会が取り消し、下部に権限を委譲した投資審査認可プロジェクトが25項目にもなり、権限委譲の理由は「投資体制改革を更にすすめ、資源配置における基礎的作用としての市場性を十分発揮させ、企業投資の自主権を確実にする」とあるのです。これによって中央政府は自分達が約束を守ったと言えるわけで、これが地方政府に投資に関する許可の自主権を発揮させる根拠となります。ただ、中国政府のやりかたを十分知っている人なら誰でも、これは『耳に栓をして鈴を盗む』類いだとわかります。なぜなら地方政府がいくら自分達で気違い染みたプロジェクトを批准しようとも本当に建設段階の話となれば資金集めに中央政府の政策の後押しがなければ一歩たりとも進めないのですから。
《中央政府の金融援助の指向性》
国際投資業界が「2)金融機関の負債(レバレッジ)を抑制する」という中国金融の市場化改革に歓呼の声を上げているとき、中国政府はすでに銀行を通じて地方政府投資に大規模な支持を与えると決めていたのでした。今年7月、国務院が出した「経済構造の金融サポートの調整によるモデルチェンジとアップグレードの指導意見」は重点領域と弱点部分への強化を継続することを要求しています。8月12日に国務院がだした「小企業発展実行への金融支持に関する意見書」でも明確に小規模企業への金融サービスと政策サポートを強化するよう規定しているのです。
上海は金融援助の重点地ですが、8月6日、中国農業銀行と上海市政府は協定を結び、上海に2500億元の信用借款をあたえることになりました。この金額は上海の昨年のGDPの12%に相当します。この借款はデイズニーランド建設や上海自由貿易区関係の都市改造向けです。「毎日経済新聞」によればこの協定による支援は農業銀行による上海6大領域金融支援の一部分に過ぎず、このような大量金額の借款は外から見れば政府の「新財政刺激政策」だと思わざるを得ないものです。
各大商業銀行の他、今回はさらに本来、国家政策サービスの為の投資開発銀行も加わっています。ちかく、国家開発銀行は江蘇、河北、青海省など多数の省と協力覚え書きを交わし支援を拡大することにしていますし、同時に国家開発銀行の各省の支店も各地の一級市と多くの覚え書きを交わします。同銀行の胡怀邦頭取は数日前のインタビューで、今年前半数千億の新借款を増やし、その8割が石炭、電気、石油、運輸、通信と公共インフラ設備等の基礎施設、基盤産業、支柱産業の領域だ、といいました。
国家開発銀行の参入は地方債の発行が資金集めの主要な源になるということです。誰もが承知していますがこの銀行は債券発行を資金集めの柱とする債券銀行であり、財政部の第二債券発行体、俗称「第二財政部」といわれています。前頭取の陳元は大金持ちの大家族の中国の第二財政部を掌握しており、エコノミストによれば「如何なるときも中国国歌開発銀行の代表団が発展途上国に借款を与えに来たときは最高度の待遇で、陳元は皇室級の扱いを受けた」とのことです。商業銀行が地方に借款を与えるのが商業行為だとしたら、国家開発銀行が国家の戦略的政策の銀行として、地方に借款を与えるのは完全に財政刺激そのものということになります。
《地方政府はいかにして借金を断つのか?》
内外の経済人の絶対多数は中国政府の巨額債務とシャドー銀行が中国経済と金融の危機を誘発する二大危険地帯だとみています。中国の政府側経済学者もこの問題を心配していて、今年7月、清華大学の都市財政透明度報告が明らかにした全国289都市の透明度は相対的に極めて低く、番付トップの上海市でさえ合格からはほど遠く、さらに深刻なのは多くの市政府が地方債を隠匿している疑いが強く、債務を公開しているのは僅か十三市のみというありさまです。地方債はとっくに無茶苦茶になっているのです。古い借金を返さないうちに新たな大規模借金を重ねるというのは民主国家では大変難しく、米国ではカリフォルニア州のオレンジ郡やデトロイトの様にこうした政府は破産宣告するしかありません。。
しかし、そこは「天下無敵の共産党」です。8月13日、『瞭望』誌は「官僚は地方債務の責任転嫁」という記事を発表し「前期政府の借金は今季政府は絶対返さない」として取材記者が東、中、西部地区で取材してあきらかになったのは各地の政府税収機構は同じで、各種の支出は普段に増加し、「新市街化計画」は単純に「インフラ投入の増大」と理解されており、地方政府の債務は年を逐って増加します。ですがその最大の問題は債務の増加ではなく、その不透明さにある、といいます。債務額がどのぐらいあるかは地方政府もハッキリさせられないというのでした。特に注目すべきは市、県、郷の基層レベルの指導者達には「債務意識」がないばかりか、逆に「債務繰り延べ」「債務転嫁心理」が存在する、と指摘しています。つまり、前期政府の借金は自分達は返さないでも良い、と考えているわけです。このような”経済”は信用がまるでないのはいうまでもありません。ささえる”信用”が無い経済体というのはすべて目先の行為しかできず、「今日の酒は今日飲んであすを思い煩わない」状態です。
かくて判明したのは、人々が期待してやまない「リコノミクス経済改革」は李克强の前任者の温家宝が2008年以来政府投資を刺激として経済発展政策の延長であり、「古い酒瓶に古い酒を入れて、レッテルだけ変える」、つまり「不動産業を旗頭に農民を街に住まわせ街戸籍を与える事をもって補佐する福利政策」の代わりに「新市街化計画」というレッテルに変えただけなのです。
これは李克强をとがめるわけにはいきません。私は(「李克强経済学」の制度基礎は何処に?」p.tl/UKNV)で指摘した様に、リコノミクスは制度的基礎がないので、各方面の圧力のもとで、この時期になってそっとやり方を変えたわけです。ただ私も「この時期」がまさか3か月に満たないとはさすがにおもい至りませんでした。(終)
拙訳御免。
原文は 「政府投资号急吹 “克强经济学”破产」;www.voachinese.com/content/he-qing-lian-likonomics-failed-20130813/1729168.html
何清漣氏のこれまでの論評は;Webサイト 清漣居・日文文章 heqinglian.net/japanese/ に収録されています。