何清漣
2013年12月22日
全文日本語概訳/Minya_J Takeuchi Jun
2013年末の中央経済工作会議は「6大経済任務」を決めましたが、重要なのはその第一条の「債務の危険を重点的に防ぐこと」です。この最重要決定をするために中央政府は「父と子」の分家を行いました。即ち、中央はもう「父親の愛情」を発揮して子供、つまり地方政府の為に財布の底をはたくようなことをせず、子供に独立した債務責任を負わせる、ということです。
《地方役人の考課体系の改変》
2011年以来、中国経済は債務水準の上昇で困難に陥り、多くの産業が生産力過剰で経済下降の圧力が拡大しました。これらの問題は三つあるようですが、実は根源は一つです。それは中国経済発展が過度に政府投資に依存し過ぎているということです。政府投資は種を蒔くだけで収穫は気にかけなかったので、金融上では地方政府は巨額債務の泥沼になりましたし、実態の上では多くの産業が生産能力過剰となり、マクロ的には経済の下降局面が加速されました。この傾向は2011年に既に大変ハッキリしたものですがちょうど十八回党大会の権力交代期にあたり、中南海は権力闘争のさなかで、だれも経済問題等かまっちゃいられなかったのでした。
今年の3中全会後、大勢が決まってからは経済問題は最早先送りできなくなりました。12月上旬の中央経済工作会議の前夜、中国政府は公式に「地方党政指導部と指導幹部成績評価に関する通知」を出しました。その要点は「もうGNP増を役人の評価の唯一の基準とはせず、政府の負債の量、環境生態等を考課の範囲に入れる」というものでした。
GDP増を役人の成績査定の主要指標にしたとき、環境生態の広汎な悪化と地方債務の過大化はとっくに大問題になっていたというべきでしょう。中央政府もかって改革を考えて潘岳(*環境庁次官)が2005年に一部の省と市でエコロジーGDPの査定体系を試行し、温家宝も2007年にGDPを主要な成績査定の指標と摺る体系を改める必要があると発言した事もあります。しかし、その後、エコロジーGDP査定は地方政府の強烈な反対の中でお蔵入りのままとなり、温家宝もその後何もいわなくなりました。
そして今日になって環境汚染はすでに水と大地と空に広がり悪性スモッグは全国各地の都市を覆い、環境情況がやっと地方役人の成績考課の対象の範囲となったのでした。実施は相当困難でしょうが、環境汚染がこれ以上広がらない様にできれば大きな成果といえます。国土をキチンとおさめ、汚染の修復をするというのは大変時間がかかることでしょう。この文では比較的容易に数量化できる債務問題の指標化についてだけ考えてみます。
《地方政府の債務解決、二つの秘訣ー「だまし」と「転嫁」ー》
中国の債務規模がどれほどかをハッキリさせるのはたしかに難しいです。今年の各方面の新データのうち、リヨン证券が5月13日に発表した見積もりが広く受け入れられて、国側もまだ否定していません。この報告では2012年末までの中国の債務規模(政府、企業、個人)は107兆元で、GDP205%で2015年には債務規模は同245%になると予想されています。この厖大な債務に閉める地方債務分はある人の計算にようrと25兆から30兆と計算されています。なぜ地方債務がわけのわからない無茶苦茶な借金帳簿になってしまったのでしょうか?
まず会計監査部門が地方政府の「だまし」に遭遇します。地方債務の隠匿手段を暴露した「10のうち9を隠すマネーゲーム」(第一経済日報、2013年11月19日)が列挙している「だまし」のやり方では「外部団体」の名目で「置き場所を変える」、「裏口融資」、「資本立て替え工事」、「返してすぐ借りる」、「市民から資金集め」といった方法をつかったり、繰り入れては成らない公益性のないものを「資産」として「虚構資産増加」にみせかけるとかです。興味のある方は熟読を御薦めします。
「だまし」は上級政府の査察に対して用いられますが債権者に対しては「言い逃れと転嫁」で対応します。県や郷(*末端行政単位)部分での債務の危険性は不断に拡大しています。その原因は主要な税収の来源が単一な事です。主要な税はすべて中央、省級、市級に集中上納されますから、県、郷の財政収入は土地増値税や耕地占用税等に限られます。これらの税は「市街化」の名義で土地を売ってつくるしかありません。県・郷で市街化に見合う施設を建設する資金はまずありません。ですから、市街化が唯一の方法になります。中国の銀行は垂直管理ですが、地方政府は地元での実質管理権を持っていますから、「父母」に貸せといわれたら断りきれません。
これまでは地方のトップの成績考課には「債務」はありませんでしたから、在任者は借金して「経済発展」だけをやって成績をあげれば返済のことは後任者にまかせっぱなしでした。後任者はどうするかといえば簡単で、「前任者時代の借金はしらんぷり」で、この「責任転嫁」は地方政府の債務の返還を先延ばしする「切り札」だったのです。こんな情況で地方政府は借りさえできれば返還など考えないでもよかったのでした。例えば、雲南省の昆明では三千億元の地下鉄プロジェクトを推進し、その借金規模は10年間の地方財政収入に匹敵するものでした。
この「債務額が見えない」「前任は後任に返済お任せ」の局面は監査当局の頭痛の種で、債務責任を明確にすれば中央は地方政府に隠れた担保を提供する事無く、新借金を産む防止策になると考えたのです。これが2013中央経済耕作会議で「債務の危険を重点的に防止」を2014年の重要任務にし、「地方党政指導部と指導幹部成績評価に関する通知」が出るに至った理由です。『通知』は「政府の負債を成績考課の重要な指標にし、任期中の起債情況を評価し会計と責任を追求」とあり、もしマジメにこの規定が実行されたら地方官僚は起債による「成績」づくりや厖大な債務を後任になすりつけることができなくなります。
《”父”と”子”の鬼ごっこは続く》
ですが中央政府が地方の「父親主義」を止めるというのは大変なことです。中共政治体制は中央集権性です。全国がひとつのゲーム盤のようなものです。経済上の「父愛主義」の源は計画経済時期に遡り、三十年以上の改革を経て、税制は趙紫陽時代に「竃を分けて飯を食う」(地方政府請負)や朱鎔基の分税制(中央と地方の税を項目別に分ける制度)で二度変化していますが、いまだかって「父愛主義」を止めた事はありません。貧しい地方は中央政府の「財政転移支出」で養われ、地方発行の債券は中央が裏から提供する担保で支えられてきました。地方政府だろうが国営企業だろうがどうカネを浪費しようと、大事になれば中央政府が支えてくれたのでした。
この種の「父愛主義」精神は社会主義経済の弊害のひとつです。ハンガリー経済学者のコルナイ・ヤーノシュかって「不足の経済学」で社会主義経済のいくつかの大弊害を概括し、これ以外にも「投資飢餓症」「拡張衝動」「大甘予算拘束」等をあげています。今日の中国を観察するに、数十年の”市場経済改革”を経た今も、コルナイの指摘した「社会主義経済の弊害」はほとんどすべて依然としてもとのままです。
新たな成績査定システムがうまく行くかどうかは、もうひとつの事情、すなわち地方財政が新たな財源をつくれるかどうかにかかっています。国有企業税収は中央に上納し、資源税は省・市に上納され、県や郷政府はスプーン一杯分にもありつけません。十八節3中全会で通過した「改革の全面深化における若干の重大な問題についての決定」では不動産税を地方税に計画していますが沢山不動産を持っているのは官僚集団の成員なので、利益に関係します。で、不動産税収の県は国務院は20数回も討論を重ねながらいまだに腹案を決めていません。また将来決めたとしても不動産の価値は1、2、3級と下がるにつれ逓減しますから県郷級の不動産価値は最低で、この不動産税のオイシイ部分は一番少ないわけです。ですから地方政府にとって如何にして新財源を捜すかというのはやはり依然として大問題のままです。
一部の政府は財政の先行きが暗いことから節減を考え始めており、リストラしています。例えば北京の郊外の県や華南、河北の省市ではすでに55歳以上の公務員を定年繰り上げ退職政策をとっています。地方政府の財源が解決されない限り、運営を維持する為にはなんとかお金を捜すしかなく、それを「債務」と呼ばなくても別の名目で「捲土重来」をはかるでしょう。
中国は地方政府の破産制度を行わないことを考えれば、如何に地方政府のトップの起債責任を追及しようがそれは絵に描いた餅のようなものでしょう。「通知」には「責任追及」の四文字がありますが、いかにそれをやるかは相当に難しいことです。唯一ハッキリしていることは、来年の中国経済の仕事の重点は中央と地方の関係にかかわって、ひとつのキーワードである「債(借金)」をめぐって展開されるだろうということです。(終)
拙訳御免。
原文は「2014年中国经济关键词:债」p.tl/J9uW