何清漣
2014年06月28日
全文日本語概訳/Minya_J Takeuchi Jun
http://twishort.com/1IHfc
「国外勢力」という言葉はいつも中国が厄介事を抱える時期になると空中を徘徊して北京政府の神経を逆撫でするばかりか一部の庶民もまでも全世界は中国に悪意を持っていると感じさせてくれる政治的幽霊の如き存在です。最近になってまたもやこの「国外勢力」が中国政治言語系統に再登場してきました。
中国政府は「国外勢力」が実際には何を指すのかは明らかにしていませんが、官製メディア、人民日報や「求是」、「学習時報」「環球時報」を愛読していればすぐこの耳慣れた政府が飽きもせず愛用している言葉は「米国を中心とした反中国勢力」だと分かります。
《「”国外勢力”は中国のあらゆる厄介事の根源」》
中共統治の60年間でずっと厄介事を引き起こしてきたのが「国外勢力」です。それぞれの時期、情勢で名称は「帝国主義とその犬」から「帝国主義と修正主義」になったりその後また「国外敵対勢力」になり、最近数年では中共の国際レベルがアップしたため「敵対」の二文字が消えて「国外勢力」とか「外部勢力」になりました。中国国内のネットでみればこれが「中国の全ての災難と不幸の根源」と判明します。
香港人民が中央政府に逆らったりするのも(本土からやってくる中国人に反対する「イナゴ駆除運動』もでしょうね)「米国の陰謀」という結論になります。中国の国際問題専門家の上海复旦大学の倪世雄・沈本秋教授はこの専門家でいらっしゃってとっくの昔に警告を発しておられます。
それによると「2012年と2016年に米国が香港に介入しようとする危険な時期であるから、政府は『愛国者が香港を統治するように』して『高度な自治』の原則にもとずいて『基本法』23条を推進して、香港で『カラー革命』など起こらない様に手を打つべきだと提言しておられます。この一文は香港の「カラー革命」が「オキュパイセントラル」(民主派投票運動)になるとは全然予見していませんが、米国が”国外勢力”としてその黒い手を伸ばすだろう、という点ではしっかり”予見”しています。中国の政府・官僚の腐敗現象も実は”国外勢力”のしわざなのです。
中央紀律委員会は「『House of Cards』から西側の腐敗現象を透視する」という一文でまことしやかに米連続テレビ映画の「House of Cards」を米国の上院下院政治の実録としてとりあげ分析して、最後に「米国の腐敗は相当に深刻であり、清廉だなどとはとんでもない」と結論付けています。
この文章の最後には、全世界が中国の腐敗が深刻だというのはこれまた国外勢力の陰謀の大衆を欺いた結果であり、その「外部勢力」とは世界各国の腐敗度を毎年公表しているNGO組織の「トランスペアレンシー・インターナショナル」だと言っています。「トランスペアレンシー・インターナショナル」は西側先進国の資金援助を受け、あきらかにイデオロギー的偏見をもっている」「その『清潔指数』は事にかこつけて言いたい放題言いい発展途上国の反腐敗の努力に泥を塗っている、というのです。
「国外勢力」はさらにその黒い手を「中華人民共和国の長男」と「鋼鉄の長城」に伸ばしていると、つまり「敵対勢力の中国転覆陰謀、国営企業と軍隊を狙っている」、と「中国航空報」2012年4月号は言っています。
これを読むと、まるですべての国営企業と軍隊はまさにすべて「国外勢力」の思うつぼに嵌って腐敗しているとにさえ思われてきます。中国の不動産問題は1992年に私は「90年代の土地囲い込み運動」という文章でとっくにそういう結果になると思っていました。以来ずっと不動産市場の畸形な発展は地方政府の財政飢渇状態と欲張り汚職役人が私腹を肥やし、不動産開発によって暴利を貪って来た結果であると。しかしいまになって中国メディアのいろいろな記事を読むと、不動産の深刻な問題は実はすべて「国外勢力の陰謀」によって起きていたのだったと判明しました。「重頭ブログ」には「国際勢力が不動産価格を利用して中国を打ち負かす」という記事があります。
それによると「不動産は国外勢力の大規模攻撃に影響を受けやすい。過去10-20年、人民元の値上がりと不動産高騰は大量の米ドルが流入して大変な影響を受けたし、今後も上がり続け国家経済と政権の安全にかかわるだろう」とあります。それは一個人の意見にすぎないだろうとおっしゃるなら、人民日報海外版の廬山記者の6月23日の「不動産価格の正常調整はなぜ空文句におわるのか」を読めばヨロシ。各種勢力の陰謀を深刻に分析し、その結論はなんとも神がかりの霊感に満ちており「中国の不動産価格をバブル化させようとしてきていた外資は表面上悲観的でも、実際には影でいろいろやっているのは永年の手口で奇とするに足らない」と述べています。
男か女か知りませんがこの筆者が敢えて書かないのは香港や内地の不動産に流れ込む外資というのは実は中国資本で、その多くが中共政権に関連する危篤利益集団のハイクラスのメンバー達のお金だということです。
《「国外勢力」説は「鎖国的政治」から生まれる》
歴史を顧みれば、毛沢東時代から始まって中国政治用語に「国外勢力」が登場するときは中国が政治上の鎖国を始める時だということです。多くの人々は鎖国というのは政治上、経済上、外国との往来を断つことだと考えていますが、これは事実の半面でしかないということをハッキリさせておく必要があります。大昔はともかく、清朝の「鎖国」も政治の上だけで、経済は関係なかったのです。
清朝が広州以外の港を開く事を拒否したときも、杭州からは様々な西洋の発明品、時計、ガラス器など各種工芸品はずっと清朝宮廷で王侯貴族に愛されていました。政治文化上だけ、清朝は自分が天朝で至高なのであるから文物も西洋より優れていると思っていたのです。ですから、西洋諸国を一顧だにしなかったのです。
アヘン戦争敗戦後の洋務運動でも「中学為体西洋為用」(*中国が中味で西洋のものは道具だ)と経済は解放して政治は閉鎖したままでした。戦争道具ではお前等のが優れているからしょうがないから夷狄の技だけは学ぼう、というものです。政治制度の上では中華は堂々たる大国で西洋が強くたって、絶対我等は変えたりしない。この反西洋ムードの集大成が義和団運動でした。
毛時代になっても鎖国は政治的なものでした。経済は香港を通じて世界と各種貿易をおこなっていました。政治的階級が文化的な対外との付き合いの許される幅を決めました。一般庶民が海外と関係があれば絶対罪悪の原罪で、海外の親戚とも通信は許されませんでした。しかし江青は好きなだけ国外勢力と協力して「乱世の佳人」「魂断藍橋」等の映画を自由につくれました。高級幹部が読むことができた「灰色本」(*批判的に読むため、として翻訳された外国文学などの書)はすべて「外国勢力」のもとからきたものですが、一般庶民は一目だってみることのない無縁のものでした。その理由は一般庶民は思想水準が低く”中毒”しやすいから、でした。
中共がこうしたのは理由は簡単至極で、民衆愚民化しまじめに共産党の支配を受け入れさせるためでした。一方特権階級はその子弟も含めて広く圏分を広める必要があり、カシコクなって民衆を上手に統治する必要があった、というわけです。
鄧小平の対外開放後、米国に対して高度に友好的姿勢をみせた時期があり、そのため「国外勢力」という言葉は公開宣伝用語からは一時消えたのでした。毛沢東時代は許しがたい政治的な罪悪だった「海外と関係」もこのとき普通の中国人の一番結構な社会資本となりました。世界各国が中国に対して疑念を捨て、交流し、そこから華僑の資本を本国投資させようと各地の政府は華僑の家族のご機嫌をとりまくることが最も大事な統一戦線工作になったのです。80年代に海外自費留学できた人は特権階級家庭以外では海外に関係のある家庭の育ちがおおかったのでした。
しかし1989年の天安門事件以後、ふたたび「外国勢力」は中共の宣伝のなかに”捲土重来”で蘇りました。
天安門虐殺の後、鄧小平はすぐに趙紫陽総書記は米国のソロス基金に取り込まれてCIAの手先になったのだ、というストーリーをでっちあげようとしましたが、ソロスがワシントンポストでこのニュースを知り、鄧小平に手紙でソロス基金の中国側代表者はまさに中国国家安全部副部長(*副大臣)の凌雲だったことを指摘し、鄧小平はもし「趙紫陽スパイ説」を捏造した場合、自業自得になってしまうことに気がついてやめたのでした。
清朝は専制政体で、中共は独裁専制の最たる政治体制です。この種の政治体制の生きる道はすなわち鎖国であり、自分達がコントロールできない地にあるすべての力をを排斥し自らを防衛しようとします。鄧小平の「改革開放」は危機を脱する為であって、世界と融合して一体化しようということではありませんでした。ですから、一貫して政治、文化、思想上の外国からの影響は政権の安全の大敵であり、脅威だとみなされました。
80年代の「精神の汚染を除去」するとか「資産階級自由化に反対する」とかいうのは実際には「国外の敵対勢力が中国知識人と青少年の思想を汚染し影響する」という仮説が前提でした。もしある時期に「国外敵対勢力」という言葉が宣伝戦から”引退”したなら、それは中共が(鄧小平時代を含み)、中共の実務的ソロバン計算からはじきだされたものにすぎないのです。(終)
拙速御免。
原文は「境外势力在中国政治中的前世今生(1):麻烦制造者?」http://www.voachinese.com/content/article/1947015.html
何清漣氏の他の文章(日訳)はこちらでよめます。http://yangl3.sg-host.com/japanese/