何清漣
2014年7月4日
全文日本語概訳/Minya_J Takeuchi Jun
http://twishort.com/tYIfc
南海の様々な危機をはらむ情勢に世界中が増々暴発の懸念を深めている時、習近平は6月28日に人民大会堂で開かれた平和共存五原則発表60周年記念式典の談話で「平和共存5原則」を再度提案しました。周辺国家への”平和への合図」です。(*参考;http://j.people.com.cn/n/2014/0630/c94474-8748493.html )しかし周辺国家は今回の平和への意思をそう簡単には額面通り受け取らず、日本の内閣は7月1日、集団自衛権の行使を決議しました。明らかに中国のアジア隣国は習近平の平和五原則への誠意を信じていません。
私は今回の習近平の平和提案には確かに”誠意”があると見ています。もちろん、彼が突然平和主義者になったわけではなく、やむをえず隣国諸国との「平和共存」を選ばざるを得なくなったとみています。
《その原因の1;軍隊の腐敗が戦力を蝕んでいる》
習近平が再度「平和共存」を提案した翌日、北京は正式に元軍事委員会副主席・徐才厚が取り調べを受けているニュースを正式に発表しました。このふたつの事件を関連づけてみれば偶然ではないことはあきらかです。それも周到に準備されたことです。なぜなら徐はすでに3月に「組織により調査」されていますし、習近平は6月28日の人民大会堂で開かれた平和共存五原則発表60周年記念式典の談話でインドの詩人・タゴールの詩「戦争で友誼がえられるとおもうのか?春はゆっくり目の前から去って行く」を引用しました。この詩は中国にケンカ腰になっている隣国に聴かせようというよりは自国軍内部の主戦論を唱える鷹派に聴かせたいとおもっていると私はおもいます。
ということは習近平は隣国諸国と現在の緊張関係を継続したいとおもっていないのです。すくなくとも現段階ではそうおもってないということの説明になります。もし彼が戦争をしかけようというなら、今これから兵を動かそうというときに早急に軍隊のご機嫌をとっておかなければなりません。その時に、なんで腐敗高級軍人を罰したりして残りの軍人達をビクビクさせたりできましょうか?軍が乱れたら戦争どころではありません。
唐の代宗の時期に朝廷は連年の遠征で国庫が空っぽになって財政緊縮し皇帝も倹約生活を強いられた時期に名将・郭子儀の家には珍宝が満ちあふれ1000を超す家来が錦繍を飾って人々は目を剥きました。代宗は何度か郭をクビにしたりしましたが君臣の関係を絶とうとはしませんでした。原因はほかでもありません、郭子儀が役に立つ将軍だったからです。これは歴史の故事で、とっくに統治の宝典となっています。
軍の腐敗事件の暴露ははるかに政府部門の腐敗事件の数に比べれば多くありません。海軍王事件(*王守業海軍副司令の汚職)や軍総後方勤務部の谷俊山事件は暴露された氷山の一角でその実態を窺うことができます。去年、中国軍部の鷹派将軍の羅援が「腐敗こそ中国軍隊の戦闘力を一番ダメにしている」と珍しく公の場で認めました。香港の東方日報は「胡錦濤が力が弱かったため過去十年、解放軍の指導権はすべて徐才厚の手中にあり、特に人事権は一手に握っていた」と。
軍の学校や将軍への昇進ははっきりと値段がつけられ、酒色は軍営に満ち満ちでいたと。国内の微簿のうえには「マオタイのめば軍威赫赫、三杯呑めば馬上にほら吹き、机上の征戦9万里、砂上の演習五千回」との書き込みがありました。軍の対外強硬発言は局地戦をちょっとやってこそ鷹派は自分達の利益になるからです。戦争があってこそ各種の製造部門関係が軍事費を口実に最大に軍事利益集団の需要を満たす事ができるからです。
習近平は軍事委副主席としてすでに数年を経験してますから当然、こうした軍隊が戦争をおこしても勝算がないことははっきり知っていますから、大声で騒ぎ立てるより、まず軍隊の内部を大掃除、ということです。香港の星島日報によると徐事件に関しては多くの高級軍人が関わっており、すでに数十名の将軍が調査を受けています。なかには前後して秘書を務めた4人の少将や徐の故郷の大連の瓦房店からでている30人以上の将軍も事件にかかわった疑いで調べられています。
このような大規模の軍の腐敗撲滅をやるということは北京は当分の間、対外的に戦争等できないということです。これは当然、習近平が外に向けて放ったサインでもあります。彼は政府同様、実状にそくしたやりかたで軍権を掌握しました。それが軍の清掃の理由でもあります。
《原因の2;家に不安を抱えて軽々しく外とは争えない》
習近平は南海の緊張が緩和されることを希望していますが、これは中共の家宰として現在多くの内憂に直面しているからです。「家の中のごたごたは最初に急いで処理しなければならぬ」という通りなのです。中共にとって外患にくらべて、つまり尖閣諸島とかそうした中共がかって一度も実際に占領した事の無い「古来当然」中国が持っていた領土を”奪回”するより、多くの内憂に対処して政権安定をおびやかす脅威に対処するほうが大事なわけです。
また、中共高層内部の矛盾も激烈です。「習近平VS大物 腐敗摘発の戦いは暫時休戦に」(http://urx.nu/9QIH)で分析しましたが去年以来3回の「大虎」との戦い(周永康、李鵬家族、曽慶紅をタテとする香港国営機ご油とそのうしろの台湾、香港、マカオ工作委員会)によって、新旧の常務委員達に深刻な危機感を与え、集団で抵抗させて、これらの「老同志達」と妥協を果たす為に中央紀律委副書記の楊暁渡5.6談話によって慰撫しようとし、今後18回大会以後依然として重要な地位にある官僚腐敗に重点を置く、としました。
習近平からみれがこの種の高層内部の闘争は「腹中の禍」なのです。さらに、民間の声を弾圧したことによって各社会の矛盾も引き起こしています。十年も護憲人権活動で活躍して来た弁護士グループに弾圧を加えた外、社会的発言を行う知識人や企業家に「黙れ!」と一律に言論を封殺しました。これは国内各層の内部に不満を高め、当局の眼中からみたら『身近の疾患」であります。北京はこの自分に対する鎮圧力には自信は満々ではありますが。
新疆ウィグル、チベット民族の矛盾は乾いた薪の山のようで、小さな火でもいつでも燃え上がるでしょう。現地の緊張の具合と穏健な安定がクタクタになっている状況はウルムチの鉄の柵で囲まれた武装警察の警戒ぶりを一目見ればわかります。
台湾、香港の民間の反対活動は日増しに強烈になっており、かつ互いに連動する勢いです。台湾の「反服貿(海峽兩岸服務貿易協議)」は終結したばかりですが、矛盾激化を回避するために北京は「台湾の社会制度を尊重する」と、つまり台湾にたいする”平和統一”はしばしその歩みを緩めるということです。香港の普通選挙要求7.1デモの勢いも大きく広がり、北京側は10万にも満たないと宣伝しましたが、そんなことをいっても「オキュパイセントラル」運動のもたらした面倒は軽減できません。下手に手をだせば香港は内地ではありませんから、『扉をしめ切って中でこてんぱんにやっつける」といった弾圧はできませんし、ほおっておくとますます広がる、ということです。
内部矛盾がこのようにおおく、どれもがひとつまちがうと「内乱」にすらなりかねないし、軍隊内部は腐敗しだらけ切っているようなときに外の敵とことを構えるというのは中共の宗主自ら火で焼かれるのを我慢するようなものです。周辺の弱国とことをかまえても中共内部では勝って当たり前、負けようものなら宗主は声望をうしなうばかりでなく、政敵に自分の弱みをわざわざ進呈するようなものです。
《なぜアジアの隣国諸国は平和共存を信用しないか?》
習近平が周辺緊張緩和をマジメに望んでいることは、韓国訪問の内容からも窺えます。これまでずっと観察してきた者の目には韓国訪問が北朝鮮訪問より先になったということでこれまでの旧来のモデルが打破されたことが注目されます。北京は「老朋友」(*北朝鮮)が不機嫌になろうともまず韓国と手を握りました。ということはいかに韓国と友好をむすびたいという願いが強いかということです。7月3日に習近平にお供した300人余のうち200人以上が財界関係者でしたし80人の御付きの役人のうち三人の副総理級と4人の大臣級がいました。この規模はこれまでの中国国家元首の韓国訪問にはなかったことです。
アジアの隣国が習近平の表明を信じていないのは完全に長期にわたる”歴史的経験”のなせるところです。中国はかって国民党と中国本土で権力を争った時には「時に友人、時に敵、戦争しながら話し合い、話し合いながら戦争する」というオポチュニズム戦略をとり最後に国民党を台湾に駆逐しました。鄧小平は改革開放の初期には「韜晦戦略」をとって、人々は最初よくわからなかったのですが、2005年に中国が「平和的勃興」をへてのち、世界はやっとその意味は「力の不足時は爪を隠し、牙をかくし、強くなったら爪も牙もむき出す」だと分かるに至ったのです。
隣国諸国と相互信頼の関係をつくるのは中国にとって容易な事ではありません。周辺の民主国家の首脳にしてみれば唯一のいい所と言えば、中国の習元首が「オリーブの枝(平和の印」を差し出している間に自分達の任期を終え、面倒な事は時代に先送りしておけばいいというぐらいでしょう。(終)
拙速御免
原文は「习近平整军与重提和平共处五原则」http://urx.nu/9QTs