何清漣
2014年7月18日
全文日本語概訳/Minya_J Takeuchi Jun
http://twishort.com/YDPfc
去年から中国の”成功者”達が相次いで落馬失脚しています。かって「党と国家の指導者」だった周永康や中央軍事委副主席だった徐才厚ですが、それでもまだ足りないかとばかり中央テレビのスター司会者だった芮成钢も拘束されてしまい、茶の間の話題にいっそうの娯楽を提供しました。
これらの人々はこうなる前にはみな「党と国家の柱石」といわれていたのであって全国民が羨む「スーパー級成功者達」でした。今となっては人々は大いに愉しんで笑ってますが、実はこれらの人士はみな中国の政治体制に敗れたのだということはあまり考えません。のし上がったのも体制の弊害のお陰、つまりは政治における親分子分関係という隠れた法則によってですし逆にその転落も自分達が立っていた保護関係の崩壊によるものです。これはまさに前漢の大将軍・韓信のように「韓将軍にとりたてたられたのも死刑にされたのもみな蕭何(*劉邦の天下統一を輔けた政治家)」というとおりのことです。
《中国政界で勝ち上がる困難》
この一年の習近平の腐敗退治で30余任の省・部級の大物官僚が落馬失脚しました。中央紀律委員会巡察班は12579人を処分しそのうち68人が局長級でした。これらの人々は周永康らほど超大物ではありませんが中国の公務員の出世コースに乗ったという点ではそれでも相当なエリートです。
財経ネットの「中国官僚出世図;ヒラから大臣級まで」(6/6/2013)によると、2012年に公務員試験に応募したのは123万人。採用は1.45%、つまり68倍の競争率です。 役人になってからヒラから県(*日本の郡ぐらい?)の幹部には4.4%。そこからさらに本庁局長級になれるのは0.01%。そこからさらに省の部長になるとなると0.025%。計算してみると689万人の公務員のうち全国の32省・自治区・直轄市、98の党の権力を握れる中央部門に辿り着くのは5万人に1人ということになるのです。
鄧小平が役人選抜基準を若さ、知識、専門性を標準にましたが、さらに第一線の現場経験が必要です。革命初代の紅色貴族の息子達といえども最初のスタートこそ有利ですが、最終的に地方の省、北京の本省の大臣クラスにまでなれた数は多くはありません。まして”平民”でヒキもなければ全くのゼロからスタートで仕事でたまたま”貴族さま”に出会い、すべての「コネ」は官僚人生の中で自力で作り出してきたわけです。
今年の中国の「特捜第一号事件」の報道は北は財経新聞、南は東方早報がリードしてます。財経系の報道はこれまで独自の味わいで汚職官僚の”現在”に比重をおいてますが、最近、ペーパーメディアからネットメディアの”澎湃”に力をいれている東方早報はその方面では敵わないので、新しい趣向として”前世”を掘り起こして出世譚をとりあげています。
たとえば「周濱の父、周元根(周永康の旧名)の昔の事」とか「李東生(公安部次官、周永康の子分)の半生;中南海と四合院に半分づつ足をかけて」とか「少年余剛(*誰?汚職の中央政法委办公室原副主任?かな);首長の秘書になって恩師に会わず」という3編の取材記事は基本的にはこの3人の貧しい家にうまれて役人になった若者の立身出世物語で最後に鯉が滝を上って龍になる、大学に合格して仕事に励むというお話です。彼らの頃は今と違ってまだ高等教育を受けられる人は少なく、大学入学も「千万の軍馬が丸木橋を渡ろうとする」時代で大学生も今と違って貴重品でした。
《メディアが書かない肝心な事は「政治上の親分子分相互主義》
中国は「役人本位国家」です。地方の省だろうと中央官庁の役付きでもその成功は必ず郷土の誉れの少年出世物語です。上記3名の話も中国庶民の千年の夢を叶えた物語です。貧しい家で働きながら学び、頑張り続け、優秀な成績をあげ朝廷につかえる、です。こうした貧乏一家出では頼るべき有力な父親の友人などもおらず、一段階段をあがるのにも自力で頑張ったのです。
しかし、中国の役人世界には”隠れた規則”があります。それがすなわち絶対に「ただしい政治的守護者」、つまり政治的親分を選び一緒に利益を享受し、共に栄え、損するときも一蓮托生、という親分子分関係です。
西側学者の政治学研究ではこの「親分子分主義」を発展途上国家の政治現代化の家庭に於ける特有の政治現象だとして使う用語になっています。その意味は比較的規模の小さい社会グループや地域で冨と力の不平等な個人や団体の間で利益の交換に依って成立する非正式な連合関係という意味で使われます。
このグループや地域の中で地位の比較的高い(親分側)はその権威と力で資源を掌握し地位の低い(子分)を保護し恩恵を与え、子分は親分に奉仕で報いるという構造です。中国ではこの「親分子分」関係のネットワークは正式な政治経済と併存してきました。両者は互いに補いあって、たしかにずっと中国の政治制度の特色でありました。前近代には科挙があって、科挙の主任試験官と合格者は「門生と座主」として一生つながり、また同期合格者の横のつながりや同郷の関係もきわめて重要でした。
現代では少し違います。中国の現状の「親分子分」関係は伝統社会の人間関係とも関係しますが、かつ現存の政治制度とも関係があります。それは党の政治部門とその役人の握る権力に基盤を置き、本来の市民の「天与の人権」が圧政の下にあるという環境の中にあるのです。このような環境下では市民は普通に制度化されたやりかたではさまざまな社会の分配に辿り着く機会も基本的権利もないし、さらには往々にして公権力にその権利を侵されてしまいます。
こうした条件の下で生存し発展していくためにはやむをえず「親分子分」の社会関係を結ぶ事に依って、正式な制度外の道で他の人の手の届かないチャンスや資源にありつこうとするのです。
改革開放で紅色貴族たちが国有財産を私有財産に変えるというアイデアを得てから、資源を掌握する政府部門は一連の”食物連鎖”となりました。中国官界の「親分子分」関係のネットワークは紅色貴族・官僚集団の間の相互交易だけではなく他のビジネス界やそのほかの諸グループ(ギャングも含まれます)にも広がり、成功者達は「役人とビジネス界の結託」(ギャングも)のなかでしっかり冨を稼ぐ「きづな」を結んだのでした。
つまり改革開放以来、この「親分子分」は2つの方向に発展していき、ひとつは「親分子分関係」が政治方面でほとんど全面的に党政治部門をおおいつくし、もうひとつは役人とビジネス界も日を逐って「親分子分の保護関係」がすすんだのです。このふたつは別々にあるのではなく、おたがいに影響し合っています。
特に近年の社会の基層部分のギャング化が進む過程でこのふたつの相互影響は大変はっきりしたものとなり、鄧小平時代には官僚・企業結託の利益集団がまだ生まれ始めたばかりでしたが、江沢民時代になるとこの利益集団の勢力は一段と拡大し党の政治部門の中にも一層、さらにまた一層と竹林の根のように絡まり合った親分子分の利益関係が根を張り、これらの利益関係をそこないかねない法律を実行するのは大変困難になり、不利益をあたえるいかなる法律や政策も骨抜き同然になりました。この種の利益集団の影響が国家政策に与える影響については「利益集団に囚われの国家」と名付けました。
《裏の規則と表の規則による「制度的な罠」について》
周永康の秘書の五人組や四川グループの石油部の部下、徐才厚の少将たちからなる高官の4大秘書などすべて彼らは官僚の世界にはいってから、上司の覚えめでたくその仲間に加わって政治体制の内部で「恩恵を施し、それに報いる」共存共栄関係、”苦楽を共にする”親分子分となりました。劉漢と周濱の関係は役人とビジネスの親分子分関係の産物です。この種の関係が生まれることは中国の政治制度設計の欠陥によるものです。つまり「表の規則」と「裏の規則」によっておこる制度的欠陥なのです。
役人の出世のなかで「表の規則」は机の上にならべてあるだけのお飾りで、「裏の規則」すなわち役職を売り、また買うという「利益の売買」こそが実際には働いているのでした。貧乏な出自のエリートたちが収賄汚職でバタバタ躓くのは不思議ではありません。なぜならこの種の政治的関係はもともと「もっと分け前を戴く」ためのものだからです。
この種の根の深い制度的腐敗は、中央紀律委の某氏によると「西側の腐敗文化の影響」だというのですが、それはいくらなんでも謙遜がすぎるというものでしょう。まず役人世界の腐敗というのは中国悠久の歴史的伝統です。誰かが今日の腐敗の名目と清朝でのそれとの相違を比べてみていました。たとえば端午、中秋、正月、や冠婚葬祭で上司が”礼金”をとるのは清朝の官僚界から始まった習慣です。
暖房費の源は清代の上役に贈る「お炭代(炭敬)」、あついときには同様に「御氷代(冰敬)」もあります。そして「1人が役人になれば、その家の犬も鶏も天に昇る」といわれたのは中華文化の一部となっています。「周濱の父」や「少年余剛」の記事には親戚がやってきて頼み事をしてそれが聞き入れられなかったために恨んだという話が紹介されています。この種の郷土の親戚の関係を頼って面倒をみてもらおうというのも実は腐敗文化の心理的基盤なのです。
監視を受けない権力は必然的に一種の内部で分け前をゴチソウになる親分子分関係を生み出します。苦労してついに人になった貧乏な家出身の官僚はその成功も、失敗もまた親分子分の政治的関係からくるのです。中国の政治制度は自国人民の基本的権利をうばっているだけでなく、役人達が民を苦しめた挙げ句、最後には自分自身も害するという事態の根源となっているといえるでしょう。(終)
拙速御免。
原文は「他们的成败皆因制度陷阱」http://urx.nu/agmI