何清漣
2016年2月29日
全文日本語概訳/Minya_J Takeuchi Jun
https://twishort.com/exdkc
「その名は天下に轟き、謗る声もまた天下に」というのが任志強の現在の状況にぴったりすぎる表現でしょうか。中共党メディア大砲の砲列は「裏切り者を党から追放せよ!」から「外国勢力の手先!」まで一斉に砲火を開き攻撃しています。しかし「国外反中国勢力」の中は彼のサポーター以外の一部では任志強は党内権力闘争のコマにすぎない、とか、あるいは「任は中共内の既得利権者で、支配者側の一員、たまたま真実の話をしたのは後々に得しようとした」からで、だから”反党陣営”はこのコウモリ野郎を許してはならないのだ、とかいろいろ。こんなヘンテコリンな状態はどうもよくわからないので、彼が一体どんな”過ち”を犯してこんな末路になってしまったのかを考えてみましょう。
★第一の間違い;中国を普通の国だとおもってしまった
任志強は「任大砲」ともいわれこれまでにもいろいろ物議をかもす発言をしてきました。微博上に列挙されたこれまでの”罪行”もたくさんあり、例えば、中国の夢と米国の夢はどちらも憲政の夢であり、憲政とは多党制、三権分立、人権が主権より尊ばれる、とか、歴史は私有制が重なってできたものだ、とか三千万人が大飢饉で死んだのは歴史的真実で、雷峰(*共産党の作り出した”英雄”像とされる兵士)は中共の麻酔薬だ、とか、公然と台湾政権は合法であるといった、とかです。
これらまともな国ならイロハのイのような話で米国なら中学生の社会科や歴史で普通に話されていることです。しかしジョージ・オーウェルの「1984年」にでてくる「全体主義国家大洋国(書中の主人公の住む”オセアニア”国)」や、「人間動物園」においてはとんでもない厄災を身に招きかねないのです。「1984年」を読んだことのある人ならみなご存知でしょうが、かの国では「真理部」と呼ばれる政府部門が専門に政治宣伝のために歴史を書き換え、新聞や小説までも改ざんしております。「真理」部と呼ばれる理由はこの部局が「戦争とは平和のことだ」「自由とは奴隷になることだ」「無知こそが力だ」といった”真理”を製造して独占しているからです。そして「動物園」の”羊の群れ”は最初から脳みそを使う必要がなく、ただ統治者の豚たちが指揮するとうりに「4本足は良い、二本足は悪い」と叫んでいればめでたしめでたしなのです。
当然、こうした「大洋国」にもたまに遺漏があって、例えば胡錦濤時期に垣根が少し壊れてしまって、そこから外側の世界を見た人が「外の世界はすんげ〜いい景色だったぜ」とヒソヒソ話したりしたものですが、こうした連中は新しい支配者が座についたあとではみな捕まって牢屋にほうりこまれ、ちゃんと教化されたあと釈放されましたし、未だに牢屋で引き続き教育されているのもおります。任志強は退職して家にこもっていたために、新支配者の怖さをまったくわかってなかったのでした。
★第二の過ち;「人は出身で決まる」というこの国の伝統の得意技を忘れていた
この「大洋国」はもう60年以上の歴史を持つのですが、階級闘争理論は深く深く統治集団と人民に染み込んでおり、反対派といえどもそうなのです。ですから、任志強が党から情け容赦なく放り出され、大批判の砲火を浴びせられているこのときに、海外でこそすくなからぬ反中国勢力や知識人が言論の自由の権利を支持したりしていますが、その「反対陣営」のなんでもお見通しの活動家たちには任志強は革命の隊列にまぎれこもうとする野心をもった野郎で、彼の言うことは中共を批判するかのように見せかけて実は中共を利するために言っているのだ、とか、任志強の天安門事件の参加者の名誉回復を願う戦友への友好的態度をあげて、任志強は「コウモリのようなやつだ」と非難しています。
第三の過ち;群衆真理を見誤ったこと
任志強がなんと目の前にある「大洋国」の現状、つまり、統治者は心のそこまで一心不乱の専制主義者であり、国民のなかにも「死ぬまで遊んで暮らそう」というような享楽主義者以外に、やまほどたくさんの毛沢東左派とか、若い体制支持者、金持ちを憎む人々がいるということが見えていませんでした。
党は党の支配に異議を唱える人間をやっつけるのに容赦しません。少数の本来は統治集団側に属していた自分たちの味方であっても良い子にしていないで憲政だの民主だの人権だのを語ったりした人々は「党のメシを食わせてもらっていながら、その釜を壊そうとする輩」としてすでに綺麗サッパリ排除されています。そうしたときには毛左派は大喜びで拍手します。任志強は自分が金持ちだということをうっかりしていたのでした。金持ちが失脚すると喜ぶのは毛左派だけでなく、金持ちを憎んでいる人々も「ザマ見ろ!」「当然の報いだ!」と拍手喝采します。中央党校党建教研部教授の蔡霞女史が党員は意見を発表する権利がある、と言って蟷螂の斧のように応援してくれた以外に中共内には一人も任のために声をあげようという人間はおりません。
★第4の過ち;任志強は「間違った本」を読んでしまった
ネット友の@fufuji97が微博で任志強の三年間を辿って任の思想が変化する過程を発見しました。三年前、任はおおっぴらに左派(*中国の左派、は中共・政府支持者のこと)を標榜していましたがこの三年、彼の読書の対象は広がってハイエクやLudwig Heinrich Edler von Mises、Karl Popperらの著作をよみ、その思想を読者に語って聞かせていました。これが発言がますます過激になっていった一つの原因だとおもわれます。
というわけで、任さんや、任さん。
あんたはんは「大洋国」推薦図書であるマルクス、エンゲルス、毛沢東、鄧小平、江沢民、さらに今上皇帝の本をちっともよまないで外国のブルジョア階級の腐った毒の思想の本を読んでいたために、とうとう反党反社会主義の道を歩んでしまったのですよ。中国共産党は本来、大変、寛大な政党で延安時代から一貫して道を誤った同志には暖かい救助の手を差し伸べてきたのですけれども、いまやあなたは救い難いほどひどいところまでいってしまいましたから、ほんとうに深く反省して罪をみとめないといけませんよ。
★任志強の中国人としての”幸運”
さて、ではひととおり任志強の過ちを述べた上で、彼の中国人として幸運だったという点をみてみましょう。
いま、任志強は反党分子として、反逆者としてまず中共の党籍剥奪性分で中央テレビで「罪を認めて謝罪する」というようなことになるでしょう。だとしたら任志強はこんにちの「大洋国」において、素晴らしい幸運を喜ぶべきであります。
いまや天地を覆わんばかりの非難轟々たるネットの大字報上で共産党追放の大合唱に任志強は「なんでおれは中国を正常な国家にして現代文明諸国の一員にしようとおもっただけなのに、同志たちはこんなに非難するのだ?」と「国家の敵(中国では中共の敵は国家の敵になります)落ち込んでいるでありましょうが、ちょっと歴史を振り返ってみれば、あるいは「災難をやり過ごす秘訣」として慰めになるかもしれませんし。
「秘訣」は中国の歴史上の冤罪事件をちょっと振り返ってみることです。その一つが明末の袁崇焕将軍(1584年- 1630年)です。優れた軍略で遼東・遼西で後金の軍隊にたびたび勝利し、三国時代の名軍師諸葛孔明になぞらえて、思いやり深い人物と称えられながら愚かな崇禎帝に疑われて惨殺され、その妻子は奴隷として辺境に売られ死んだ場所も不明、逸楽の世になれた大衆も(「人民」ですぞ)、政府の宣伝を信じて「売国奴」の肉を食ったといわれます。袁将軍がこのような無残な目にあったのは罪があったからではなく、皇帝が大馬鹿で、彼がそれに迎合しようとしなかったからでした。(*蛇足;有能なる袁将軍を処刑して優秀な将軍がいなくなって明は滅亡)
作家の金庸は「袁崇焕評伝」で「歴史上多くの人々が大きな功績を残し、私たちは感謝している。多くの人が長く続いた皇帝の王朝をたててこれも驚きだ。しかし、袁崇焕の努力と苦心とその悲惨な運命はその生涯と死、大胆果敢で一途な生き方ほど私たちの心を激しく揺さぶるものはない」と語っています。
任志強はこれを読むべきです。そして自分は袁崇焕ほどの大功績もなく、今上皇帝も崇禎帝ほど悪辣残酷ではなく、ただせいぜい大字報の一斉砲撃とか党籍剥奪程度のものですから、台風が過ぎ去った後はほんとうに引退して庭で花でもつくっていればよろしいでしょう。
そして、再び大洋国の張志新のことを考えましょう。彼女は中共の党組織を信用してしまった馬鹿女で、党員バッチが保障した党員の権利を本気で信じて組織の決まりに則って上級に手紙を書いて文革への疑問と不満を訴えたのでした。その手紙は上司らがみただけで、外部には漏れでなかったにもかかわらず、反党分子として無数の罪を着せられ、声の出ないように喉を切り裂かれ、死刑にされたのでした。(*これはスゴイ話で、wikiを参照してください。https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BC%B5%E5%BF%97%E6%96%B0 )
つまり、”任大砲”と呼ばれた任志強は中共党史の勉強が足りなかったので、中共は自らの生んだ女子ですら喰らうという光栄な歴史をしらなかったのです。国家主席の劉少奇だって冤罪で獄中で死んでいるのに、たかだか一下層党員の分際で、紅二代の下っ端のくせにしていまだに牢屋にも入れられずにおられるのはほんとうに今の世の中は明朝ではなく、今上皇帝様も毛沢東ではないという結構な幸運のなせるわざなのです。
山歩きのベテランの話ですと、真っ暗な森で最も危険なのは色々な気味の悪い物音がするときではなくて、あたりがシーンと静まり返った時だそうです。つまりトラだのなんだの、ほんとうに巨大な危険が迫っているからシーンとしちゃうんですね。いま、中国はまだ「断崖から一キロ」だそうですから(http://www.voachinese.com/content/voa-news-he-qinglian-china-crisis-20160227/3211055.html)、皆さん、真っ暗な中、手探りで生存をはかりましょう。(終わり)
(*訳者注;このお話は前提として任志強氏の話を知らないとイマイチわからないので、ご参考に日本のサイト;中国の著名企業家のアカウント強制閉鎖 習主席の批判つぶやく http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160229-00000054-san-cn http://peoplechina.xyz/weibo-account-of-renzhiqiang-blocked/。不動産会社の社長で往時のホリエモンみたいなもんかいな(・・?))
拙訳御免。
原文は;(《中国人权双周刊》第177期 2016年2月19日—3月3日) 任志强的四宗“错” http://biweekly.hrichina.org/article/32102