何清漣
2016年4月12日
全文日本語概訳/Minya_J Takeuchi Jun
https://twishort.com/g2skc
「パナマ文書」は多くの国々の要人やその家族のオフショア資産を暴露しアイスランドのグンロイグソン首相は自国民の強い辞任要求のため辞職し、キャメロン英国首相も父親のオフショア企業について説明を求められ、アルゼンチンのマクリ大統領もますます高まる辞任要求の圧力に直面しています。しかし紅色貴族資本主義を奉じる中国では多くの共産党高層要人の名前が挙がっているにもかかわらず、パナマ文書は「壁」にぶつかっています。
★中国人の巻き込まれかたは如何に?
パナマ文書は中国のトップクラスの共産貴族階級に関わっています。国際調査記者連盟(ICIJ)が4月6日に発表した「パナマ文書が暴露した中国トップ階級のオフショアに関する情報」(Leaked Files Offer Many Clues To Offshore Dealings by Top Chinese)のリスト上には9人の政治局常務委員クラスの指導者の親族が名を連ねています。
;習近平の姉の夫の鄧家貴族、前総理の李鵬の娘、李小琳。
現任の政治局常務委員の張高麗の娘婿の李聖溌。
前政治局常務委員の曽慶紅の弟の曽慶準。
毛沢東の孫の婿の陳東升。
前政協主席の贾慶林の孫娘の李紫丹。
前政治局委員薄熙来の妻の谷開来。
胡耀邦の三男の胡徳華らです。
このスキャンダルに巻き込まれた当事者のうち、胡徳華が数日後に香港の「明報」などの取材に対して自分がオフショア企業を持っていることと、その理由を説明しましたが、他の面々は頑強に沈黙を守ってあたかもこの世界を揺るがすニュースと自分たちはまったく無関係であるかのようです。
パナマ文書事件はパナマのモサック・フォンセカという法律事務所が源でした。この企業は40年の歴史をもち、世界各地に事務所を開いていますが、もっともその数がおおいのが中国で、上海、深圳、大連、青島、寧波、斉南、香港など8か所で業務を行っています。
この事務所を通じてオフショア会社を設立した中では中国大陸の人間が一番で、つぎは香港人でした。香港は「97大陸帰還」後に大量の中国資本企業が押し寄せましたから、これらの「香港人」の中にはすくなからぬ大陸人がまじっているとおもわれます。
★パナマ文書が中国でぶつかる二つの壁
パナマ文書は世界中の政界に波乱を起こしてはいますが、中国については2014年と同様、中国政府が長年膨大な財力.人力をつぎ込んでつくりあげた「防火長城」が、しっかりと政府側の期待に応えて「守護神」となっており、付け入る隙をあたえていません。
パナマ文書事件は中国の外の世界のメディアではあらゆるところで報じられているほどですが、中国のネットではほとんどかかわりにのある情報はみつかりません。「百度(*中国版グーグル検索)」で検索をかけても「中国の法律により関連内容は表示できません」とでるだけです。
4月5日には、政府メディアの「環球時報」が社説で「盗んだか?でっちあげか?パナマ文書は暇人の仕業ではない(*陰謀だ、の意味)発表して、「パナマ文書は西側の情報機関の陰謀だ」「長期的に見てそれは西側イデオロギーの西側の世界政治のエリートとキーとなる組織に打撃を与えることになるだろう」と記しており、鳳凰ネットや新浪ネットもこぞって即刻この社説を転載しました。
しかし、おそらく政府側はこの記事に「パナマ文書」という言葉が入っていたことが気に入らなかったのでしょうか、数時間後にこの諂うような記事ですら削除されてしまいました。ソーシャルメディアの関連議論を封じ込めただけではなく、政府メディアの「人民日報」はさらにまるごと紙面を使って「社会の世論を把握し、ニュースへの管制を強化し、『VOA』のような西側メディアの陰謀を阻止せよ」といったテーマで5編の文章を掲載しました。
「パナマ文書」に対しては中国は期せずして「情報を漏らさず封鎖してから、西側の陰謀だ、と言い張る」という点でロシアと同様の行動をとったのです。
こうしたインターネット管制の壁の他に、さらにもうひとつしっかりした防護壁が中国にはあります。つまりホンモノの由緒正しい血統の紅色貴顕家族たちは中国政府の「反腐敗」の対象にはならない、ということです。2014年の「中国オフショア金融の秘密」でもこの壁は破れませんでした。パナマ文書が世界の政界に波乱をまきおこしても、この厚い壁には穴ひとつ開きませんでした。おそらく視線を他にそらせるためだとおもわれますが、前軍事委員会副主席の郭伯雄の腐敗事件がちょうどタイミングよく起訴されましたが、これは中国大衆の憤懣のはけ口をメディアがうまくつくりだしたわけです。
★オフショア企業は「死角」
ICIJのに度にわたるレポートによって中国人から見るとオフショア会社というのはマネーロンダリング犯罪とイコールだという認識ですが、でもそれが全てだというわけではありません。
オフショア企業は1958年にイギリス人が考え出したのですが、創立者の目的は税金逃れでした。それがのちになって次第に国際社会の非合法組織のマネーロンダリングの道具になっていったのでした。はなはだ悪評は高かったのですが、しかし基本的にはどの国家もオフショア企業を違法経済団体だとはみなしていません。というのも国際投資業界からすれば資本であれ、各種のファンドであれ、株上場であれじつに便利な存在だったからです。たとえそれがマネーロンダリング犯罪に対する法的な規制が世界一整っている米国ですら、違法であるとはみなしていません。
中国は国際社会に遅れてやってきました。2006年9月になって、やっと商務部、国務院国有資産監督管理委員会、中国证券监督管理委员会、国家税務総局、国家工商総局、国家外国為替管理局連合などが「外国投資家が国内企業合併の規定」をだし、オフショア企業の合法性を承認しました。この業界では「10号文書」とよばれる規定は中国企業がオフショア企業を通じて合併してコントロールすることができるおゆになっています。海外でファンドを募集し、資本は中国で香港で上場している企業が海外で株上場できるようにしました。これによって中国の有力企業である中国银行、中国电力、中国移动、中国联通、中石油、中海油などや、民営の裕兴、亚信、新浪、网易、搜狐、盛大、百度、碧桂园、SOHO、阿里巴巴、巨人集团などの企業もすべてオフショア企業を設立して国際的に巨大な成功をおさめたのでした。過去20年で中国から香港で上場した大規模企業50社のうち44社がケイマン島で登記しています。その主な目的は海外で上場するか、ファンドを米国や香港、シンガポール、英国などで募集するためです。
当局がオフショア企業の設立を合法だと承認したのはオフショア企業を使って中国企業が海外で資金集めをするという一面を極めて重視したからです。これはコインの一面ですが、もう一面はすなわち中国の国営企業がオフショア企業を通じて大規模に資産移転を図れるということがあります。当時はこれはあまり重点をおかれていませんでした。
しかし2014年、ICIJが「中国オフショア金融の秘密」を発表したときにはそこには共産党大エリート家族の他にも、膨大な中国国内のビジネス界の大物がならんでおりました。2015年、香港一の金持ち李嘉 诚の麾下の二つのグループを改変し、かつ登録地点を香港からケイマン島に移しました。北京も香港当局もこれが李による中国撤退の動きだとわかっていましたが、どうすることもできなかったのでした。
★オフショア企業について、中国人はどう思っているか
中国人がオフショア企業を設立することについては西側国家と違いがあります。西側国家が重視しているのは追徴税を支払わせるという問題ですが、中国人の関心はリストにのっている政治エリートたちの家族の財産の財源が合法か非合法か、という点です。パナマ文書の中国関連部門を調べていた調査記者もVOAの取材に対して、この資料が中央規律委に反腐敗のデータとして役立ててくれれば、というようなことを希望していました。
しかし、中国政府は脱税など意に介してはいないのです。中国企業の脱税はもう大変広がっており、もっとも税金を納めるべき立場にありながらまんまと脱税に成功しているのは中共の身内なのですから。
普通の中国人は脱税しているかどうか、などということは気にしません。というのも中国政府は略奪型のやらずぼったくり政権ですから、脱税などはやって当たり前のことだとおもっていますし、一部の政治的反対派の人の中には中国人には税を納めない義務がある、とさえいいます。ですから中国の権力を持った金持ちの海外でのオフショア企業の資料が暴露されたって、当局はただ意図的に真相を覆い隠し、普通の人々は貴顕人士の汚職後に資産を移転したかどうかにそそがれ、資産家は自分が運良く今回のパナマ文書に名前がでなかったことを喜ぶだけです。
細かく「財富獲得構図」が列挙された「中国オフショア金融の秘密」文書が暴露されたときですら中央規律委の反腐敗摘発政策に役立てられなかったのですから、パナマ文書もまた同様に腐敗摘発に使われることはないでしょう。中国政府はただ外国に逃亡した汚職賄賂官僚、たとえば冷完成(*失脚した令計劃の兄弟)-すなわち中国での負け組-を捕まえることしか興味はありません。そしてICJUの二つのレポートにはただ「西側の中国に泥を塗ろうとする陰謀」ということにしたいのです。
因果応報で瓜の種を植えたら瓜がなる…はずが瓜の蔓に茄子がなってしまう、などということはいくらでも中国ではおきるのです。国際経済の舞台に遅れてきた中国当局がオフショア会社を合法化したその本来の目的は自国の国営企業が海外でお金をあつめられるように、と願って国際ルールと軌を一つにすることでした。
しかし、いま、オフショア企業の資本集めとしての役割は退化し、中国国内の金持ちがそれをうまく使って大量の資産を海外に移転させる道具になっています。いかにしてこの機能を発揮させないようにするかということだけがいま中共が考えなければならない新たな問題というわけなのです。(終わり)
(《中国人权双周刊》第180期 2016年4月1日—4月14日)
拙訳御免。
原文は;巴拿马文件撞了中国的墙 biweekly.hrichi..g/article/32734