何清漣
2016年8月12日
全文日本語概訳/Minya_J., Takeuchi Jun
新たな英ダウニング街の主となったテリーザ・メイ首相がイングランド南西部のヒンクリー原発に関する中国との協定協議延期を発表するや、中国の駐英大使・劉曉明はただちに、中国と英国間の信頼に関わるという文章を発表しました。中国は世界の165カ国に投資しており、トラブル中のプロジェクトも山ほどあるのですが、このように大使級の官僚が「国交に影響する」などというコミュニケを即座に発表するのは珍しいことです。
しかし「太陽の下、新たなることなし」で長年、中国の海外投資を追跡した目からこれをみれば、中英関係というチェスの盤上でヒンクリー原発計画は確かに重要なコマではありますが、しかしだからといってこれで両国が反目しあう関係になるということはなく協力関係は続くでしょう。ただ、中国はもしこうした厄介ごとを避けたいならばここから教訓を汲み取るべきです。
★プロジェクトの安全性に対する両国の評価
メイ首相はこのプロジェクトの一時中止の理由についてはひとつには安全、ふたつには経済要素だと率直に明らかにしています。暫時、協議に署名せず秋まで延期してその間に検討を進めると言っていますが、中国側から言えばこれは中国のあらゆる海外投資のなかで一番嫌な形の挫折なのです。
ヒンクリー原発計画は中国の習近平国家主席が2015年10月に訪英した際の重要な成果とみなされておりますから、劉曉明大使の焦る気持ちも理解できます。8月8日にはフィナンシャルタイムズに、英国が中英関係の大局的見地からこの計画を進めることを望み、特にこの計画が英国に安全と頼りになるエネルギー源を与えることを強調しました。文中、劉大使は技術の安全性に最も多くの説明を行って、中国の中国広核集団 は中国国務院国有資産監督管理委員会下の原子力企業である広核グループはパートナーとして大変優れており、これまで優良な運行実績と安全水準を保ってきており、プロジェクトの質と技術はどちらも全く信用のおけるものだ、と強調しています。そして安全の問題を提起したメイ首相に対して、中国は多くの原発をつくったがどれも国際的協力のもとに造ってきており、外国の企業が中国の原発をコントロールする心配などひとつもしていない、と言いました。
しかし、英国の安全性の心配の中身では技術への心配というのは重要な点ではありません。というのも使われるのはフランスのEDFの技術であって、中国はただ3分の1の出資者(60億英ポンド/総工費180億ポンド)だからです。英国が心配しているのはまさに劉大使があっさり片付けた外国によるコントロールの方なのです。英国のメディアが明らかにしたところではメイは内務大臣を務めていた時期からヒンクリー原発計画に不満を漏らしていました。英国の前商務大臣のゲイブルは取材に対してメイは中国が英国の核エネルギー建設に参加することには異議をとなえていました。メイ首相の幕僚長のニック・デイモスは前から何度も政府の内外の安全問題専門家の意見に基づいて、中国が参加するこの計画からコンピューターシステムに侵入できるし、中国人に英国の原子力エネルギー生産を阻む能力を与えるとこの計画に強く反対していました。
こうした深い懸念に対しては劉大使がちょっと何か言えば解消できる、といったものではありません。なぜなら中国企業、とりわけ政府がコントロールしているハイテク技術企業のこの方面における評判はよろしくないからです。例えば華為技術有限公司(ファーウェイ・テクノロジーズ、Huawei Technologies Co. Ltd.)(ja.wikipedia.or..%8A%80%E8%A1%93)と米国とのトラブルは技術窃盗とスパイ活動などがキーワードになっています。そして劉大使のいうところの中国政府が外国企業が中国で投資したからといって中国経済をコントロールすることを心配していないというのは外国がそう聞いて安心できる言葉ではありません。中国の外資(外部勢力)に対するコントロールはものすごく厳格で、外資が何をしようとしてもかないません。でも民主国家は開放的でもういたるところ穴だらけなのですから。
★中国はなぜ激しい反応をみせたのか?
「中国グローバル投資追跡」というデータバンクに「トラブルプロジェクト」という中国の海外投資の失敗プロジェクトを一括掲載した「トラブル計画」という項目が以前あって、主にプロジェクトの立ち上げとその後の投資、のちに監督機関によって取り消されたプロジェクトをとりまとめてありました。そうしたプロジェクトに比べるとヒンクリー原発計画はわずか10年の時間と交渉費用を消耗するだけです。しかし、中国政府はとりわけ激しい反応をみせました。その理由は背景を分析すればわかります。
第一に、英国本クリー原発は中国の原発輸出計画の最初のプロジェクトであり、中国はこれによって世界に強力な見本効果を期待していました。「英国だって中国の核技術を使っているんだから、まだそれでもあんたら疑うのか?」と他国に言えますから。
中国は現在30以上の深刻な生産力過剰業界をかかえています。そのリストのトップ4は鉄道、原発、鉄鋼、セメントです。高速鉄道プロジェクトはすでに多くの協定が結ばれて契約はされていますが相手国の国内事情の原因によって停止しています。鉄鋼輸出は米国やEUなどの先進国から高い関税を課せられ、迷惑がられています。
中国の原子力発電技術のこれまでの歴史は高速鉄道と同じで、まず各国の技術を導入し、その技術をいただいて「自主開発」ブランドに仕立て上げるというものです。前世紀の80年代中期から、まずフランス、そしてカナダ、ロシア、米国などの原子力発電技術を中国に進出させたうえで、第三代核技術をコピーしおおせて、国際的に同業者から「インターナショナル技術」と嘲笑されています。いまや中国の原子力発電設備建設能力は毎年6~8か所の原発プロジェクトを供給できます。しかし、2011年の日本の福島原発事故発生後、しばらくの間、すでに着工前期にあったプロジェクトをふくめて認可を停止しました。その後、中国の原子力発電の発展は停滞し、生産能力は深刻に過剰な状態です。
もともとの計画では英国はヒンクリー原発建設後はエセックスで今度は完全に中国設計による原発を作るはずでした。中国広核グループにとってはヒンクリーは英国原発市場に入り込む足場だったのです。そして中国はさらにアルゼンチンの重水炉、加圧水型原子炉計画があります。もしヒンクリー原発計画がうまく行かないとなると必然的に他の二つの計画にも影響を与えかねないので中国は焦っているのです。
★中英関係のチェス盤上でヒンクリー原発はどれぐらい重要?
英国政府は中国政府がヒンクリー原発事件で過度の反応を示さないように求めています。事実上、ヒンクリーが引き起こした不快な関係が過ぎ去った後には、北京が重点的に考慮しなければならないことがあります。
一つには、中英関係の大勢を鑑みて、小を捨てて大を取ること。
2012年から中国は米国、日本に次いで、第三の対外投資大国になりました。2015年には中国の対外投資総額の累計は1兆米ドルを超えました。中国の海外投資の目標国家をみると重点は次第にアフリカ、ラテンアメリカから欧州、北米に移行しています。フィナンシャル・タイムズによれば、中国の在欧投資は400億米ドルを超え、英国は中国の対欧州投資の受け入れ国中のトップで、160億米ドル(ドイツが84億ドル、フランスが80億ドル)となっています。Pinsent Masonsと英国経済ビジネス研究センター(Cber)の合同レポート「中国の西側投資ー中国投資は英国のインフラ建設を改革できるか?」によると中国は今後10年のうちに英国のインフラ建設業界への投資額は1050億ポンドになるとみられています。現在、英国の代々の水利企業のテームズ・ウォーターの株の10%は中国国有の中国投資公司が持っています。同報告の予想だと、2015年に中国の対外直接投資総額のうち、8%が英国市場に向かい、その半分以上がインフラと不動産業界に入ると見込まれています。
小さいことに拘ると大局を誤ります。未来の巨大投資に比べれば60億ポンドの投資がうまく行かないというのはさほどのことでもありませんから、北京は冷静になればこの点に気がつくでしょう。
二つ目は、北京の各種の海外投資の多くは挫折していますから、投資基準を自らの要求からではなく、受け入れ国が必要かという点から考えるように反省して賢くなったほうがいいでしょう。ヒンクリー原発計画でも中国側はずっとこのプロジェクトは英国の7%の電力輸出を担い、600万の英国家庭に恩恵を与え、完成した後には2.5万人分の職場を提供するといってきました。原子力発電のコストは1兆Wあたり、石油発電に比べてコストが27.5ポンド余計にかかりますが、風力発電に比べると20ポンドほど安いのです。
しかし、英国のコスト計算は中国とは全然違います。英国は計算の結果、このプロジェクトは最終的には300億ポンド(フランスと中国側の総投資は180億ポンド)で発電コストは予想より遥かに高くつくと判定しました。フランスのEDFの提供する新しい圧水型原子炉は大変複雑で、フィンランドとフランス・フラマンヴィルでの第一回目の工事では難題が続出し費用も大幅に超過しました。EDF内部でもこの種の原子炉を請け負うのは財政的危険が多く、意見を保留する動きが強いのです。
中国の海外投資は、これまで政治的な考慮が経済的な考慮より優先で、コストは大して問題にされてはきませんでした。しかし、西側国家では違います。この種の投資失敗の結果は遥かに深刻に受け取られます。ですから中国は、西側国家の投資の際には、経済的なコストを軽んじる姿勢を改める必要があります。さもなければ、こうした国営企業の投資失敗は最終的に中国の納税者がツケを払わされることになります。
「国家が明細書を作る」時には、中国は国家の信用ということを考えに入れなければなりません。国家、企業、個人、何でもそうですが、信用を勝ち取るには数十年の努力が必要ですが、崩れるのは一瞬です。近年のトヨタやフォルクスワーゲンがそうした目にあいました。英国がヒンクリー原発計画を延期するのも、主要な原因はつまりは「信用できない」からであり、国家の信用というのは、まさに中国の弱みです。よい信用が得られないうちは、中国は国家安全にかかわるプロジェクトでは無駄な労力を使わず、これ以上の「厄介なプロジェクト」を抱え込まないようにしたほうがよろしいのです。(終わり)
拙訳御免。
原文は;欣克利角核电项目搁浅,后果有多严重?voachinese.com/..11/3461410.html
何清漣氏のこれまでの日本語論考は;heqinglian.net/japanese
参考リンク;英国メイ新政権:原発政策「急変の兆し」を注視せよ huffingtonpost…kjphpmg00000001