米大統領選後の米国の国際政策で、最も論議かますびしいものの一つが「環太平洋戦略的経済連携協定」(TPP)協議が挫折するか否かです。ペルーの首都リマでのアジア太平洋経済協力会議では、各国指導者が米国に対して世界貿易協議を放棄せず、米国が世界各国が最高レベルで開放を実行するTPPを批准するように呼びかけています。専門家の予測は多様で、英国メディアは「ホワイトハウスの主人が変わり、中国がアジア太平洋経済一体化を主導へ」と断じていますし、別の専門家たちは、トランプが選挙中の公約の半分を実行するか、あるいはその4分の3を放棄することを願っています。
TPP協議誕生の最初の動機と、なぜ米国では強烈な反対に遭っているか簡単な分析を行い、TPPとアジア太平洋戦略の関係をちょっと距離を置いて見直してみれば、アジア太平洋国家は多分、そんなに心配する必要はないと思われます。
★TPPはアジア太平洋国家の米国への求心力強化のため
アジア太平洋国家は、これまで米国会がなぜTPP協議を批准しようとしないのかという原因を余りよく考えようとしませんでした。それはこの協議の主な受益者が自分たちだからです。オバマ大統領がこれを考え出したのは経済的な利益からというよりは、政治的な利益からです。TPP協議の初期段階で、米国内の製造業界は大体反対でした。ヒラリー・クリントンが「オバマの政治遺産を引き継ぐ」と言ったときでさえ、「遺産」の中にTPPは入っていませんでした。
TPP協議はオバマ大統領にとっては大変重要でした。今年4月に彼が「アトランティック・マンスリー」雑誌へのインタビューで答えた、太平洋復帰は彼の広大な外交戦略の中の主要な内容であって、TPP協議は太平洋復帰戦略の経済的柱でした。彼がTPP協議を発効させたがる理由は、米国のアジア太平洋地域における盟友関係を強固にして、中国を排除しておくためでした。
小ブッシュ大統領時期に、米軍は次第にアジア太平洋地域から撤退しました。一つには9・11事件後、米国は軍事力をイラクと中東地域に集中する必要があったこと。二つにはアジアの「盟友」国家のあいまいな優柔不断さです。そのころ、全世界の目は中国が未来の輝ける星のようにまぶしく映りましたし、アジアの諸国は期せずして、「経済利益は中国から得て、政治的な安全は米国に頼る」という「どっちにも通じて美味しい思いをするコウモリ戦略」で一致し、米国は割に合わないと感じたからです。
しかし、米国が引いてから、「平和的勃興」の中国の勢いはますます盛んとなり、アジア経済大国は日本と中国だと言えるほどになって、これはアジア諸国の喜ぶところではなく、彼らは再び、米国に「アジアの太陽」として継続してほしいと願ったのです。しかし、米国が本当にアジア復帰をしたとき、そこに見出したのは、相変わらずアジア太平洋国家は「両方美味しいコウモリ戦略」を取っていたことでした。
こうした状況の下で、オバマ大統領は、TPPによって、米国市場を開放し、TPPメンバー国に関税の減免を行い、仕事のチャンスを増やし、その生産物の競争力を強化することによって、これらの国家の経済振興を果たし、対中国依存度を減らし、米国の求心力を強めようとしたのでした。しかし、公平に言えば、米国はTPPから経済的な利益をえることはできず、これは国際主義を至上とするオバマ大統領が国際秩序を維持するための政策でした。
ですから、TPPはスタート時点から米国国内で論議の的になったのです。反対派は主に米国の製造業界の労働組合と中小企業です。米国自動車業界の代表的フォードは、TPP協議は日本のような国からの自動車販売によって米国自動車業界は深刻な影響を受けるとしています。販売業績に打撃を受ける米国自動車製造業としては、海外に生産拠点を移すか、企業閉鎖しか選択がありません。どちらにしても、労働して大学の学費を払ったり、老齢年金を貯めている米国家庭には大きな打撃になります。
全米トラック運転組合のジェームズ・ホッファは「これまでに分かったTPPの協議内容では、細則を知れば知るほど、人々は反対するだろうとしかいえない。この貿易協定が発効すれば、米国国内の仕事の職場はよりコストの低い他の国々へ流出してしまう。また、労働者の給料も減るだろう、とし、また汚染食品が国内に流れ込みかねないという問題などもあるといいました。労働組合はずっと民主党の有力な支持基盤だったのですが、TPP協議のおかげで今回の大統領選挙では、ミシガン湖周辺のったデトロイトやミルウォーキーといった都市のラスト・ベルト(赤サビ地帯)と呼ばれる廃工場街のメンバーは、組合指導者の言うことを聞かず自主的に投票したのです。
★TPPは中国にどのぐらいの制裁作用があるか?
2015年10月に私は「 TPPはなぜ中国を仲間はずれに?」を書いて、TPPが中国を入れない理由を分析しました。その中の一番重要なポイントは、オバマ大統領の「中国のような国家に世界の経済ルールを決めさせるわけにはいかない」という言葉です。TPPは別に中国排除のルールを設けているわけではありませんが、しかし、加入するには一定の基準を満たしていなければなりません。そしてオバマはTPPルールに、できるだけ政府の経済に対する干渉を制限するようにしていました。TPPの規則に対して、中国は自分がどの項目にも不合格だと分かっていました。
貿易とサービスの自由では、各種の敷居を設けることが禁じられています。しかし、中国が最も得意とするのは、こうした各種の敷居を高くすることで、役人たちが金儲けする道具にすることです。
通貨の自由な交換では、政府が為替レートを操作することが禁じられます。
税制の公平では、国家が企業に対して補助金を出すことが禁止されます。(中国が輸出奨励金を廃止したら、中国の輸出企業は大方潰れてしまいます。)
その他、国営企業の私有化(中国では国営企業の『潜在的発展力』を強化するために、私営企業に株を持たせようとしています。)、労働者の利益保護(中国の「血と汗の工場」は世界的に知られています。)、環境資源保護(中国の水、土壌、大気汚染は加速しています。)、知的権利の保護(中国は世界一のニセモノ王国です。)、情報の自由(中国は長年、「報道の自由」を敵視し、「インターネットの敵」の称号を奉られています)などです。
ですから、TPPの成立は、中国を孤立させるもので、中国政府の面子を傷をつけるものです。
中国政府は当然、TPPは米国が中国を排除する目的だと知っています。しかし、去年10月に各国が署名段階への協議を始めてからも、中国政府の反対の声はさほど大きなものではありませんでした。一つには米国内の反対の声が極めて大きく、国会だけでなく、次期大統領候補だったヒラリー・クリントンも反対していたこと。二つには中国はTPPの弱点がどこにあるかをしっかり承知していたことです。そろばん勘定に長けた中国はとっくに緻密な計算をしており、商務部の官僚の説明はこうでした。
「TPPは一定程度WTOに加盟した中国とグローバル経済に対する利益を損なうものではある。けれども別に驚くほどのものではない。TPPメンバーのうち、シンガポール、ベトナム、ラオス、マレーシアはすでに中国のASEAN自由貿易地域の枠内で貿易関係を持っており、オーストラリア、ニュージーランド、ペルー、チリも中国と相互自由貿易協定を結んでいる。中国・韓国・日本の自由貿易区交渉が順調にいけば、残るは北米自由貿易協定(NAFTA)の米、カナダ、メキシコが残るだけだが、これらとも昔からの付き合いがある」でした。
この談話の意味は、TPPは別にたいして中国を困らせない、ということです。TPPが中国を仲間はずれにしたところで、一番深刻な結果は中国が米国と直接今のような巨大な貿易黒字を得られないことですが、中国は完全に他の国を迂回路として使って米国と商売ができるのです。例えば、米国が中国に軍事技術の輸出を制限しても、中国は米国の重要な軍事技術協力の相手であるイスラエルから入手できます。米国の軍事技術の8割から9割をイスラエルに輸出しており、4割を輸入しています。こうした協力関係と研究開発能力でイスラエルは世界の武器と軍事装備の輸出大国となっており、中国はイスラエルを経由することで楽々と少なからぬ米国が中国に輸出を拒否している軍事技術を手にできるのです。米国はもちろん怒りますが、イスラエルが中国との貿易でもうけることに対してはどうしようもありません。
★各国の希望の実現は、協議と米国の利益次第
以上の分析で説明した通り、TPP協議の成立は最初から米国自身の経済的利益から出たものではなく、中国包囲の必要から出たものなのです。アジア太平洋国家は実利面から「経済利益は中国から、政治的安全は米国頼り」の策略をとり、こうした国々の米国に対する一層の利用、つまり「中国との経済往来は継続するから、米国さん、俺たちの後ろにいてね。もし中国が領土問題でなんかしたら、米国の姿を見てそう無茶はやらんだろうから」ということです。
もし米国が太平洋から引いたら、中国という途方もない図体の国に対して、彼らは服従するという選択肢しかありませんし、そんなことになりたくありません。米国がいれば、彼らは中国に対して積極的に色々駆け引きもできますし、フィリピン大統領のように、「真ん中に位置して」中国にいろいろ要求したりできます。また退くにしても、つまり衝突が起きたときにも、米国の傘の中に退却できます。彼らは、TPPにサインする前にまだ迷っていたにしても、トランプが共和党大統領候補となってからは、トランプが大統領になれば本当に米国はアジア太平洋を見捨てるのではないかと心配になり、出来るだけ早いところ、TPPを既成事実にして、アジア太平洋国家と米国とのきずなを一層強固にし、巨大な中国と一対一の対決をしないですむようにと願うようになったのです。
トランプがホワイトハウス入りすれば、自分たちの施政綱領に基づいて、つまり米国国内経済を中心として、イデオロギー闘争を捨て、減税、インフラ建設、再工業化、就職先確保を四大重点とし、現在のTPP協議は大修正されない限り、通過させないでしょう。
しかし、米国が果たして太平洋から退くかどうかは、まだ米国の外交、軍事の二つの専門家かからなる巨大なグループの態度を見なければなりません。現在、大統領の後任として、トランプは全方位的な協力体制樹立のために動いています。これは彼がキッシンジャーの意見を聞いたり、国務長官の人選などから垣間見得ます。この両巨大集団の重鎮たちからも不断に意見が聞かれます。たとえば、11月15日に上院軍事委員会委員長のマケインは「ロシアとの関係見直し」に対して、反対意見を述べましたし、アジア太平洋司令部の司令官、海軍大将のハリー・B・ハリス・ジュニアもアジア太平洋地区の繁栄と安全は極めて重要で政府が変わっても、同地区の安全を守る決心は変えるべきではないと発言しました。こうしたことはアジア太平洋地区の国家に、しばしの間、少しは安心を与えることでしょう。(終)
拙訳御免。
原文は;TPP航船是否出港与亚太国家的忧虑