四川省の瀘州で14歳の中学生、趙鑫(ジャオ・シン)君のいじめによる死亡事件では、学校側、警察、地方政府の事件への対応がひどいもので、近年まれにみる社会的事件になっています。この事件の様々な要素は、現代中国の腐りきった政治と社会の実情を、まざまざと見せています。(*訳者注;4月6日、同級生にいじめで殴り殺されたとみられる中学生は、「寄宿舎から転落死したもので、いじめは一切なかった」、と警察・学校側から公式発表され、7日も現地では、民衆と警察の対決が続いていると言われる。;http://www.ntdtv.com/xtr/gb/2017/04/08/a1319433.html また、いじめた側に村の幹部や警察関係者の親がいる、という話もある。https://www.aboluowang.com/2017/0406/908347.html)
暴力学園の実情に目をつぶった学校側と警察
1)
趙鑫君は死亡前に、5人のワルたちに1000元(16万円)の「保護費」を強請られていました。子供にそんなお金を自分で用意できませんから、家人に助けを求めるしかありません。祖父母は、中国の法律に頼って、すぐ警察に知らせましたが、しかし警察も学校も動こうとはしませんでした。こうして無視されたことは、当然、脅迫者たちの加虐心理を助長し、一万元に要求を釣り上げ、そんなお金を出せなかった趙鑫君は、死に至るまで殴りつけられたのでした。(*いじめた生徒らは、死体を学校の宿舎から投げ落として、事故に見せかけた、と言われる)
事件後、現地の民衆からは、地元中学校では「保護費」を強要する事態は確かにある、という声が聞かれました。ネット上には、脅迫した5人の中には役人の息子がいることが「噂」として流れました。私はこの「噂」を信じます。一つには、大多数の中国の学校では今、いじめがあり、学校の教師と警察は通常、これに関わろうとはしません。原因は複雑ですが、一番主要な理由は、こうしたいじめの加害者側には、確かに役人の息子や地方の実力者の子供達がいるのです。教師にしてみれば、学校を離れればなんの力もありませんから、こうした役人たちとうまくやっていくことのほうが大事で、余計なことをするよりは、何もしない方がよいのです。警察はもう今や、悪事に加担するようなのはゴロゴロありますし、そ茹でなくても、未成年保護の意識は乏しく、学校でのいじめを大事な事件だとは思っていませんし、子供同士のことだから、学校と家庭で処理するべきだ、と考えています。
中国の学校には、西側のようなPTA組織はありませんし、学区委員会などの自治組織もありません。子供に何かあったら、父兄は自分一人で動くしかありません。こうした状況の下で、いじめを受けた学生の父兄は、もし市井の何らかの力を頼んで、役人たちをやっつけられるといったことが出来るならば、いじめは減るでしょうが、大多数の父兄は、そんなルートはありませんから、学校や警察に訴えるしかありません。その結果、大多数は趙鑫君の家のような目に遭います。つまり、祖父母が警察に訴えても、警察は何もせず、いじめる側が一層つけあがり、脅しとる金額を値上げするのです。
中学校でのいじめは世界中どの国にもあります。しかし、米国や日本ではこれを大変重視していて、見つかれば厳しい処置が講じられます。中国では政府はまったく気にかけていません。2015年、ロスアンゼルスで中国人の女子高校留学生の劉怡然が十数名の中国人留学生集団に暴行された事件は、その悪質さで米国人を驚かせました。しかし、もっと仰天させたのは、暴行に加わった学生の父兄が、中国の典型的なやり方で事態を解決しようと、現金を持って「示談」にしようとしたことでした。父親の一人は現金を贈ろうとした容疑で逮捕されました(*この父親は保釈金10万ドルをすぐ払ったという)。中国メディアの大多数は、未成年の子供を一人で米国に留学などさせるべきではなく、そんなことをするからこうした心理的問題が起きたのだと論評しました。「新民週刊」だけが「学園のいじめ、一体どれぐらい?」という記事で、真の原因について反省思考を見せていました。「中国の学園でのいじめは常に起きており、有効な対策が無いし、更には受けるべき罰も与えられていない。それは学校にも原因があって、例えば教師はそうした事態への訓練を受けていないし、また法律も整っておらず、こうした事態に対する罰が軽過ぎるので、いじめる側が全然、恐れない」と。(*劉怡然事件では主犯格の女子高校生3人は、劉00回以上なぐって乳房にタバコの火を押し付けた。米国裁判所で、それぞれ13年、6年、10年の刑。劉怡然と父母にはグリーンカードが認められた。)
四川省の瀘州の太伏中学と、現地の警察はこの事件ではその責任を免れず、問われるべきでしょう。
2) 事件発生後、政府側は、事件の報道や噂話を禁止し「知る権利」を奪った。
こうした、人々の知る権利は3つの段階で奪われていますが、これは中国の社会的な事件では、いつもそうです。
一、 事実に蓋をして、ニュースを外部に漏らさない。
「ラジオ・フランス・インターナショナル」の「四川省瀘州の中学校でのいじめ殺人事件で世論に高まる怒り」は、太伏中学の教師の周鵬の談話を引用し、政府側が事実を隠蔽しようとしたことを証明しています。「瀘州の民衆の抗議は、死者のためではなく、学校側の刑事事件に対しての態度、学校側がこの事件に蓋をしようとしたことにです。あらゆる噂はすべて、学校側がこのニュースを隠そうとしたから出てきた……なぜ人々が学校側を信用しないのか、なぜなら最初から我々に学園で死亡者がでたことを隠そうとしたからだ」と。
中国のメディアは、現在、当局に完全に抑えられていますから、こうした報道をする術がありません。私は「百度」ネットで検索してみましたが、「捜狐ネット」と「猫眼看人ネット」などにちょっとあるだけで、主流メディアやポータルサイトには、事件の詳細報道はありません。
二、 現地の事情を知る人々への口封じ
中国国内の報道の自由がなく、メディアの報道を封じる以外に、さらにソースとなる情報源を封じようとします。「ヴォイス・オブ・アメリカ(VOA)」が4月5日に「四川省瀘州の中学校でのいじめ殺人事件エスカレート。警察と民衆の衝突で、家族封じ」には、VOA記者が取材しようとして、「記者は太伏中学の校長、派出所の田所所長と雷村長の携帯電話に掛けたが、誰も応答しなかった。記者は数人の現地の人々にも電話したが、誰も『何も話すことはない』と答えた。ある情報では警察が一軒ずつ現地の人々を訪ねて、『余計なことをしゃべるな」と行って歩いた、と。しかし、たまたま電話に出た15歳の太伏中学の少女は、自分は知らないが、両親から学校での『保護費』のいじめの話は聞いた。自分の学校でこんな大事件が起きて、とてもこわい」と話した。
現地の子供たちのほとんど全てが太伏中学に通っており、趙鑫君の死は、現地の民衆に大変な不安と怒りを招き、多くの民衆と警察が衝突する暴力事件になりました。その後、瀘県公安局は、4月3日に「デマを厳重に取り締まる通告」を出し、ネットで非検閲の勝手な情報を流し、デマを広め、群衆を扇動し、社会治安と秩序を乱したとして、4人を逮捕しました。
三、被害者の家族は、圧力と賠償金で口を封じられ、事件を収束させる
ネット上で伝えられるところによると、政府と学校側は、趙鑫君の親に対して100万元(*1600万円)を払って示談にしようとしたけれど、家族は拒否した、と言われます。上記「VOA」の報道では、中国のネット上では、この事件に関連する文章は、全て削除されるか、「みつかりません」状態。趙鑫君の母親の「微信ネット」のID・游小红の名前で家族は当局から捜査されて、監視体制下に置かれている、との書き込みがありました。
「VOA」記者は、4月5日の数時間に、何十回も游小红の「微信」に残された電話番号に電話をかけたが、呼び出し音が何回か続いた後、「話し中」の音声案内になった。午後2時半ごろ、游小红の携帯電話あから誰かが連絡しようとしたが、1分ぐらい音声が聞こえないままだった。游小红の携帯は既に管理下に置かれているらしい。父親の携帯の番号も「微信」から見つけたが、電話をかけても「使われていません」だった。
人民元で示談ー中国政府のこうした事件への典型的対応
四川当局が趙鑫君の事件を処理するやり方は、まさに中国政府がこうした社会的事件を処理する際の、典型的な方法です。このやり方は最後に、脅迫と利益誘導で、お金で解決します。死者の家族は、身内を失った悲しみと、当局の強い圧力を受けて、疲れ果て、最後に止むを得ず「現実的考慮」を受け入れ、一定のお金をもらいます。これは理解できます。一つの道は一家全員の暮らしと安全を犠牲にして、なお先の見えない長い長い道のりの戦いか、もう一つの道はお金を受け取り、無念の思いを抱いて、生き続けるか、です。ましてや、中国は米国ではありません。米国では、こうした自分たちの義務を尽くさない学校側や警察はどちらも誰かが巨額の賠償を払わなければなりません。しかし、中国では警察はそのような負債を負う必要はありません。こうした状況で米国のような巨額負債の賠償はなく、中国では別の名目、「人道的な政府の配慮」と言ったことになるのです。
四川の趙鑫君の死は、中国の無数の無念の思いが積もる大地の上に、ただまた一つ積み重なっただけの話。果たして今回の事件が、中国になんらかの警鐘になるかどうかすら、私はわかりません。魯迅の「周囲を見渡しても書くべき言葉を書きしるすすべもなく、ただ冷たい月の光が、黒い服をきた避難民の私を照らすのみ(吟罢低眉无写处,月光如水照缁衣)」としか、言いようがありません。(終わり)
拙訳御免。
原文は;四川泸州赵鑫惨死案揭示的中国政治生态 《中国人权双周刊》首发(第206期,2017年3月31日—4月13日)
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