中国では毎年12月に中央経済工作会議が開かれ、レポートが出され、来年の政策の方向が示され、その動向が判明します。今回の会議での1番の重点は、「習近平新時代の中国的特色ある社会主義経済思想」という言い方でした。これではっきりと、今後の経済分野の全責任は習近平が負い、経済政策を担当する総理は脇役にすぎないことが示されました。第二には、経済政策では来年の経済方面の任務は、「重点を掴み、欠点を補い、弱点を強化する」、つまり、工業の過剰生産能力を解消し、通貨供給をコントロールする、です。最近の他の措置にも言及されましたが、債務激増問題については、地方政府債務に関しての制御が言われただけで、中国企業の近年の高負借については、触れませんでした。
★中国の危険な高負債
経済のプロなら誰でも知っていますが、債務コントロールを明確な目標としないで、貨幣供給面だけ制御するというなら、「通貨供給を水門のバルブにする」のは無理だということです。つまり、2018年、山積みとなっている債務問題の解決では、「借金が経済成長に役立つならば、指導者はより多くの債務でも許す」という意味が隠されているのです。
私は去年出版した「中国 — 潰而不崩」(邦訳;中国——とっくにクライシス、なのに崩壊しない“紅い帝国”のカラクリ – ワニブックスPLUS新書) の第四章で、もっぱら中国経済のポンジスキーム的成長を分析しました。その結果、中国政府が債務の泥沼に首まで浸かっていることを明らかにしています。
中国経済の規模に比べて、この10年間に積み上がった債務は、米国と他の多くの先進国の経済の合計に相当します。2017年5月下旬にムーディーズ・インベスターズ・サービスは、中国のソブリン債務に対しての評価をAa3(上から4番目)から、A1(訳注;同5番目/ちなみに、日本国債の格付けも、2014年、Aa3から、上から5番目のA1へ1段階引き下げられている)に引き下げました。続いて、フィッチ・レーティングも信用評価を下方修正しました。スタンダード&プアーズも中国の信用評価をこれまでのAA-下から、A+に下げました。三大評価機関が中国の信用評価を下げたのは、借金の増加が早すぎて、金融の安定性を欠くからです。
国際通貨基金(IMF)は12月上旬、中国の金融安定評価報告を発表しました。それには、中国の債務水準は、はるかに国際水準を上回っており、信用貸付の増加もGDP成長速度を超えて、債務過多になっている。企業債務はGDPの1.65倍で、伝統的な産業分野で、生産力を野放しに増強した結果の債務増加は、資産のを悪化させているとしています。これには政府債務と個人債務は含まれていません。
表向きは、政府は債務問題を気にしていない様子を装っていますが、債務問題は、必ずや中国経済に深刻な影響を与えるでしょう。
「何清漣 2017中国」近日発売;2015、2016Amazon改訳版を電子ブックで。Kindle Unlimited なら無料です。
★★国債投資が敬遠する中国
2016年以前の10数年間、中国はずっと新興市場投資家たちのお気に入りでした。その大口商品需要はアジア、ラテンアメリカ、アフリカの国家経済を引っ張ってきました。しかし、2016年9月からは、高額債務が引っ張ってきた「繁栄」を続けるのが難しくなり、国際投資家のファンドマネジャーたちは、次々に中国を敬遠し始めました。
モルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメントのエマージング市場およびグローバル・マクロ経済担当責任者、ルシール・シャルマ氏は、「ポスト中国の世界の金融ポートフォリオを考えるにあたっては、中国ドリームは終わった。次の、中国と無関係の投資プロジェクトをを考えねばならない」と述べました。シャルマの声望は高く、その中国への姿勢は他のファンドマネジャーたちに影響しました。多くのファンドマネジャーは、中国企業の負債は多すぎて、民営企業の活力は下降しており、国営企業改革は各種の要素で滞っており、全て、中国の今後の経済発展の足を引っ張るだろうとみています。そして、南アやフィリピン、ベトナム、インドネシアや東欧の一部地域が、相対的に新たな資本を吸収するマーケットだとみています。
こうした疑いは、ずっと2017年まで続いて来ました。米・ブルムバーグニュースによると、2017年2月に16社の投資会社のアナリストのアンケートで、10の新興市場のうち、ブラジルとロシアの債券と通貨がもっとも有望視されており、中国市場は最も好感されていませんでした。もともと、投資業界は、モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナルの政府債券指数の新興国株指数(MSCI指数)が中国政府の債権を組み入れた(2017年6月)後は、自動的に十数億米ドル分が中国債券市場に流入すると見ていますが、中国政府の債務政策は、投資ファンドマネジャーは二の足を踏ませかねません。
★新たなインフレは不可避
国家の対外債務が増えれば増えるほど、インフレの助けを借りて債務負担を減らしたいという誘惑は強くなります。今年の中央経済工作会議が債務問題に言及しなかったということは、中国は、本当は与信規模と通貨量をコントロールしようとはしていない、と宣言したに等しいので、結果として必ずや新たなインフレにつながります。専門家は、もし家計部門の借金が更に増えるならば、中国はますます債務増加になるだろうと見ていますが、最近の状況はまさにそうなっています。担保貸付やその類の消費分野での借金が増加し、家庭の借金と支出増が促進されています。中国の官僚ははっきりと、更に多くの消費支出によって経済のバランスが保たれることを期待しています。
借金が積み上がった国家財政と、ゆるフンの通貨政策はインフレの温床だと見られてきました。民衆は物価上昇を恐れるのですが、その実、国家は、逆にインフレを利用して政府への圧力を減らしたいわけです。
通貨の研究者なら皆承知のことですが、インフレというのは、つまり富の再分配です。通貨増発によって、国家は部分的に債務逃れが出来るばかりか、自らの財政を充実することが可能です。通貨発行量が過度になれば、収益は、政府や政府に近い国営企業、一部の金持ちの懐に入ります。いかなる国家においても、中央銀行が増発した通貨は、まず政府部門に流入しますが、中国では政府が面倒をみる独占国営企業に入るか、でなければ政府投資の形をとって支出され、政府と権力に近い企業とその従業員の収入増加になります。
中国のインフレ圧力は一貫して続いてきました。これまでは、通貨は不動産という貯水池に流れ込み、物価上昇は不動産上昇に遠く及ばないゆっくりしたものだったので、人々はインフレをそんなに感じないで来れたのです。
中国の2018年の経済政策は、債務を増加させようというものです。企業債務の多さを考えれば、国際投資家への中国への懸念は、ますます深まるでしょう。(終わり)
原文は、台湾上報。2018年1月2日